「ねぇ、どうしてヒロキさんはジルドさんが『伝統』を魅力試験のテーマに選ぶってわかったの?」
ラルフ殿の酒場に着くなり、ロロ殿は拙者に向かってそう切り出した。
「ふっ。少し落ち着くでござるよ。まずは飲み物でも頼んで一息付いてから、」
「おまわりさーんっ!」
「何罪? 拙者何罪で捕まるのでござるか?」
「だって、放課後まで我慢してたんだよ? 学園で話したらジルドさんたちにバレるからって。私、もう我慢できないのっ!」
「わかった、わかったでござるよっ!」
テンションが振り切ったロロ殿を一旦落ち着け、拙者は話し始めた。
「拙者はテーマが『伝統』か『歴史』になるよう、ジルドを誘導したのでござる」
「誘導?」
小首をかしげるロロ殿に、拙者は頷いた。
「そうでござる。まず最初の仕掛けは、プレタ殿に勝った試合でござるな」
「え、あそこから?」
「そうでござるよ。あの日から、学園中で廉価品に注目が集まったでござろう?」
「そうだね」
「そして『最も魅力的な者が勝つ』で対戦相手が着る服を、拙者が調べることができることも、同時に広がったでござる」
注文を取りに来たおばちゃんに、レモンティーと麦茶の炭酸割りを頼みつつ、拙者は話を続ける。
「後はプレタ殿以外の取り巻きを同じ要領で戦い、勝っていけば、嫌でもジルドは、拙者と『最も魅力的な者が勝つ』をするなら廉価品は避けたい、と思うはずでござる」
「それ、ジルドさんも言ってたよね。廉価品を封じる、って」
「そうでござるな。そしてジルドに、あえて拙者がストーキングしているということをわからせれば、こうも思うはずでござる。対戦で着る服は知られたくない、もしくは、知られても問題ない服を用意したい、と」
おばちゃんが運んできた飲み物を受取り、拙者はレモンティーをロロ殿に渡す。
それを受け取ったロロ殿は、首をひねった。
「知られても、問題ない服?」
「誰でも用意できるもの、あるいは用意できないようなものでござるよ。ジルドの場合、あるではござらんか。ゼニア家に伝わる、格式高く伝統のある礼装が」
留学初日に、ジルドが拙者と『最も魅力的な者が勝つ』をする前に話していたことでござる。
ロロ殿も思い至ったのか、その顔に理解の色が広がった。
「あっ! じゃあ、」
「魅力試験でジルドが着る服は、十中八九その礼装のはずでござる。対抗馬を立てれない、誰にも用意できないゼニア家の礼装をジルドが着るためには、テーマを『伝統』か『歴史』にする必要があったのでござる。そしてこのテーマにすれば、廉価品も同時に潰せるのでござる。ゼニア家の礼装を真似した廉価品では、廉価品の方が歴史が浅く、伝統も短いでござる」
逆に、誰でも持っている服ということで、テーマが『制服』になる可能性もゼロではなかった。が、お洒落に遊び心を取り入れたがるジルドが、既に拙者と一度戦ったテーマを選ぶという、遊び心のない選択はしないと踏んでいた。
ロロ殿はレモンティーを一口飲んだ後、熱っぽい溜息をついた。
「言われてみるとなるほど、とは思うけど、それを実現しちゃうところが、ヒロキさんのすごいところだよね」
「前にも言ったでござろう? 拙者、諜報員でござるからな」
「勝てばよかろう、なの?」
「よかろう、でござるよ」
「そうでござるか」
拙者たちは、どちらからともなく笑いあった。ひとしきり笑った後、拙者は気になったことをロロ殿に問いかけた。
「そういえば、良かったのでござるか?」
「何が?」
「決まっているでござろう。魅力試験の服でござる」
テーマが『伝統』になると予想していた拙者は、既に魅力試験で着る服を用意していた。ゼニア家の礼装に負けない、『伝統』のある服を。
拙者以外用意できない、必勝の服を。
拙者の服は自分で選んだものだが、ロロ殿の服は――
「拙者のコーディネートで、本当に良かったのでござるか?」
そう。ロロ殿が魅力試験で着る予定の服は、拙者が選んだものなのだ。しかも、たまたま城なしキートンで見つけた掘り出し物。
留学当初からは、流石に成長したと思う。が、それでも拙者のお洒落センスはハッキリ言って乏しい。
だからこそ、先の質問なのでござる。
本当に、拙者で良かったのでござるか?
「良いに決まってるよ!」
そんな拙者の不安を一刀両断するかのように、ロロ殿はテーブルを叩きつけた。
「私、次の魅力試験、頑張ろうって思ったんだよ。変わりたいって思ったんだよ。変われるって思ったんだよ! それは、ヒロキさんのおかげなんだよ! ヒロキさんがいてくれたおかげなんだよ! だから、ヒロキさんじゃなきゃ嫌だったの! ヒロキさんじゃなきゃダメだったのっ!」
憤怒の化身と化したロロ殿は、顔を紅色させると、蚊の鳴くような声でこう言った。
「……似合ってるって言ってくれたの、嘘だったの?」
「嘘ではござらん」
脊髄反射で、そう言っていた。そう断言していた。
確信を持ってそう告げた拙者を見て、ロロ殿ははにかんだように笑う。
「なら、問題なしっ!」
その笑顔に、拙者は静かに頷き返した。
「……そうでござるか」
「うん! でもあれ、男性用女性用で、全く同じ形してない?」
「まぁ、そういう細かいところは、ダーバン出身の者でなければわからんでござろうな」
そう言いながら、拙者は一点ロロ殿へ注意しておくべきことがあったのを思い出した。
「あ、そうそう。あの服でござるが、何度か試しに着たほうがいいでござる。民族衣装でござるから、魅力試験の前には着替え慣れしておいた方がいいでござるよ」
「うーん、それは、やめておこうかなぁ」
その言葉に、拙者は疑問を呈した。
「え、どうしてでござるか?」
「だって、あの服はとっておきなんだもん! 私、次にあれを着る時は、ヒロキさんに見せる時だって、決めてるんだっ!」
そう笑うロロ殿の笑顔が眩しすぎて、思わず拙者は目を細めた。
他人にコーディネートを任せるのは、信頼の証。仲間の証でござる。
ロロ殿にそういう存在だと認めてもらえたことが、ただただ嬉しかった。