少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します 作:Revak
「はぁ……」
翌日。ツルギは朝の冒険者ギルドの掲示板の前でため息を吐いた。
ゴブリン退治の報酬を貰った。二百セラだ。いつもの倍の報酬である。
因みに一人二百セラなので元の報酬は千セラもある。千セラもあればうまい飯が食えるだろう。
そのためにツルギは報酬に連れられ討伐依頼を受けようか、という思いとけど戦いたくないしな……という思いが戦っていた。
うーん、とうねりながらツルギは考える。
「やっはろー」
そこにルシフェルが話しかけてくる。
「あ、ルシフェル、どうしたの?」
「今日も君の特訓をしようと思ってね。という訳で助っ人を連れてきたよ、ついてきて」
「……? わかった」
よくわからないままツルギはルシフェルについていく。
ついて行った先はギルド裏手の訓練場だ。
冒険者ならば無料で利用できる場所であり木製の武器や盾が置いてある。
大地は砂で出来ていて木の人形が幾つか置いてある。
「お、あんたが噂の」
訓練場には一人の人間の男がいた。
長身で身長百八十センチほど。がたいがよく筋肉質な体をしている。
黒髪黒目でワイルド系の顔をしている。
服の上からでもわかる筋肉の持ち主だ。
「やっほーガッド。今日はよろしくねー」
「えっと、ガッドさん。よろしくお願いします」
いまだ何かよくわかってないもののツルギは挨拶をしておく。
「おうよろしく、自己紹介をしよう。俺はガッド、鋼鉄級冒険者だ。んで今日はルシフェルが昼飯奢るってことでミハカノシノツルギ、あんたの特訓を頼まれた」
「俺の特訓……ですか」
スペック的にはラスボスなので特訓などする必要はないと思うが、とツルギは思う。
「ああ。あんた戦いが怖いんだろう? それをどうにかしようと思って、その訓練だ」
「ああ、戦うための訓練、と……」
「ああ。じゃまずは好きな武器を選んでくれ」
「わかりました」
ツルギは木箱に置かれている武器を取りに行く。
本来のミハカノシノツルギは槍と短剣の二刀流だ。
それに倣い木製の短剣と槍をとっていく。
「最初から二刀流とは、大きく出たな」
「いやその、四つも腕あるなら武器いっぱい持った方が強いかなって……」
「武器を大量に持っていても使いこなせなければ意味はないぞ」
「あはは、ですよね……」
「ま、今回は戦う訳じゃない。人を攻撃するのに慣れるためだ。気にせず殴り掛かれ」
ガッドは盾を構える。
(うーん、どうしよう)
いざ攻撃しろと言われてもするのが怖い。
それにこの体はミハカノシノツルギ。最強のボスキャラクターの物だ。
手加減して殴らねば相手がミンチよりひどいことになるだろう。
(手加減ってどうするんだ?)
だがそもそも殴ったことも剣で斬ったこともないツルギは手加減という物を知らない。
「どうした? 来ないのか?」
「あ、えっと……いきます!」
ツルギは全力で手加減して槍で盾を叩いた。
間抜けな音がした。
「……ふざけてるのか?」
「いやふざけてないです……俺強いのでちょっと力込めて殴ったらガッドさん殺しちゃうなと思って……」
「……そんなに俺が弱く見えるのか? 鋼鉄級冒険者だぞ」
鋼鉄級とはレベル二十以上の冒険者の事だ。
強いモンスターでもだいたいレベル十が限度のこの世界で倍の二十もあればそれは英雄にも近い力を持っているという事。
その気になれば街一つ半壊ぐらいはできるぐらいには強いのだ。
当然肉体強度も人のそれを超えており、仮に銃弾を受けてもあざが出来る程度で済ますだろう。
「ん-、じゃあバフ魔法かけるから、そのあとちょっと力入れてみてよ」
「わ、わかった」
ルシフェルが幾つか魔法を唱える。
数々の魔法がガッドにかかり能力が強化される。
「じゃあ……行きます!」
「こい!」
ツルギは少しだけ力を込めて盾でガッドを殴った。
ガッドの木製の盾は砕け散り、ガッドの体に槍が当たる。
くの字になってガッドは吹き飛び訓練場の壁にぶつかって止まる。
槍も攻撃に耐えれず砕けた。
「だ、大丈夫ですか?!」
ツルギは武器を放り投げガッドに走り寄る。
「だ、大丈夫ではない……」
見れば口から血を流していた。
肋骨が折れて内臓に刺さったのだろう。放置すればまず死ぬ。
「え、えっと……そうだ!
霊癒とは斬炎の陰陽師に登場する他者を治癒する力の事だ。
極まった者は死後短時間なら死者の蘇生すら可能にするがそれはミハカノシノツルギしか実行していない。
ツルギはしゃがんで感覚で霊癒を使いガッドの腹に手を当て力を使う。
みるみるうちに傷が治っていく。
「これは……回復魔法か、ありがたい……」
この世界にも他者を治癒する回復魔法がある。
優れた者は精神すら癒すため肉体の傷しか治せない霊癒より優れていると言っていいだろう。
回復魔法でも上位の者は死者の蘇生が出来る。といってもレベルダウンというデメリットはあるが。
「えっと、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない……」
ガッドは立ち上がる。
「おお、よし、大丈夫だ」
手をグーパーとしながらガッドは己の調子を確かめる。
「よかった……」
ツルギはほっと息をついた。
──瞬間、鐘の音が鳴り響いた。
街の中央にある時計塔の金が鳴っているのだ。
「これは……?」
ツルギが不安そうな顔でガッドの顔を見る。
見ればガッドも同じような顔をしていた。
「これは……緊急事態時になる鐘だ。ギルドに戻るぞ」
「わ、わかりました」
壊してしまった武器を放置して三人は冒険者ギルドへと戻った。
戻ったギルドには多数の冒険者たちがいた。
これから依頼を受けようとしていたものや街の外に行こうとしていた者などが居る。
数は百人は超えるだろうが二百人には届かない。
「皆さん! 落ち着いて聞いてください! このグラートの街にモンスターの集団が向かってきています!」
エルフの受付嬢がそう叫んだ。
「モンスターだって?」「なんだってここに」
「ていうかその規模のモンスターがどこにいたんだ?」
冒険者たちは口々に疑問を口にする。
だがその姿に悲壮感はなく、どこか余裕さえある。
「発生源は現在調査中ですが、あと三十分もしないうちにこの街までモンスターが来ます。冒険者の皆さんには迎撃をお願いします!」
その言葉に冒険者たちはやる気になる。
モンスターとの戦いこそ冒険者の本文。任せてみろという物だ。
「当然報酬は出るんだろうな?」
冒険者の一人が問いかける。
「もちろんでます! 最低で十万セラ、より活躍した者には五十万セラ出しましょう!」
その言葉に「ウォォォォ!」と雄たけびを上げる。
金さえあれば大概何でもできる。金は正義だ。
「ふーん。大変だね。じゃあ僕帰るね」
そう言ってついてきていたルシフェルがウェスタンドアから帰ろうとする。
その肩をツルギは止める。
「いや待てよ! これからモンスターが来るってのにどこに行くんだよ!」
「昔の知り合いと茶会」
「いやそれよりもモンスターのが大事だろ!」
ツルギのその言葉に冒険者たちが口々にそうだそうだという。
冒険者たちの余裕はルシフェルが居たからこそ。ルシフェル抜きでモンスターの集団と戦うなど御免被る。
「いや僕には関係ないし……」
「冒険者だから関係あるだろ!」
「しつこいなぁ、僕が居なくともツルギが居れば大丈夫だろ。じゃーねー」
「ちょ、おま!」
そういうとルシフェルは翼を出して低空飛行で飛んで行き、ギルドを出ると空の彼方へと飛んで行ってしまった。
ルシフェルの飛行能力はツルギの上なので今から追いかけることも出来ない。
「えぇ……」
全員がこれどうするんだ、という顔をした。
モンスターの群れと聞いても余裕があったのは黄金級、レベル四十という超越者級の力を持つとされる──実際はそれ以上に強いが──ルシフェルが居たからだ。
ルシフェルなしで規模不明のモンスターの群れと戦うなど死にに行くようなものである。
「なぁ、ツルギ。あんたは相当に強い。少なくとも俺を片手でひねりつぶせるぐらいには」
「え、何ですか急に」
ツルギは急にガッドに褒められて混乱する。
「あんたがいなけりゃ、この街はどうなっちまうかわからねぇ。ツルギ、あんたの力が必要なんだ」
「そ、そういわれても……」
ツルギは困った表情をする。
いかに戦闘力が高いとはいえ中身は戦うのが怖い一般人だ。
「そうだ、ルシフェルさんが言うには相当に強いってことだろ!」
「そうだ! 同じ冒険者なら戦うのが義務だろ!」
冒険者はこういった緊急事態時には協力することが義務付けられている。武装勢力なのだから当たり前だが。
「うぅぅぅぅう……」
ツルギはちょっと涙目になる。第三の目から涙を流した。
戦うのは怖い。だからと言ってここで逃げだすのも怖い。
どうしたものかと考え、考えて──吹っ切れた。
「ええい! なら戦ってやりますよこんちくしょー!」
オオオォオオオ! と雄たけびが上がった。
よいお年を