「……ごきげんよう、皆様」
〇ASUKE完全制覇から3日後。俺はいつものアパートから、いつものジャージ姿で配信を始めた。背景には、賞金で買った少し良い座椅子が追加されている。だが、テーブルの上にあるのは、スーパーで半額シールが貼られたマグロの刺身と、4リットルの大五郎(焼酎)だ。
『お疲れ様!』
『改めて完全制覇おめでとう!』
『なんでそんな死んだ魚みたいな目をしてるの?』
『銀髪の悪魔、元気ないぞ』
俺は重いため息をつき、ノートをカメラに見せた。そこには、赤字で殴り書きされた数字が並んでいる。
「皆様、改めて現実をご報告いたしますわ。……SASUKEの賞金200万円。税金云々を一旦置いておいて、手取りそのまま計算しても……」
俺は震える指で数字を追った。
祝勝会(焼肉):5万円
翌日の食費(寿司):4万円
その翌日の食費(中華):3万円
業務用米30kg購入:1万5千円
その他、光熱費・家賃滞納分:10万円
「たった3日で、すでに25万近くが消えましたの。……このペースだと、想定通り、来月にはまた無一文ですわ」
■
コメント欄がどよめく。
『食いすぎwww』
『燃費がアメ車通り越して戦車』
『ウマ娘の維持費ヤバいな』
『俺の月収を3日で食うなw』
俺は焼酎を湯呑みで啜り、刺身を一切れ口にした。美味い。だが、足りない。いっそこのパック全部を一口でいきたいくらいだ。
「笑い事ではありませんわ!私の体は、食べたそばからエネルギーに変換してしまうんですのよ!プリウスの見た目をしたダンプカーみたいなもんですわ!」
例えがおっさん臭いが、切実だった。SASUK〇であれだけ動けたのは、直前に摂取したカロリーがあったからこそ。
動けば腹が減る。食えば金が減る。働けば腹が減る。いわばこの無間地獄の中に、俺は居る。
「もう……草でも食って生きろと言うんですの……?」
『ウマだから草でいいんじゃね?』
『人参あげる 』
『公園の雑草食べ放題じゃん』
「私は人間(ハートはおっさん)ですわよ!!生の草なんて消化できませんわ!ドレッシングかけたサラダなら別ですけれど!」
■
愚痴りながら大五郎をおかわりする俺。そんな中、話題を変えるように切り出した。
「ですが……捨てる神あれば拾う神あり。……これをご覧あそばせ」
俺は一枚の企画書をカメラに見せた。タイトル:『い〇なり!0円サバイバル生活 in 無人島』。
『うわぁ……』
『過酷なやつだ』
『黄〇伝説的な?』
『今のマックイーンに一番やらせちゃいけない企画では』
『格闘技の方が賞金がいいのでは?』
俺は不敵に笑った。美しい顔で、ニヤリと。
「確かに出演料は、そこそこですわ。ですが、重要なのはそこではありませんの」
俺は企画書の『ルール』の欄を指差した。
【現地で調達した食材は、全て食べ放題とします】
「食べ放題。……いい響きですわよね」
俺の目がギラリと光ったように、視聴者からは見えた事だろう。実際問題、そのぐらいの気合の入れようだ。
「海には魚が泳いでいます。森には木の実や山菜があるでしょう。つまり、無人島とは……『天然のバイキング会場』ということですわ!!」
『ちげーよwww』
『サバイバルだよ!獲らなきゃ食えないんだよ!』
『島の生態系が壊滅するぞ』
『サメとか出てきても食いそう』
コメント欄のツッコミをよそに、俺は夢を膨らませていた。重機オペレーター時代、現場で培った「安全確認」と「段取り」の精神。そして今の「身体能力」。これがあれば、無人島などただのグランピング場だ。
「モリ突き?お任せください。動体視力で魚の動きは止まって見えますもの。家作り?元・現場職人を舐めないでいただきとうございます」
俺は立ち上がり、ジャージの袖をまくった。
「というわけで、明日からロケに行ってまいります。……待っていなさい、海の幸たち。私が根こそぎ……いえ、美味しくいただいてあげますわーッ!!」
■
『行ってらっしゃい!』
『島、沈めるなよ』
『伝説期待してる』
『自然界 VS 銀髪の悪魔』
スパチャが飛び交う中、メジロマックイーンは配信を終えた。そして、間髪入れずに彼女は荷造りを始める。ジャージ(予備)、タオル、そして一番大事なもの──「マイ醤油」と「マヨネーズ」。
「味変は大事ですわ。……ふふ、待ってろよ、高級魚。全部刺身にしてやるからな……」
独り言が完全におっさんのそれに戻っていた。
明日から始まるのが、テレビ局の想定を遥かに超える「環境破壊レベルの捕食劇」になるとも知らず、彼女は遠足前の小学生のようにワクワクしながら眠りにつくのであった。
………なお、格闘技については、SASUK⚪︎の実績を考慮して、彼女なりに自粛をしている。おそらく、彼女の対戦相手は、人類には存在しない。