「ごきげんよう、皆様。……本日は、少し趣向を変えて、こちらのメニューをご用意いたしましたわ」
いつものアパートの一室。
背景には、先日実家から持ち帰った母の手作り梅干しの瓶と、SA〇UKEのトロフィーが雑多に置かれている。
画面の中央に鎮座する銀髪の美少女・マックイーン。
その目の前には、テーブルを埋め尽くさんばかりの「ホットドッグの山」が築かれていた。
『うわぁ……』
『山だ』
『コス〇コかな?』
『何個あるのこれ?』
俺はニッコリと微笑み、手元のストロング缶(ロング)をプシュッと開けた。
「自家製ホットドッグ、50本ですわ。スーパーでパンとソーセージを買い占めてきましたの。……最近、少し体が重いので、ヘルシーにパンで済まそうかと思いまして」
『ヘルシーとは』
『パン50個は炭水化物の暴力』
『ソーセージの脂質計算してみ?』
『今日も絶好調だなw』
『流石銀髪の悪魔』
「では、乾杯!……いただく前に、まずはケチャップとマスタードの『儀式』を執り行います」
俺は業務用の巨大なケチャップとマスタードのボトルを両手に持った。そして、我ながら熟練の職人のような手つきで、50本のホットドッグ全てに、目にも留まらぬ速さで美しい波線を描いていく。
「……ふぅ、完璧な塗装(コーティング)ですわ」
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「では、いただきますわ!」
一本目を手に取る。大口を開けて、ガブリ。パンの柔らかさと、ソーセージのパリッとした食感。肉汁が溢れる。
実に美味い。ジャンクな味が、疲れたおっさんの心(とウマ娘の体)に染み渡る。
「んん〜っ!このチープな味がたまりませんわ!お酒が進みますのよ!」
一本目を3口で完食。間髪入れずに二本目へ。俺の食事スタイルは、ウマ娘になってからというもの「味わう」と「詰め込む」が同居している。配信画面に映る、モグモグと動く口元はリスのように可愛いが、その嚥下速度はダイ〇ンだ。
『早い早いww』
『え?本当に食ってる?消えてんだけど』
『わんこそばかよ』
『飲み物?』
『咀嚼音すらASMRになってて心地いいのが腹立つw』
5分経過。すでに10本が消滅していた。俺はペースを落とさない。むしろ加速している。
「皆様、ホットドッグというのは飲み物ではありませんけれど、喉越しを楽しむものですのよ。……あ、マヨネーズ追加しますわね」
カロリーにカロリーを上乗せする「追いマヨ」。俺にとってマヨネーズは潤滑油だ。
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20本目に突入したあたりで、俺は雑談を始めた。
「そういえば、昨日のメジャーリーグ見まして?〇谷選手、また打ちましたわね」
パクッ、ムグムグ。
「あの方の肉体改造、素晴らしいですわ。やはりプロは食トレが基本。……私も負けていられませんわね(22本目完食)」
『張り合うなw』
『お前がメジャーに行け』
『始球式で163キロ投げた奴が言うと説得力が違う』
『気になってんだけどさぁ、マックちゃんが全力で打ったらどこまで飛ぶんだろうね?』
「わたくしの感覚ですと、ミートの瞬間にボールがはじけ飛ぶと思いますわ。……あー、でも向こうの球場飯、食べてみたいですわねぇ。巨大なピザとか、バケツに入ったポップコーンとか……。憧れますわ(25本目完食)」
俺の脳内は、メジャーの試合内容よりも、観客席で売られているジャンクフードのことでいっぱいだった。憧れのアメリカ。自由の国。そして、メガ盛りの国。
「いつか行ってみたいものですわ。……自由の女神の前で、ビッグマックを食べるのが夢ですの(30本目完食)」
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30本を超えたあたりから、視聴者がざわつき始めた。
『なぁ、お嬢の喰うペース落ちなくね?』
『普通、味に飽きたり顎が疲れたりするだろ』
『汗一つかいてないぞ』
『銀髪の悪魔の本領発揮』
この時の俺は「ゾーン」に入っていた。満腹中枢?そんなものは母の胎内に忘れてきた。目の前のホットドッグが、ただのエネルギーの塊に見える。機械的に、しかし優雅に、口へと運び続ける。
右手がパンを掴み、左手がストロング缶を煽る。永久機関の完成だ。
「……ふぅ。残り10本ですわね。味変で、デスソースをかけさせていただきます」
『え?正気か!?』
『いや、味変とかそういうレベルじゃねーのよ。量だよ量』
『味覚どうなってんだ』
『激辛ドッグw』
真っ赤なソースをドバドバとかける。
「辛っ!……でも、この刺激が食欲をリブートさせますわーッ!!」
カッとなった体温で、少し汗ばむ銀髪。頬が上気する。配信画面に映るのは、美少女の俺が、上気している姿だった。
はたから見れば色っぽい光景だが、やってることは激辛早食いだ。色気も糞もない。
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開始から45分。最後のパン屑を指で拾い、ペロリと舐め取った。
「ごちそうさまでしたわ!!」
テーブルの上には、空っぽのトレイと、空き缶の山。俺は膨れた腹をポンと叩いた。
「いやぁ、満足ですわ。……と言いたいところですが、デザートにパフェ5食分くらいは入りそうですわね」
『化け物め』
『フードファイター超えてるよ』
『世界レベルだろこれ』
『見てて気持ちよかった ¥10,000』
スパチャが飛び交う中、俺は締めの挨拶に入ろうとした。その時。配信画面の端に、通知がポップアップした。
普段なら無視するが、そのメールの件名が、あまりに異質で目に入ってしまった。
『件名:Invitation from N.Y. (Nathan's 〇amous)』
「……え?」
英語?迷惑メールか?俺は不審に思いながらも、クリックしてしまった。画面共有は切っているが、俺の表情が固まるのを視聴者は見ていた。
「えーと……なんだこれ。英語は苦手なんですけど……」
俺はたどたどしく読み上げた。
「ディア、ミス・マックイーン。……ウィー・アー……ネイ〇ンズ……えーと、インターナショナル・ホットドッグ・イーティング・コンテスト……?」
俺の中の「おっさん知識」が検索をかけた。〇イサンズ。ホットドッグ。コンテスト。……まさか。
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!これ、あの毎年7月4日にニューヨークでやってる、世界最強のフードファイターを決める大会じゃありませんこと!?」
『マジかよwww』
『ネ〇サンズから直オファー!?』
『すげええええええ!!』
『日本の恥(褒め言葉)が世界へ!』
メールには続きがあった。
(以下、意訳)
『あなたの動画を見ました。美しい。そしてクレイジーだ。ぜひ、7月4日、コニーアイランドのステージに立ってほしい。旅費と滞在費、そして山ほどのホットドッグは我々が負担します』
「り、旅費負担……!?」
これはデカい。本当にデカい。タダでアメリカに行ける。タダでホットドッグが食える。そして、優勝してもし賞金が出れば……。
「行きます……」
俺はカメラに向かって、今日一番のキメ顔、よく見れば口の端にケチャップがついている、で宣言した。
「行きますわよニューヨーク!!自由の女神に、メジロの食い意地を見せつけてやりますわーーッ!!」
『全米が泣くぞ(物理)』
『黒船来航ならぬ、ブラックホール来襲』
『伝説の幕開けだな!』
こうして、片田舎の隅でくすぶっていた(?)銀髪の悪魔は、ついに太平洋を越えることになった。目指すは世界一の称号。そして、食い放題だ。