メジロマックイーンになりまして。   作:灯火011

21 / 32
19 配信部屋のブラックホールと、海を越えた招待状

「ごきげんよう、皆様。……本日は、少し趣向を変えて、こちらのメニューをご用意いたしましたわ」

 

 いつものアパートの一室。

 

 背景には、先日実家から持ち帰った母の手作り梅干しの瓶と、SA〇UKEのトロフィーが雑多に置かれている。

 

 画面の中央に鎮座する銀髪の美少女・マックイーン。

 

 その目の前には、テーブルを埋め尽くさんばかりの「ホットドッグの山」が築かれていた。

 

『うわぁ……』

『山だ』

『コス〇コかな?』

『何個あるのこれ?』

 

 俺はニッコリと微笑み、手元のストロング缶(ロング)をプシュッと開けた。

 

「自家製ホットドッグ、50本ですわ。スーパーでパンとソーセージを買い占めてきましたの。……最近、少し体が重いので、ヘルシーにパンで済まそうかと思いまして」

 

『ヘルシーとは』

『パン50個は炭水化物の暴力』

『ソーセージの脂質計算してみ?』

『今日も絶好調だなw』

『流石銀髪の悪魔』

 

「では、乾杯!……いただく前に、まずはケチャップとマスタードの『儀式』を執り行います」

 

 俺は業務用の巨大なケチャップとマスタードのボトルを両手に持った。そして、我ながら熟練の職人のような手つきで、50本のホットドッグ全てに、目にも留まらぬ速さで美しい波線を描いていく。

 

「……ふぅ、完璧な塗装(コーティング)ですわ」

 

 

「では、いただきますわ!」

 

 一本目を手に取る。大口を開けて、ガブリ。パンの柔らかさと、ソーセージのパリッとした食感。肉汁が溢れる。

 実に美味い。ジャンクな味が、疲れたおっさんの心(とウマ娘の体)に染み渡る。

 

「んん〜っ!このチープな味がたまりませんわ!お酒が進みますのよ!」

 

 一本目を3口で完食。間髪入れずに二本目へ。俺の食事スタイルは、ウマ娘になってからというもの「味わう」と「詰め込む」が同居している。配信画面に映る、モグモグと動く口元はリスのように可愛いが、その嚥下速度はダイ〇ンだ。

 

『早い早いww』

『え?本当に食ってる?消えてんだけど』

『わんこそばかよ』

『飲み物?』

『咀嚼音すらASMRになってて心地いいのが腹立つw』

 

 5分経過。すでに10本が消滅していた。俺はペースを落とさない。むしろ加速している。

 

「皆様、ホットドッグというのは飲み物ではありませんけれど、喉越しを楽しむものですのよ。……あ、マヨネーズ追加しますわね」

 

 カロリーにカロリーを上乗せする「追いマヨ」。俺にとってマヨネーズは潤滑油だ。

 

 

 20本目に突入したあたりで、俺は雑談を始めた。

 

「そういえば、昨日のメジャーリーグ見まして?〇谷選手、また打ちましたわね」

 

 パクッ、ムグムグ。

 

「あの方の肉体改造、素晴らしいですわ。やはりプロは食トレが基本。……私も負けていられませんわね(22本目完食)」

 

『張り合うなw』

『お前がメジャーに行け』

『始球式で163キロ投げた奴が言うと説得力が違う』

『気になってんだけどさぁ、マックちゃんが全力で打ったらどこまで飛ぶんだろうね?』

 

「わたくしの感覚ですと、ミートの瞬間にボールがはじけ飛ぶと思いますわ。……あー、でも向こうの球場飯、食べてみたいですわねぇ。巨大なピザとか、バケツに入ったポップコーンとか……。憧れますわ(25本目完食)」

 

 俺の脳内は、メジャーの試合内容よりも、観客席で売られているジャンクフードのことでいっぱいだった。憧れのアメリカ。自由の国。そして、メガ盛りの国。

 

「いつか行ってみたいものですわ。……自由の女神の前で、ビッグマックを食べるのが夢ですの(30本目完食)」

 

 

 30本を超えたあたりから、視聴者がざわつき始めた。

 

『なぁ、お嬢の喰うペース落ちなくね?』

『普通、味に飽きたり顎が疲れたりするだろ』

『汗一つかいてないぞ』

『銀髪の悪魔の本領発揮』

 

 この時の俺は「ゾーン」に入っていた。満腹中枢?そんなものは母の胎内に忘れてきた。目の前のホットドッグが、ただのエネルギーの塊に見える。機械的に、しかし優雅に、口へと運び続ける。

 

 右手がパンを掴み、左手がストロング缶を煽る。永久機関の完成だ。

 

「……ふぅ。残り10本ですわね。味変で、デスソースをかけさせていただきます」

 

『え?正気か!?』

『いや、味変とかそういうレベルじゃねーのよ。量だよ量』

『味覚どうなってんだ』

『激辛ドッグw』

 

 真っ赤なソースをドバドバとかける。

 

「辛っ!……でも、この刺激が食欲をリブートさせますわーッ!!」

 

 カッとなった体温で、少し汗ばむ銀髪。頬が上気する。配信画面に映るのは、美少女の俺が、上気している姿だった。

 

 はたから見れば色っぽい光景だが、やってることは激辛早食いだ。色気も糞もない。

 

 

 開始から45分。最後のパン屑を指で拾い、ペロリと舐め取った。

 

「ごちそうさまでしたわ!!」

 

 テーブルの上には、空っぽのトレイと、空き缶の山。俺は膨れた腹をポンと叩いた。

 

「いやぁ、満足ですわ。……と言いたいところですが、デザートにパフェ5食分くらいは入りそうですわね」

 

『化け物め』

『フードファイター超えてるよ』

『世界レベルだろこれ』

『見てて気持ちよかった ¥10,000』

 

 スパチャが飛び交う中、俺は締めの挨拶に入ろうとした。その時。配信画面の端に、通知がポップアップした。

 

 普段なら無視するが、そのメールの件名が、あまりに異質で目に入ってしまった。

 

『件名:Invitation from N.Y. (Nathan's 〇amous)』

 

「……え?」

 

 英語?迷惑メールか?俺は不審に思いながらも、クリックしてしまった。画面共有は切っているが、俺の表情が固まるのを視聴者は見ていた。

 

「えーと……なんだこれ。英語は苦手なんですけど……」

 

 俺はたどたどしく読み上げた。

 

「ディア、ミス・マックイーン。……ウィー・アー……ネイ〇ンズ……えーと、インターナショナル・ホットドッグ・イーティング・コンテスト……?」

 

 俺の中の「おっさん知識」が検索をかけた。〇イサンズ。ホットドッグ。コンテスト。……まさか。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!これ、あの毎年7月4日にニューヨークでやってる、世界最強のフードファイターを決める大会じゃありませんこと!?」

 

『マジかよwww』

『ネ〇サンズから直オファー!?』

『すげええええええ!!』

『日本の恥(褒め言葉)が世界へ!』

 

 メールには続きがあった。

 

(以下、意訳)

『あなたの動画を見ました。美しい。そしてクレイジーだ。ぜひ、7月4日、コニーアイランドのステージに立ってほしい。旅費と滞在費、そして山ほどのホットドッグは我々が負担します』

 

「り、旅費負担……!?」

 

 これはデカい。本当にデカい。タダでアメリカに行ける。タダでホットドッグが食える。そして、優勝してもし賞金が出れば……。

 

「行きます……」

 

 俺はカメラに向かって、今日一番のキメ顔、よく見れば口の端にケチャップがついている、で宣言した。

 

「行きますわよニューヨーク!!自由の女神に、メジロの食い意地を見せつけてやりますわーーッ!!」

 

『全米が泣くぞ(物理)』

『黒船来航ならぬ、ブラックホール来襲』

『伝説の幕開けだな!』

 

 こうして、片田舎の隅でくすぶっていた(?)銀髪の悪魔は、ついに太平洋を越えることになった。目指すは世界一の称号。そして、食い放題だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。