古の灯火   作:丸亀導師

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第一回共栄圏会議

1932年(昭和7年)6月15日

 

シャム王国 首都バンコク・ドゥシット宮殿「玉座の間」

 

外気は摂氏35度を超える猛暑であった。

しかし、宮殿の重厚なチーク材の扉が開くと、各国代表団は思わず身震いをした。

そこには、日本から運ばれた最新鋭の**「大型空調設備(ミストファン付き送風機)」**が静かに稼働しており、室内は驚くほど快適で、冷徹な空気に満たされていたからだ。

 

それは、これからの会議が「南国の情緒」ではなく、**「日本の技術力と資本」**によって支配されることを無言で告げていた。

 

部屋の中央には、巨大な**「円卓(ラウンドテーブル)」**が設えられていた。

上座も下座もない。

列強の会議であれば「末席」に追いやられるはずの小国や、反政府勢力であるオブザーバーたちも、物理的に同じ高さ、同じ大きさの椅子を与えられている。

 

「対等だ」

 

フィリピンのケソンは、隣に座るインドネシアのスカルノに小声で囁いた。

 

「アメリカとの会議では、我々は常に別室か、長机の端だった。だが、ここでは日本と肩を並べている」

 

スカルノは黒縁眼鏡の奥の目を光らせ、短く答えた。

 

「演出だよ。だが……我々の自尊心をくすぐる、悪くない演出だ」

 

各国の代表が入場し、席に着く。

 

主催国 シャム: プラヤー・マノパコーン首相。誇り高き独立国のホストとして、議長席(円卓の一角)に座る。

 

大日本帝国: 幣原喜重郎外相。モーニングコートを着用し、あえて目立たぬよう振る舞うが、その背後には分厚いファイルを抱えた総力戦研究所の官僚が控えている。

 

韃漢国: 張景恵首相。満州族の正装。

 

資源国: シホテルーシ共和国(極東ロシア)、ペルシア、エチオピア。

 

オブザーバー(革命家たち): 広西軍閥、インドシナ(クオン・デ、ホー・チ・ミン)、インドネシア、フィリピン。

 

彼らは「国家代表」ではないが、この円卓においては「未来の国家元首」として扱われていた。

 

 

2. 議長国シャムの宣言

 

全員が着席すると、議長役のマノパコーン首相が、象牙と金で作られたガベル(木槌)を手に取った。

 

「諸君。

欧米列強は、我々を『未開』と呼び、保護が必要だと説く。

だが今日、ここに集まった我々は、自らの足で立ち、自らの言葉で語るために来た」

 

彼は日本代表を一瞥し、そして宣言した。

 

「本会議に、上座はない。

大日本帝国といえども、一票の権利しか持たない。

資源を持つ国も、技術を持つ国も、等しく『生存』のために知恵を出し合う。

採択権は、議長国である我がシャムにある。

異議のある者は?」

 

シーンと静まり返る会場。

日本が「あえて」シャムに主導権を渡したことは明白だったが、それが逆に、この会議の正当性を高めていた。

 

 

3.「第17条」

 

「では、最初の議題に移る。

本会議の精神を定義する**『共栄圏憲章』**の採択について」

 

マノパコーンの合図で、事務方が各国の手元に一枚の書類を配った。

そこには、日本の法制局と総力戦研究所が徹夜で練り上げた、**「アジアの運命を変える条文」**が記されていた。

 

【共栄圏憲章 第17条 (経済相互扶助及び安全保障に関する原則)】

 

第一項(経済優先権):

締約国は、重要資源(石油・ゴム・鉄・食糧等)及び技術の取引において、圏内加盟国を最恵国として待遇する。

通貨決済は、原則として各国の合意に基づき「円(Yen)」またはバーター取引によって行い、第三国(欧米列強)の経済封鎖に対抗する。

 

第二項(集団的中立権と防衛):

締約国は、相互に不可侵を誓うとともに、加盟国がいずれかの第三国と交戦状態に入った場合、武力による参戦義務を負わない。

ただし、加盟国は当該国に対し**「友好的中立」**の立場を保持し、その領土・領海・領空の利用及び物資の補給において、最大限の便宜を図る権利を有する。

 

4. ざわめきと、その意味

条文を読んだ瞬間、会場がざわめいた。

 

「参戦義務がない……?」

 

フィリピンのラウレルが呟く。

 

「つまり、日本がアメリカと戦争になっても、我々は銃を持って戦わなくていいということか?」

 

幣原外相が、静かに手を挙げて発言を求めた。

 

「その通りです。

我々は、皆様を『盾』にするつもりはありません。戦争は、力のある者がやればいい。

皆様に求めるのは、『中立』という名の兵站基地としての役割です。

アメリカと戦えとは言いません。ただ、アメリカ軍に港を貸さず、日本軍に米と油を売ってくだされば、それでいいのです」

 

「強制防衛権の放棄」と「中立権の保証」

 

これは、軍事力の弱いシャムや、独立を目指すオブザーバーたちにとって、喉から手が出るほど欲しい**「安全装置」**だった。

日本にとっても、足手まといな弱小軍隊を抱え込むより、堂々と資源だけ吸い上げる方が合理的だ。

 

議長のマノパコーンが、木槌を構えた。

 

「この第17条は、我々が列強の戦争に巻き込まれることを防ぎ、かつ経済的な繁栄を約束するものだ。

……シャム王国は、これを支持する。

各国の態度は?」

 

円卓の視線が交錯する。

広西軍閥の李宗仁が、シホテルーシの代表が、そしてホー・チ・ミンが、無言で頷き合う。

それは、彼らが**「日本の経済圏」**という巨大な船に乗船券(チケット)を切った瞬間だった。

コン!!

 

「全会一致と認める。第17条、採択」

 

冷房の効いた部屋で、熱い血が通った「共栄圏」の心臓が、ドクンと動き出した。

 

 

 

 

―――――

 

大東亜共栄圏憲章(バンコク憲章) 概要

 

前文:

我らアジア・アフリカの諸国民は、長きにわたる他律的な支配を脱し、自らの文化と伝統に基づいた「共存共栄」の社会を建設することを決意する。

我々は、武力による威圧を排し、「技術」「資本」「資源」の互恵的な融通こそが平和の礎であることを確認し、ここに本憲章を制定する。

 

 

第1章:目的及び原則(The Purpose)

 

第1条(目的):

域内の経済成長、社会的進歩、文化的発展を促進する。欧米列強のブロック経済に対抗し、**「アジア自立経済圏」**を確立する。

第2条(原則・内政不干渉):

加盟国の主権、領土保全、および国内問題への不干渉を厳守する。

 

 

第2章:法的地位(The Status) 

 

第3条(法的・経済的実体):

本共栄圏は、国際法上の法人格を有する「経済協力体」である。

 

 

第3章:加盟(Membership)

 

第4条(加盟資格):

アジア・アフリカ地域に位置する全ての独立国に門戸を開く。

第5条(準加盟および地域加盟):

現在独立国でない地域(植民地)であっても、その地域の指導的組織が本憲章の理念に賛同する場合、「準加盟地域」として経済的恩恵(円借款など)を受ける権利を有する。

 

 

第4章:機関(Organs)

 

第7条(首脳会議):

最高意思決定機関。全会一致(コンセンサス)を原則とする。

第8条(事務局と技術委員会):

バンコクに常設事務局を置く。

ただし、インフラ・通信・金融に関する**「技術諮問委員会」は、「最も高度な技術を有する加盟国(事実上の日本)」**が主導し、規格統一(JIS化)を推進する。

 

 

第5章:経済協力(The Economic Core)

第10条(関税撤廃と特恵待遇):

加盟国間の貿易においては、関税を段階的に撤廃する。域外(欧米)との取引よりも、域内取引を優先する**「アジア優先原則」**を定める。

第11条(通貨決済):

加盟国間の決済は、域内基軸通貨(円)またはバーター取引によって行い、金・ドル・ポンドへの依存を脱却する。

第12条(産業規格の統一):

鉄道軌間、電圧、通信プロトコル等は、**「共栄圏標準規格(実質JIS)」**に統一し、相互運用性を確保する。

 

第6章:平和と安全(Security)

第14条(紛争の平和的解決):

加盟国間の紛争は、武力によらず、事務局の仲介によって解決する。

第15条(治安維持協力):

過激派、テロリズム、および**「域内の経済秩序を破壊する勢力」**に対し、加盟国は情報共有と治安維持活動において協力する。

 

 

第7章:対外関係(External Relations)

第16条(協調外交):

加盟国は、国際連盟や列強との交渉において、可能な限り**「統一した見解」**を表明するよう努める。

 

 

第8章:集団的対応(The "Article 17")

 

第17条(経済相互扶助及び安全保障に関する原則):

経済優先権: 資源・技術の取引において加盟国を最恵国待遇とし、第三国の経済封鎖に対抗する。

集団的中立権: 第三国との戦争において参戦義務を負わない(非軍事同盟)。ただし、加盟国に対しては**「友好的中立(基地利用・物資補給の容認)」**を義務とする。

 

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