古の灯火   作:丸亀導師

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世界恐慌

1929年 10月25日 早朝

 

その日の朝、臨時で開かれた緒省連絡会議に出席した、各大臣並びに担当官達は、驚愕の事実を大蔵省並びに、外務省から言い渡された。

 

「なに?米国のウォール街での株価の大暴落が起きただと!?」

 

所謂暗黒の木曜日と呼ばれる出来事である。

 

「しかし、その影響はどの程度予測されるのか?」

 

こういった場合最も頼りになるのは、各大学において経済学を研究している、学者達であった。

軍学研究会は、経済という門外の事でありこれらに対して対策を打ち出すのは、彼らの役目ではなかった。

 

「現在の状況を考えると…、米国の株価は急激な下落を続けています。

目下、集計中ですが約10%の価値の物が、数時間で紙屑になる程の影響です…。

我が国への波及も懸念されています。」

 

外務省と大蔵省の提示した額は、天文学的な数値であった。

少なくとも、八八艦隊計画の予算が吹き飛ぶ程度の波及は可能性として考えられていた。

 

「日本国内への波及は今をもって直ぐ様と言うことでは無いですが、少なくとも1年以内には恐慌が襲い来る可能性があります。」

 

「具体的な対策はないのか?」

 

この頃、日本の各省庁は経済や財政等、それらに対する考えは、それなりに深いものがあった。

特に兵部省は、各地への財政的支援によって、総力戦体制の確立を行っている真っ最中であり、コレは大きな損失になる可能性があると身構えていた。

 

しかし、一人の学者が手を上げた。

 

「日本が打てる手だては…幾つか有ります。」

 

手を挙げた学者は、手元の計算尺を置き、数枚のグラフを黒板に貼り出した。彼は、軍学研究会から改称したばかりの「総力戦研究会」に所属する、若き経済学者――高橋是清の愛弟子であり、かつケインズとも親交のある新鋭であった。

 

「閣下、そして諸官。米国が『紙(株)』を燃やしている間に、我々は『理(ことわり)』を積み上げるべきです。我が国が打つべき『科学的防空策』は以下の4点に集約されます。」

 

 

1. 金本位制からの「即時離脱」と「エネルギー裏付通貨」への転換

世界が「金(ゴールド)」という実体のない価値に縛られて共倒れしようとする中、日本は独自路線を歩むべきだという提案です。

管理通貨制度への移行:

金本位制を即座に停止し、貨幣の価値を「金」ではなく、我が国が保有する「石油(中東利権)」「鉄・石炭(シベリア・満州)」「科学技術(特許・製造能力)」の総量に直結させます。

 

投資の集中:

通貨供給量を調整し、その資金を「穴を掘って埋める」無駄な公共事業ではなく、「帝都復興」「航空機エンジン開発」「通信網整備」といった、将来の国力を約束する分野へ強制的に流し込みます。

 

 

2. 「円ブロック(日・満・露・南洋)」の内需完結

米国という巨大な市場が死んだのであれば、我々の「生存圏」の中で経済を回すだけのことです。

 

シベリア・南洋開発の加速:

失業の恐れがある国内労働者を、シホテルーシ共和国のインフラ建設や、南洋諸島の資源開発へ積極的に「技術移民」として送り出します。

 

関税障壁の構築:

円ブロック外部からの製品には高率の関税をかけ、内部では自由貿易を徹底。

「イラクの油で、シベリアの鉄を叩き、帝都の真空管で、南洋の海を照らす」。この自己完結型循環を完成させれば、ニューヨークの暴落は単なる「対岸の火事」に過ぎません。

 

 

3. 「スタンプ経済」の全国拡大による底辺保護

恐慌の最大の敵は、国民の絶望による暴動(共産主義化)です。

 

資源回収システムの国策化:

帝都で行われている「ゴミをスタンプ(物資)に変える」仕組みを、全国の主要都市、さらには朝鮮・台湾・シホテルーシへも拡大します。

 

ベーシック・リソースの保証:

現金がなくても、資源を「出荷」すれば最低限の食糧(オリザニン農法による米)とエネルギーが手に入る仕組みを維持することで、「飢えによる社会不安」を物理的に封じ込めます。

 

 

4. 逆襲の「技術・資源買収」戦略

「暗黒の木曜日」は、日本にとって「世界を買い叩く最大の好機」です。

 

外貨による資産剥ぎ取り:

暴落で資金繰りに窮した欧米の精密機械メーカーや、化学工場を二束三文で買収します。

 

ドイツ技術者の招聘:

ハイパーインフレと恐慌で職を失ったドイツの天才技術者たちに、「温かい食事と、世界最高の実験環境(東芝や中島の研究所)」を提示し、組織的に日本へ引き抜きます。

「彼らの頭脳こそが、10年後の帝国の主砲となるのです」

 

 

「これらを行うことによって、雇用の安定と成長率を維持します。」

 

「だが、財政をどう賄うのか!」

 

その問いに対し、学者は不敵な笑みを浮かべ、黒板に一つの数式を書き込みました。それは、これまでの「金本位制」という古びた呪縛を解き放ち、国家の価値を再定義する『帝国の恒等式』でした。

 

「閣下、財政とは『金(ゴールド)』の貯蔵量ではありません。それは、我々が動かせるエネルギーと知性の総量です。これまでの世界は、実体のない金に振り回されて自滅しました。しかし、今の日本にはそれを裏付ける『実体』が揃っています。」

 

1. 資源裏付による「信用創造」:紙を富に変える術

これまで、円の価値は日銀の金庫に眠る「金」が決めていました。しかし、これからは「クートの石油」と「シベリアの鉄」がその役割を担います。

 

エネルギー・ポンド(円)の発想:

中東から届くタンカーの一滴一滴、シベリアから届く鉄の一塊一塊が、新たな円を発行するための「担保」となります。

資源の証券化:

政府はまだ見ぬ「10年後の石油生産量」を担保に**『高度国防債(こうどこくぼうさい)』**を発行します。これは「資源がある」という確信がある我が国にしかできない、禁じ手の錬金術です。

 

 

2. 「鶴見の錬金術」が生む余剰資金

先ほど大家や工場長たちが実践していた「資源循環」が、ここで効いてきます。

廃棄物からの純利益:

史実では「ゴミ処理」は税金を食うだけの支出でした。しかし、この世界線ではゴミが鉛や銀、燃料へと変わります。

鶴見火力発電所が回収する金属インゴットの売却益。

「スタンプ経済」による地域通貨の流通。

 

軍事費の「投資」への転換:

軍が開発したマツダ真空管やディーゼル技術が民間に流れ、爆発的な消費を生んでいます。その売上から上がる税収(法人税・消費税の前身的な課税)は、研究開発費を容易に回収し、さらなる余剰を生み出しています。

 

 

3. 外国為替の「逆襲」

世界恐慌でドルやポンドが暴落する中、「石油という裏付けを持つ円」は世界で最も安定した通貨となります。

「円」の決済通貨化:

アジア諸国、さらには中東諸国に対し、「ドルではなく円で石油を買わないか?」と持ちかけます。

 

技術輸出の独占:

他国が真似できない「一三式電波標定機(レーダー)」や「高効率ディーゼル」を、戦略的価格で輸出します。これにより、外貨(外貨獲得)と国際的な発言力を同時に手に入れます。

 

4. 緒省連絡会議による「予算の動的配分」

縦割り行政による予算の奪い合いを廃し、『総力戦研究会』が一元管理します。

 

重複の排除:

陸海空三軍が別々に開発していた時代は終わりました。兵部省による一元化と、民間への委託(アウトソーシング)により、同じ予算で3倍の成果を出します。

 

インフレターゲットの管理:

恐慌期にはデフレ(物価下落)が敵です。政府があえて「緩やかなインフレ」を誘導するように予算を市場に流し、企業の投資意欲を刺激し続けます。

 

「閣下、米国が倒れたのは、実体のない『株』という名の数字を追ったからです。

我が国は、『一滴の油も無駄にしない民の規律』と『闇を見通す電波の目』を持っている。これこそが、世界最強の財政基盤です。

金の亡者たちが泣き叫ぶ中、我々は算盤の珠を弾き、新たな世界のルールを書き換える。財政の心配など、この『循環する帝国』の前には些細な問題に過ぎません。」

 

日本はケインズ経済学を発展させた、独自の考えの元動き始めたのだった

 

 

 

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