メジロマックイーンになりまして。   作:灯火011

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5 バズりとデーゲーム、そして増える登録者数

 

 翌朝。カーテンの隙間から差し込む日差しが、俺の瞼を刺した。

 

「んん……頭が痛いですわ……」

 

 昨日のストロング缶3本が効いている。俺はそんなに酒に弱くないはずなのだが、この体はそうでもないのだろうか?それとも、それ以上にテンションを上げすぎた反動か?

 

 寝ぼける頭で、枕元のスマホを手に取る。画面が通知で埋め尽くされていた。

 

『〇(旧〇witter)通知:999+』

『You〇ube Studio通知:登録者が急増しています』

 

「……は?」

 

 寝ぼけ眼をこすりながら、動画アプリを開く。

 

 昨日、俺が酔っ払って『六甲おろし』を熱唱している切り抜き動画が、おすすめの最上位に表示されていた。

 

 タイトル:『【神回】天使すぎる虎党美女、ブチギレからの美声熱唱【放送事故】』再生回数:142万回。

 

「ひいいいいいいっ!?」

 

 俺の口から、またしても可憐な悲鳴が漏れた。140万回?俺が?あの鼻歌が?思わずコメント欄を見る。

 

『ギャップ萌えの極致』

『令和に舞い降りた虎の女神』

『ジャージ姿なのが逆にガチっぽくて好き』

『なお中身は新橋のオッサンな模様』

 

「バレてますわ!!中身がオッサンなこと、感づかれてますわーッ!!」

 

 

 昼食、とはいっても昨日の残りの肉を焼いただけのステーキ丼特盛だが、をなんとか腹に収め、午後1時55分。

 

 デーゲームの開始時刻が迫っていた。今日は日曜日。世間は休日だ。俺は震える指で「配信開始」のボタンを押した。

 

『待機所:12,000人』

 

「い、一万人……!?」

 

 昨日のピークの100倍だ。東京ドームの外野席が埋まるレベルの人間が、俺の部屋(画面)を見ている。一瞬、逃げ出したくなった。だが、俺はプロだ(元・重機オペレーターだけど)。一度現場に出たら、仕事は完遂する。

 

「ご、ごきげんよう、皆様……本日も、その……応援させていただきますわ」

 

 画面に映った俺は、二日酔いで少し顔色が悪いが、それが逆に「儚げな美少女」感を演出してしまっていた。

 

『きたああああああああ』

『待ってましたお嬢様!』

『顔色が優れないのも美しい』

『今日もキレるのか!?』

 

 

 試合が始まった。今日はお昼の試合ということで、昨日ほどのハイテンションではなく、少し落ち着いて見よう……そう思っていた。

 

 だが、野球の神様はそれを許さない。

 

 3回表、相手チームの送りバント処理で、味方の守備がもたついた。

 

「ああっ!何をしてますの!?」

 

 俺の動体視力が、スローモーションのようにそのプレイを捉えていた。

 

「今の一歩目!重心が後ろに残ってましたわよ!だからダッシュが遅れるんですの!芝の状態は昨日より重いんですから、もっと前傾姿勢で……って、聞いてますの!?セカンドーーッ!!」

 

『出たwww』

『解説がガチすぎる』

『視力が良すぎるだろw』

『芝の状態まで把握してるのかよ』

 

 ウマ娘の身体能力ゆえか、選手の筋肉の動きや芝の跳ね方まで見えてしまう。俺は無自覚に「超・技術的解説」を織り交ぜながら、結局またストロング缶(今日は500ml)を開けていた。

 

「ぷはーっ!……失礼。あまりに不甲斐ないプレイでしたので、ついお酒が進んでしまいましたわ」

 

 赤ら顔で毒を吐く美少女。同接数は見る見るうちに3万人を突破していた。

 

 

 試合は乱打戦の末、なんとか我が軍が勝利した。心地よい疲労感と共に配信を終える。

 

 最終的なチャンネル登録者数──8万5千人。たった二日で、銀の盾(10万人)が見えてきた。

 

「……えらいことになりましたわ」

 

 俺は呆然と天井を見上げた。スパチャの総額は計算したくない。たぶん、今月分の給料を超えている。だが、ここで俺の中の「小心者」が顔を出した。

 

「野球は……毎日あるわけじゃありませんのよ」

 

 そう、明日は月曜日。プロ野球の移動日(試合がない日)だ。それにシーズンオフになったらどうする?野球一本槍では、この飽きっぽいネットの海を生き残れない。俺のこの「燃費最悪のボディ」を維持するだけの食費を稼ぎ続けるには、コンテンツの多角化が必要だ。

 

「何か……何か別の武器を……」

 

 俺は部屋を見渡した。視界に入ったのは、ホコリを被った古い家庭用ゲーム機と、段ボールに入ったカセットの山。俺が独身貴族(おっさん)時代に買い集めた、レトロゲームたち。

 

「これですわ……!」

 

 俺はニヤリと笑った。マックイーンの美しい口角が吊り上がる。

 

 最新のゲームはついていけないが、昔取った杵柄ならある。それに、この「動体視力」があれば、あの頃クリアできなかった激ムズゲームも攻略できるのではないか?

 

「明日は移動日。……となれば、『レトロゲーム実況』で繋ぎますわよ!」

 

 美しきウマ娘は、ボロボロのコントローラーを手に取り、新たな戦場への出撃を決意した。だが彼女(彼)はまだ知らない。

 

 自分の動体視力が良すぎて、ゲーム画面が「止まって見える」あまり、逆に操作がおかしくなるという致命的なバグを抱えていることに。




勢いです。多少の矛盾はストゼロで胃の中に叩き込みます。
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