少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します   作:Revak

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「うぉぉぉぉぉお!」

 

 二週間後。黄泉綾回廊(よみあやかいろう)にて。

 ツルギは一人第三十層を爆走、いや爆飛行していた。

 既に第二十層のボスは討伐済みである。

 二十一層から三十層は天地がひっくり返った領域だ。

 足元に空があり天井に大地がある。そのため空が飛べないと空の下に真っ逆さまに落ち続けて死ぬ。

 ヴァルザールも人間形態でも問題なく飛べるため問題はない。

 

 空の上には割れた神殿がぽつぽつとあり、空の下の方には雷雲で出来た迷宮がぽつぽつとある。

 

 空を飛びながらこの階層のモンスター天狗や雷獣、夜叉を切り飛ばして行っていった。

 

「ず、ずいぶんと荒れているな」

 

 ランクがこの前ツルギと共に黄金級に上がったヴァルザールが心配そうな声をかけた。

 

「す、すまん……だがこうやって気分を晴らさんとやってやれなくてな……」

「そ、そんなにつらいのか? 領主の勉強」

「単純にやることが多すぎる」

 

 前の肉体はIQ八十以下の雑魚スペックだったがこのミハカノシノツルギの肉体はIQ百二十ぐらいはある。

 そのため勉強が苦ではないが、それでも小学校の勉強からやり直しての勉強である。

 肉体的疲労とは無縁だが精神的疲労は別だ。気疲れはするのである。

 

「はぁ……よし、とっととこの階層のボス倒すぞ」

「わかった」

 

 そういうと二人して空を飛ぶ。

 

 天狗などを蹴散らしながら飛ぶこと二十分。目的のボスエリアを見つけた。

 雷雲立ち込める暗黒空間である。二人とも暗視能力を持っているので昼間のように見通せるため問題ない。

 

 そこに居たのは雷神だ。

 雷の黒雲に乗っているのは二メートルほどの偉丈夫だ。

 黄色い髪に金の瞳を持つ男であり上半身は裸。

 背中には太鼓が浮かんでいる。どこか神聖さを感じさせる存在だ。

 人型だが当然人ではない。この階層のボス荒神・建御雷の影だ。

 建御雷をそれっぽく外見と能力を再現しただけの存在であり大した存在ではない。

 レベルも五十、フィールド効果で五十五と低い。

 

「おんどりゃ!」

 

 ツルギは薙刀に付与した風操作の力で暴風と共に風の刃を幾つもぶつける。

 建御雷にすべて命中し建御雷は真っ二つに斬られた。

 

「どっせぇーい!」

 

 止めとばかりにツルギは急接近し短剣でめった刺しにし、絶命させた。

 幾つかのドロップアイテムに変わり、すかさずヴァルザールが念力の魔法<念力>(サイコキネシス)を唱え回収する。

 ヴァルザールは買っておいた魔法道具(マジックアイテム)無限収納の袋(インフィニティ・バッグ)に収納した。

 

「よし、ボス倒したし帰るか」

「わかった。もう四時だしな」

 

 そうしてツルギはヴァルザールに近づきヴァルザールの転移魔法でダンジョンの外まで転移した。

 

 

 

 

 ■

 

「た、ただいま」

 

 領主の屋敷に戻ってきたツルギはそう発言した。

 一応将来的にはこの屋敷はツルギの物になるらしいので自分の家のように過ごすようにと言われているのでツルギは取りあえずただいまも言っておくかの精神で言っている。

 ヴァルザールは特に気にもしないのでただいまも言わない。

 

 玄関で靴を脱いで屋敷に上がる。

 

「ツルギ様。カナメ様からお呼び出しがあります」

 

 ついて早々女中──メイドのような者──がそう発言した。

 

「カナメさんから? 何用かな」

「勇者様にお会いしてほしいとのことです」

「勇者……あぁ、前言っていた。もう来たのか」

 

 緊張するなぁ、と思いながら女中に着いて行く。

 

 勇者。百年前魔王を打倒した英雄。

 人間ならば老衰で死んでいるが勇者は人間ではない。

 半人半神。人と神の間の子。

 寿命の概念はない異形種だ。

 魔王を倒してからは冒険者ギルドの改革にセルド・グランディアと共に乗り出し今の冒険者ギルドを作った者の一人でもある。

 今のギルドを作ったのは勇者とセルドと一人の魔族だという。

 

 屋敷を少し歩くと客間に着く。

 女中が「失礼します」と声をかけてから扉を開く。

 

「どうも、遅れてすみません」

 

 ツルギはそういいながら中に入った。

 

 客間はそこそこ広い。

 屋敷自体は和風で統一されているが客間はそうではない。

 和室というのはこの大陸ではあまり見かけず、なじみのない文化だ。

 そのためそれを強要するのはどうか、という問題が昔上がって以来客間は洋室の作りになっている。

 客人用の食堂もある。ツルギは行った事無いが。

 

 中は洋室で大きめのテーブルが一つとソファが二つある。

 どちらも高級品で数十万はする一品だ。

 

 向かい合うように女が二人座っている。

 片方には当然カナメが。もう片方には勇者たる女が座っている。

 

 赤い髪と赤い瞳を持つ美少女だ。肌は綺麗でシミやそばかす一つない。

 年齢は高く見ても十代後半にしか見えないが実年齢は百を超えている。

 白銀の鎧を纏い、腰には名高い聖剣カラドボルグを差している。

 

「貴女がミハカノシノツルギね。私はリナ・フェイルーン。よろしくね。敬語とか入らないわ。堅苦しいのは苦手なの」

 

 それを事実としてとらえていいのだろうか。ツルギはそう思いちらりと第三の目だけを動かしカナメの顔を見た。

 カナメの顔にはなるようになるだろうという表情があった。

 

「初めまして、ミハカノシノツルギです……だ。ツルギで良い。よろしく頼む」

 

 とりあえずそれっぽい言動をしておく。

 

「よろしく」

 

 リナはそう言って右手を差し出した。

 ツルギも上の右手を差し出し握手をした。

 

 ツルギは握手を終えるとそそくさとカナメの隣に座った。

 

「で、ツルギさんの昇格試験をします」

「昇格試験、ですか」

 

 ツルギは既に一度昇格試験を受けている。

 それは自身より上のランクの冒険者と戦い打ち倒すという物だった。それによってツルギも黄金級にランクが上がっている。

 

「えぇ。といっても今回は相手を倒す必要はないわ。ある程度戦って力を示すだけでいいの。そして……戦うのは、私」

「ゆ、勇者と戦うんですか……」

 

 やばいなぁ、とツルギは思った。

 ツルギもある程度戦闘経験を積んできて相手の戦闘力がある程度勘でわかるようになってきた。

 その力を用いれば目の前の相手の強さがよくわかる。

 最低でも自身と同程度の力の持ち主だとわかる。

 ツルギは自分が世界最強である勇者と同等の力を持っているという事への重大さの自覚がなかった。

 

「そう緊張しなくてもいいわ。ただの模擬戦だから。ただ今日すぐってわけじゃないわ。一週間後にこの街の闘技場で戦うことになるわ」

「一週間後、ですね。闘技場という事は……見世物になるんですか?」

「そうなるわね。嫌なら風守さんから口利きしてもらって入場制限してもらう?」

「あ、見世物になること自体はいいので大丈夫です」

「ならよかった。じゃあ一週間後、よろしく頼むわね」

「はい、わかりました」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「うーん。勇者との模擬戦か……」

 

 黄泉綾回廊(よみあやかいろう)第三十五層。

 赤黒く脈動する迷宮の中をツルギとヴァルザールは進んでいた。

 出現するモンスターは神話をモチーフにしたモンスターばかりだ。

 八咫烏。なまはげ。鵺などだ。

 といってもどれもツルギとヴァルザールにとっては雑魚同然だ。敵にならない。

 レベル差が十あれば敵にならないこの世界でレベル三十代のモンスターなど敵ではないのだ。

 ばったばったとなぎ倒しドロップアイテムを回収しながら二人は奥へ奥へと進んでいく。

 このダンジョンがどこまであるかわからないがそれでもこのダンジョンのボスとて敵ではないだろう。

 

「ん……なんだ、隠し扉があるぞ」

 

 歩いているとヴァルザールが壁を叩き壊した。

 瓦礫となり隠された道が露になる。

 

「壊してどうする……けど、まぁ行ってみるか」

 

 自分たちなら大丈夫だろうという謎の自信があった。

 ツルギを先頭に二人は隠し通路へと進んでいく。

 

 瞬間、景色が切り替わった。

 

「んな、強制転移?! いや、幻術か?!」

 

 転移系魔法のトラップ自体は一部ダンジョンで見られるがこの黄泉綾回廊(よみあやかいろう)で見たことはない。

 初めての転移トラップにかかりツルギは周囲を見渡す。

 

 そこは江戸時代の街並みが広がる橋の上だった。

 くるりと周囲を見てもヴァルザールの姿はない。

 

「まじか、一人か……」

 

 さて困った、とツルギは頭を悩ませた。

 ツルギに空間転移能力はない。

 結界を張ればその結果以内の空間を弄ることで疑似的な空間転移が出来るが今ここで張ってもその範囲内でしか転移できない。

 一応空間移動術が使える眷属を創造するというのもありだがその眷属も二体で一つの眷属で同じ場所に居たら同じ場所にしか転移できないという欠点を持つ。

 そのために自力でこの場の謎を解いて脱出する必要があった。

 

「ん……」

 

 どうするかと悩んでいると足音が聞こえてきた。

 橋の向こう側から人型の者が歩いてきた。

 

「べ、弁慶?」

 

 そこにいたのは大衆的なイメージが実体化したような姿の弁慶だった。

 二メートルを超える巨体。裹頭で頭を五条袈裟でおおい素絹という衣のしたに腹巻をつけた軽便な歩卒用甲冑の姿をしている。

 背中には何十という刀が入った籠を持ち、右手には薙刀を持っている。

 薙刀は見た目だけで恐ろしさと鋭さがわかる武器だ。

 柄は長く刃先は長い。刺突ではなく斬撃に特化した形に見える。

 

 ツルギは武器を構える。

 

「その武器、よこせぇい!」

 

 仮称弁慶が薙刀を手に突撃してきた。

 ツルギは薙刀を持って防ごうとするも弁慶の薙刀によってすぱっと斬られた。

 

「何っ」

 

 ツルギの薙刀も妖力で強化した状態だった。例えアダマンタイトの刃であっても斬るのは困難だろう。

 それがいともたやすく斬られたという事に動揺しツルギは一瞬動きが止まった。

 その隙を見逃す弁慶ではない。振り上げによってツルギの胴体を切り裂いた。

 

「いてぇ!」

 

 ツルギは痛みに悶えた。

 

 服事胸が着られ、血が噴出する。

 

(俺が斬られた?!)

 

 ツルギは自身が斬られたという事に驚愕しながら後ろにジャンプして距離をとった。

 服とブラが斬られたことで己の豊満な胸が露出するがツルギは気にする余裕はなかった。

 ツルギは斬撃に対し九十九パーセントの耐性を持つ。そこから装甲によるダメージ減算があるので防御力はもっと高い。

 そのためこのダンジョンのモンスターではツルギにカスダメージすら与えることは困難だ。

 それが可能なのは弁慶のレベルの高さと持つ薙刀の力だ。

 岩融(いわとおし)というこの薙刀はいくつか能力を持つ。

 その一つが空間斬。相手の防御力の一切を無視し空間事相手を斬る力だ。

 ツルギの背の黒い輪が回転し空間斬に対する耐性を会得し始めた。

 それを感じたツルギはならば問題ないと短剣の雷の力を行使する。

 六つの雷が招来し弁慶に直撃した。

 

 すかさず続いて薙刀を作り直して突きを繰り出す。

 

 相手は雷の打たれたというのに動きは鈍らずツルギの薙刀に合わせ突きをずらしてきた。

 だがツルギにとってもそれは想定内。肉薄し短剣で刺そうとする。

 それを相手は読んでいたのか蹴りを放ち短剣をそらした。

 ならばとばかりにツルギは腹の口を開け口から妖力砲を放った。

 

 黒い光に弁慶が包まれ奥へと飛ばされた。

 

(まずは再生しながら万剣胎動で遠距離攻撃だ)

 

 ツルギはそう思い霊力を活性化させ自己再生を早めつつ百の剣を生み出す。

 

 光が晴れた後、そこに居たのは全身にダメージを負った弁慶だ。

 油断することなくツルギは百の剣を弁慶に飛ばした。

 

「ぬぅん!」

 

 弁慶はそう叫びながら薙刀を振るった。

 暴風が巻き起こる。

 ツルギ自身気を抜けば飛ばされるのではないかと思えるほどの強力な風だ。

 風によって剣があらぬ方向に飛んで行き橋や遠くに見える家屋に突き刺さった。

 

「んなっ」

 

(くそ、遠距離攻撃は駄目だな。接近戦も辛いが……いや、こちらには再生能力がある。痛いだけだ!)

 

「行くぞゴラァ!」

 

 ツルギは自分を鼓舞するように叫びつつ突撃した。

 弁慶は「こいっ」と薙刀を構えた。

 

 ツルギは弁慶の薙刀をうまくよけ突きを放つ。

 お互いに行動を妨害しつつ攻撃をするターンが続く。

 

 ある程度距離が近づいてくる。

 ツルギはすかさず第三の目に妖力を集め黒い光の光線、妖力砲を放った。

 だが二度目となると弁慶も予測していたのか少し前に大きくジャンプすることで避けた。

 

 それも当然ツルギは読んでいた。戦闘者として戦ってきたのだから相手の動きを予測するぐらい訳はない。

 

 弁慶が跳んだ先に妖力砲を放つ。

 黒い光によってふたたび弁慶の全身がダメージを負う。

 ツルギは少し後ろに歩き、弁慶に向かって薙刀を立てた。

 見事に弁慶は落下し、薙刀にってその胸が貫かれた。

 

 更に止めとばかりにツルギは薙刀の風操作の力で内部から風の刃を発生させた。

 内側から体を切り刻まれ、弁慶は死亡しドロップアイテムとなった。

 

「あれ、これドロップアイテムか?」

 

 弁慶は五個の結晶のドロップアイテムと使っていた薙刀を落とした。

 

 本来ダンジョン内で死んだ者は全てドロップアイテムとなる。だが弁慶の薙刀だけはその場に残っていた。

 気になってツルギが薙刀岩融を手に持つと風景がぐにゃりと変わった。

 

 元居た赤く脈打つ迷路に戻ってきたのだ。

 

「お、無事だったか。探したぞ、ツルギ」

 

 そこにはヴァルザールの姿があった。

 

「心配かけてすまん。それとこれに鑑定魔法かけてくれないか?」

「戻って早々に……まぁいいが。<上位道具鑑定>(スペリアアプレイザル・アイテム)

 

 ヴァルザールは第五環の鑑定魔法を使った。

 瞬間ヴァルザールは冷や汗を流した。

 しばらく経ってから、ヴァルザールは神妙な顔で口を開いた。

 

「……おい、それ、神器だぞ」

「神器? 何それ?」

 

 ツルギは神器というのを知らずヴァルザールに問いかけた。

 

「神々が残したとも世界の創世の欠片とも呼ばれるアイテムだ。それが持つ力は凄まじく、一つあるだけで国のパワーバランスを崩す……」

「……マジ?」

 

 ツルギは自分が持っているのが相当にやばい物だと自覚し始めた。

 

「……これ、口外したらどうなるかな」

「……お前を殺してでも手にしようとする者がわんさか湧いてくるだろうな」

「……売ったりするのは駄目だな。どこか封印しとくか?」

「神器を封印するのはもったいないが……まぁ、安全性を考えるならそれが一番だな」

 

 ツルギとヴァルザールはうーんと悩む。

 

「まぁ、鑑定魔法かけられなければバレることも早々ないし……これ便利そうだし、普段使いするか」

「……お前がいいなら、いいが」

 

 こうしてツルギは神器を手に入れた。

 

 

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