少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します 作:Revak
夏に変わりかけている空の元、ヴァルザールとツルギは空を飛ぶ。
ヴァルザールの飛行能力はツルギにも劣らない。ただ今は<擬人化>したことでステータスが下がっているため本気のツルギには追いつけない。
そのためツルギはある程度速度を落として二人ならんで空を飛んでいた。
ツルギは右の下の手に探知に特化した槍を作り街がないか探知しながら飛ぶ。
向かう先はノクスフィード。この国でも有数のダンジョンがある都市だ。
優雅な空の旅である。圧倒的強者である二人を前にすれば空を飛ぶタイプのモンスターも自ら離れていく。
気づくのに遅れたモンスターが居ても二人の飛行能力の前ではきちんと避けることが出来るため衝突事故も起こらない。
そうして二分もマッハで飛べば目的地に着く。
マッハで飛んだので衝撃波で雲が消し飛んだりしたが問題ない。コラテラルダメージである。
街の前に二人は着地する。
「ここがノクスフィードか」
でっかい街だ、とツルギは門を見上げる。
他の街同様門は開いている。
二人そろって門を潜り中に入る。
「おぉ……」
街並みはどことなく、日本を思わせる物だった。
というよりは映画村とかだろうか。これぞ和風建築ですよ、という風に木造の建物が幾つかある。
洋風建築の合間に和風の建物があるのため少し違和感を感じる。
「で、最初はどこに行くんだ? ギルドか?」
ヴァルザールが問いかけてくる。
「いや、まずは風守の家に行こうと思っている。紹介状を貰っているんだ」
「ほぉ、紹介状か。誰からだ?」
「ドレッドムーンさんからもらったんだ」
「ドレッドムーン……あぁ、あの吸血姫か」
ヴァルザールは苦い顔をした。
最後まで魔王軍に所属し戦っていたものとして魔王軍の裏切り者であるアトラシアにはいい感情がない。
道中ツルギが騎士に風守家の場所を聞き家まで歩いていく。
この世界には騎士と軍人が居る。
騎士はその領主が持つ固有の戦力でありいわば個人が雇っている私兵のようなものだ。
領内の冒険者では解決しにくいモンスター退治や治安維持に努める。
軍隊は国が保有する戦力だ。軍服をまとい軍として規律ある行動をしている。
二十分も歩けば目的地の風守の家に着く。
「でっけぇ……」
「そうか?」
着いた先はツルギの感覚で言えば巨大な家だ。
和風の家である。
大名屋敷という言葉がよく似合う家だ。
上屋敷や中屋敷などに別れている。
三メートルほどの壁に覆われた家であり厳格な雰囲気がある。
ツルギは門の前に行く。そこには槍を持った武士の鎧を着た門番が二人居る。
「すみません、ここの領主の人に用事があるんですが……」
「領主様に? 何用だ?」
「えっと、この招待状に書いてあります」
ツルギは影からアトラシアに貰った紹介状を取り出す。
招待状には赤い蝙蝠が描かれた封蝋がついてある。
「これは……少々お待ちください」
門番の一人は招待状を手に屋敷へと入っていった。
待つこと五分。さっきの門番と別の女性が出てきた。
美しい女だ。
薄い水色の長髪に藍色の瞳。
年齢は十六かそこらだろう。成熟しきってない体をしている。
全体的にすらっとした体形をしている。
水色の和服を着ていて様になっている。
「ようこそお客人。私は風守翼という。この家の次期当主を務めている」
「えっと、ミハカノシノツルギです。白金級冒険者です」
「ヴァルザールだ」
軽く自己紹介を済ませる。
「さぁどうぞ屋敷へ。当主がお会いするとのことです」
翼に連れられ二人は屋敷の中に入る。
ツルギは(翼って、日本人みたいな名前だな)と思いつつ屋敷に上がる。
これはこの家が東雲皇国から来た貴族の末裔なのが理由だ。
東雲皇国でもそこそこの地位を持っていた風守家は魔王軍が東雲皇国を侵略した際迎撃だけではなくこちらから攻撃に出るべきだと主張した。
だがそれが宮廷には通らず、それでも防衛ではなく攻めに行くべきだと感じた鏡宮の分家の風守家は一族揃って大陸に渡ったのだ。
その末裔が現代の風守家である。
屋敷に上がると靴を脱ぐよう言われて脱ぐ。
今のこの大陸でも部屋に入る際に靴を脱ぐのは一般的になっているが建物に入るときに脱ぐのは珍しい方だ。
靴を脱いで靴下のまま屋敷を歩く。
(すっげぇ家)
ツルギは日本だったらまず間違いなく歴史的文化遺産扱いされるだろうなぁ、と思いつつ進む。
この家自体半分魔法で作っているようなものだし歴史も百年近く在るかないか程度なのでそんなに価値はないが。
暫く歩くと時代劇で殿様が居るような部屋、
奥には一人の女が胡坐をかいて座っている。
「ようこそ、我が屋敷へ、我が領地であるノクスフィードへ。歓迎します。私は当主の風守カナメと申します」
水色の髪に薄水色の瞳。
見た目は若々しく二十代前半に見える。
美しい、刀のような美しさの女だ。だが肉付きがよい。
ツルギはしどろもどろしながら返答する。
こちらもまた水色の和服を着ている。
「み、ミハカノシノツルギです。よろしくお願いします」
「ヴァルザールだ。よろしく」
ツルギが緊張しながら自己紹介するとカナメは微笑む。
「そう緊張なさらずに。種族的には貴方の方が年上でしょう?」
異形種となれば千年以上生きてるのも珍しくはない。ヴァルザールに至っては一万年近く生きてる。
「い、いえ。まだ二十四です……」
ツルギは己の年齢を打ち明ける。
「あら、私は三十二なので、年上でしたか。これは失敬」
(とても三十代とは思えない若々しさだけど……)
「さて、アトラシア様からの紹介状、拝見しました。いずれは我が領地の領主になりたいという事も」
(ちょっとアトラシアさん?! 何てこと書いてるの?!)
心の中でツルギはアトラシアに文句を言った。自分の財産奪いに来る奴が来るよと言ってるとは宣戦布告にも等しい。
「実にありがたいことです。我々は貴女を実績させあれば新しい領主として迎え入れることが出来ます」
まさかの歓迎宣言にツルギは面食らう。
「あ、あの。いいんですか? 実質家奪う的なこと言ってるんですが……」
「それについては我が家の成り立ちから話した方がいいでしょう。我が家、風守の家について知っていますか?」
「いえ、存じません……不勉強で申し訳ない……」
「いえいえ。知っている者の方が少数ですからお気になさらずに。では話しますと、我が家は東雲皇国にある鏡宮家の分家になります。そして約百年前、魔王軍による侵略は東雲皇国にまで及びました。
当時の最高戦力を用いることで魔王軍配下の四天王ギロニア&アロニスを迎撃することに成功しましたが、国家の戦力は半減しました。
これについて東雲皇国内で意見が分かれました。攻めに転じるべきという者と守りに入るべきだという者。風守家は後者を選びました。
国を飛び出て魔王軍と戦う道を選んだのです。結果我々はこの大陸へと渡ってきました。
この大陸で魔王軍と戦っていた次期当主だった男はこの地で妻を見初めこの地に根付くことを決めました。
そして魔王が勇者に倒され魔王軍も瓦解した現在、風守家は……いえ。私は先祖の血である東雲皇国に戻りたいと思っているのです
ですのでこの領地を運営してくれる新しい人は歓迎するのです」
「な、なるほど……」
思ったより壮大な話にツルギは頭が混乱しながらもどうにか受け止めた。
「ですのでどうぞ実績を打ち立ててこの地の領主となってくださいまし」
カナメはそれはそれは期待のこもった目で見つめてきた。
「が、ガンバリマス……」
ツルギは片言になって答えるしかなかった。
「そして、翼。客人たちを客室にご案内しなさい」
「わかりました」
「え、それは……」
「我が領地にあるダンジョン、
「は、はい……」
ツルギは引きつった顔で返答した。
ツルギとヴァルザールは立ち上がり、翼の案内の元御簾を出ていく。
翼に案内されるがまま二人は客室に通された。
「部屋は別々と同じ、どちらがいいですか?」
「別々でお願いします」
「わかりました」
ツルギはこれ幸いと別々の部屋を頼む。
美女と同部屋というのは何気きつい物がある。一人ではないためオナニーも出来ないし。
案内された部屋は当然和室だ。
「どうぞこの部屋をご自由にお使いください」
「ありがとうございます」
部屋の中に入り、襖を閉じる。
「おぉ……」
通された部屋は結構広い。
旅館の部屋の倍ほどの広さだろうか。
中央に机が一つと背もたれがついた床に置くタイプの椅子が四つ。
床は畳で出来ている。
奥の右端には机と椅子が一つずつ。
左端には箪笥が二つある。
更に奥には障子がありツルギが開けると其処は縁側だ。
整えられた庭園がよく見える。
「いい部屋だな」
ツルギは取りあえずこの部屋使っていいってことだし荷造りするか、と影から服などを取り出す。
武器や防具の類は持っていないためすぐに終わる。
「ミハカノシノツルギ様。よろしいでしょうか?」
終わった調度に声がかかる。
「どうぞー」
ツルギが許可を出すと「失礼します」と一人の女が入ってきた。
女中という日本版のメイドのような者である。女は茶色い和服を着ている。
「お食事の用意が出来ました。食堂までご案内します、ついてきていただけますか?」
「わかりました、行きます」
ツルギは部屋から出て女中に着いて行く。
少し歩くと食堂という広い和室に通される。
床は畳だ。
四つの席があり膳が置いてある。
「どうぞこちらへ」
「はい」
案内されるまま席に座って少し経つと隣にヴァルザールが座ってくる。
向かい側にも人が着て翼とカナメが座ってきた。
「では、いただきます」
「「「いただきます」」」
ヴァルザールも行儀良く手を合わせていただきますをする。
膳の上には当然料理が置かれている。
煮魚に白ご飯。漬物に味噌汁だ。
実に日本らしい料理である。
ツルギは日本の料理だと感動しながら食事を進める。
「それでミハカノシノツルギさん。
「えっと、明日からしようかなって考えています」
「なるほど。でしたら明日の昼食はご用意しない方がよろしいでしょうか?」
「そうですね、ダンジョンの探索をしているので……夕食はお願いします」
「わかりました。女中にそう伝えておきます」
「ミハカノシノツルギさん。貴方はこれまでどういった冒険をしてきたのですか?」
翼が真剣な表情でそう問いかけてきた。
「えっと、あんまり冒険らしい冒険はしてないですね……」
「であればなぜ白金級冒険者と認められているので?」
「これはグラートの街をスタンビードから救った事で──」
その後幾つかツルギはこれまでの冒険について話すのだった。