少年漫画のラスボスになったので異世界堪能します 作:Revak
翌日の冒険者ギルドにて。
ツルギは銭湯に行き体を洗い、そこそこの味の晩飯を食べて就寝した。
そして起きて取りあえず今日は討伐系の依頼でも受けるかと冒険者ギルドに出向いた。
そしたら呼び出され、皆の前でエルフの受付嬢が仰々しい顔でこう告げた。
「この街を救ってくださりありがとうございます、ミハカノシノツルギさん。これが討伐報酬の八十万セラになります」
「は、八十万?!」
提示された額にツルギは脳が止まる。
とんでもない額である。月収を優に超える額だ。
これならしばらくいい宿に泊まってまともな飯を食ってもお釣りがくるレベルである。
「どうぞ受け取ってください。貴女はこれに見合う、いえそれ以上の働きをしてくれました」
「わ、わかりました……」
ツルギは恐る恐るといった感じで八十万セラの札束を受け取る。
入れる場所がないので己の影の中に収納しておいた。
「そしてこれが貴女の新しい冒険者プレートになります」
そう言って受付嬢が白金のプレートを取り出し渡してくる。
「白金級って、結構上のランクじゃないですか!」
「はい。貴女の力は白銀級相応はあると思われますが、上の判断で白金級になってしまいました、申し訳ありません」
「いやいや気にしないでください! ていうか白金級で充分すぎますって!」
「そういってくれると幸いです。さぁどうぞ」
ツルギはまたも恐る恐る受け取り、胸にかけてた銅級のプレートを返却した。
「ミハカノシノツルギさん。これからの活躍も期待しています」
「は、はい」
ツルギは恐る恐る白金級のプレートを胸に下げた。
「やるじゃねぇかツルギ! 一気に俺を抜いたな!」
ガッドがそう肩に手を回してくる。
「ガッドさん……新人なのに急に抜いてなんかすみません……」
「気にすんな! それだけの力を持ってんだからな!」
「おいミハカの……ツルギ! それだけもらったんならちょっと奢ってくれよ!」
「いやいや、俺たちがツルギに奢るべきじゃないか? ツルギが居なきゃ俺たち死んでたぜ!」
冒険者たちが騒ぎ出す。
「ちなみに宴会の準備は出来ています」
受付嬢がきりっとそういった。
「じゃ、じゃあ……俺が出すので宴会だ!」
オオー! と冒険者たちは歓喜した。
冒険者ギルドの一階は酒場を併設している。
これには冒険者ギルドの創設者が酒好きだったとか賢王がそうしたなど言われているが詳細は定かではない。
少なくとも魔王が君臨する以前からこうだったのだ。
その酒場で冒険者たちは騒ぐ。今日も命があったと、己が倒した敵は強大だったと雄弁に語るのだ。
ツルギもつまみを食べる。
(美味い)
いつもの宿の飯より何倍もうまい。
ソーセージをほおばり食べる。
この世界、食事も賢王が改善したからか金さえ払えばそれなりの飯が食える。
それに魔法という超常の力で食材の永続的な保存が可能でモンスターを使った長距離輸送も発達している。
更にダンジョンという無限の物資を生み出す施設があるおかげで食材の質と量は安定して高いのだ。
口の腹に食材を入れて食べて楽しみ、上の口で酒を飲む。
酒は飲まない方だったが冒険者たちが進めてくるので飲んでいる。
といっても炭酸は飲めないのでワインだが。
酒類も毒判定になるため毒無効を持つミハカノシノツルギは酔えないが味は楽しめる。
「やっほー楽しんでる?」
そこにルシフェルが入ってきた。
「このルシフェルこの野郎! 俺に任せてどっか行きやがって!」
ツルギは立ち上がりルシフェルの元まで行くと四つの手でルシフェルを掴む。
上の手で肩を掴み下の手で腰を掴んだ。
「いやー、僕居なくてもなんとかなったじゃん。結果オーライオーライ」
「んな、俺が戦えず逃げ出してたらどうしたんだよ!」
「そうはならないよ。だって、そうしなかっただろ?」
「ぐぬ……」
ツルギは黙った。言われたことがあっていたので黙るしかなかった。
「それに今はパーティなんだから、ほら楽しんで」
「お前が言う事か……?」
ツルギは疑問を持ちながらも席に戻る。隣にはルシフェルが座った。
ルシフェルも勝手に何かつまみ始めた。だがルシフェルに借りがあるツルギは強くは言えなかった。
「なぁ、あんた、種族は何なんだ?」
ルシフェルの反対側に男が座り、問いかけてきた。
「えっと、俺は……」
なんて言おうか、と悩んだ。
斬炎の陰陽師ではミハカノシノツルギは妖怪だ。
更には原初の妖怪、妖魔界で初めて生まれた妖怪とされている。
「えっと、妖怪っていうんだ」
「妖怪? ああ、東雲皇国から来たのか」
この世界にも妖怪いるんかい。ツルギは目が点になった。
「そうかもしれないねー。ツルギ前までのこと覚えてないから、あまり詳しくはわからないけど」
ルシフェルがサポートするようにそう言った。
「へー」
「なぁあんた、あのモンスターの召喚はなんだ?」
最初に問いかけてきた男の頭を押さえながら別の男が話しかけてきた。
「あれは眷属創造って言って、
「なぁ、腕四つもあって頭混乱しないのか?」「あのレーザーはなんだ?」「武器はしまってたのか?」「その腹の口でも飯食えるのか?」
冒険者たちが次々に問いかけてくる。
ツルギは混乱し答えに迷う。
「はーい、ツルギが混乱してるから少し待った」
ルシフェルが前に出て手でバツマークを作った。
「ああ、悪いな」
冒険者たちは謝罪の言葉と共に去っていった。
「ありがとう、ルシフェル」
「気にしないで」
ルシフェルは何でもない事のように言いツルギのソーセージを一つ食べた。
「こういったことも、お前が頑張らなきゃ見れなかったからね」
「……あぁ」
ツルギはしみじみと頷いた。
自分が力を振るわなければモンスターによって街が蹂躙されていたかもしれない。そう思うと戦えてよかったと思う。
「んでさー、ツルギはこれからどうするの?」
「……どうしようかな」
ランクが上がり、モンスター討伐の依頼も受けれるようになった。
順当に行けば金を稼いで暮らしていけるだろう。
だが、そのあとは?
元の世界へ帰るのか、という疑問が出てくる。
この姿で帰ってもな、という思いがある。
帰りたくないと言えば嘘になる。元の姿で家に帰れるなら帰りたい。
だがこの地で出会った友人であるルシフェルと別れるのは辛いし、戦うことが二度と出来ないというのも地味に辛い。
なにがなんでもがむしゃらに地球に帰ろうという思いはなかった。
だがこの世界で生きていく、というのには熱意がなかった。
「目標無いなら僕が与えようか?」
ルシフェルがニヤニヤした顔でそういう。
「……何を与えるの?」
「街でも作ってさ、そこで暮らそうよ。領主になってスローライフだ!」
「……領主か……」
意外といいかもしれない、とツルギは思った。
この体は限りなく不老不死に近い。
不老の体に肉片一つ残っていれば再生できる再生能力。
いかに今戦うのが楽しいと言っても永遠に戦い続けるのは無理がある。
ならば将来を見据えて居を落ち着けないといけないだろう。
「けど領主ってなれるものなのか?」
「白銀級冒険者になればなれるよ。実際そのうちの一人がネクロポリスってところで領主してるからね」
「へー……けど領主の仕事とかできる気がしないなぁ」
「そこは作った眷属に任せればいいんじゃない?」
「確かに」
妖王が作れる眷属の中には頭脳に優れた者がいる。
十二使徒のひとりで名は
人型の妖怪であり着物を着ている。
銀縁の眼鏡の眼鏡をかけている。顔つきは優男といったところだろう。黒髪黒目だ。
結界術に優れ頭脳も秀でているので統治を任せるにはちょうどいい妖怪だ。
「じゃあ、目指せ領主、だな」
「がんばえー」
ルシフェルは間抜けな声を出した。
■
宴会が終わり、それぞれ宿に戻っていった。
ツルギは支払いをし、二十万セラ支払った。結構痛い出費であった。
夜なので公衆浴場に行き体の汚れを落とし、いつもの安宿で一泊する。
そうして一日が過ぎ、翌日の朝再び冒険者ギルドに訪れていた。
「ミハカノシノツルギさん。少し話したい事があります。ついてきて貰えますか?」
朝、ギルドに入るとすぐエルフの受付嬢からそういわれた。
「わかりました」
はてなんだろうと思いながらツルギはついていく。
階段を上って二階に上がり、ギルド長室に向かう。
受付嬢がノックをすると「どうぞ」という若い男の声がした。
「し、失礼します」
いきなり偉い人の前まで連れてこられ緊張しながらツルギは中に入る。
中の作りは簡素だ。執務机と椅子が一つに長テーブルとソファが二つ。
ソファには眼鏡をかけた黒髪の少年に見える者が座っている。
「よく来てくれた、さぁ座って」
「は、はい」
言われるがまま対面のソファにツルギは座る。
受付嬢は「失礼します」といって去ってしまった。
「さて、急にすまないね。だが僕の口からも言わせてくれ。この街を救ってくれてありがとう」
「いえ、そんな……俺、と私は自分に出来ることをしたまでです」
「ああ、畏まらなくていいよ。お互い気軽に行こう」
(そういわれても緊張しますが)
前世でも上司と話したことはある。
だがギルドマスターとなるとその支部の長だ。
部長などとしか話してこなかった佐藤としては工場長のような物だと思う。
工場長と話したことなど面接のときぐらいなので緊張する。
「まずは自己紹介と行こう。僕はシエロ。このギルドのギルドマスターをしている。といっても元冒険者で第四環魔法まで使える」
「俺はミハカノシノツルギです。妖術師で、薙刀とか使います」
よろしく、と二人は挨拶をする。
「さて、君に来てもらったのは感謝を伝えるだけじゃない。今回のモンスターの群れがどこから来たのか探ってほしいんだ」
「探索、という訳ですか」
「そうだ。おおよその位置は僕の魔法で調べるとして、そこになにがあるのかを調べて貰いたい。危険だと判断したらすぐに戻ってもらうけどね」
「わかりました。めぼしはついているんですね?」
「ああ。うちからも一人つけていくから彼女と共に調査に当たってほしい。もちろん必要な物資はこちらで用意するとも」
「わかりました、よろしくお願いします」
そこに部屋にノックがかかる。
どうぞ、とシエロが入室を許可する。
天井裏からにゅっと女が出てきた。
美少女といえる外見の女だ。
黒髪赤目の腰に短剣を付けた黒い動きやすい服を着た少女である。
少女はシエロの隣に座る。
「紹介しよう。彼女はアカツキで探知系の
「
「ん、知らないのかい?
明日の天気を八割の確率で当てるものから致命傷以外再生するという強力な
ただほとんどは水に浮かびやすいとか腹を壊しにくいとか作物が一割成長早くなるなどの使いにくい物が多いが。
それ以外にもクラス、職業に就くことで
<斬撃>や飛ぶ斬撃を放つ<空斬>、身体能力を向上させる<肉体向上>などだ。
ミハカノシノツルギはそういった
「アカツキだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「早速行動に移ってほしい。もちろん報酬を用意して待っておくよ」
「わかりました、行きましょう」
ツルギとアカツキは立ち上がり部屋を出ていった。
■
二人は街の門を出て地図を眺めていた。
因みに地図はアカツキが持っている。
「目的地はここから徒歩で一時間かけた先にある」
アカツキが地図上を示す。
「結構遠いですね」
「ああ。だが私たちなら走っていけば二十分でつけるだろう。私は疲労無効の指輪を付けているからずっと走れる。お前はどうだ?」
「俺も疲労は種族的に無効なのでずっと走れます」
「ならば走っていこう。早急にこの事態を解決した方がいいからな」
「わかりました」
そういうと二人は走り出す。
時速百キロ。人間が出していい速度ではない。
アカツキは普通の人間の領域を超えている。百キロは最高速度だが普段から出せる。
疲労も当然するが疲労無効の指輪の力で疲労はしなくなっているため問題ない。
ツルギにとっては時速百キロなど一割程度の力だ。本気を出せばもっと早く走れる。
そしてツルギも疲労しないため問題なく二人は草原を走る。
「ここ、妙にクレーターが多いな」
アカツキは走る途中クレーターばかりになった地面に目を向けた。
「さ、さぁ。なんででしょうね」
ツルギは素知らぬ顔でやり過ごす。
当然このクレーターの後はツルギが能力の実験を行った後だ。
アカツキはそこまで気にもせず走っていく。
走ること二十分。アカツキが「止まれ」と止まった。
「シエロさんの情報系魔法で調べた結果ここら辺が怪しいと出た」
情報系魔法とは名の通り情報に関する魔法だ。
明日の天気を当てる魔法だったり対象のレベルやHPを見たりする。
千里眼も情報系魔法に分類される。
「うーん……ちょっと探ってみますね」
「探知系の
「まぁ、似たようなことは出来ます」
ツルギは槍を右手に作り出す。
付与した効果は探知だ。何かしらの超常を探知するように設定した。
万剣胎動はこういった使い方も出来るのだ。
「こっちですね」
ツルギに言われるがままアカツキはついていく。
二分ほど歩くと洞窟に辿り着いた。
「ここですね……入ります?」
「入らないと何があるかわからないだろう?」
「そうですね……行きますか」
そうして二人は洞窟を降りていく。
「これは……」
降りてすぐ、ツルギにとって異常な物を目にした。
洞窟の道が妙な物で防がれているのだ。
七色に光りつつねじ曲がった空間だ。ある種扉にも見える。
「これはダンジョンだな」
「ダンジョン?」
「知らないのか? 超常の現象渦巻く異界の事だ。ここに入るぞ……ダンジョンは何があるかわからない。気をつけろ」
「わかりました」
アカツキが先頭に立ちダンジョンに入っていく。
「なにこれ」
中の空間はツルギにとってはまったくもって未知の光景だった。
草原が広がっている。
グラート平原のような起伏のない平坦な草原が広がっている。
何故だと思い空を見ればそこには三つ太陽が浮かんでいる。
「これがダンジョンだ」
「ほえー」
ツルギは間抜けな声を漏らすことしかできなかった。
「と、モンスターが来る。構えろ」
「っはい!」
ツルギは手早く武器を生成する。
持っていた槍を消し前使ったのと同じ風を操る薙刀に変え左手に短剣を持たせる。
やってきたモンスターはメドウウルフだ。
体躯が一回り大きいだけの狼である。
名の通り主に草原を縄張りとする狼でダンジョン外でもよくいるモンスターに過ぎない。
肉は食用に向かないが毛皮は衣服の材料になる。
それが三体。
「はぁっ!」
アカツキが短刀で一体の首をはねた。
絶命しドロップアイテムへと変わる。
透明な水晶になった。ダンジョンで死んだ者は基本例外なくこのドロップアイテムになる。
そのためダンジョン内での殺人が横行することもある。
「せい!」
ツルギは薙刀を振るいメドウウルフ二体の首をはねた。
切れ味抜群で同時に斬っても問題なく斬れた。
こちらが倒した方もドロップアイテムになる。
「ドロップアイテムどうします?」
「回収する暇はないから、放置でいいだろう。ほっとけば消える」
回収されなかったドロップアイテムは五分で消える。
「わかりました」
「私が先導する。ついてきてくれ」
「わかりました」
そうして二人はダンジョン内の草原を進む。
道中モンスターが出るもメドウウルフとダンジョンバッドの二種類しか出ない。
ダンジョンバッドとはどのダンジョンにもだいたいいる蝙蝠型のモンスターだ。
通常の蝙蝠より二回りほど大きく肉は美味で翼は錬金術の材料になる。
「む。ボスモンスターだな」
そうして歩いてると奥に辿り着き、そこにはモンスターが居た。
蜘蛛のモンスターだ。全長五メートル。前足の二つは刃がついている。
全体的に黒いシルエットのモンスターだ。
この最初の階層のボスモンスターである。名はカディ。
「俺がやります」
ツルギが短剣を振るう。
雷が六つ落ちてきてすべてカディに命中し絶命させた。
カディは二つのドロップアイテムに変わった。
「強いな……」
アカツキはこれほどの強者がなぜ無名だったのか気になるが今はそこを気にしてもしょうがない、と探索に意識を戻す。
カディの後ろには先へ続く降りる階段があった。
「よし。先へ進むぞ」
「はい!」
ツルギは気合を入れ、ダンジョン探索に挑んだ。