少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します   作:Revak

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第2話

 

「どこだここ」

 

 女は一人呟いた。

 

 異形の女である。

 身長は二メートルを超えている。

 それだけなら珍しいだけの女だろうが、体は異形そのものだ。

 まず頭の両方の側面から角が生えている。

 そして額には第三の目が開眼している。

 それだけでなく右肩から左わき腹に向かって牙のついた口がついているのだ。時折動いている。

 更に腕の下の脇からもう一対腕が生えていることで四本腕となっている。

 最後に背中には真っ黒な輪がある。一メートルを超える輪だ。

 因みに胸は一メートルを超えるデカパイであり、乳首を隠す小さい布がついているが乳輪が少し見えている。

 下着も女性器だけを隠せばいいだろ見たいな布で少し動けば中身が見えそうである。

 腰まで届く長髪の黒髪に赤い瞳の優れた容姿の異形の女であった。

 

「なんやこの体」

 

 女は己の体を見て疑問を抱いた。そしてこの体の特徴と己のうちからあふれる力を感じ取り判断を下した。

 

「……ミハカノシノツルギ?」

 

 ミハカノシノツルギとは少年漫画斬炎の陰陽師に登場するラスボスである。

 妖怪が使う妖力と人間しか使えないはずの霊力両方を使う特異なラスボスだ。

 

「え、なんで俺ミハカノシノツルギになってるの?」

 

 女は四つの腕を組んで考えるも答えは出ない。

 

 女はフリーターだ。

 よくいる元ニートのフリーターでバイトを休みがちなフリーターであった。

 尚実家暮らしなので生活は苦しくならないというクソ野郎である。

 

 本名は佐藤健太郎。元男である。よくいる一般人といっていいだろう。

 だからこそ女は疑問に思う。神にあったわけでも事故ったわけでも何かしらの超常現象に遭遇したわけでもない。

 いつも通り仕事して飯食って風呂入って寝ただけなのに起きたら少年漫画のラスボスになってました、なんて意味がわからない。

 

 ていうかまず己はどこにいるんだ、とミハカノシノツルギ──ツルギは空を飛ぶ。

 

 上空百メートルに滞空する。

 本来人は空なんて飛べないはずだがツルギは元からそれが出来て当たり前のように空を飛んで滞空できた。

 

「うーん。知らん土地だ」

 

 さてどうしたものか、とツルギは考える。

 食事も睡眠も呼吸も不要のこの体。

 更には結界術で異空間を作り出すことも可能。

 その気になればこの場所に城を作って暮らすことも可能となる。

 

 そのため単独での生存は可能だが、この世界が何なのかという疑問がある。

 

 妖魔界、ミハカノシノツルギが登場する漫画斬炎(ざんえん)の陰陽師の妖怪が住まう世界ではなさそうだ。

 妖魔界はミハカノシノツルギがトップとして君臨している。

 内容は結構ひどくミハカノシノツルギとその直属の配下の十二使徒が王として君臨している。

 残るほかの妖怪や魔族は奴隷として扱われているのだ。

 そして時間は常に黄昏時のためツルギが今いる場所は昼間の平原。妖魔界ではないとわかる。 

 

 取りあえず飛ぶかと適当に空を飛ぶ。

 

 そうして空の旅を五分ほど楽しむと砦を見つける。

 古い砦だ。壁のいくつかは壊れ、門の木は腐っている。

 

 砦の中の中庭にツルギは降りる。

 

(日本の作りじゃないな。洋風……というか西洋風?)

 

 ふむ、と上の手を顎に当てながら考える。

 

 四つの腕という異形の体であっても元からこうであったかのように使えるのは何のおかげか。

 

 疑問を抱きながら周囲を見る。

 人影どころか人の気配すらない。

 放置されて十数年は立ってるようで壁に苔が生えているし雑草は伸び放題だ。

 

 砦の中に入る。

 中は広間で机とテーブルが幾つかある。

 奥には樽がある。

 

 近づいて匂いを嗅いでみる。

 

「アルコールか?」

 

 気になって破壊してみると炭酸飲料特有のシュワ、という音ともに中身が溢れ出た。

 

「うぅむ、わからん」

 

 ツルギの元となった人間、佐藤健太郎の頭の出来は良くない。

 IQにして八十程度だろう。平均ぎりぎりである。

 

 だからアルコールがあって腐ってないというのが分かってもだからどうしたという事しかわからなかった。馬鹿である。

 

 ツルギは階段を上って屋上へと上がる。

 屋上に安全柵などはなく危険だ。

 

 良い眺めだな、と空を見る。

 

「ん?」

 

 そこには奇妙な者があった。

 黒い点だ。それはこっちに近づいてくる。

 

「うわ。変な女がいる」

 

 その点は近づいてくるとそう呟いた。

 点だと思ったそれは生物だった。

 人間型ではあるが人間ではないだろう。背中から黒い天使のような翼を生やしているのだ。

 紫色の短髪と瞳。黒いコートをまとっている小柄、身長百五十二センチ程度の姿。

 顔つきは幼く十六歳程度に見える。見た目からは判断するなら女の子だろう。胸には黄金のプレートを下げている。

 空からゆっくりと降りてツルギの前に立つ。

 

「えっと……何者ですか?」

 

「そっちが先に名乗ってよ。人にものを訪ねるならまず名乗るのが礼儀ってもんでしょ」

「……そうか。俺はミハカノシノツルギだ」

「長ったらしい名前だなぁ。僕ルシフェル」

「ルシフェルだと?」

 

 ルシフェル、世界的に有名な神話の堕天使だ。

 魔王サタンとも同一視されることもある悪魔であり堕天使だ。

 

「いきなり呼び捨って、まぁいいけど。ここで何をしてるの?」

「……記憶を失って、ここがどこで何なのか調べていたんだ」

「ここで目が覚めたの?」

「いや、ここの近くの草原で目が覚めて。何が何だがわかってなくて……」

「……ふーん。ここがどこか教えてあげる。ここはロブルカス王国のグラート平原だよ」

「……王国? グラート平原?」

「……ふぅん」

 

 ルシフェルは何か納得したような素振りを見せるがツルギはまるで意味がわかってなかった。

 世界史で聞いたこともない国の名に平原。混乱が加速する。

 

「一応聞くが今は西暦何年?」

「西暦? ……あぁ、ここじゃ西暦じゃなくて神暦(しんれき)で、百一年だよ」

「……しんれき?」

 

 まるで意味が分からん、とツルギは空を仰いだ。

 

「まぁいいや。近くの町まで案内してあげるよ。空飛べる?」

「飛べるが……」

 

 ツルギはふわりと空に浮かぶ。

 

「わかった。じゃあついてきて」

 

 ルシフェルが飛んで行く。

 

「ちょ、おま!」

 

 思ったより高速で飛び慌ててツルギは本気の速度で空を飛ぶ。

 だが追いつけない。ツルギの飛行速度はマッハまで出せるはずだが追いつけない。

 見かねたルシフェルがわざと速度を落としたことで何とかついて行ったがこれではラスボスの面目丸つぶれである。

 

 そうして飛ぶこと五分、ルシフェルが降りたことでツルギも降りる。

 降りた先にあったのは街だ。街の門前にルシフェルとツルギは降りる。

 

「ついたよ。ここがグラートの街」

「……平原と同じ名なんだな」

「というか平原が街の名と同じって感じだね」

 

 二人は歩いて門へと近づく。

 

(でっけぇ門)

 

 ツルギは門を見上げながらそう思う。

 日本では地震が怖くてできない作りだ。街は壁に囲われており壁も十メートルはある。

 門も五メートルはある。当然自分の身長より高い。門は開いている。

 

 ルシフェルは歩きながら翼を消した。

 ツルギは輪を消すことは出来ないのでだしっぱである。

 

「おや。見ない顔ですね」

 

 そこに門の前に兵士がいた。

 鉄の槍を持った軽装鎧の男だ。

 それを見てツルギは(やっべこの体どっから見ても異形だから退治される!)と慌てた。

 肉体はラスボスなので雑に暴れるだけで街一つ更地に出来るが人殺しなど御免である。

 

「そちらの方は?」

 

 兵士はツルギを見ても不快感を示さず問いかける。

 

(あれ? 異形にも優しい?)

 

 どういう事だろうと疑問を持ちながらツルギは口を開く。

 

「俺はミハカノシノツルギという、記憶喪失の身で、この人について行っている」

「なるほど、そうでしたか。どうぞお通りください」

 

 異形という怪しい身なのに身体検査すらないらしい。

 ツルギが知らないことだがこれには理由がある。

 いちいち身体検査なんてしてられないのだ。

 武装するのが一般的なこの世界では武装してるからと止めるわけにはいかないし無限収納の腕輪(インフィニティ・ボックスリング)という異空間に物資をしまえる魔法道具(マジックアイテム)もあるため調べたところで無意味なことが多い。

 そのため身体調査などしないのだ。

 といっても貴族の屋敷などだったら形式上することもあるが。

 

「おぉ……」

 

 街の中に入ったツルギは感嘆の声を漏らした。

 

 薄々察してはいたが西洋風の街だ。

 赤いレンガの家々が立ち並ぶ。

 パン屋のパンのいい香りがし、待ちゆく人々は笑顔だ。

 そして異形も交じっている。

 二メートルほどの大きさの岩の集合体のロックモルド。

 半分水色の液体のスライム系種族のグロウムなど、異形種が住まう。

 

 この世界には人間種以外にも亜人種や異形種が住まう。

 人間を基本として大きく外れてないのを人間種とし、人間以外にエルフやドワーフが該当する。

 亜人種は人間から少し異形の要素がある者たちだ。翼が生えていたりケモミミが生えているなど。

 異形種は寿命がない種族、もしくは完全な異形の者が該当する。スライムだったりスケルトンだったり。

 

(なるほど、道理で俺が止められない訳だ)

 

 ロックモルドなどを見ながらツルギはそう思う。

 こういった異形が居るなら自分という異形も受け入れられるだろう、と。

 だがそれと同時に羞恥心を感じる。

 ほぼ全裸の格好の女が街中を歩いていれば注目されて当然だ。ツルギは少し顔を赤くした。

 

 ルシフェルは無言で街を歩く。

 心配になったツルギが話しかける。

 

「どこに行くんだ?」

「ん-、冒険者ギルド。君たちそういうの好きでしょ」

「……何をする場所なんだ?」

 

 名前と異世界物のテンプレートから察しつつ問いかける。

 

「モンスター退治をする場所だよ。そこならいくらでも仕事があるからね」

「嫌なんだが」

「はっ?」

 

 ルシフェルは信じられないといった顔で振り向いた。

 

「戦うとか……怖いだろう。怪我もするだろうし、危ない仕事じゃないか」

「えぇ……?」

 

 ルシフェルは信じられない者を見る目でツルギを見た。

 

「君その見た目で戦いたくないは嘘でしかないでしょ」

「戦うなんて怖いだろ! 俺はか弱いおと……乙女だぞ!」

 

 乙女ではないので言うか迷ったが今の体は女なのでいいかと乙女と言い切った。

 

「乙女じゃなくて女傑の方があってるんじゃない?」

「見た目で判断するな!」

 

 ツルギは怒った。確かにこの見た目は女傑であり野蛮さを感じさせるだろう。

 更にほぼ全裸の格好は何かの部族かと思われても仕方がない。

 だが内心は恥ずかしいのだ。顔には出してないがこんな全裸で街を歩くなど羞恥プレイにもほどがある。

 だが今は頼れる人がルシフェルしかいないのでルシフェルに黙々とついて行っているだけなのだ。

 

「……まぁいいや。面白いしいいよ。もうすぐだから我慢してついてきて」

「いや、戦いたくないんだって!」

「冒険者の中には戦わない仕事もあるだろうから、登録だけでもしとこうよ」

「……わかった」

 

 更に五分ほど歩くと木造のでかい建物に辿り着いた。

 門はウェスタンドアだ。ドアをくぐって二人は中に入る。

 門は大きく二メートル以上ある為ツルギもしゃがむことなく入れた。これは異形種を入れるためだ。

 

 中に入ると視線に晒される。

 特に男からの目線が強い。胸と股間に集中する。

 思わず四つの手で体を隠したが更に視線を集める結果になった。

 

「馬鹿やってないで行くよ」

「わ、わかった」

 

 受付へと進む。

 受付にはエルフの女がいた。金髪緑眼の優れた容姿の女だ。

 黒いスーツを着用している。

 

「いらっしゃいませ。本日は何用でしょうか?」

「こいつの冒険者登録をしたい」

「新規登録ですね。そうなると千セラかかりますが……」

「はい」

 

 ルシフェルは左手に着けた腕輪、無限収納の腕輪(インフィニティ・ボックスリング)から財布を取り出し千セラ紙幣を出した。

 セラというのはこの大陸での通貨であり女神の名でもある。

 

「ありがとう、ルシフェル」

「ま、紹介した身としてこれぐらいはね」

 

「はい、ちょうどお預かりします……ではこちらの容姿に名前と職業をご記入ください」

 

 受付嬢は書類を渡す。

 ツルギは書類を見る。それはよく見た言語だ。

 日本語がそのまま使われているのだ。

 

「えっと、……これ、日本語ですか?」

「ニホン語……いえ、これは賢語というものですが……」

 

 受付嬢は頭にはてなを浮かべながら返答した。

 取りあえずツルギは名前を書いた。もちろんミハカノシノツルギと書いておいた。

 

「ねぇ。職業って何書けばいいの? 希望の職種?」

「いや戦士とかのクラスの事だよ。何かついてるだろ?」

「えぇ……じゃあ、妖術師かな……」

 

 ミハカノシノツルギは妖術も多数行使する。

 弾幕を展開することだって出来るのだ。

 簡単な妖術や結界術、霊術や陰陽術だって使えるパーフェクトラスボスなのである。

 

「はい。ありがとうございます。こちらが冒険者の証であるプレートです」

 

 受付嬢は引き出しから銅のプレートを出した。胸にかけれるようネックレス型である。

 ツルギはそれを受け取り胸にかけた。

 

「冒険者にはランクがあります。最上位の白銀級、次に黄金級と白金級、鋼級、鉄級、そして最下位の銅級です。誰もが最初は銅級ですがレベルアップと以来の達成数に応じてランクが上がります

 ではよき冒険者ライフを。依頼はあちらの掲示板から受け取ってください」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 そういうと二人は受付から離れ掲示板に行く。

 

「ここで依頼を受けて暮らせばいいのか」

「そうだよー。君ならモンスター退治受けて稼ぐのが楽だろうね」

「いやだから戦うのは怖いって!」

 

 一般的日本人の感性として戦うのは怖いのである。

 命を奪うなんて日常的にはしない。しても蚊を殺すぐらいだ。

 因みに佐藤はゴキブリすら怖くて逃げ回るレベルである。

 

「……ちぇ。まぁ気が向いたら戦ってよ」

「痛いの嫌だって……」

 

 そういいながら掲示板を見る。

 見ればモンスター退治の依頼の方が多いが、銅級向けは殆どない。

 銅級で受けられるのはどぶ掃除に街の掃除に下水道の掃除に街の外への薬草採取。最後にゴブリン退治だ。

 

「よし。街の掃除の依頼を受ける」

「ふーん。そっか。じゃあこれ上げる」

 

 ルシフェルは財布から一万セラ取り出した。

 

「え、いや受け取れないよ!」

「受け取らず今日の宿とかどうするつもり?それにその服もどうにかしないといけないし、当面の生活費はいるでしょ」

「そ、そっか……いつか返します」

「十年後とかでもいいよ。じゃあ僕は寄るとこあるからじゃねー」

 

 そう言ってルシフェルはギルドから出て行ってしまった。

 

 ツルギは一人掲示板を見て依頼書を探す。

 

「よぉそこの姉ちゃん。冒険者になったばかりだって?」

 

 そこに一人男が話しかける。

 中年の男だ。軽装鎧に魔法道具(マジックアイテム)の剣を下げている。

 

「そうですが……何か?」

 

 はて何の用だろうかとツルギは疑問を抱きながら返答する。

 

「いい体してんじゃねぇか。一発やらせろよ。そしたら仲間にしてやってもいいぜ」

 

 にやにやとした笑みを浮かべながら男はそういった。

 

(一発て……ビッチじゃないが)

 

 ツルギはセクハラ変態男相手にどうするか悩んだ。

 下手に暴力振るえば相手が消し飛ぶかもしれないしだからと言って受け入れるのは性自認が男であるのでなしだ。

 

「いえ、結構です」

「そんなエロい格好しといてなしはねぇだろ」

 

(それはそう!)

 

 ほぼ全裸みたいな見た目なのでビッチと思われても仕方がない部分はある。ツルギは内心同意した。

 だが見た目がそうでも中身は違うのだと訴えたい。訴えても意味はないが。

 

 男はわしわしと腕を動かしながら胸を掴もうとする。

 

「やめてください!」

 

 思わずと言った風にツルギは腕を弾いた。

 結果、男は吹き飛んだ。

 真横に吹っ飛んでいきギルドの壁をぶっ壊して壁尻状態になった。南無三。

 

「……やべ」

 

 ツルギはやってしまった、と冷や汗を流した。

 

「……ミハカノシノツルギさん」

 

 受付から受付嬢がやってきて声をかける。

 

「……はい」

 

 ツルギは審判を告げられる罪人のような気持ちで受付嬢に振り向いた。

 

「壁の修理代、お願いします」

「………………ルシフェルさんにつけといてください」

 

 ごめんルシフェル。ツルギは心の中で誤った。

 

 

 

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