メジロマックイーンになりまして。   作:灯火011

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SA〇UKEのシーンは勢いでやっておりますので、おそらく矛盾点などあると思いますが、どうかご容赦をば。


10 鋼鉄の魔城と、肉のための契約

「……はい。ええ。ですので、こちらの条件を飲んでいただけるなら、出演いたしますわ」

 

 電話の相手は、SASUKEのプロデューサー。俺はスピーカー通話にしつつ、電卓を叩いていた。

 

「まず、本名は非公開。『メジロマックイーン』という活動名のみの使用とすること。……え?戸籍上の名前がないと困る?そこをなんとかするのが大人の仕事でしょう?」

 

 俺の口調は優雅だが、言っていることはゴリ押しだ。

 

「それと、賞金ですが……銀行振込ではなく、手渡しでお願いしたく存じます。税金関係の手引き?ああ、それは後ほどこちらで申告しますので(大嘘)、とにかく現ナマを……ええ、お肉券でも可ですわ!」

 

 なりふり構わない姿勢に、相手も折れたらしい。

 

「わかりました……特例中の特例ですが、あの身体能力を見せてもらえるなら」

 

 と。俺は電話を切ると、ガッツポーズをした。

 

「よっしゃあ!これで当面の食い扶持は確保ですわーッ!」

 

 

 その夜。

 

 『〇ASUKE出場決定! & 巨人戦ナイター実況』

 

 というカオスなタイトルの配信が始まった。登録者数はすでに18万人。コメント欄の流れは、速すぎて常人では読めないが、ウマ娘の身体能力を持つ俺にとってはお茶の子さいさいだ。

 

「というわけで、皆様。わたくし、あの『SASUKE』に挑むことになりましたの。しかも生放送ですわ!」

 

『マジかよwww』

『完全制覇フラグきた』

『バイク止める脚力あれば余裕だろ』

 

 ストロング缶(500ml)をプシュッと開ける。手前味噌だが、配信画面に映る自分……銀髪の美少女が、ぐいぐいとそれを嚥下する様は相変わらず異様だった。

 

「賞金で叙々苑に行きますわよ。……あ、ちょっと待ってくださいまし。今の判定はおかしいですわね」

 

 タブレットの野球中継に目をやった。その瞬間、反射的に眉間に皺が寄ってしまった。なぜならば、きわどいコースがボール判定されたからだ。

 

「………入ってるでしょうが今の!!ストライクゾーンが動くとか、どこの魔球ですの!?球審、後で体育館裏に来ていただけます!?」

 

 俺にとってはいつもの事だ。だが、コメントがざわつき出す。どうやら、あまりの変貌ぶりに、今日初めて配信を見始めた、新規の視聴者たちがざわついたようで。

 

『え、この美人、中身こんななの?』

『口調はお嬢様なのに、魂が完全に新橋のオヤジ』

『酒飲みながら野球にキレる美少女……情報量が多すぎる』

『古参勢へ質問:これキャラ作り?』

『古参回答:ガチです。先週は六甲おろし歌って泣いてました』

 

「あら、失礼。……オホン。とにかく、SASUK〇で私の華麗なる舞をお見せしますわ」

 

 

 収録という名の生放送当日。神奈川県、緑〇スタジオ。筋肉自慢の男たちがひしめく会場に、異質な存在が現れた。俺だ。

 

 銀色の長髪をポニーテールにまとめ、ニット帽を被り、お馴染みのグレーのスウェット(上下)を着た美少女。ゼッケン番号は『100』。まさかのラスト、完全制覇者の枠だ。

 

「おい見ろよ、あれが噂の……」

「ネットで話題の『銀髪の悪魔』か」

「華奢だな……本当にあの子がバイクを?」

 

 ざわめきを無視して、俺はスタート地点に立った。リポーターがマイクを向けてくる。

 

「メジロマックイーン選手!意気込みをお願いします!目標は完全制覇ですか?」

「いいえ」

 

 俺は即答した。

 

「目標は、賞金を持って焼肉屋に直行することですわ。……腹が減っては戦ができませぬ」

 

『グゥゥゥゥゥ……』

 

 タイミングよく、ピンマイクが俺の腹の音を拾った。会場が爆笑に包まれる。俺だけが顔を赤らめて耳を伏せた。

 

 

「Ready...GO!!」

 

 ブザーが鳴った。弾かれるように、俺は飛び出した。

 

 最初のエリアは『クワッドステップス』。水の上に浮いた板をリズミカルに渡るエリアだ。普通は「ポン、ポン、ポン」と飛ぶ。

 

 だが、俺は違った。

 

「いちいち踏むのが面倒ですわ!」

 

 俺は踏切板を強く蹴った。ドォォォン!!という足元からの衝撃音と共に、風景が流れていく。この体ならではの凄まじい跳躍だ。1枚目、2枚目を飛び越え、空中で「ふんっ!」とさらに手足の反動を利用して加速し、一息で対岸へ着地した。

 

「は?」

 

 実況席が沈黙した。

 

「と、飛んだーッ!?ステップを踏まずに、対岸までひとっ飛びだーッ!!」

 

 続く『ローリングヒル』。回転する丸太を登って下る。俺は回転する丸太を無視して、助走をつけて一気に頂上まで駆け上がり、そのまま下り坂を滑り台のように滑り降りた。

 

「速い!速すぎる!カメラが追いつきません!」

 

 

 そして難関『ドラゴングライダー』。バーに掴まって滑空し、向こう岸へ渡るものだ。俺はジャンプしてバーを掴んだ。

 

 だがその瞬間、ミシミシッという音がした。

 

「あ、やばいですわ」

 

 握力が強すぎたようだ。手を少しだけずらすと、鉄パイプが少し凹んだ跡が付いていた。だが、構わずバーを動かして、対岸へ勢いよく着地する。まぁ、機材の破損なんてよくある事だと言い聞かす。

 

「ふぅ……機材が貧弱ですわね」

 

 残り時間を見る。まだ60秒以上ある。俺はあくびを噛み殺しながら、最後の壁『そり立つ壁』の前に立った。高さ4メートルを超える反った壁。多くの挑戦者を絶望させてきた壁だ。

 

「これを登れば、お肉……!」

 

 傍から見れば、俺の目は肉色に輝いていたことだろう。実際、俺の頭の中は賞金で食えるであろう焼肉で一杯だ。

 

 助走をつける。タッタッタッ……ダンッ!!

 

 壁を駆け上がる?

 

 否。そんなまどろっこしい事はしない。

 

 俺は壁の中腹を蹴り上げ、そのまま垂直跳びの要領で、頂上の縁を『上から』掴んだ。

 

「登るんじゃありません。飛ぶんですのよ!」

 

 軽い懸垂で体を引き上げ、頂上に立つ。そうして、勢いよくボタンを叩くと、プシューーーッ!!という音と共に、クリアのバーが開く。

 

「楽勝でしたわね」

 

 

 残り時間:45秒。

 

 歴代最速記録を大幅に更新してのクリアだ。息一つ切れていない涼しい顔で、マックイーンはインタビューを受けていた。

 

「やりましたね!銀髪の美少女、見事な身体能力!圧倒的です!今のお気持ちは!?」

 

 マイクを向けられた彼女は、カメラ目線で真剣な表情を作っていた。銀髪が汗に濡れることもなく、美しく輝いている。

 

「そうですね……あの『そり立つ壁』が、巨大なカルビに見えましたわ」

 

「は?」

 

「次は2ndステージですか?早くお願いします。消化が進んで、またお腹が空いてきましたの」

 

 テレビの前の視聴者は確信した。この美少女は、神が遣わした天使ではない。

 

 ―――食欲という罪(カルマ)を背負った、ただのギャグキャラだ、と。

 

 しかし、この後、2ndステージ、3rdステージと進むにつれ、彼女の身体能力はさらに常軌を逸していくことになる。

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