メジロマックイーンになりまして。   作:灯火011

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4 猛虎の魂と、荒ぶるお嬢様実況

 配信2日目。

 

 味を占めた俺は、再び安酒とおつまみ(今日は半額の唐揚げ)を用意して配信ボタンを押した。

 

 ただし、今日は一つだけ違う点がある。スマホの横に、タブレットを置き、プロ野球中継を流しているのだ。

 

「ごきげんよう、皆様。本日は……そう、わたくしの愛する球団の応援配信をさせていただきたく存じます」

 

 画面の中の俺は、銀髪を揺らし、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。だが、見ているのは伝統の一戦。そして俺の中身は、生粋の虎党(阪神ファン)だ。

 

『野球好きなの!?意外すぎる』

『どこのファンだ?』

『巨人か?』

 

 コメントが流れる中、俺は静かに、しかし力強く告げた。

 

「縦縞(タテジマ)以外、ありえませんわ」

 

 

 試合は序盤から荒れていた。味方のエラー、繋がらない打線、謎の判定。

 

 最初こそは「あら、惜しいですわね」「頑張っていただきたいですわ」と上品に振る舞っていた俺だったが、ストロング缶が2本空いたあたりで、中身の「おっさん」が抑えきれなくなってきた。

 

 5回裏、ノーアウト満塁の大ピンチ。ピッチャーが投げた渾身のストレートが、ボールと判定された瞬間。

 

 バンッ!!

 

 俺はテーブル(炬燵)を思い切り叩いた。

 

「入ってますわーーーーッ!!!!!今のはどう見てもストライクゾーンど真ん中ですわよ球審ーーッ!!眼科へご案内しましょうかコラァアアッ!!」

 

 美しいソプラノボイスによる、ドスの効いた絶叫。マイクが音割れするほどの声量。視聴者数が一気に跳ね上がった。

 

『!?』

『キャラ崩壊www』

『急にオッサンが出てきたぞw』

『「コラァ」にお嬢様言葉を混ぜるなw』

 

 

 俺はもう止まらなかった。身振り手振りを交え、解説者顔負けの(というか居酒屋のオヤジの)弁舌を振るう。

 

「そこでインコースのシュートは危険ですわ!前の打席で踏み込まれてますもの!バッテリーは何を見てますの!?……あーーッ!!言わんこっちゃありませんわーーーッ!!」

 

 カキーン、という快音がタブレットから響く。タイムリーヒットを打たれた。俺は頭を抱え、銀髪をくしゃくしゃにして突っ伏した。

 

「……はぁ……はぁ……もう……監督、代え時ですわよ……ピッチャーがアップアップしてますわ……」

 

 その姿は、悲劇のヒロインのように美しいが、言っていることはガチの野球おじさんだ。コメント欄は、そのギャップと、やけに的確かつ古い知識に驚愕していた。

 

『「あそこでシュートは危険」とか、素人のコメントじゃねえw』

『85年の優勝メンバーの話とかしだしたぞ、この子何歳だよ』

『バース、掛布、岡田の並びを熱く語る女子高生(?)……推せる』

 

 

 試合は終盤、奇跡の逆転劇が起きた。

 

 4番打者のサヨナラホームラン。その瞬間、俺は立ち上がり、狭いアパートの天井に頭をぶつけそうになりながら叫んだ。

 

「っしゃあぁぁぁぁーーーーっ!!!よくやりましたわーーっ!!それこそが4番の仕事ですわーーっ!!」

 

 俺は歓喜のあまり、持っていたメガホン(100均)を振り回し、カメラに向かって満面の笑みを向けた。

 

「皆様!勝利の美酒ですわ!乾杯いたしますわよ!!」

 

 そして、誰に頼まれたわけでもなく、高らかに歌い出した。

 

「♪ろっこーおろーしに〜、さーっそうーと〜」

 

 美しすぎるビブラート、完璧な音程、そして圧倒的な声量で歌われる球団歌。それはまるでオペラのアリアのように荘厳で、しかし歌詞は「オウオウオウタイガース」だった。

 

『無駄に歌うめぇwww』

『なんで六甲おろしで感動しなきゃならんのだ』

『国歌斉唱かよ』

『チャンネル登録したわ』

 

 

 試合終了後、俺は肩で息をしながら椅子に座り込んだ。喉が渇いた。コーラを一気飲みする。

 

「ふぅ……エキサイティングな夜でしたわね」

 

 何事もなかったかのように髪を整える俺。だが、コメント欄は『神回』『伝説の始まり』『ジャージの虎姫』という言葉で埋め尽くされていた。

 

「あら、皆様そんなに盛り上がって……恐縮ですわ。では、明日はデーゲームですので、お昼から配信いたしますわね」

 

 そう言い残して配信を切った俺は、知らなかった。

 

 切り抜き動画『【神回】美少女がブチ切れて六甲おろしを熱唱する動画』が、一夜にして100万再生を叩き出すことになるのを。




書き溜めはここまで。マックイーンっていいですよね。
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