少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します 作:Revak
ダンジョンの土蜘蛛を倒した翌日。朝食後にツルギはカナメに呼び出されていた。
ツルギは領主の館の中を歩き執務室前に行く。
緊張しながら「失礼します」と襖の向こうに向かって話しかける。
すぐに返答が来てツルギは襖を開けて中に入る。
中は普通の広さだ。
本棚が二つに机と椅子が一つづつ。片方の本棚は殆どが埋まっている。
机の上には
そして束になった書類の山が一つ置かれている。
椅子に座るのは風守家当主にしてノクスフィードの領主の風守カナメだ。
「それで、私に何の用でしょうか?」
ツルギが疑問が隠せないと顔に表しながら問いかけた。
「私、ではなく普段の一人称で構いませんよ。それに私には敬語でなくとも結構です。長い付き合いになるのだから、気楽に行きましょう」
ふふ、とカナメは微笑んだ。
ツルギはそれを社交辞令として受け取るか本当なのか悩んだがカナメの目を見て取りあえず言われた通りにしようと決めた。
「わ、わかりました……いや、わかった。それで、何の用なんだ?」
「はい。貴女には領主としての仕事を覚えてもらおうと思います。今後このノクスフィードの領主となるからには覚えておかないといけませんからね」
「……ちょっと聞きたいんですが、優秀な部下に任せるってのは駄目ですかね?」
「敬語になってますよ……そしてそれは当然駄目です。その部下が居なくなったら終わりますし、まずその部下が裏切ったらどうするのですか」
「……自分がいる限りその部下が永遠に存在して、かつ裏切らないとしたら?」
「……そういった
「
ツルギは左の下の手を地面にかざす。
すると光が生じそこには男が立っていた。
人型の妖怪であり着物を着ている。
銀縁の眼鏡の眼鏡をかけている。顔つきは優男といったところだろう。黒髪黒目だ。
身長は百七十五センチ。どこか厳格な雰囲気の教師を思わせる。
「初めまして、風守カナメ殿。我が主ミハカノシノツルギ様の忠実なるシモベ、
「……アンデッド作成
「無限です。術者であるミハカノシノツルギ様が解除するか絶命するまでは永続します。気絶しても存在し続けますよ」
「それは素晴らしい。では両者に領主の仕事を教えるとしましょう」
カナメは机の上の書類を片付けてよそに置く。
机の引き出しを引きそこから地図を一枚取り出した。
「ではまず最初に。この地図の全土がノクスフィードの領地です」
「おぉ……結構広いですね」
広がった地図は結構な大きさを持つ。
ノクスフィードの街が中心にありそこから更に広がっている。
街から少しずれた北東の位置には
南西の方には森が広がっている。
それ以外の地形はなだらかで特に何もない。街の形は真四角だ。それが一番作りやすかったのである。
街から外れたところのぽつぽつと村のマークがある。村は合計二十ある。
この街の特産品はダンジョンのドロップアイテムと闘技場、そして大学ぐらいのものだ。
人口は四十万ほど。先々代のころから区画整理をしっかりしているためスラム街はないが、ホームレスはどうしてもいる。
「なるほど……」
「いずれこの街の地理を完全に理解してもらいますから覚悟するように。そして領主の仕事ですが、単純です。仕事を回すのです」
「仕事を回す?」
「はい。各々回ってどこに何がないかを知り。それをだれがどうすれば足せるかを成すのです。水が足りないところには水を。食料がないところに食料を。武具欲するところに武具を」
「なるほど……」
「自分で持ち込むというのもありですがそれは基本はなしです。極力それを用意できる誰かに頼むのが仕事です。では今日はまず関係各所に挨拶に行きましょう」
「挨拶?」
「えぇ。まずはこの都市内から、次にノクスフィード周辺の村、そして最後に州知事に会いに行きます」
「しゅ、州知事か……」
ツルギはアメリカを思い出す。
州知事となればアメリカの知事クラスの人間だ。
この国ノルドレイン連邦には二十七の州がある。当然二十七人の知事が居るのだ。
このノクスフィードがあるノクタリアの州知事はイグナス・ジェー・ノクタリアだ。歳は四十にもなる。
「では、ここを出て大学へ行きましょう。大学との密接な連携も領主の務めです」
「わかった」
二人はそういうと
■
「これが大学……」
ツルギの中の人、佐藤の学歴は高卒だ。そのため大学に来るのは人生初となる。
大学受験に失敗したとかではなく住んでたのがド田舎で大学なんて行こうにも親が貧乏なので借金して人生終わらせるかしか選択がなかったのだ。
奨学金を借りたところで交通費で詰むしアパートを借りても家賃と光熱費に食費に水道代で詰むしで行きようがなかった人間である。
大学は広い。三階建ての建物が横にも大きく作られている。
ツルギとカナメは護衛の兵士と共に移動する。
カナメの戦闘力はレベル三十八相応あるがそれは翼に継承した
それでもそこらの冒険者に負けるほど弱くはない。
だが護衛というのは本人が強かったら要らない、などではないのだ。
護衛もつけずに移動なんてすれば他所からノクスフィードの領主は護衛も雇えない金なしだと思われるし、舐められる。だから護衛は居る。
ツルギとカナメの護衛の名はククルといい、レベル二十の槍使いの戦士だ。
黒髪黒目の百七十八センチほどの男でガタイはよく筋肉を鍛えるのが趣味の男である。
三人は大学の中に入る。
(こ、これが大学……)
異世界だから日本のそれとは違うが、憧れていた大学である。
この世界、大学というのは真に研究をしたいものが学ぶ場所となっている。
この世界ではクラスの習得によって能力に補正がかかる。
それは何かやっていたことに対し能力を得るのだ。
例えば料理をするならば料理人のクラスを。鍛冶をするなら鍛冶師のクラスを。大工をするなら大工のクラスを。
学ぶという行為はそれだけで生徒というクラスを会得してしまうのだ。
下位の生徒のクラスならばレベルアップで同系統の別のクラスへ置き換えできるが上位の生徒のクラスを得てしまうと置き換え不可になる。その分知性に補正がかかるが。
下手に大学行って変なクラスを得るよりはさっさと就職してその職業のクラスを得た方がいいのだ。
そのためこの世界では基本終身雇用が一般的である。転職するとしても完全な他職業ではなく同業他社に行く。
料理人のクラスでレベル限界まで埋まっていた場合そこから鍛冶師になっても鍛冶師のクラスを得られずガラクタしか作れない、なんてことになるのだ。
故にこの世界では単純作業をゴーレムにやらせるなどはない。仕事量自体はゴーレムにやらせた方が早く終わるが質が露骨に落ちる。
ゴーレム任せで作った家と大工レベル十に作らせた家だと耐久値も頑丈さも長持ち差も何もかも大工のが上になるのだ。
無論緊急時、モンスターによる破壊や自然災害で壊された場合などはゴーレムに避難所を作らせるなどはあるが。
このノクスフィード大学には九人の教授が居る。
モンスター学科。魔法学科。レベル学科。錬金術学科。
それぞれに教授が居て更に八人准教授が居る。
そしてこれから会うのは学長だ。
このノクスフィード大学とは風守家も縁深い。
この大学出身の者が風守家に就職することも多いのだ。
廊下を歩いて暫くすると学長室と書かれた部屋前に辿り着く。
カナメがノックすると「どうぞ」と返事が来た。
「失礼します」
そう言ってカナメが先頭に入りツルギも入る。ククルは護衛なので外で待機だ。
「ようこそ、お客人殿……」
何やら意味深な笑みを浮かべるのは老人だ。
歳は六十にもなろう。白髪である。
眼鏡をかけており、腰が少し曲がっている。
だが瞳は鋭く、こちらを見通そうとしている。
「そちらの方は初めまして。ワシはこのノクスフィード大学の学長のクレーテじゃ。よろしく頼む」
人間の男である。魔法使い系のクラスを収めておりレベルは二十。第三環までの魔法を行使できる。
部屋は広い。
執務机が一つに長机が一つ。長机を挟むようにソファが二つある。
「初めまして、ミハカノシノツルギです。本日はよろしくお願いします」
ツルギが小さく頭を下げた。
それに対しカナメが肘で腹をついた。
「こら。下手に出ない。貴女は既に上の立場なのです。ノクスフィード次期領主は学長よりも上の存在なのですから」
「はい、すみません……」
「仲がよろしいようで。さぁ、どうぞ座ってください」
促されて二人はソファに座る。向かいにクレーテが座った。
「では今日は何の御用時で?」
既にアポを取っておいて理由は知っているがあえてクレーテは問いかけた。
「はい。彼女ミハカノシノツルギがこのノクスフィードの次期領主となりましたのでその紹介に来ました」
「なるほど……てっきりワシは風守翼君が次期領主だと思っていましたが?」
「あくまで彼女は風守家の次期当主です。領主ではありません」
「なるほどなるほど。では今後の大学の問題はミハカノシノツルギ殿に任せればよろしいのですかな?」
「はい。その方向でお願いします」
などと話すがクレーテはツルギを怪訝な目で見る。
強者だとはわかる。だがそれだけだ。実績の一切ない小娘である。
冒険者のランクもそこそこであり白銀級ではない。強いだけの女に風守家の当主は何を期待しているのか、と疑問を抱く。
だが次期領主として紹介されたならば受け入れなければならない。ノクスフィードの未来は暗そうだ、と思っても顔には出さないし口にも出さない。
「ではよろしく頼むよ」
クレーテは右手を差し出した。
ツルギは上の右手を差し出し握手をした。
この行為によってツルギは自分が結構大変なことをしているんだな、という自覚を得た。
あと数話で終わりそうです