神武天皇の幼馴染   作:橿原

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参 大和神話編纂事業

『ツクヨの〜! 歴史ちゃんねる〜っ』

『今日は16世紀末から17世紀にかけての大和帝国についてやってくよ!』

 

コメント:はじまた

コメント:でたわね

コメント:魔王時代な

コメント:れきしこわれる

 

『うんうん。みんな大好き魔王様時代です! この時代はねー。織田信長率いる大和軍が各地を瞬く間に征服していくんですが、私が注目したいのは文化面の方です。もう大和が何もかもを過去にしていきます』

 

コメント:全てを過去にする(族滅)

コメント:(国を)過去にする

 

『いやいや族滅はそんなにしてないから! 鎌倉じゃあるまいし』

 

コメント:そんなに

コメント:やっぱ魔王なんすね〜

コメント:文化面て? 幅星法?

 

『あー、技術面もそうですね。産業革命が世界に先駆けて早回しで起こっていったのはぶっ壊れです。幅星法は肥料や火薬の大量生産を可能にして魔王軍の後方を強力に支援しましたーが! 今日話したいのはそこじゃないです』

 

コメント:魔王としか呼ばれない信長に悲しき過去

コメント:信長の過去なんて身内に謀反起こされまくったくらいじゃねぇか

コメント:ほんとに悲しいのはNG

コメント:光秀がきっちりやっとかないからノッブ大暴走じゃ

 

『魔王様はお子さんとは仲良かったっぽいからセーフ。弟は気にするな。……と、スライドだしまーす。はいどん!』

 

『大和神話大編纂!』

 

コメント:神話

コメント:大和神話ってケツァルコアトルを消去火鳥なんて当て字してしまった、あの

コメント:古事記の成立が紀元前なのにアステカとかインカとかの神話由来っぽい名前が既に書かれてんのがおかしいとか聞いたことある

 

『そう! 大和神話の重要な神典である古事記ですが、この中の序盤。神武天皇以前の神話部分に世界各地の伝承っぽい記述がだいぶまみれてます。これがこの織田政権の神話編纂につながるんです』

 

コメント:まみれてるwww

コメント:ヤハウェが矢上だっけ? キリスト教とかイスラム教について予言されてるとかとんでも話

 

『予言系の話も多いですねぇ。明らかにこじつけな話もありますが唯一神に関する内容はガチでバチカンが首を突っ込んでくるレベルのやつです』

 

コメント:教皇ブチギレで草

 

『はい話戻しまーす。この各地の神話や伝承が古事記に書かれてるというところに目をつけたのは勿論魔王様、ではなく! 織田家当主として本国を任されていた信忠です。優秀な二代目』

 

コメント:二代目ですらねーだろ

コメント:信秀「わしなかったことになっとる?」

 

『そこー、細かいこと突っ込まない。えーと。で、当時信忠様は次々に世界を征服していく魔王様に危機感を覚えたわけです。このままだと親父が生きてる間はなんとかなっても、その後すぐ国が崩壊しかねない、と』

 

コメント:大和が崩壊してないのは世界の七不思議

コメント:だだっ広い太平洋! 飲み込んだばかりの諸民族! 大航海時代一番乗りしてた西洋勢!

コメント:なんで?

 

『そこで考えたのがこの神話編纂事業ですね! なんといっても争いの元は価値観の相違。じゃあその価値観を合わせて仕舞えば国も長持ちするだろう、ということで各地の神話を古事記をはじめとした大和神話に紐づけていったわけです。実際大概の伝承や神話の主要人物の名前は全部古事記に載ってるのでゼロからでっち上げたわけじゃないです』

 

コメント:ありがとう綏靖天皇

コメント:ヨミだろ。古事記の神武天皇パートでもちょいちょい神話に触れてるし

 

『ヨミ様かどうかは月詠神殿にきかないとわからないっすねー。まあどの研究本読んでも古事記のネタ元はヨミだろうって結論づけてますけど』

『では具体的にどう紐づけていったかスライド流して━━』

 

 

 

※※※

 

 

 

 大学生活は充実していた。何せ今世最後のモラトリアム。これが終わればただ歴史を学んでいる生活というわけにはいかないだろう。まじで生まれてから歴史を追っかけるしかしてない。普通に社会でやっていけるだろうか。

 などと不安に思いつつ、はや3回生となる。来年には就活。なので私は卒論に早めに手を出すことにした。

 就活中に卒論なんてまともに手につかないに決まってる。それに今からテーマ決めて書いていってブラッシュアップすればそこそこ読めるものになるだろう。

 というわけでざっくり書き上げた論文をゼミの教授に見て貰う。

 テーマは古事記。タイトルは古事記の表記ブレとその解釈。

 いやどうも古事記の最初期の版は私が整理したひらがなカタカナ漢字で書かれているのだけど版を重ねるごとに微妙に内容が変わっていっているのだ。しかもかなり初期から。

 

 言葉は生き物とはいうけど、変化すんの早すぎ。ま、人力コピーだもんねしゃーなし。

 とはいかないのが研究者の辛いところ。単なる表記ブレで済む箇所もあるが、多分権力者による意図的な改竄の痕跡がある版まであった。

 

 ちなみに現在の大和語の表記は表音文字と表意文字のミックスというのは同じだが、信長時代の大征服で不便が出てきたのか、アルファベットめいた表音文字に国字ばかりの表意文字となっている。ひらがなカタカナもなんかアルファベットの大文字小文字みたいな関係になっている。

 今世の勉強で最も苦労したのが国語であった。

 

 そんな現代語に比べれば、2600年前の言葉なんぞむしろ馴染みがある文字なのでスルスル読める。

 なんなら最初期の版の中には見たことのある筆跡があった。きっと子供達が頑張って書いたのだろう。綏靖天皇にこき使われたのかな?かわいそ。

 

「で、どうでしょう。一応資料も添付してるので極端におかしいところはないと思いたいんですが」

「3回生で卒論完成させてきてる点がおかしい、のはおいといて……」

 教授はタブレットをしげしげと覗き込んで何やら思索している。

 目の前で読まれるの緊張するな。

 前世では書かれたものを読む側だったことが多いので、新鮮な気持ちだった。

 

「君、読めるの?」

 

 一瞬なんのことだろうと思ったがすぐに思いついた。古事記のことだ。前世がネイティブなので当然読めるぜ。

 

「割と初期の版は字も崩れてないので読みやすいですね。版を重ねるごとに崩れてくるんでそっちはちょっと苦労しました」

「ふーん……」

 

 いや、なんだよ。読み終わったならはよフィードバックくれ。

 黙り込む教授に内心ツッコミを入れつつ、じっと待つ。

 しばらくしてようやく教授の口が開いた。

 

「まず、タイトルが表記ブレなのに文章に表記ブレがあるのはいかがなものかな、という点。あと表記ブレというタイトルそのものもどうかな……。内容からすると版ごとの表記内容の差をどう捉えるかという点が重視されている。それが表記ブレという言葉をタイトルに出してしまったことで、内容が薄まる印象があるね。後は━━」

 

 瀕死である。いや叩き台になればというつもりで持ってきたけど、ちょびっとは自信あったんだよ。全部ないなった。

 

 教授は気になったという点を淡々と指摘していく。必死にメモを取るが、心が削れていく私。さらに正論で刺してくる教授。ちょっと泣きそうな私。

 手心どこ……?

 

 粗方指摘が終わると教授はコーヒーを一口含む。そして再び口を開いた。

 

「まあ色々言ったけど、内容そのものはかなり良かったよ。このまま出しても卒論として通るくらいには」

「……あ、ありがとうございます」

「うん。……ところで」

「はい?」

 

「フィールドワークとか、興味ある?」

 

 この教授の誘いに乗ってしまった私は卒論もそこそこに4回生になっても方々連れ回されることになる。

 

 そして気づけば院進することになり……就職どうしよう。文系の院進とか就活に下手するとマイナスじゃない? 大丈夫かな私の将来。

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