少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します   作:Revak

17 / 22
16

 

「帰還!」

「急に叫ぶな」

 

 夕方の五時になってツルギとヴァルザールはダンジョンから出た。

 ダンジョン内は特に転移が禁じられている訳でもないので転移魔法でダンジョン外、街の外まで一気に飛んだ。

 街中への転移魔法の行使は特殊な状況下でない限り禁止されているので街からダンジョンに転移することは出来ないしダンジョンから直接街中に転移することも出来ない。

 だが街の外ならば問題ないので二人はノクスフィードの門前に転移してきていた。

 

「しかし結構とれたな。いくらになるんだろ」

「さぁな……今日はどうする? 我は屋敷に帰って寝るが」

「じゃあ俺はギルドに行って換金してくるわ。じゃあな」

「うむ。またな」

 

 ツルギとヴァルザールは街中に入るとそこで別れる。

 ツルギはギルドに向かって歩き、ヴァルザールは領主の館に向かって歩いて行った。

 

 ツルギは上機嫌に歩いていきギルドに辿り着く。

 中に入ってドロップアイテムの換金受付に並ぶ。

 五分ほど待つとツルギの番がくる。

 

「これの換金お願いします」

 

 ツルギは己の影からそこそこの大きさのバッグを取り出す。

 

「わかりました。少々お待ちください」

 

 受付嬢はバッグから一つ一つドロップアイテムの結晶を眼鏡越しに鑑定する。

 この眼鏡事態が魔法道具(マジックアイテム)であり第二環魔法の<道具鑑定>(アプレイザル・アイテム)の効果を持つ。

 これでドロップアイテムの価値を判別しているのだ。

 

 ツルギが持ってきた量は多く十分ほど待つことで調べるのが終わった。

 

「こちらが換金金額になります」

 

 そうして出された換金金額は二万六千セラだ。

 一日の労働の対価としてみると一人一万三千セラなのでそこそこになるだろう。

 更にはこれも序の口だ。小手調べで多少探索するだけで終わらせたのでもっと潜ってモンスターを倒していれば報酬は跳ね上がっただろう。

 

「ありがとうございます」

 

 そう言ってツルギは報酬を受け取った。

 

 報酬を受け取るとギルドを出て領主の館へ向かう。

 帰りは徒歩だ。急ぐわけでもないので徒歩でいいのである。

 

 そうして五分ほど歩いていると向こう側から風守翼が歩いてきた。

 翼はツルギの正面に立つ。

 

「翼さん……何かようですか?」

「……あぁ。歩きながらでもいい、少し話したいことがある。いいか?」

「いいですよ」

 

 そうして二人は横並びになって歩く。

 話したい事がある、という割には二分ほど沈黙が続く。

 流石に何か口火を切った方がいいか、とツルギが思った途端翼が口を開いた。

 

「ミハカノシノツルギ殿はお強い。その強さなら、黄泉綾回廊(よみあやかいろう)の第十層ボスも倒せるだろう……だから願いがある」

 

 すぅ、と翼は何か覚悟を決めるように息を吸った。

 

「私をボス戦に連れて行ってほしい」

「……ボス戦に、ですか」

 

 ツルギとしては困る提案だ。

 ヴァルザールほどの強さがあれば別だが翼程度の強さだと余波で死ぬかもしれないと思ってしまうのだ。この余波はボスの攻撃ではなく自分の攻撃を意味する。

 

「そうだ……貴殿に話しておきたい。私の過去について……それは、家に帰ってから話そう」

「わ、わかりました」

 

 女人の過去とか明かされても困るが。ツルギはそう思ったが賢いので黙っておいた。

 

 

 

 ■

 

 

「でっけぇ風呂」

 

 

 屋敷に戻りツルギは夕食を食べ風呂場に来ていた。

 風呂場は非常に広い。男湯と女湯に別れているがそれでも充分以上に広さがある。

 といっても流石にサウナや電気風呂などはない。温泉が一つあるだけだ。

 この温泉も魔法道具(マジックアイテム)だ。第三環の魔法が込められた魔法である。これで温泉を生成している。

 

 かけ湯やらなんやらして体を洗ってからツルギは風呂場に入った。風呂場なので当然全裸である。

 

「ふぅー……」

 

 ツルギはため息を吐いた。

 異世界に来て色々あったが一番は女の体だ。

 なんとなく己の胸を揉む。

 ハリがありつつも柔らかい胸だ。

 一メートル級のでかぱいを堪能する。

 

 佐藤が居た地域は風俗すらない田舎だ。そのため女の胸を揉む機会なんてものはない。

 異世界に来て揉めるようになるとは、と謎の感動をしていると風呂場のドアががらりと開いた。

 

 そこにいたのは風守翼だった。

 もちろん風呂場なので全裸である。

 

 身長百五十五センチ。

 バスト八十七ウエスト五十九ヒップ八十の成熟してない女の体である。

 胸は若者らしく重力に逆らい上につんと向いている。

 

 ツルギはそっと顔を横に向けた。

 銭湯の女湯に入って女体を見ているので今更だが知り合いの裸となるとみるのが憚られるのだ。

 

 翼は黙々と体を洗った後ツルギの真横に入ってきた。

 

(何故?!)

 

 ここは空気を読んで出ていった方がいいのだろうかと存在しない空気を読もうとしていると翼が口を開いた。

 

「帰る途中に話していた、私の過去について聞いてほしい」

 

 ああ、その話かとツルギはほっとした。

 これでその話じゃなかったら何だったんだとなるレベルである。

 

「私は──」

 

 

 そこから翼は語りだした。

 己の過去、大学の対モンスターの教師としての日々と、ダンジョン黄泉綾回廊(よみあやかいろう)への探索。

 そして──第五層での虐殺。

 

「…………」

 

 それに対しツルギは何か気のいい言葉を言えなかった。

 人の命が亡くなるなんてテレビ越しのニュースでしか知らない一般人だ。

 人の死について何やら知ってるわけでもない。

 

 ただ翼の悲壮感からして、とてつもないことだとはわかる。

 何か言わなければならない。だが、何か言えるわけでもない。

 

 神の気まぐれか何かで力を手にしただけの存在にすぎない佐藤は大それたことを言えない。

 ここで貴女に責任はないとか言っても逆上されるだけだろう。

 

「……俺は、たまたま強かっただけのにん……妖怪です。だけど、力はあります。だから、貴女の力になります」

 

 ツルギは精一杯考えた結果、そう言った。

 その台詞に翼は笑みを浮かべた。

 

「優しいんだな、貴女は……そうか、そうだな……では」

 

 翼は立ち上がって腰に手を当てた。

 

「明日はボス討伐、頼んだぞ」

「……はい!」

 

 

 ■

 

 

「じゃあサクッと第十層まで行くぞ」

 

 翌日。朝から黄泉綾回廊(よみあやかいろう)に行き第一層内にツルギ、ヴァルザール、翼の三人は着ていた。

 翼は魔装の天裂ノ剣(あまさきのつるぎ)を纏っている。

 

「じゃあ行くぞ!」

 

 ヴァルザールが先頭になって走り出した。

 遅れてツルギと翼も走り出す。

 

 ヴァルザールも本気の走りではなく手加減した走りなので翼でもついていける。

 翼のレベルは三十五と結構高めだがそれでも竜であるヴァルザールに追いつけるほどではない。

 

 黄泉綾回廊(よみあやかいろう)の中を全力疾走する。

 

 この一から十階層は廃村が続く。階段は神社だ。

 神社の鳥居をくぐることで下の階層に移動できる。

 

 そうして九の鳥居を潜って第十層に辿り着いた一行は止まった。

 

「なにこれ。蜘蛛の巣だらけ」

 

 ツルギはそう呟いた。

 

「……ここのボス、土蜘蛛のテリトリーである証だな」

 

 翼が神妙な顔でそう返答した。

 

「土蜘蛛か……どんなモンスターなんだ?」

「十メートルの巨体に四つ腕。蜘蛛に似た顔を持つ巨漢のモンスターだ。レベルは四十だがダンジョンのバックアップの力で四十五レベル相応にまでステータスが高い」

「そうか……」

 

 ツルギとヴァルザールにとっては雑魚モンスターである。

 

 ダンジョンのボスには二種類いる。

狂醒開放(きょうせいかいほう)>というレベルをプラス五分する特殊能力(スキル)を持つボスとダンジョンのフィールドの効果でレベルがプラス五分されているボスの二種類だ。

 前者はいわゆる発狂モードを持っているボスといっていいだろう。

 前者は急に強くなったりするが後者は実力が決まっていて上昇することはない。

 どちらがマシかと言えば賛否両論あるだろう。最初から強い奴と急に強くなる奴だ。

 

 ヴァルザールを先頭に第十層を歩いていく。

 

 道中トラップがあるが全てツルギの剣で破壊して進む。

 それ以外にモンスターは居なかった。

 

 歩くこと二十分。神社が見えてきた。

 

「来るぞ!」

 

 途端ヴァルザールが叫んだ。

 その言葉に全員武器を構える。

 上から巨体が落ちてきた。

 ズドンと地面を揺らしながらモンスター、土蜘蛛が現れた。

 

 十メートルの巨体。四つの腕に土色の肌。蜘蛛にも似た顔。

 巨体に見合う筋肉を持ち、ズボンだけを履いている。

 レベル四十、フィールドの効果でレベル四十五相応のボスモンスター、土蜘蛛だ。

 

「なんだ……面白いのが来たな」

 

「喋った!」

 

 ツルギは土蜘蛛が喋ったことに驚いて声を上げた。

 

「なんだ、モンスターが喋ったらいかんのか? そういうお前もモンスターみたいな見た目してるだろうに」

 

 土蜘蛛がくつくつと笑いながら話しかけた。

 

「そりゃ確かにモンスターな見た目してるけども」

「御託はいい! 土蜘蛛、貴様を殺す!」

 

 翼が刀を構えた。

 

「やけに殺気立ってるな。どうした。生理か?」

「やぁぁぁぁぁ!」

 

 土蜘蛛の煽りを聞き流し翼は土蜘蛛に斬りかかった。

 土蜘蛛は上の右手で防ぐ。

 肌が少し切れた。

 土蜘蛛は腕を振るって翼を吹き飛ばした。

 

「翼さん!」

 

 ツルギは飛ばされた翼に駆け寄った。

 

「……やはり、私では……ツルギ殿、情けない話だが、頼んでもいいだろうか……」

「……まっかせてください!」

 

 ツルギは右の上の手に薙刀を。左の下の手に短剣を生成する。

 

 そして突撃。

 音速を超えた疾走は土蜘蛛も視認できない。

 薙刀を持って土蜘蛛の右の上の手を切り飛ばし、土蜘蛛の背後に立った。

 

「なんだと……?!」

 

 土蜘蛛は驚愕に顔を染めた。

 ツルギのレベルは九十。土蜘蛛は四十五と倍の差があるのだ。

 レベル差が十もあれば絶対に勝てないこの世界で四十五レベルの差は覆しようのない絶望的な壁となる。

 

 ツルギは無言で再度土蜘蛛に斬りかかる。

 アッという間に土蜘蛛は両手両足全て斬り飛ばされた。

 

「あ、ありえん……!」

 

 土蜘蛛は身動きしようとするが芋虫のように何もできない。

 幾つか特殊能力(スキル)を持っているがそれは腕や指先を使う特殊能力(スキル)だ。手足がなければ何もできない。

<肉体向上>のようなステータスアップの特殊能力(スキル)を使っても動けなければ意味はない。

 

「えーと、翼さん。止め刺します?」

 

 ツルギは取りあえずといった風に問いかけた。

 

「ああ……私の全力を持って、止めを刺してやる」

 

 その言葉に土蜘蛛は笑った。

 

「はっはっはっはっは! まさか俺の最後が芋虫みてぇになってぐちゃっと潰されるとは! 人生何があるかわからねぇもんだ!」

 

 ひとしきり笑った後、土蜘蛛はこういった。

 

「殺せ」

 

「あぁ。殺してやる」

 

 翼は全力で魔装の特殊能力(スキル)を行使する。

<肉体向上>に<肉体超向上><天剣>に<超斬撃>に防御力貫通の<鬼断流>、クリティカルダメージを与える<致命の斬撃>

 

 己が行使できる最大数の特殊能力(スキル)を込めて、翼は空から刃を土蜘蛛の首に向かって振り落とした。

 

 そして──土蜘蛛は首を切り落とされ絶命し、いくつかのドロップアイテムになった。

 

「勝ったぞ……皆」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。