少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します 作:Revak
「うおー緊張する」
約束の勇者との模擬戦の日。ツルギは昼から闘技場の通路で頭を抱えていた。
勇者が戦うとなればそれは相当な話題を呼び、街の人間の殆どが闘技場に来ている。
といっても闘技場にもキャパがあるので満席になった程度だが、それでもその数は三万人にも上る。
三万の人に見られながらの戦いは初めての事で胃痛が襲ってきそうな不安感があるのである。
「気合入れろ俺……やらなきゃやられるんだから」
この戦いの結果でツルギが白銀級になれるかどうかがかかっている。
白銀級への昇格方法はただ一つ。勇者と戦ってその力を示すこと。倒す必要はない。
『さぁ、入場するは瞬く間に黄金級に上り詰めグラートの街を救った英雄にして、次期このノクスフィードの領主、ミハカノシノツルギだ!』
ツルギは入場宣言を受けて慌てて入場口へ向かう。
暗い通路から一転し明るい闘技場の地面が見えてくる。
闘技場の大地は砂で出来ている。転ぶと怪我をしそうだ。
ツルギは既に武装している。
右の上の手には岩融を。下の左手には雷の力を持つ短剣を持っている。
ツルギが入場したことで闘技場がわっと湧いた。
ツルギは見てくれはいいのだ。傾国の美女と呼べるほどではないが、それでも充分美人の類である。
『続いでは魔王を打倒した英雄! 今を生きる勇者リナ・フェイルーン!』
ツルギが来た出口とは別の反対側の出口からリナが出てきた。
白銀の鎧を纏い、腰には名高い聖剣カラドボルグを差している。
リナは聖剣を抜いた。
夜空のように輝く剣だ。
刀身は分厚く夜空の星々の輝きを持っている。
これこそが聖剣カラドボルグである。
『では両者見合って……』
お互いに武器を構える。
『はじめ!』
瞬間両者全力で駆け出した。
初速から音速の走りだ。闘技場にかけられた防御結界がきしむ。
この防御結界は余波を防ぐための物だ。代々使っている
(んなっ)
ツルギの岩融とリナのカラドボルグが衝突する。
岩融の空間斬の効果が出ていない。
これには訳がある。神器使い同士が神器の能力を使った場合相殺され無効化されるのだ。
そのためお互いに神器の能力を使えない状態になっている。
ガリガリと嫌な音が響く。
ツルギは腹の口を開き妖力砲を放った。
それを瞬時に悟ったリナは真横に飛ぶことで回避する。
回避された先にツルギは短剣を振るい雷を六つ落とした。
雷が直撃する。
この雷は本物の雷と同程度の威力を持つ。その程度の力しかない。
レベル九十もある勇者リナにとっては雷に打たれた程度大したダメージにはならない。
雷に打たれた直後にリナは<空裂斬>を放つ。
飛ぶ斬撃だ。飛ぶ斬撃の癖に射程は短いがその分威力は高い。
ツルギは薙刀を振るって打ち消す。
その動きの隙をついてリナが突進。突きを放つ。
ツルギはとっさに左手の短剣で弾こうとするも腕力が足りず弾ききれなかった。
突きがツルギの胸を差し、とっさにツルギは後ろにジャンプすることで突きを奥まで届かせなかった。
「……あなた、その武器ぐらいしかいいの持ってないわね」
リナは一連の動きを見てそう判断した。
戦闘者にとって装備とは必需品である。
装備の有無でレベル換算にしてプラス一から十までの補正がかかるのだ。リナのレベルは実質百相応といってもいいだろう。
だがツルギはまともな装備が岩融しかない。それ以外は単なる服と能力で作っただけの短剣だ。
だから同じレベルであっても押されたのだ。
「まぁ、そうですけど……」
「自分の能力に会った装備を買うか、作ってもらいなさい。そしたら貴女はもっと伸びる……話はこれぐらいで、行くわよ!」
「はいっ!」
両者駆け出し衝突する。
ツルギの怒涛の突きをリナがカラドボルグではじくのが続く。
ツルギは短剣を使い攻撃を加えようとするとリナが斜め上にジャンプし回避する。
上からリナが幾つかの
(単純な膂力だけで防いだな……
リナは考察しながら地面に降り立ち、再度ツルギと衝突した。
両者高速で動き回りながら戦いを続ける。
ツルギは万剣胎動の力で千の武器を作りそれをぶつけつつ戦い、リナは持ち前の勇者としての高レベルのステータスを持って防ぎながら隙をついてはツルギに肉薄し斬撃を放つ。
だが何度かツルギにダメージを与えてもそのほとんどがカスダメージ、皮膚を浅く裂いた程度な上すぐさま再生される。
「ちょっと本気出すか」
リナは一旦止まり己が行使できる最大の
<肉体向上><肉体超向上><真・肉体向上><神・肉体超向上><超斬撃><致命の斬撃>
その他合計十八の
それとツルギは正面から衝突し──力に耐えきれず腕がぐにゃっと変な方向に折れた。
「うそ、その程度?」
リナは本気で、相手を殺す気で力を放った。
最低でも右半身ぐらいは消し飛ばず気で放った攻撃は腕一本を折る程度で終わった。
これはツルギが持つ耐性会得の力でほとんどの攻撃に対し九十九パーセントの耐性を持つからの結果だ。
その頑張って折った腕も瞬く間に再生される。
「……なら次は打撃ね」
リナはカラドボルグを投げ捨てた。
(おそらく斬撃に対する高い耐性を持ってるわね。じゃあ打撃で攻めましょう)
この世界で攻撃に対する完全耐性を持つ敵は珍しくはない。
スケルトン型のアンデッドなどは冷気と雷、そして刺突に対する完全耐性を持つ。
その代わり炎と聖属性、打撃に対する高い脆弱性を持つのだ。
ツルギもそういった存在であるとリナは予測する。斬撃に対し完全耐性か高い耐性を持つ代わりに他の何かに対し脆弱性を持つはずだと。
実際はほぼすべての攻撃に対し九十九パーセントの耐性を持つ化け物だが。
<肉体向上><肉体超向上><真・肉体向上><神・肉体超向上><致命の打撃><破城撃><禍撃><絶界震><天崩拳>
更に他の
だが、ツルギはたいして動じなかった。
打撃に関しても九十九パーセントの耐性を持つのだ。専門職でないのだからたとえ勇者の攻撃でも大したダメージを受けるわけがない。
お返しとばかりにツルギは蹴りを放った。
リナも蹴りで相殺し、距離をとる。
「
勇者はレベルに応じてあらゆる魔法を習得できる。
勇者のクラス一レベルにつき一つ、という具合だ。
そのためリナは五つの魔法をあらゆるクラスや種族制限を無視して習得している。といっても自身の知らない魔法は習得できないが。
リナが使った
瞬間ツルギの体が炎に包まれる。
紅く太陽を思わせる炎の色だ。全身が包まれる。
「効かん!」
だが炎から無傷のツルギが飛び出してきた。
ただし服は炎耐性を一切持ってなかったので焼けてなくなっていた。全裸のツルギが露になった。
それによって闘技場の観戦者の一部、特に男たちからわっと歓声が上がった。
ツルギは己が全裸になったことを気にもせず岩融で攻め立てる。
リナはカラドボルグを手元に呼び戻しカラドボルグで防ぐ。
ツルギの怒涛の攻めだ。何の
防いでなお衝撃がリナの体を巡る。
(魔法も効かない、斬撃も、打撃も効かない。どうしろっちゅーねん!)
リナは内心で愚痴を吐いた。
リナが出来ることで試してないのは刺突ぐらいだかそれにも耐性を持ってそうだとリナは予想する。
そして実際それは正しい。ダンジョン突入前にあらゆる想定できる限りの攻撃に対して事前に受け耐性を会得しておいたツルギは刺突も当然耐性を持っている。
仕方がないので大人しくカラドボルグで戦う。
剣と薙刀が衝突し合う。
硬い金属同士がぶつかった嫌な音が響く。
ツルギは万剣胎動の力で剣を作りそれを自立稼働させつつ戦う。
付与した効果は空間斬。これによりリナの防御力を無視してダメージが入る。
だが数度かするとそれを察したリナが回避に全振りするため当たらなくなる。
ならばとばかりにツルギは空に飛びあがって浮遊する。
今度は百の剣を作りだす。付与した効果は爆発だ。
「射出!」
その声と共に百の剣がリナに向かって突撃した。
「
リナは慌てず防御結界の魔法を唱えた。
白く輝く檻にも似た結界が貼られる。
これは使用者の消費魔力に応じて規模が変わる。大聖女ファリエルが使えば十キロを覆う結界となるだろう。
リナは自分だけを守るために半径五メートルにしておいた。
結界に剣がぶつかり爆破が起こる。
連続でぶつかっていき爆発が連続で起こる。
そして丁度百本目の剣がぶつかり爆破を起こした事で、結界が破壊された。
壊れるのを読んでいたリナとツルギ両者が瞬間ぶつかり合う。
空で飛行によるブーストがかかっているツルギの方が押していき、リナの足が沈んでいく。
「<聖撃>!」
リナが聖剣が持つ
光り輝く刃が発言しツルギが真っ二つに斬られた。
だがダメージはない。同じ神器を持つもの同士、その力は相殺され無効化されるのだ。
ダメージが入らなかったことにリナは驚きつつも距離をとった。
ツルギも地面に降り立ち自分の体が何ともないか触診で確認する。
「……あなた、相当強いわね。うん、いいわ……」
ふぅ、とリナはため息をつきながらカラドボルグを鞘に納めた。
「試験は合格! あなたを今日から白銀級冒険者として認めます!」
瞬間わぁっと歓声が沸いた。
九人目の白銀級冒険者の誕生。めでたい事であった。
「やった!」
ツルギは左手を上げ笑顔を浮かべた。
笑顔を浮かべるツルギに対しリナは
「女性がむやみに肌を晒すものじゃないわ……あなた、見合った装備を付けないと簡単に裸を晒すことになるわよ」
「それは……きちんとしないとだめですね」
露出狂ではないのだから裸を一般市民に見せつける趣味はない。
装備を買わねばならぬとツルギは固く決心した。
「じゃ、冒険者ギルドに行きましょ。白銀級についていくつか説明しないといけないこともあるからね」
「わかった!」
そうして二人は闘技場を後にした。
「まずは着替えてからだけどね」
「……はい」