遊戯王ZEXAL 転生決闘者『築根ゆうや』 作:ふわ×フワ
生存報告
「う、うーん……ここは?」
少女が一人、見知らぬ部屋で目を覚ます。そこは薄暗く、日がとっくに落ちていることを、カーテンの隙間から差し込む月明かりが知らせる。
同じくして、誰かがこの部屋に入って来たらしく、照明が点けられた。
「お、タイミングバッチシ。おはようアンナ」
「…遊八? もしかして俺寝てたのか?」
目をぱちくりさせながら、状況を確認する。
「そうだよ。だから起こしに来たとこ」
「そっか……え、じゃあここって遊八の部屋⁉︎」
「うん。それがどうかした?」
「あ、いや…なんでもないぜ」
一度認識してしまえば、もう意識は逸らせない。想い人と同じ匂いが、室内いっぱいに満ちているのを、彼女の嗅覚が捉えてしまった。
寝た事でクールダウンしたはずの熱が、またしても頬を赤く染めていく。
「ん、ちょっと顔赤い? まだ照れてる? や、でも照れる要素なんてあったかな……もしかして熱がある? 大丈夫?」
体調を心配する遊八が、熱を計ろうと近づいて来る。アンナの内心などお構いなしだ。
「いや! 大丈夫だぜ! ほら! 俺は見ての通り元気いっぱい! な!」
「お、おう。そっか。なら良いんだけど」
これ以上の接近を阻止するべく、全力で元気をアピールし、どうにか気絶は免れた。非常に心臓に悪い。
「っと、そうだ。そろそろパーティの準備が終わるから起こしに来たんだ」
思い出したように口にする。言われてみれば、扉の向こう…階下からだろうか、賑やかな声が聞こえる。
「そういえばそうだったな。忘れてたぜ」
「じゃ、行こっか」
…………
「ほいそこ! 働かざる者食うべからず! 食器並べとけ! ん、優希。すまん堅護見張っといてくれ」
「うん。わかった」
パーティの準備は、陸人の指揮により順調に進み、もうじき終わるだろう。
リビングに降りて来た遊八が、陸人へ声をかける。
「ありがとう陸人君。まさか家事まで熟せるなんてね」
「遊八か。そっちは成美さんに教えてるんだ。なのにこっちの指示まで任せちゃ悪いだろ」
遊八が成美に家事(主に料理)を教えている最中、陸人たちは必要最低限の掃除や、整理整頓を終わらせていたのだ。
「それに、元々ある程度綺麗にはされてたからな。大した苦労はしてないさ」
なんて事ないように言うが、丁寧かつ余裕を持って準備できたのは、間違いなく彼らのお陰。遊八は深く感謝するのだった。
「遊八君。こっち、終わりました」
キッチンから成美の声がかかる。
「わかりました。でしたら次に移りましょうか」
「じゃ、仕上げは任せたよ遊八。俺たちは遊馬たちを迎えに行って来る」
「何から何まで助かるよ」
「こんくらい任せとけ。おい堅護、優希」
陸人は二人を連れ立って、遊馬たちを迎えに行った。
「それじゃあ最後は、アンナにも手伝ってもらおっかな!」
「おう! 何作るんだ!」
「WDC初日ってのもあるからね。願掛けの意味も込めてカツだ! 今夜はカツカレー!」
最後の調理のために、遊八とアンナもキッチンへ。渾身のカツを伝授すべく、遊八は気合を入れるのだった。
そして——
「おおー! スッゲェ美味そうだぜ!」
「ホント! これ全部遊八君が?」
遊馬、小鳥の二人も迎えられ、遂にパーティが始まろうとしていた。
「流石に一人でこの量は無理だよ。成美さんに教えながら一緒に作ったんだ」
謙遜する遊八。
「料理なんて調理実習くらいでしか経験ないですよ? そんな私の面倒も見ながらは、十分凄い事だと思いますけどね」
「このカツは俺も作ったんだぜ!」
成美が遊八をフォロー。アンナはカツを指差しながら、自信満々に言う。
そんな中、盛大にお腹から音を鳴らしながら、遊馬が我慢ならぬ様子で叫ぶ。
「なぁ、俺もうお腹ぺこぺこでさぁ。食べて良いか?!」
「はは、そうだね。今日はみんな集まってくれてありがとう! 腕によりをかけて作ったから、いっぱい食べてってくれ!」
「よっしゃ! んじゃあ早速——」
「こら遊馬! いただきます。でしょ?」
「うぐっ。わかったよ……」
食事に手を伸ばそうとした遊馬の手を叩き落とし、小鳥が注意する。
これを合図に、みんな揃って手を合わせる。そして遊八が先んじて挨拶して、楽しい食事の時間となった。
「ふふっ。さてそれじゃあ、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
「美味ぇ! 美味いぜ遊八!」
「そう? 良かったぁ。おかわりもあるから、遠慮せず食べてくれ」
ガツガツと食べ進める遊馬。あまりに美味しそうに食べるので、遊八は自然と笑顔になっていた。
「美味しい……」
「満足できる出来でしたか?」
「はい! とっても!」
「それなら教えた甲斐がありましたね。レシピも渡しましたし、もう一人でも作れますよ」
目を輝かせ、噛み締めながら食べる成美。その様子に、遊八も一つの達成感を味わっていた。
「いや、ホント美味いな。カレーは野菜の甘みがしっかり引き出されてる。カツもサクっとジューシー……おかわりだ」
「早っ! え、急に食レポ始めたかと思えばもう無くなってんの」
「陸人の奴な、昔から食べんの早いんだよ。しかもそれで容量も多いときた。もしかしたら足んねぇかもな」
「嘘でしょそんな食うの?」
「足りなくても文句は垂れねぇから安心しろ」
「だそうだ。あ、オレもおかわりしよ」
「安心はできないかな。あと堅護君も早いよ」
食べ盛りの男子中学生二人。その脅威の食事スピードに少し怖くなった遊八。
遊八自身も食べる方で、遊馬は大食い前提で考えていたため、量は当然多めに用意してあるのだが……。
「……ん、あ、ボクも…いいかな? 美味しくって……」
一人追加である。一番小柄で少食に見える優希も、中々余裕がありそうだ。恐ろしや食べ盛り。
と、まさかの足りない疑惑が浮上しつつも、楽しい時間は続く。
「そう言えば、遊八君アンナちゃん。今はお付き合いを? お姉ちゃん気になります」
「姉じゃないでしょ」
「あ、私も気になる」
「いや、その…まだで……」
「ふむ。詳しく聞きましょう」
「成美さん落ち着いてください」
恋バナで顔を赤くするアンナ。興味津々な女子二人。
一方男子(遊八除く)
「そうだ遊馬。ハートピースは集まってるか?」
「ん? ああ、今は三つだぜ。陸人はどうなんだ?」
遊馬がハートピースを取り出せば、陸人も同じく取り出して見せ合う。
「俺は四つだ。後一つだな」
「もう!? やっぱ凄ぇぜ陸人!」
「本当にな。しかも午前中だけでだぞ? アレが無きゃ今頃揃ってたんじゃないか?」
「アレ?」
「真面目な話になるから後でな」
ナンバーズ絡みであると暗に伝える。
「んで、さっき聞きそびれてたことがあったんだ。遊馬もいるしちょうど良い。みんな今日一日戦ってどうだった?」
陸人が聞くのは、初日の感想。そして他の決闘者のレベル。
「みんな強え奴ばっかでさ。ワクワクしっぱなしだったぜ!」
思い返して目を輝かせる遊馬。
「はは。遊馬くんらしいね。でも確かに、世界中から集まってるだけあって全体的にレベルが高かった。結構苦戦しちゃったもん。でも頑張った!」
己の未熟さを再確認しながらも、全力を尽くせたと胸を張る優希。
「ホントにな。オレってばビックリしたもんね。成長早過ぎ」
行動を共にした堅護が、その頑張りを認める。陸人も同じく。
「そうだな。俺が見たのは一戦だけだが、それでも十分わかる位には強くなった」
「マジか! これは俺も負けてらんないな! そうだ優希、後でデュエルしようぜ!」
「いいよ。ボク勝っちゃうからね!」
初日が終わった今もまだ熱が収まらない遊馬。向上心が止まる所を知らない優希。彼ら二人の成長はまだまだ続く。
「で、堅護はどうだったのさ」
「別に。二戦しかしてないのは知ってんだろ」
取り出すのは枠に収まった三つのピース。
「初日だからかね。一人一人のレベルに差があるんだろ。正直オレたち…特にお前と遊八なら楽勝な位だと思ったね。そして実際にそうだった」
陸人のピースを見ながらの、慢心とも取れる発言。しかしそんな甘さは一切感じられない。
彼もただ周りの成長を眺めているだけではなかったのだ。
それが陸人には、堪らなく嬉しく思えた。
「お前もまだ強くなってるみたいだな……着いて来いよ親友」
「当然さ。本番は明日からよ!」
肩を並べて、共に歩める時間を噛み締めながら、二人で意気込む。
「僕も混ぜてー」
恋バナが一段落したのか、遊八が混ざってくる。
「そっちは終わった……でよさそうだな」
陸人が目を向けた先では——
「揶揄い過ぎてしまいました」
「あはは…ごめんね。アンナちゃん」
落ち着きを取り戻した成美と、頭から煙を出して突っ伏しているアンナに謝る小鳥がいた。
「あー……ご苦労さんだな」
「うん」
「よくわかんないけど大変だったんだなー」
女子たちの恋バナへの情熱は並じゃない。特に成美はそれが顕著であった。目がキマっていた。怖かった。
(飢えてんだろうなぁ。それに普段からキチッとしてるだろうし、ストレスも溜まってたんだろう)
そう遊八は考えることにした。あながち間違いでもないはずだと。
「んで? 何の話してたの?」
「遊馬のピースの数聞いて、今は今日の感想」
「あー、僕三つ」
「同じだな!」
「イェイお揃い!」
遊馬とハイタッチ。なんだかんだ元気はまだ残っている。
「それで遊八クンや。今日一日の感想を。相手は強かったかい?」
「大して数やってないけど……成美さんね。ギリギリだったよ」
視線が自然と成美に集中。
「後もう一枚、何かあれば勝てたんですけどね…。思いだしたら悔しくなって来ました。遊八君! 次はお姉ちゃん負けませんよ!」
「もう突っ込みません。そして、次も僕が勝ちますよ」
二人の間に火花が散る。
「遊八をそこまで追い込んだか……やっぱこの先も気は抜けないな」
陸人が一人静かに気を引き締め直す。
「くぅーっ! やっぱみんなとデュエルしたいぜ!」
「だね! ボクもだよ!」
「遊馬君と優希君でしたね。大会中であれば、いつでも相手になりますよ」
「やったね」
「おう!」
快く受けてくれる成美に、二人はハイタッチした。
「あの! 成美さん!」
気を取り直したアンナが成美を呼ぶ。
「お姉ちゃんで良いですよ。それで何でしょうか? アンナちゃん」
しれっとアンナの姉にもなろうとしている彼女に対してアンナは……。
「俺もっとデュエルが強くなりたい! だから…教えてください! 成美姉ちゃんのデュエルを!」
頭を下げて教えを乞う。
「うんうん……良いでしょう。お姉ちゃんにお任せあれ! ですよ」
この大会中限定で、成美はアンナの師匠になった。
「ふふっ、みんな楽しそう。私も教えて貰おっかな」
「もちろん構いませんよ小鳥ちゃん。大歓迎です」
気まぐれに呟いた一言に、ずいっと身を寄せて歓迎する。小鳥はちょっと驚いた。
しかし本当に楽しそうだ。生き生きしている。
「よぉーーっし! そうと決まればさっさと片付けてデュエルしようぜ!」
遊馬の声で気付く。いつの間にか空になっていた食器に。
「うわお無くなってら。まったく…動き過ぎて腹痛くすんなよな」
そうしてパーティはデュエルタイムへと移り、夜は更けていくのだった。
……
時間は深夜0時。皆が寝静まった今、築根遊八は一人夜空を眺めている。
「あー星が綺麗だ……はぁ」
先程までの彼はどこはやら。脳内を埋め尽くすのは不安。そして少しの自己嫌悪。
「このWDC、裏にいるのはフェイカーとトロン。だから、Ⅳは置いとくとしてⅢは悪くない。わかっててなぁんで怒りが湧いちゃったのか」
まだ、心に靄を残していた。自分の狭量さが。
友達を傷つけられた。理由などそれで十分。そのはずだった。それが普通だ。しかし彼は違った。
「悪くない奴に怒りをぶつけるな」
事情を知っている。
「僕はもう、誰かを傷つけちゃならないし、不快にもさせてはならない」
前世からの、謂わば呪いがある。
「あーでも、僕は完璧な人間じゃない。絶対に不快にさせないなんて無理なんだよな……くそぉ」
思考はぐるぐるあっちへこっちへ。ごちゃごちゃして、取り留めがない。
「……割り切る。そうだ割り切れ。難しくてもやんなきゃだろ。だよな、俺」
人の心も、未来も、何もわからない。正解など、終わって初めてわかるのだ。
「……はいやめ! こーゆーの考えると疲れんだ。とにかく、昔できなかったことが、今はできる。どんな苦痛に喘ごうと、それでも人生を謳歌するしかないのさ。僕みたいなちっぽけな人間はさ」
ちっぽけだからこそ、今に全力を尽くす。
「俺の知識、未来から参考資料になっちまったからね。諦めて闇を歩きましょ。考え過ぎてもドツボにはまるだけだし」
そう言って割り切る。無力なら無力なりにできることすると、既に決めている。
もっと人生経験があればと後悔しても、もう遅いのだから。
「あーほんとあのクソ親代わりめ大っ嫌いだ。けど、遊戯王に出会えるまで僕を生かしてくれたことには、感謝しなきゃな」
そう思えるのなら、彼の感情は大きく成長できている。
自らを抑え込み、他の為だけに生きるより、ずっと健全だろう。
夜風に当たり冷えた頭は、幾分か思考を整理してくれた。
雑念を息と共に吐き出して、彼は自室へと戻っていった。
そして遊八は眠りにつく。
彼の成長もまだまだこれから。孤独でない今ならば、かつてよりも強くなれるはずだ……きっと。
そして夜は明ける。
WDCは、二日目へ——。
遊八君の過去をもっと掘り下げるべき。
遊戯王二次ならデュエルを飛ばすな。
人生経験が一番無いのは作者。etc
……
我、頭空っぽな亀なり。
本編中じゃ遊馬vs優希やんないっすけど、もし見たいってんであればコメ残してください(乞食)。書きます。他メンバーでもいいよ。
じゃ、また何ヶ月か先でお会いしましょう。