神武天皇の幼馴染   作:橿原

2 / 6
弐 第六天魔王

 1568年、織田信長は上洛を果たし、足利義昭は将軍に就任。程なく岐阜への帰路へ着く前、信長は京の月詠神殿へ足を伸ばしていた。月詠神殿で物事の吉兆を占う、ということは一般的であり、地元の月詠神殿との違いなども気になったということもあった。

 そこで信長は神官に声をかけられる。橿原の宗主がお見えになられているがお会いされるか、と。

 橿原の宗主というと、全国の月詠神殿の総神殿長である。会わぬ理由もなかったので挨拶をすることとなった。

 

「ああ、貴方が」

 

 宗主は年齢の分かりづらい顔立ちをしていた。とはいえ年嵩であることは間違いなく、老人と言っても過言ではない歳だろう。

 老人は目尻の皺を深め、何やら感慨深そうに考え込む。

 

「どうなされた。……名乗り忘れた。私は」

「存じております。此度の上洛。お見事でございました。いや、此度会えて良かった。5年後は私も橿原でしょうから」

「5年後……?」

「宗主!」

 

 宗主の意味深長な言葉。遮るような京の月詠神殿長の声。信長は何を聞かされているのかと呆気に取られる。

 

「宗主……禁を破るおつもりですか」

「禁、禁ねぇ……。禁をしたのは誰か。我らは月読尊を祀るものであり、ヨミ様の末裔。ヨミ様の御友人の言葉と今の今まで守ってきたが……何が変わった? この京の有様はなんだ?」

「しかし」

「汝も知っておろう。次期宗主として。あれを読んだはずだ。我らの悲願。我らの約束。別れより2000年、未だ影も姿もないがこの有様だからではないのか?」

 

 信長はいい加減帰りたくなってきていた。客人を放置しての言い争い。無礼極まるが月詠神殿の宗主と次期宗主。切るわけにもいかない。

 何やら宗教的に大事を話そうとしているようだが信長は月読尊を信仰しているわけでもない。

 5年後という気になる発言もあったが━━帰るか。

 そう決心すると一応、言い争う初老の男と老人に声をかける。

 

「あー、すまない。何やら取り込み中の様子。私もそろそろ━━」

「いやいやすみませんねぇ。吉兆でしたか」

 

 京の神殿長を言い負かしたのか、老人が一歩前に出て信長に声をかける。

 

「その予定ではあったがお忙しい様子なので何、地元にも神殿はある。そちらにでも寄らせて貰う」

「いやいやいやいや、今占いましょう」

「しかし準備もあろう」

 

 信長としてはもう、一刻も早く立ち去りたい一心だった。無礼だ、不快だという気持ちもある。しかし何よりこの老人が胡散臭くて仕方がなかった。

 老人はさらに一歩、信長へと近づく。

 

「大丈夫です。既に占いの結果は出ております」

 

 2000年前から既に。

 老人はにこりと笑って言う。

 気味が悪い。なんだ、2000年前? この爺さんは何を言っている?

 混乱の中、救いを求めて京の神殿長に目を向けるが神殿長は何もかも諦めたような表情で佇んでいる。諦めるな。いい加減切るぞ。

 

「たしか……そう、今からおおよそ14年後。京に本能寺という寺がございます。そちらでお休みになられる際はくれぐれもお気をつけください。ともすれば一晩で全て終わります」

 

 肝心の何が起こるかという部分については何も具体的なことを口にしない老人。ただただ不吉なだけ。

 もういい。付き合ってられるか!

 

 信長はにこにこと笑う老人を背に、別れも言わず帰路に着いた。

 その背中に老人の声が届く。

 

「もし14年後。ご無事でしたら橿原においでなさってください。その頃となればこの神殿長が宗主やもしれませんが、言含めておきますゆえ。面白い話をいたしましょう」

 

 

 

 

 天正10年、信長は何度目かの上洛をし、茶会の手配をしていた。場所は本能寺である。

 

 既に家督を譲った信忠は優秀で、大きな功績も立てた。その信忠も入京しており、この茶会で久々に酒を酌み交わそうと考えて━━。

 

『ともすれば一晩で全て終わります』

 

 今、何年だ。

 

 信長の脳裏にかつて最初の上洛で会った不愉快で気味の悪い老人の言葉がよぎった。

 

 あれは永禄11年……おおよそ、14年? 本能寺で茶会。家督を持つ信忠。天下人足らんとする自分。

 

『一晩で全て終わります』

 

 言葉が巡る。思考が加速する。

 ここから全てが終わるとするならば。

 それが可能なのは誰だ。

 

 その夜、信長は信忠と酒を酌み交わすと言って随分長く話し込んでいたという。妙覚寺に帰った信忠の顔はひどく焦燥しており、周囲の人間はまた信長公に何やら無茶振りでもされたかと噂した。

 

 

 

 

 天文11年。橿原、月詠神殿。そこにはかつて京で会った男がいた。

 信長は戸惑うことなく声をかける。

 

「宗主は何処か」

「今は私が宗主です。ですが……」

 

 信長は案内され、奥まったところにある一部屋に通された。

 そこには痩せ細った、枯れ木のような老人が横たわっていた。

 老人が目を開ける。

 

「あぁ。……来られましたか」

「全て話して貰うぞ」

 

 

※※※

 

 

 高校では選択科目というものがあった。数学や体育などでもあったが、私にとって重要なのは社会、歴史である。当然選ぶのは大和史だが世界史もちょっと気になった。

 選択してすぐ後悔した。自分の知る日本と異なりこの歴史改変が起こった世界において大和とは太平洋沿岸全てぐるっと囲む大帝国のことだ。北は樺太カムチャッカアラスカ。東は北米西海岸に中米全域、南米西海岸。南はニュージーランドにフィリピン、ニューギニア。西は台湾に朝鮮半島、沿海州やらウラジオストクのある日本海沿岸全て。

 

 アホかと。バカかと。

 

 これらの地域の歴史全てとなるともう本当に膨大だ。

 試験範囲で言えばかなり端折って部分部分の文言を拾っていけば十分なのだが、私は趣味で歴史を学んでいるのできっちり教科書と資料集の隅から隅まで読み込まねばならない。

 仕事じゃない、趣味だからこそ手は抜けぬ。

 

 おのれ信長、この第六天魔王め!

 

 ぐちぐちとぼやきながら私は勉強を進めるのであった。楽しかった。

 

 

 小中で織田信長がほとんど現在の大和帝国の領土を征服したと聞き、思ったのは(可能か?それ)であった。

 安土桃山時代の技術力では無理だろう。

 外洋航行能力もないはずだ。なんとか手に入れたとしてもこの広範囲をカバーする人員も技術もないはずだ。

 しかしその疑問を氷解することが資料集に書かれていた。

 もう出るわ出るわ。

 千歯扱きなど序の口。硝石丘法やら培養法をすっとばかして完全ではないにしろハーバーボッシュ法を実用化させてる。

 

 

 情報通信については信長信忠時代で腕木通信網を整備しており、旗振り通信も併用しつつ、当時としては格段に早い通信ができたらしい。

 

 また何故か信長軍は各地の地理に詳しく、現地につくや否や瞬く間に制圧したという。

 

 他にも工場制手工業が始まり、すぐに一部の分野では工場制機械工業へ移行しだす。

 簡易的な蒸気機関が生まれ、すぐさま発展しだす。

 

 等々。

 時代を間違えてるとしか思えない技術がわんさか出てくる。

 教科書では『戦国時代の各地での戦争が技術競争を加速させ知識や技術の蓄積が進み、信長の外征時代に華開いた』などとこじつけられていたが、私はその脇に少しだけ書かれた一文で全てを察した。

 『━━航法や地理の計測、国家体制の模索には神武以来書記官の役割も担っていた月詠神殿の協力により━━』

 

 そういや世界地図とか特徴的な地理とか、いろんな技術とか書き散らかした気がする〜。だって前前世の記憶なんでも思い出せたから調子乗って全部書き出したよね。へへっ。

 

 全て私のせいだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。