※15話からについてなんですけれども、明日から1日1話更新になります。ついに正月休みと言うパラダイスが終わってしまいまして、現実と言うヤベー場所に赴かなければならなくなりました。大変申し訳ございません。個人的にはまだ正月休みヤレるんですけどね……!世間の目と言う何かが許してくれないのです……!
「……蒸しますわね」
無人島ロケから帰還した俺は、久しぶりの自宅配信を行っていた。季節は夏に差し掛かろうとしている。俺の部屋のエアコンは壊れかけで、効きが悪い。そんな中、ニット帽を目深に被り、スウェットを着ている俺。
「あーもう、ピッチャー何してますの!そこで四球(フォアボール)は命取りですわよ!」
画面の向こうでは、贔屓チームが不甲斐ない投球を続けている。イライラと蒸し暑さで、俺のストレスマッハは限界に達していた。頭が痒い。耳が窮屈だ。尻尾がスウェットの中で蒸れている。
「ええい、もう限界ですわ!!」
俺は勢いよくニット帽を引っこ抜いた。バサァッ!と銀色の長髪が広がり、押し込められていた「ウマ耳」がピンと立ち上がった。さらに、スウェットのズボンを少し下げ、尻尾を外に出す。灰色のふさふさした尻尾が、解放感に打ち震えてブンブンと回った。
「ふぅ……生き返りましたわ」
俺は一息ついてビールを飲み、コメント欄を見た。てっきり「え!?耳!?」「なんだそれ!」という驚愕のコメントで埋まると思っていた。だが、流れてきたのは意外な反応だった。
『やっと脱いだか』
『知ってた』
『無人島の時、水に濡れて耳の形くっきり出てたしな』
『バイク並走の時に帽子飛んでたぞ』
『今更隠す必要ないだろw』
「……あら?」
俺は拍子抜けした。どうやら、ここ数回の「人間離れした身体能力」の披露によって、視聴者たちは「この配信者は何らかのギミック(あるいは特異体質)を持っている」と受け入れてしまっていたらしい。
「あのですね、この耳と尻尾は、あくまでこれは……そう、最新鋭の脳波連動型ガジェットですのよ?ドン・キホーテで売ってますわ」
苦しい言い訳をするが、その瞬間にホームランを打たれた。
「ぎゃあああああああ!!打たれましたわーーッ!!」
俺の悲鳴に合わせて、ウマ耳がペタンと伏せられ、尻尾がだらりと垂れ下がる。自分の配信画面に映るその動きは、あまりに生物的で滑らかすぎた。
『ドンキの技術力すげーな(棒)』
『感情とリンクしすぎだろw』
『もう本物ってことでいいよ』
『可愛いからヨシ!』
結局、俺の「ウマ耳美少女(中身おっさん)」というスタイルは、この日をもって「公然の秘密」として定着したのだった。
■
「逆転!ここで逆転サヨナラ勝ちですわーーッ!!」
試合終了間際、奇跡が起きた。俺は歓喜のあまり立ち上がり、尻尾を全力で振り回した。
バチンッ!!
興奮して荒ぶった尻尾が、デスクの上の高級マイク(奮発して買ったやつ)をなぎ倒した。
「あっ。マイクが!」
そのマイクに引っ張られてスマホが吹っ飛ぶ。ゴトッ、ブツン。配信が強制終了した。
「あ…………ああっ、壊れてますわーっ!?」
勝利の喜びも束の間、俺は壊れたマイクを握りしめて膝から崩れ落ちた。稼いでも稼いでも、食費と機材費(と破壊活動)で金が消えていく。やはり、もっと効率よく稼がねばならない。
その時、スマホに一件のメールが届いた。件名:【CM出演依頼】株式会社〇〇製菓
「CM……?お菓子……?」
俺の目は輝いていたことだろう。なぜならそれは、高級スイーツのテレビCMへの出演依頼だったからだ。
■
「ごきげんよう。本日はよろしくお願いいたしますわ」
都内の撮影スタジオ。俺は、純白のワンピースに身を包んでいた。クライアントは大手製菓会社。商品は、一個1,000円もする『〇イヤル・〇ッチ・プ〇ン』だ。
「銀髪の悪魔」としての知名度と美貌を買われての起用らしい。
「マックイーンさん、今回のコンセプトは『至福のひととき』です」
監督が説明する。
「上品な令嬢が、プリンを一口食べて、うっとりと微笑む。セリフは『とろける魔法、召し上がれ』。これでお願いします」
「お任せください。上品さには自信がありますの(中身はともかく)」
俺は自信満々に頷いた。目の前には、照明を浴びて輝く黄金色のプリン。甘い香りが鼻腔をくすぐる。朝からこの撮影のために食事を抜いてきた俺の胃袋が、グゥと鳴った。
■
「よーい、スタート!」
カチンコが鳴る。俺は銀のスプーンでプリンを掬った。柔らかい。そして濃厚そうだ。
(いただきます……!)
パクッ。口に入れた瞬間、卵のコクとバニラの香りが爆発した。美味い。死ぬほど美味い。俺の脳内でドーパミンが噴出した。
「んん〜っ!!」
俺の口角が意志とは関係なく自然と上がる。そして、無意識にスプーンを高速で動かした。
パクパクパクパクッ!
時間にしてわずか2秒。一口食べて微笑むはずが、一瞬で容器が空になった。
「……あ」
空になった容器を見て、我に返る。スタジオが静まり返っていた。
「……カーット!!」
監督が頭を抱えていた。
「マックイーンさん!『一口食べて微笑む』ですよ!なんで完食してるんですか!早食い選手権じゃないんですよ!?」
「も、申し訳ありません!あまりに美味しくて、つい……」
■
「テイク2!今度こそゆっくり!」
パクッ。(……美味い!我慢できない!)―――完食。
「カットォォォ!!」
「テイク3!」
パクッ。(……もう一口だけ!あと一口!)―――完食。
「カットオオオオオ!!」
地獄のループが始まった。俺はどうしても「一口」で止められない。一口食べると、体の全細胞が「次をよこせ」と暴動を起こすのだ。用意されていた予備のプリン(20個)が、見る見るうちに消えていく。
「す、すいません……!もう一回!もう一回やらせてくださいまし!次こそは我慢しますから!」
俺は必死に懇願した。
だが、スタッフや監督からは完全に「もっとプリンを食わせろ」と訴えているようにしか見えないのだろう。客観的に見れば、口の周りにカラメルソースをつけた絶世の美少女が、空の容器を握りしめて懇願する姿だ。
ちなみにこの時、スタッフたちは恐怖と、ある種の感動を覚えていたらしい。「こいつ、本当にプリンが好きなんだな……」と。
■
予備のプリンが残り3個になった時。監督が溜息をついて言った。
「……わかった。もういい」
「えっ、クビですの!?」
「いや、プラン変更だ。上品に食べるのは無理だ」
監督はカメラマンに指示を出した。
「彼女の『本能』を撮ろう。マックイーンさん、もう好きなように食べてください。ただし、最後のセリフだけは言ってね」
「よ、よろしいんですの!?……では、遠慮なく!」
■
後日。お茶の間に流れたCMは、衝撃的なものだった。
BGMは優雅なクラシック。
画面には、早回しかと思うほどの速度でプリンを吸い込む銀髪の美女。
その表情は、恍惚と狂気が入り混じった「ガチの幸せ顔」。次々と積み上げられる空き容器。最後に、空っぽの容器を愛おしそうに舐めながら、彼女はカメラ目線で言った。
「足りませんわ……」
(※本来のセリフ『とろける魔法、召し上がれ』はカットされた)
ナレーション『あまりの美味さに、理性が溶ける。ロ〇ヤル・リッ〇・プリ〇』
―――このCMは、「嘘偽りのない食レポ」「食いっぷりが気持ちいい」と爆発的な話題を呼び、商品は即日完売した。
俺のもとには、ギャラとして「プリン1年分」が送られてきたが、それを3日で食い尽くしてしまい、再び食費に悩む日々が続くのだった。