少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します 作:Revak
「これが白銀級冒険者の持つ権利一覧よ」
「ありがとうございます」
模擬戦を終えた後、ツルギとリナは冒険者ギルドの客室に来ていた。
ふかふかのソファに座りツルギは渡された書類を読む。
二枚ほどの書類だ。一番最初の文を読んでツルギは驚いた。
(うわ。働かなくてもお金貰えるのかよ)
白銀級冒険者は月三十万セラ貰えると書いてあった。太っ腹である。
だいたい通貨の価値が日本と同じなこの世界で三十万セラとは大金である。
他にも権利が幾つかある。通行税や関税の完全免除に国境を勝手に超えて活動しても良いなどなど。
もちろん義務も生じる。
基本冒険者ギルドが発注する緊急依頼を断ることは許されないなど、だ。これは自身や配偶者が妊娠中だったり解呪不可の呪いに侵されているなどでない限りは受注せねばならない。
そのほか色々な制約と利権を読み込んでツルギは「わかりました」と返した。
「これが白銀級冒険者になるにあたって必要な書類よ。名前書いてね」
「わかりました」
リナから新しい書類が渡されそれを読んでからツルギは日本語でミハカノシノツルギと書いておいた。
「これで貴女も今日から同僚ね。よろしく頼むわ、ツルギ」
「……あぁ、よろしく頼む」
こうしてミハカノシノツルギは白銀級冒険者となった。
■
数日後。ツルギは馬車に乗っていた。
馬車事態質の良い馬車だ。部屋付きの馬車であり職人が手掛けた馬車である。
引いているのはスレイプニル二頭だ。
ツルギのほかに風守カナメと女中が一人。外には護衛としてククルと数名の騎士が居る。
「もうすぐ着きます。緊張を抜くように」
「はい」
そうして走ること五分。目的地にたどり着く。
馬車のドアを開けて外へと降りると其処は村の中央だ。
木と石で出来た家屋が百近く集まり村となっている。
ツルギが降りると村人たちから注目を集める。
エロい体をした美女だ。注目を集めない訳がない。
続いてカナメも降りてくる。
すると村から代表者である村長が一歩前に出てきた。
「あの、領主様。今日は何用で来られたのでしょうか……?」
不安そうに村長が尋ねた。
領主が村を訪ねるなど殆どない事だ。だからこそ不安になる。
「ツルギ」
カナメはツルギを促した。
「はい。えー、初めまして、ネルカ村の皆さん。ノクスフィードの次期領主に内定したミハカノシノツルギだ。二年後には正式に領主となる予定なのでどうぞよろしく。今日はそのための顔合わせだ」
その言葉に村人たちは悪いことではなさそうだ、とほっとした。
「わかりました、ミ……ミハカノシノツルギ様。我々をよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」
そして挨拶を終え、握手をすればやることはなくなったので他の村へと向かっていった。
■
「つかれた」
ノクスフィードの領主の館。ツルギの自室にて。
ツルギは
「お疲れ様です、ツルギ様」
主従逆転してる気がするがこれが主が望むことならばと
「大変申し訳ないのですが明日にはまた出て行ってもらいます」
「……えぇ。村は全部巡っただろ?」
三日をかけてツルギとカナメは村々を回っていった。
その結果ノクスフィードの周辺の村での顔合わせは済んだ。
ツルギとして以外だったのは、意外と農村のレベルが高かったことだ。
農具は鉄製だし、自力稼働するコンバインもあった。
もちろんコンバインはガソリンで動くのではなく
畑に関しても
収穫量も一つの村から十トンは取れるだろう。
村人たちも農業に特化したクラスを持っているため農業能力が高いのだ。
この世界、レベル補正が割と強いのである。
「はい。ですがこのノクタリア州の知事とまだあっていません」
「ああ、会う必要あるのか……疲れるなぁ」
「そのあとは周辺の街の領主を集めてパーティとなります。それが終われば正式に領主としての仕事を始めていくでしょうね」
「……大変だけど、がんばるぞい」
■
「ぐえー緊張する」
とある日。ツルギは馬車の中で架空の胃痛と戦っていた。
胃痛などミハカノシノツルギの強靭な体で起こるはずもないが、精神面は別だ。
メンタル的にやられているツルギは幻痛と戦っていた。
馬車の中は豪華だ。
空間系の魔法で広くされており外見よりも広さがある。
向かい合ってツルギとカナメが座り、カナメの隣には女中が座っている。
間にはテーブルがあり飲み物が置かれている。
揺れることはない。サスペンション機能が強いのと魔法で強化してあるので悪路を全力で走ろうが揺れは起こらないのだ。魔法とはかくも偉大である。
「そんなに緊張することはないでしょう。いつも通りにすればよいのです」
カナメが昆布茶を飲みながらそう発言した。
「いつも通りって……」
ツルギが飲んでいるのは梅昆布茶であった。飲みながら考える。
「貴女、自身が白銀級冒険者というのをお忘れで? 相手の方が打診してくるような立場です。堂々とすればよいのです」
「……白銀級冒険者、か……」
「単独で国家すら相手に出来る怪物の中の怪物が白銀級です。既にドレッドムーンという前例もいるので容易く通りますよ。だから肩の力を抜きなさい」
「……はい」
ツルギは深いため息を吐いた。
■イグナス・ジェー・ノクタリア
「ここがノクタリア……」
辿り着いた先の都市は、魔法都市といった感じだった。
スレイプニル馬車で一週間。道中は宿場町に止まらず野営だけをしての時間である。
野営とはいっても可搬の館という持ち運びできる家を使って就寝していたので野営特有の疲れはない。
このノクタリアは円形上の都市であり、都市内にはいくつもの塔が建っている。
この塔一つ一つが
この塔に住まうには最低でも第三環魔法を使わないといけないのだ。更に内部構造も
どこか白く清潔感のある街の街道をツルギ達一行は進んでいく。
街中を走ること二十分。領主の館に辿り着く。
(でっけぇ塔)
領主の館は木造だが一風変わっていた。
正面を向いたコの字型でコの両先端には塔が建っている。
三階建てだが塔は六階建て相応まである。
中庭に馬車を止めてツルギ達は馬車から降りる。
館からメイドが出てくる。
この世界、メイドにもクラスの恩恵がある。
メイドとしてのレベルが高ければ完璧で瀟洒なメイドとして振る舞えるのだ。
出てきたメイドは頭部にカチューシャを付け、エプロンの付いたメイド服を纏っている。
「ようこそお越しくださいました、風守カナメ様、ミハカノシノツルギ様。イグナス様の元まで案内させていただきます」
メイドに連れられてツルギ達は屋敷の中に入っていく。
(おぉ……)
屋敷の中はツルギが心の中で思わず感嘆の息を漏らすぐらいにはすごかった。
調度品の数々は金がかかっていると一目でわかり、カーペット一つとっても数十万、下手したら数百万はするだろう。
階段はあるが使わず、
三階で降り、メイドに連れられて廊下を暫く歩く。
客間でメイドが止まり、メイドがノックした。
「旦那様。お客人が参られました」
「そうか、入ってもらえ」
「失礼します」
メイドがドアを開け、最初にカナメが、次にツルギが入っていく。
「では失礼します」
とメイドが去っていった。
客間のソファに座っていたのは豪華な服を着た男だ。
歳は四十ほどで髪にはぽつぽつと白髪が混じっている。
服の上でも鍛えているとわかる筋肉を持ち、ガタイも良い。
ニカっと笑う姿は気の良いおじさんの用だ。
「よく来たな! カナメにミハカノシノツルギ! さぁ、どうぞ座ってくれ」
促されたことでツルギとカナメはイグナスの反対側に座る。
「おお、エロイ体してんな」
「え、エロイ?!」
ツルギはそういわれとっさに四つの腕で胸と股間を隠した。
「おお、ますますエロイ」
「閣下、戯れもそこまでに」
カナメが同じ女としてエロイ眼で見られるツルギを不憫に思い苦言を申した。
「おお、すまんな……それで、だ。本気か? そいつをノクスフィードの領主にするってのは」
「本気です。彼女には領主としての能力は全て備わっています」
イグナスは「そうか……」と返しながらツルギの目をじっと見つめた。
ツルギも負けてなるかと睨み返した。
そうするとイグナスは口角を上げた。
「そうか、ならいい! うちとしては認めよう」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、今日はなんだ、泊っていけ。飯も出してやる。それまで好きに過ごしたらいい」
「わかりました、ありがとうございます」
■
取りあえずこのノクタリアの様子を見てきたらどうですか、とカナメに言われツルギは護衛を連れて街の市場に来ていた。
これからは護衛を連れて動くことになるだろう。いかにツルギがレベル九十の化け物スペックを持っていても護衛という見栄は必要だ。
街の市場は賑わっている。
人が多数いるがそれでも行き来に苦労はしない程度に道が開いている。
市場には露店が幾つかある。それらの多くはローブを纏った
この都市には
適当に露店を見て回る。
中には消耗品型の
ただ高い。
その魔法を使用できるクラスについてないと使用できないが魔力を消費せず魔法を行使できる。ただし威力は製作者に依存する。
その分安価である。
それとは別に
第三環までの魔法を込めることが可能で砕くことで魔法が発動する。
(ヴァルザールに何かあった時用にこういうのも買っておいた方がいいかもな)
などとツルギは思いながら露店を見て回る。
中には冒険者ではなく市民向けに冷蔵庫や扇風機の
値段は日本よりは割高である。
歩いていると冒険者たちから注目を集め始めた。
視線は主に胸に掲げる白銀のプレートに向かっている。
この大陸でも有数の両手の指で数えられる程度の人間しか掲げていないプレートだ。注目も集めるという物。
ツルギはどこかいたたまれない思いを抱きながらも市場を見て楽しんだ。
■
夜になって、ツルギはイグナスの屋敷に戻り食堂に来ていた。
ノクスフィードの屋敷と違いテーブルとイスがあるタイプの食堂である。U字上の長い机がある。
出された料理はノクタリアにあるダンジョン産のレッサーフロストドラゴンのステーキだ。付け合わせにパンもある。
どちらかというとライス派であるがツルギはパンも食えるので普通に食す。
テーブルマナーもカナメによって叩き込まれているので問題なく食事を行える。
それを見たイグナスは教育はちゃんとしているらしいと評価を上げた。
「いつ頃ミハカノシノツルギはノクスフィードの領主になるんだ?」
「えっと、二年後になります」
「二年後か。短いようで長いような……ま、実務経験詰みながらだとそんなものか。がんばれよ」
「……はい!」
そうして問題なく食事を終え、ツルギは館で一晩眠った。