少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します   作:Revak

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 ツルギは倒れた翼に霊癒を使う。

 内臓にダメージが入っていたがそれもすぐに治っていく。

 そうすると翼は目を覚ました。

 

「私は……負けたのか」

 

 ツルギは翼になんて声をかければいいかわからなかった。

 模擬戦などこれまでしたことがなかったし、負けた相手に何を言っても勝者の言葉にしかならない。

 ゲームの勝ち負けとは違うのだ。

 

「強いな……ツルギ殿は……どうして──」

 

 ──もっと早く来てくれなかったのか

 

 翼はその言葉を飲み込んだ。

 

 

 翼は風守家の次期当主である。

 その仕事は多岐に渡る。

 領内の警備、ダンジョンの管理、そして次代の育成。

 

 翼はある日、ノクスフィードのダンジョンに大学の生徒を連れて探索に出かけた。

 何も問題はなかったはずだ。これまでノクスフィードのダンジョンではスタンビードが起こることも何かしらの異常事態が起こることもなかった。

 五層程度でダンジョンとはこういうものだ、という講習をする程度の物だった。

 大学では多種多様なことを教えている。魔法だって教えているのだ。

 そしてこの世界にレベルの概念がありレベルアップで魔法能力が向上する関係上ダンジョンでレベリングをするというのは立派な勉強の一つだ。

 

 そして──第五層にボスモンスターの土蜘蛛がやってきた。

 

 有り得ない事だ。本来ボスモンスターは生まれたボス部屋から動くことはない。

 一部ダンジョンでは階層内を歩いているボスもいるがその場合もその階層から動くことはない。

 なのに土蜘蛛は五層まで上がってきた。

 

 起こったのは、虐殺だ。

 レベル四十とレベル三十五の翼とでは戦力差が大きい。

 更にボスモンスターの特権、フィールドバフのおかげでレベルはプラス五された結果レベル十の差が生まれた。

 そうなれば勝ちようがない。

 

 翼が率いていた大学の生徒たちは皆殺しにされ、食われ、つぶされ、壊された。

 

 翼はどうしたのかというと、一人生き延びた。

 最初の一撃でダウンし、身動きできなくなった翼はただ一人連れてきた生徒が蹂躙される様を見続けていた。

 体の骨が砕け、動けなくなっていた翼を死んだものだと思い土蜘蛛は放置した結果、生徒たちが蹂躙される様を見続けるしかなかったのだ。

 

 土蜘蛛が去った後、幸運にも他のパーティによって翼は救出されたが、心の傷は深かった。

 精神系の治癒魔法で見てくれこそ回復したがそれでも深い棘となって翼の心を蝕んでいる。

 

 だからこそ、翼は今更来た圧倒的強者であるミハカノシノツルギに対し複雑な感情を抱いている。

 

 ──あなた程の強者がなぜあの時いなかったのか、と。

 

 無論これは勝手でわがままな思いだ。ツルギは何も悪くない。そもそもその当時はツルギはこの世界に来てもいないのだから。

 

 

「もう、大丈夫だ」

 

 翼は立ち上がった。

 

「ならよかった。それで、どうします? 俺たちはダンジョンに潜ろうと思ってるんですが……」

「……いや、私はここで帰ろう。領内で済ませないといけない仕事が溜まっているからな」

「わかりました、ではこれで」

 

 ツルギも立ち上がるとヴァルザールを連れて黄泉綾回廊(よみあやかいろう)の中へと入っていった。

 

 

 

 

(なんだったんだろう……)

 

 ツルギは疑問に思いながらダンジョンに入っていく。

 

 門を潜った先は、平原だった。

 

「えぇ……?」

 

 二度目のダンジョンだがそれでもダンジョンの何でもありなところには面食らう。

 夕焼けの平野、というよりは村に近い。

 荒れた村だ。和風の村であり家の壁が壊されていたり屋根がはがれていたりする。

 川も所々流れている。

 

「ん?」

 

 ツルギは己が何かに対して耐性を会得し始めたのを感じた。

 これはこのダンジョンのフィールド効果の精神干渉だ。といっても非常に弱くレベル五もあればレジスト出来る程度の精神干渉だ。

 効果としては認識のずれを起こす。といっても本当に微妙な効果でしかないが。

 

「取りあえずモンスターと戦いながら行こうか」

「わかった」

 

 ツルギは薙刀と短剣をいつもの腕に生成し、ダンジョンへ挑んだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

「本気ですか? カナメ様」

 

 ノクスフォード大学研究棟にて一人の女と骸骨が会話をしていた。

 中はごちゃついている。机の上には何かの書類やポーションが乱雑に置かれている。

 ソファや机も質の良い物を使っているが乱雑に使われていて傷がついている。

 

「えぇ。いいのです。私は故郷の地に行きたい。彼女は領主になりたい。お互いに利益は一致しています」

 

 カナメはそう骸骨に返した。

 

「まぁ、東雲皇国は鎖国状態。行くのはだいぶ無理があると思いますが……」

「だからこそ、領主の地位を返上しただの武士となってからでなければなりません」

「そうですか……」

 

 どうやら決意は固いようだ、と骸骨──ヴァレリー・シモンズは思った。

 ヴァレリーはリッチという種族のアンデッドだ。

 最下位のスケルトン、次のスケルトン・キャスター、デミリッチ、リッチという四代回目のアンデッドだ。

 更に上にナイトリッチという種族があるが、これらは今のところ四人しかおらずほとんどがネクロポリスに居る。

 リッチらしく漆黒のローブを纏っているがローブには赤い炎に似た装飾が施されている。

 

 風守カナメには夢がある。故郷の地である東雲皇国の大地に戻るという夢が。

 

 そもそもの話、風守の家がこの地の領主になるのは一時的な話だったのだ。

 

 魔王軍の侵攻で領主や貴族が死んでいき、土地を管理する者がいなくなった。

 そのため元領主だった当時の風守家の当主が領主代理となったのだ。

 

 だが魔王軍の猛攻激しく領主代理から領主になり、代々領主の地位についてきた。

 風守の家は本来よそ者である。だからこそ、この地から離れるべきだという思いがずっとカナメにはあった。

 

 故にこそミハカノシノツルギという領主になってくれる者の存在は実にありがたかった。

 実績を与え実務能力を鍛えれば領主となってこのノクスフォードを運営していってくれるだろう。

 

「では私は先の通り彼女に協力すればよろしいのですね・」

「はい。彼女が望むならば魔法道具(マジックアイテム)の開発や研究をしてあげてください」

「わかりました、領主様」

 

 

 

 ■

 

 

「うーん。雑魚しかいないな」

 

 ツルギは黄泉綾回廊(よみあやかいろう)の第三層まで降りてから呟いた。

 最初の階層という事もあって出てくる敵は最低でもレベル五で高くても十二程度のツルギにとっては雑魚同然の敵しかいない。

 全て薙刀と短剣で倒している。

 ヴァルザールが後衛として魔法を唱え戦っているので安定して敵を倒すことが出来ている。

 

 二人は軽く雑談を交わしながらダンジョンを進んでいく。

 常に夕焼けの時間帯なので自分がどれだけ潜ったかわかりにくい。

 一応買っておいた魔法道具(マジックアイテム)の時計があるので時間はわかるが。

 

 ここに出てくる敵は河童に一反木綿、ぬらりひょんと輪入道だ。

 ぬらりひょんは妖怪の大将ではなくただのちんけな妖怪である。

 どれもツルギとヴァルザールにとっては雑魚だ。

 ドロップアイテムは基本金貨や銀貨、銅貨である。

 たまに呪符という使い捨ての巻物(スクロール)に似たアイテムをドロップする。

 通貨類は溶かして別のアイテムにされるので結構な値段で売れる。

 

「集団が来るぞ。数は十」

「おっけー」

 

 ツルギとヴァルザールは構えた。

 

 村の中央に広場に立ち、敵を迎える。

 

 出てきたのは緑色の皮膚に頭に皿がついた異形種の河童、車輪の中心に顔がついた燃えている車輪の輪入道、ひらひら動く顔がついた布の一反木綿だ。

 その数十体。

 

 ツルギは戦闘経験を積むために短剣の雷の力を使わずにダッシュで接近した。

 

 河童がその爪で斬りかかるもツルギは薙刀でその首を跳ね飛ばしドロップアイテムに変える。

 返す左手で輪入道の顔面をぶっ刺して殺し、背後から首を絞めようとする一反木綿にはぐるっと振り返り薙刀で斬り裂く。

 

 奥からくるモンスターたちにはヴァルザールが<炎花葬>(フレイムフラワー・フューネラル)を唱え焼き殺した。

 

「うん。問題なく戦えるな」

 

 よし、とツルギは更に進むぞと気合を入れた。

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