メジロマックイーンになりまして。   作:灯火011

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15 招待状と、知りすぎている妹

「あら、お母様から荷物ですわ」

 

 アパートのチャイムが鳴り、段ボールが届いた。差出人は実家の母だ。俺がこの体になってから電話の連絡は取れていないが、お節介焼きな母の性格上、こうして定期的に「お米」や「野菜」が送られてくるのだ。

 

「ありがたいですわね……お米30キロ。今の私には一週間分の燃料にしかなりませんが」

 

 段ボールを開封すると、その一番上に一通の封筒が入っていた。

 

『〇〇中学校 第XX期 同窓会のお知らせ』

 

「……!なつかしい……」

 

 手が止まった。中学時代。悪友たちとバカやっていた、あの頃。幹事の名前は「田中」。俺の親友だ。

 

 行きたい。無性に行きたい。

 

 だが、今の俺は誰がどう見ても中年のおっさん「佐藤(38)」ではない。「メジロマックイーン(見た目10代後半)」だ。

 

 普通に行けば不審者。いや、今の知名度を考えると、「なんでコスプレYou〇uberのマックイーンがいるの?」とパニックになる。

 

「……待てよ?」

 

 俺は鏡を見た。銀髪の美少女。どう見ても佐藤ではない。だが、もしかしたら、「佐藤の血縁者」と言い張れば通じるかもしれない。

 

「そうですわ……。『兄は急な仕事で来られませんが、会費とご挨拶だけでもと頼まれましたの』。これですわ!」

 

 俺はニヤリと笑った。中身はおっさんのまま、悪友たちをからかってやる絶好のチャンスだ。

 

 

 同窓会当日。

 

 会場は、地元駅前の居酒屋チェーン店「魚〇」。スーツやカジュアルな服装の、小太りになりかけた30代男性たちが集まっていた。

 

「おい佐藤のやつ遅いなー」

「あいつ最近連絡つかねえんだよ」

「仕事で海外にでも飛ばされたか?」

 

 田中たちが話しているところへ、メジロマックイーンは扉を開けて入っていった。服装は、少し余所行きの上品なワンピース(プリンの撮影時に頂いた物)だ。

 

「ごめんください。……佐藤の席はどちらかしら?」

 

 店内が静まり返った。銀髪、紫の瞳、そして隠しきれない気品と、物理的に隠していないウマ耳。男たちの視線が釘付けになる。

 

「えっ……き、君は?」

 

 幹事の田中がどもりながら尋ね、彼女は優雅にお辞儀をした。

 

「ごきげんよう。わたくし、佐藤の妹の……マックイーンと申しますわ」

 

「「「い、妹ぉォォォォォッ!?」」」

 

 男たちの悲鳴が上がった。

 

「嘘だろ!?佐藤にあんな美人の妹いたのかよ!?」

「しかも、あれだろ?ネットで有名な……」

「お前、佐藤の妹だったのかよ!!」

 

 

「兄はあいにく、遠方の現場……いえ、仕事で来られませんの。代わりにご挨拶に伺いましたわ」

 

 そう言って、俺はちゃっかり佐藤の席に座った。

 

「ま、まあ座ってよ!妹さん!あ、でも、未成年……?」

「大丈夫ですわ。これでも、成人しておりますの」

「あ、そ、そうなんだ!」

 

 田中が緊張しながらビールを注ごうとする。俺はグラスを差し出しながら、自然な口調で言った。

 

「ありがとう田中ちゃん。……あんた、また少し太ったんじゃなくて?」

 

「えっ」

 

 田中が固まった。

 

「田中ちゃんなんて呼ぶのは、身内か佐藤くらいだぞ?え、妹ちゃん、俺の事佐藤から聞いてんの?」

「ええ、それはもちろん。それに鈴木くん。あんた、まだあの変な柄のシャツ着てますの?中学の修学旅行で買った『龍』の刺繍のやつ」

「ブッ!!」

 

 鈴木がビールを吹き出した。

 

「な、なんで妹さんが俺のパジャマ事情を知ってんだよ!?」

 

 俺は上品に笑って誤魔化した。

 

「兄から聞いてますのよ。兄は毎晩のように、あなた達の話をしてましたから」

 

 

 酒が進むにつれ、俺の舌も滑らかになってきた。テーブルには唐揚げ、ポテト、枝豆が山のように積まれているが、俺が会話しながら掃除機のように吸い込んでいるため、常に皿は空だ。

 

「そういえば、兄から伺ったんですが……昔の部室の話なんですけど」

 

 俺は唐揚げを頬張りながら切り出した。

 

「サッカー部の部室の天井裏。……まだ『あの本』、隠してありますの?」

 

 その瞬間、同級生男子全員の顔面が蒼白になった。それは、中学時代に男子全員で共有していた、禁断の秘宝(エロ本)の隠し場所だ。卒業時に回収し忘れて、そのまま伝説となった場所であり、全員が墓場まで持っていくと決めた話。

 

「な、ななな、なんで妹さんがその場所をォォォ!?」

「佐藤ォォォォッ!!妹に何を吹き込んでやがるんだあいつはーーッ!!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図。俺はケラケラと笑った。

 

「兄が言ってましたわ。『あそこのグラビアの飯島さんが最高だった』と」

「銘柄まで知ってるーッ!!」

 

 

 宴もたけなわ。

 

 みんな最初は「美少女YouTuber」として緊張していたが、俺のあまりにフランクな、というかオヤジ臭い態度と、的確すぎるツッコミに、次第に違和感を抱き始めていたようで。

 

「おい妹ちゃん、次何飲む?」

「芋焼酎のロックで。濃いめで頼みますわ」

「渋いな!」

「あ、この漬物美味いですわね。ご飯欲しくなりますわ」

「食うねぇ……」

 

 そして、誰かが流したBGMに合わせて、俺が無意識にエアギターをした時だった。その指の動き。リズムの取り方。そして、酔っ払った俺がつい口走った言葉。

 

「あー、腰が痛い……じゃなくて、肩が凝りますわね」

 

 田中が、真剣な顔で俺を見た。

 

「……なぁ、妹ちゃん」

「なんですの?」

「お前……本当に妹か?」

 

 ドキリとした。バレたか?田中は俺の目をじっと見て、震える声で言った。

 

「その、枝豆の食い方……。皮から豆を出す時の『プッ』て飛ばす癖……。あと、笑う時に膝を叩く癖……」

 

 田中はゴクリと唾を飲んだ。

 

「お前……ひょっとして……佐藤の……」

 

 俺は身構えた。

 

「隠し子か?」

「ズコーーーッ!!」

 

 俺は盛大に椅子から転げ落ちた。全員が総ツッコミを入れる。

 

「なんでそうなるんだよ!!」

「いや、だって妹でこれってさあ!あまりにも癖が一緒だしよお!?」

 

 

 危ないところだった。これれ以上ボロが出ると、本当に「中身が佐藤」だとバレてしまいそうだ。少しだけ焦りながら、俺は立ち上がった。

 

「そ、そろそろお暇しますわ!兄も待っていますので!」

「えっ、もう帰るのかよ?」

「もっと聞かせろよ、佐藤の話!」

 

 名残惜しそうな友人たち。俺は会計(会費の3倍は食べたので、少し多めに置いておく)を済ませ、出口へ向かった。最後に振り返り、親指を立ててウインクした。

 

「皆様、お元気で。……また、いつか飲みましょうね」

 

 その笑顔と仕草。酒に酔っていた俺はこの時、気づかなかった。これは間違いなく、38歳のおっさん・佐藤が、別れ際に見せるいつものポーズ。友人たちは、俺を、呆然と見送った。

 

「……似てる」

「似すぎだろ」

「ていうか、あんな可愛い妹がいるなら紹介しろよ佐藤!!」

 

 騒がしい声を聴きながら、店を出た俺は、夜風に吹かれながら、少しだけ泣いた。いつか、また、俺もあの輪の中に戻れるだろうか?それとも。

 

「……楽しかったわ。バカ野郎ども。またお会いしましょう」

 

 そして翌日。

 

『佐藤の妹が美人すぎる件』と『佐藤の妹に黒歴史を握られている件』で、同級生のLINEグループが炎上していることを、俺は知る由もなかった。

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