メジロマックイーンになりまして。   作:灯火011

15 / 32
※多くのご感想、ご反響ありがとうございます!返信間に合いませんで申し訳ございません!すべて読ませて頂いておりまして、滅茶苦茶モチベーション上がっております!ありがとうございます!

※15話からについてなんですけれども、明日から1日1話更新になります。ついに正月休みと言うパラダイスが終わってしまいまして、現実と言うヤベー場所に赴かなければならなくなりました。大変申し訳ございません。個人的にはまだ正月休みヤレるんですけどね……!世間の目と言う何かが許してくれないのです……!


14 脱ぎ捨てたニット帽と、ワンテイク

「……蒸しますわね」

 

 無人島ロケから帰還した俺は、久しぶりの自宅配信を行っていた。季節は夏に差し掛かろうとしている。俺の部屋のエアコンは壊れかけで、効きが悪い。そんな中、ニット帽を目深に被り、スウェットを着ている俺。

 

「あーもう、ピッチャー何してますの!そこで四球(フォアボール)は命取りですわよ!」

 

 画面の向こうでは、贔屓チームが不甲斐ない投球を続けている。イライラと蒸し暑さで、俺のストレスマッハは限界に達していた。頭が痒い。耳が窮屈だ。尻尾がスウェットの中で蒸れている。

 

「ええい、もう限界ですわ!!」

 

 俺は勢いよくニット帽を引っこ抜いた。バサァッ!と銀色の長髪が広がり、押し込められていた「ウマ耳」がピンと立ち上がった。さらに、スウェットのズボンを少し下げ、尻尾を外に出す。灰色のふさふさした尻尾が、解放感に打ち震えてブンブンと回った。

 

「ふぅ……生き返りましたわ」

 

 俺は一息ついてビールを飲み、コメント欄を見た。てっきり「え!?耳!?」「なんだそれ!」という驚愕のコメントで埋まると思っていた。だが、流れてきたのは意外な反応だった。

 

『やっと脱いだか』

『知ってた』

『無人島の時、水に濡れて耳の形くっきり出てたしな』

『バイク並走の時に帽子飛んでたぞ』

『今更隠す必要ないだろw』

 

「……あら?」

 

 俺は拍子抜けした。どうやら、ここ数回の「人間離れした身体能力」の披露によって、視聴者たちは「この配信者は何らかのギミック(あるいは特異体質)を持っている」と受け入れてしまっていたらしい。

 

「あのですね、この耳と尻尾は、あくまでこれは……そう、最新鋭の脳波連動型ガジェットですのよ?ドン・キホーテで売ってますわ」

 

 苦しい言い訳をするが、その瞬間にホームランを打たれた。

 

「ぎゃあああああああ!!打たれましたわーーッ!!」

 

 俺の悲鳴に合わせて、ウマ耳がペタンと伏せられ、尻尾がだらりと垂れ下がる。自分の配信画面に映るその動きは、あまりに生物的で滑らかすぎた。

 

『ドンキの技術力すげーな(棒)』

『感情とリンクしすぎだろw』

『もう本物ってことでいいよ』

『可愛いからヨシ!』

 

 結局、俺の「ウマ耳美少女(中身おっさん)」というスタイルは、この日をもって「公然の秘密」として定着したのだった。

 

 

「逆転!ここで逆転サヨナラ勝ちですわーーッ!!」

 

 試合終了間際、奇跡が起きた。俺は歓喜のあまり立ち上がり、尻尾を全力で振り回した。

 

 バチンッ!!

 

 興奮して荒ぶった尻尾が、デスクの上の高級マイク(奮発して買ったやつ)をなぎ倒した。

 

「あっ。マイクが!」

 

 そのマイクに引っ張られてスマホが吹っ飛ぶ。ゴトッ、ブツン。配信が強制終了した。

 

「あ…………ああっ、壊れてますわーっ!?」

 

 勝利の喜びも束の間、俺は壊れたマイクを握りしめて膝から崩れ落ちた。稼いでも稼いでも、食費と機材費(と破壊活動)で金が消えていく。やはり、もっと効率よく稼がねばならない。

 

 その時、スマホに一件のメールが届いた。件名:【CM出演依頼】株式会社〇〇製菓

 

「CM……?お菓子……?」

 

 俺の目は輝いていたことだろう。なぜならそれは、高級スイーツのテレビCMへの出演依頼だったからだ。

 

 

「ごきげんよう。本日はよろしくお願いいたしますわ」

 

 都内の撮影スタジオ。俺は、純白のワンピースに身を包んでいた。クライアントは大手製菓会社。商品は、一個1,000円もする『〇イヤル・〇ッチ・プ〇ン』だ。

 

 「銀髪の悪魔」としての知名度と美貌を買われての起用らしい。

 

「マックイーンさん、今回のコンセプトは『至福のひととき』です」

 

 監督が説明する。

 

「上品な令嬢が、プリンを一口食べて、うっとりと微笑む。セリフは『とろける魔法、召し上がれ』。これでお願いします」

 

「お任せください。上品さには自信がありますの(中身はともかく)」

 

 俺は自信満々に頷いた。目の前には、照明を浴びて輝く黄金色のプリン。甘い香りが鼻腔をくすぐる。朝からこの撮影のために食事を抜いてきた俺の胃袋が、グゥと鳴った。

 

 

「よーい、スタート!」

 

 カチンコが鳴る。俺は銀のスプーンでプリンを掬った。柔らかい。そして濃厚そうだ。

 

(いただきます……!)

 

 パクッ。口に入れた瞬間、卵のコクとバニラの香りが爆発した。美味い。死ぬほど美味い。俺の脳内でドーパミンが噴出した。

 

「んん〜っ!!」

 

 俺の口角が意志とは関係なく自然と上がる。そして、無意識にスプーンを高速で動かした。

 

 パクパクパクパクッ!

 

 時間にしてわずか2秒。一口食べて微笑むはずが、一瞬で容器が空になった。

 

「……あ」

 

 空になった容器を見て、我に返る。スタジオが静まり返っていた。

 

「……カーット!!」

 

 監督が頭を抱えていた。

 

「マックイーンさん!『一口食べて微笑む』ですよ!なんで完食してるんですか!早食い選手権じゃないんですよ!?」

 

「も、申し訳ありません!あまりに美味しくて、つい……」

 

 

「テイク2!今度こそゆっくり!」

 

 パクッ。(……美味い!我慢できない!)―――完食。

 

「カットォォォ!!」

 

「テイク3!」

 

 パクッ。(……もう一口だけ!あと一口!)―――完食。

 

「カットオオオオオ!!」

 

 地獄のループが始まった。俺はどうしても「一口」で止められない。一口食べると、体の全細胞が「次をよこせ」と暴動を起こすのだ。用意されていた予備のプリン(20個)が、見る見るうちに消えていく。

 

「す、すいません……!もう一回!もう一回やらせてくださいまし!次こそは我慢しますから!」

 

 俺は必死に懇願した。

 

 だが、スタッフや監督からは完全に「もっとプリンを食わせろ」と訴えているようにしか見えないのだろう。客観的に見れば、口の周りにカラメルソースをつけた絶世の美少女が、空の容器を握りしめて懇願する姿だ。

 

 ちなみにこの時、スタッフたちは恐怖と、ある種の感動を覚えていたらしい。「こいつ、本当にプリンが好きなんだな……」と。

 

 

 予備のプリンが残り3個になった時。監督が溜息をついて言った。

 

「……わかった。もういい」

「えっ、クビですの!?」

「いや、プラン変更だ。上品に食べるのは無理だ」

 

 監督はカメラマンに指示を出した。

 

「彼女の『本能』を撮ろう。マックイーンさん、もう好きなように食べてください。ただし、最後のセリフだけは言ってね」

 

「よ、よろしいんですの!?……では、遠慮なく!」

 

 

 後日。お茶の間に流れたCMは、衝撃的なものだった。

 

 BGMは優雅なクラシック。

 

 画面には、早回しかと思うほどの速度でプリンを吸い込む銀髪の美女。

 

 その表情は、恍惚と狂気が入り混じった「ガチの幸せ顔」。次々と積み上げられる空き容器。最後に、空っぽの容器を愛おしそうに舐めながら、彼女はカメラ目線で言った。

 

「足りませんわ……」

 

(※本来のセリフ『とろける魔法、召し上がれ』はカットされた)

 

 ナレーション『あまりの美味さに、理性が溶ける。ロ〇ヤル・リッ〇・プリ〇』

 

 ―――このCMは、「嘘偽りのない食レポ」「食いっぷりが気持ちいい」と爆発的な話題を呼び、商品は即日完売した。

 

 俺のもとには、ギャラとして「プリン1年分」が送られてきたが、それを3日で食い尽くしてしまい、再び食費に悩む日々が続くのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。