メジロマックイーンになりまして。   作:灯火011

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21 凱旋パレード、そして健康診断へ

「ふあぁ……。ごきげんよう、皆様」

 

 NYからの帰国翌日。俺は自宅のアパートで、気だるげに配信を開始した。時差ボケが抜けない。体が重い。

 

 テーブルには、空港で買ったマカダミアナッツチョコレート(アメリカンな業務用パック)が、すでに空になって転がっている。この体の消費カロリーは相変わらずだ。

 

『お帰りー!』

『世界王者!』

『お疲れ様!ゆっくり休んで』

『でも何か食ってるw』

 

「ええ、無事に帰還しましたわ。……でも、日本の空気は美味しいですけれど、お腹にはたまりませんのよ」

 

 俺はあくびを噛み殺しながら、冷蔵庫から取り出した「徳用ウインナー」を袋ごとバリバリと食べていた。

 アメリカでホットドッグを90本食べたのに、体はまだウインナーを欲している。我がワガママボディが塩分と脂質を求めているのだ。いやほんと、食っても食っても腹が減る。

 

「あー……焼きたてのコロッケとか、メンチカツとか、あと醤油の染みた焼きおにぎりとか……そういう『茶色い正義』が恋しいですわ……」

 

 そんな愚痴をこぼしていた時だった。コメント欄に、ひときわ目立つ「スパチャ(赤)」が投下される。

 

『¥50,000』

『投稿者:〇〇銀座商店街・振興組合』

『メッセージ:マックイーンさん、ホットドッグ早食い、世界優勝おめでとうございます!実は、いつも当店(精肉店)のメンチカツを買っていただいていること、存じておりました。商店街一同、貴方の凱旋を祝いたくてウズウズしています。もし良ければ、今から食べに来ませんか?全店総出で「振る舞い飯」を用意して待っています!もちろん、タダです!』

 

 手が止まった。ついでに、ウインナーを咀嚼する口も止まった。

 

「……えっ?」

 

 商店街?いつも買い物している?ああ!あそこか。いつも半額シールを狙って徘徊している、近所の商店街。

 

 バレていたのか。いや、あんな頻度で行けばバレるか。だが、そんなことよりも重要なのはコメント後半。

 

『全店総出』『振る舞い飯』『タダ』。

 

 脳内で、お祭り開始のファンファーレが鳴り響く。え?本気?行っていいのコレ?

 

「……あの、商店街の方々。本気ですの?」

『もちろん本気ですよ!既に準備は整ってます!このまま配信をつないだまま是非いらしてください!」

「……行きます。行かせて頂きますわー!」

 

 俺は即座にジャージの上着を羽織った。そして、手早くスマホを自撮り棒にセットする。

 

「皆様!急遽予定変更ですわ!これより『凱旋パレード』ならぬ『凱旋イート』を行います!……商店街の皆様、在庫の確保はよろしくて?私、手加減できませんわよ?」

『ドンと来い!下町の商店街の底力、見せてやりますよ!』

 

 

 アパートから徒歩10分。スマホ片手に商店街の入り口に立った俺は、絶句した。

 

「……なんですのこれは!?」

 

 普段はのどかなシャッター通りも混じる商店街が、今日は年末のアメ横のような熱気に包まれていた。入り口には巨大な横断幕。

 

()! ()()()() ()()()()()()()()()() ()()!』

 

 そして、沿道には法被を着たおっちゃんやおばちゃん、そして近所の子供たちが鈴なりになっていた。

 

「来たぞー!!」

「マックイーーーン!!」

「チャンピオンだー!!」

 

 俺が足を踏み入れた瞬間、クラッカーが鳴り響き、紙吹雪が舞った。アイドルのコンサートか?いや、ここは八百屋の前だ。

 

 

「お嬢ちゃん!待ってたよ!」

 

 最初に声をかけてきたのは、スパチャをくれた精肉店の親父さんだ。店の前には、長机が置かれ、山盛りの揚げ物が並んでいる。

 

「優勝祝いだ!うちの自慢の『特製メンチカツ』100個!揚げたてだぞ!」

「100個……!?」

 

 視聴者がどよめく。

 

『いきなりラスボス級』

『100個は無理だろw』

『脂質の暴力』

 

 だが、俺としてはこのぐらい朝飯前だ。むしろ早く食いたい。と、いうことで!

 

「素晴らしい香りですわ……!では、遠慮なく!」

 

 俺は片手にスマホ、片手にメンチカツのスタイルで齧り付く。サクッ。ジュワッ。熱々の肉汁が口いっぱいに広がる。具はシンプルに合いびき肉、玉ねぎ、人参といったところだろうか?それに加えて強めにコショウと、スパイスが効いている。これは実に、実に!

 

「んん〜っ!!美味しいですわ!これですわ!NYのステーキもいいですが、日本の揚げ物は衣が違いますのよ!」

 

 パクパクパクパクッ!俺は歩きながら、スナック菓子のようにメンチカツを吸い込んでいく。親父さんが「えっ、もう無くなる!?」と焦って追加を揚げ始めた。

 

「親父さん、コロッケも追加で!あと、そこの唐揚げもいただきますわ!」

「お、おお!?ええい!二言は無しだ!うちの在庫全部食ってけぇ!!」

 

 そうして、俺が通り過ぎた後には、空っぽのバットと、放心状態の店主だけが残された。商店街・完全制覇への号砲が鳴った瞬間だった。

 

 

 精肉店を突破した俺を待ち受けていたのは、炭水化物の波状攻撃だった。

 

「マックイーンちゃん!うちのパンも食べてって!」

 

 パン屋のおばちゃんが、焼きたてのカレーパンとメロンパンをトレーごと差し出してくる。

 

「甘いとしょっぱいの無限ループ……罪な組み合わせですわね!」

「そうだろそうだろ!?カレーも特製だよ!こっちがビーフ、こっちがポーク!」

「どっちもすっごく美味しいですわー!」

 

 俺はカレーパンを一口で、メロンパンを二口で平らげた。まだまだ腹はすいている。余裕余裕。

 

 次は蕎麦屋だ。

 

「祝いの『えび天そば』だ!丼ごといくかい?」

「出汁の香りがたまりませんわ!いただきます!」

 

 ズズズズッ!ウマ娘の吸引力で、蕎麦が一瞬で消える。

 

「ぷはーっ!おかわり!」

「えっ、もう!?かーっ!いい喰いっぷりだ!海老天2本追加してやらぁ!」

「ありがとうございます!最高ですわー!」

 

 

 商店街の中腹。鮮魚店。ここでは、大将が本気を出していた。

 

「NYで肉ばっか食ってただろう!今日はこれだあ!大食いのマックイーンちゃんのために特注したんだぜえ!」

 

 ドンッ!大将の良い声と共に店先に置かれたのは、マグロの解体ショーで使うような大皿に盛られた『刺身の舟盛り(戦艦サイズ)』。

 

『うおおおおお!』

『豪華すぎる』

『これタダでいいの!?』

『商店街の本気を見た』

 

 コメントは大盛り上がり。もちろん、俺の目も釘付けになった。大トロ、中トロ、赤身、タイ、ハマチ、イカ、イクラ……。これはまさにお魚の宝石箱だ。

 

「……美しい。手を付けるのが惜しいくらいですわ……」

 

 そう言いながら、俺の意識と関係なく、俺の手はすでに箸を割っていた。

 

「でも、鮮度が命ですものね。……参ります!」

 

 醤油をちょっとつけ、口へ運ぶ。白米? んなもんはいらない。魚屋の刺身だぞ? それだけで腹を満たすっていうのはとてつもない贅沢だ。

 

 正直言えば酒が欲しいところだが、今日は外で配信中だ。へべれけになったら駄目だ。仕方ないので、お茶で我慢する。ということで早速中トロを……!?

 

「大将!この中トロ、とろけますわ〜!まるで濃厚な旨味の飲み物ですわね!」

「だろぉ!?……って、もう半分ねえのかよ!?」

 

 10分後。

 

 戦艦大和級の舟盛りは、ツマ(大根)一本残さず轟沈した。大将は額の汗を拭いながら、清々しい顔で笑っていた。

 

「完敗だ……。気持ちいい食いっぷりだったぜ……」

 

 

「お口直しにフルーツはいかがかね!」

 

 八百屋では、高級メロンとシャインマスカットが待っていた。

 

「シャイマスカット!好きなんですわー!皮ごといただきますわ!」

「喰いな喰いな!山梨の最高級品だよ!でっかいだろう!」

「ええ、とても!ん~~~~~!甘くて最高ですわー!」

 

 バリボリ。甘みが広がり、爽やかな香りが鼻を抜けていく。メロンも皮のギリギリまでスプーンでえぐり取り、気づけば箱が空っぽだ。

 

 そして続く和菓子屋では、温泉まんじゅうと練り切りのタワー。

 

「日本茶が合いますわね〜」

 

 パクパクと一口サイズのお菓子を放り込む。……にしても、俺の胃袋には「満腹」という概念がないのか?食っても食ってもまだ入る。

 ……いや、遠くの方に満腹感は居る。けれど、目の前のおいしさにマヒしているだけだこれ。

 

■ 

 

 そして、開始から2時間。

 マックイーンは商店街の端から端まで、全20店舗を「完食」して歩いた。中華屋のチャーハン、喫茶店のナポリタン、豆腐屋の豆乳ドーナツ……。

 

 全てが彼女の胃袋に収まった。

 

 ゴールのアーケード出口。そこには、各店舗の店主たちが集まっていた。皆、在庫が空っぽになり、商売あがったりのはずだ。だが、その表情は全員「笑顔」だった。

 

「マックイーンちゃん!完食おめでとう!」

「いやぁ、すごかった!」

「まさか、一週間分の仕込みが今日だけで消えるとはな!」

「見ててスカッとしたよ!」

 

 組合長(精肉店の親父)が、彼女に花束を渡してくれた。

 

「俺たちの負けだ。……でも、こんなに綺麗に食べてくれて、作り手冥利に尽きるよ。ありがとうな」

 

 彼女は花束を抱え、パンパンに膨らんだ腹をさすりながら、深々とお辞儀をした。

 

「こちらこそ、最高のおもてなしでしたわ!どのお店も、世界一の味でした!……また、買いに来ますわね(半額の時に)」

 

『いい話だ』

『商店街のみんな優しい』

『これが平和な世界か』

『なお商店街の食料自給率はゼロになった模様』

 

 こうして、彼女の凱旋パレードは、商店街を物理的に「食い尽くす」という形で幕を閉じた。後日、この配信の切り抜き動画が宣伝となり、この商店街は「聖地巡礼」のファンで賑わうことになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 ―――それから数日後。

 

 俺は都内の某・大学病院の待合室にいた。理由は単純。

 

「あれだけ食って死なないのはおかしい。テレビ局が保険をかけるために、医師のお墨付きを欲しがっている」

 

 という、大人の事情だ。検査の様子は、特番として放送されることになっている。

 

「嫌ですわ……。注射とかバリウムとか、苦手なんですのよ……」

 

 検査着に着替えた俺は、憂鬱そうに呟いた。中身はおっさんだが、病院嫌いは子供の頃から変わらない。

 

 

 まずは身体測定だ。看護師さんが俺を身長計に誘導する。

 

「はい、背筋を伸ばしてー」

「159.0cmです」

 

 マックイーンとしての公式身長通りだ。

 

「はい、じゃあ体重計乗ってくださいねー」

 

 俺は体重計に乗った。見た目はスリムだ。モデル体型と言ってもいい。看護師さんは「40キロ台後半かな?」と思いながら目盛りを見た。

 

『測定不能(エラー)』

 

「……え?」

 

 看護師さんが機械を叩く。

 

「あれ?壊れたかな?……もう一回お願いします」

 

 再度乗る。

 

『測定不能(エラー)』

 

「はあぁっ!?」

 

 看護師さんが素っ頓狂な声を上げた。

 

「や、やっぱりエラー!?え、重り持ってます?鉛のベストとか着てます?」

「い、いえ……着てませんわ。……最近、食べ過ぎちゃって」

 

 直ぐにお腹減るんですけれどね、と言いかけて、止めた。多分、もっと変な顔をされそうだ。

 

「み、見た目はこんなに細いのに……?筋肉の密度がタングステン並みじゃないと説明がつかないわ……あの、一度持ち上げてみても?」

「かまいせんが」

 

 看護師さんは震える手で俺をもちあげようとした。だが。

 

「うぐぐ………、び、びくともしない!?ま、マックイーンさん、どれだけ重いんですか!?」

 

 看護師さんはそういいながら、カルテに重量過多により計測不能、の文字を記入した。

 

 

 続いて、内視鏡検査。鎮静剤を打たれ、俺はぼんやりとした意識の中で検査を受けた。モニターには、俺の胃の中が映し出される。

 

「……なんだこれは」

 

 内視鏡医が呻いた。なんでも、大食いの人の胃は荒れていたり、伸びきっていたりするものらしい。だが、画面に映る俺の胃壁は、桜色に輝き、傷一つなく、そして異常なほど滑らかだった。

 

「美しい……。まるで最高級のピンクダイヤモンドだ」

 

 医者がうっとりと呟く。

 

「それに、この蠕動運動。カメラが入っても、異物として排出しようとする力が強い。……まるで胃という生き物のようだ。消化液の分泌量も、通常の10倍はありそうだが……いや、測定不能だ」

 

 続いて大腸カメラ。こちらも同様に、完璧なピンク色。宿便などカケラもない。

 

「食べたものを超高速で消化・吸収し、不要なものを即座に排出する、究極の消化器官だな……」

 

 唖然とした先生の顔が、忘れられない。

 

 

 最後にCTが待ち構える。俺の全身の断面図を撮るとのことだ。学術的にも貴重だとかなんとか。

 

 画像診断室に、教授クラスの医師たちが集まっていた。そして、モニターに映し出された俺の断面図を見て、全員が言葉を失っていた。

 

「耳は本当に頭の上のものだけなんだな、まるで馬だ」

「ですね。あれ、骨が……あれ?脳が写ってない?」

「いや、違う。骨密度が高すぎて、X線を通していないんだ。つまり……金属並みの密度と硬度がある」

「筋肉の繊維もおかしい。X線で映るほどに一本一本がワイヤーのように太い。これでなんで柔軟性があるのか?」

「内臓脂肪はゼロに近い。皮下脂肪も極薄。……エネルギーはどこに蓄えられているんだ?」

「おそらく、血液中や筋肉中に、未知の高エネルギー体として循環しているとしか……」

「体温が38度超えているのも何か関係してそうですよ」

「人間と似ているが、また別の種族みたいだな」

 

 結論が出た。最後の診察で、担当医(教授)が、真っ青な顔で俺に告げた。

 

「マックイーンさん。……貴方の体は、医学的には『異常』です」

「えっ、病気ですの!?」

「いいえ。……『頑丈すぎます』。戦車並みです。どんなに暴飲暴食しても、貴方の内臓はビクともしません。むしろ、『もっと燃料(食料)をよこせ』と言っています」

 

 教授は、清々しい顔でハンコを押した。

 

『健康診断結果:オールA(※人間としての基準を逸脱)』

 

「これからも、好きなだけ食べてください。貴方の胃袋が壊れるより先に、世界の食料在庫が尽きるでしょう」

「好きなだけ、よろしいんですか?」

「ええ。ああ、ただ、できれば……検体として……月に一度程度……ご協力いただけると……人類の発展に寄与、するのですが。いかがです?報酬も出しますよ?」

 

 まさかのお誘いである。なんか目がマジだ。だが、正直に言えば断る以外の選択肢はない。なぜか。

 

 検査前に断食があるからだ。

 

「か、考えておきますわ」

 

 

 後日。この検査の一部始終が、テレビ番組『人体の不思議スペシャル』で放送された。特に、美しすぎる胃の中の映像と、医師団が頭を抱えるシーンは、瞬間最高視聴率を記録した。

 

 ネット上では、新たな伝説が生まれた。

 

『内臓まで美人なのかよ』

『胃壁のファンになりました』

『骨密度が高すぎて体重計壊すアイドル』

『内臓公開You◯uberという新ジャンル』

『医者が「戦車」って言ったぞwww』

 

 俺はアパートで、その放送を見ながらポテトチップスを食べていた。

 

「失礼しちゃいますわ。乙女の体内を全国放送するなんて……。ま、お墨付きをもらえたなら、これで堂々と食べられますわね!」

 

 俺はニヤリと笑った。医学的にも証明された「無敵の胃袋」。これさえあれば、どんな企画も、どんなデカ盛りも怖くない。

 

 さあ、次はどこの店を潰しに行こうか。

 

 俺の、そして「メジロマックイーン」の食の旅は、まだまだ終わらない──。




このお話ですか、大体10万字を目安に終わらせようと思っております。勢いで書き始めたので、筆が乗ってるうちに!

どうか、ご理解いただければ幸いです。
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