死にゲーみたいな仕様で異世界転生したスライムはどうすりゃいいですか? 作:ブナハブ
(……ぅ、う〜ん)
特に前触れもなく、俺の意識は覚醒する。視界に広がるのは、燦々と照る太陽の下に晒された草原だった。
(眩しっ)
一体どれだけ暗闇の中に微睡んでいたのか、視界に入り込んできた陽の光に思わず目を閉じてしまう。
───ぷるん
(……うん?)
目を閉じる際に身じろいだ時、体が大袈裟なほどに揺れ動いた。
(なんだ、今なにが起きて)
───ぷるんっ、ぷるるんっ
慌てて周囲を見回すと、それに伴って体も大きく震えた。
(……は?)
そこで気がつく。俺の身に起きている異変に。
───ぷるん、ぷるん
自分の体を見ようと下を向けば、そこにはプルプルと揺れる水色のゼリーがあった。
いやゼリーじゃない。これが、この物体こそが、まごう事なき俺の体だったのだ。
(は、はあああ!?)
意味不明な事態に思わず叫ぶ。声帯が無いのか音は発せず、代わりに体が勢いよくプルプル震えた。
(ど、どど、どうなってんだ俺の体!)
目が覚めたら、体がゼリーみたいになっていた。悪夢にも程がある。
(ゆ、夢だよな? 流石に、これが現実なわけ)
───ガサッ
未だ現状を受け入れられてない俺へ畳み掛けるように、背後から物音が聞こえた。
(こ、今度はなん、だ?)
「ギギ?」
振り返った先には、醜悪な顔をした小柄で緑肌の人間が居た。
(人……いや待て、これは、まさか)
───ゴブリン、空想上の生き物である筈の怪物と、ソイツは瓜二つだった。
「……ギヒッ」
(〜ッ!)
ソイツは俺と目が合うと、その醜悪な顔を下卑た笑みで歪ませる。その表情に俺は悪寒を抱く。
(に、逃げなきゃ)
身の危険を感じた俺は、全力でその場から離れようとする。
(お、おそい……!)
しかし残酷な事に、俺の全力は人が小走りするのと同じ速度だった。
「ギギィ!」
(グェッ!?)
あっさりとゴブリンに追いつかれた俺は蹴飛ばされる。
「ギヒヒヒ!」
(グッ! ゲッ! や、やめ)
何度も何度も、ボール遊びをするみたいに俺は蹴られ続ける。
(し、死ぬ! これ、冗談抜きで)
「ギギィ……!」
倒れ伏す俺に、ゴブリンは大袈裟に足を上げて、
「ギギギィ!」
(死───)
俺の体を、何度も何度も踏み潰した。
───再び暗闇の中に沈んで暫くした後、俺は洞窟の中で目を覚ました。
(……は?)
▼▼▼
(現状を整理しよう)
洞窟の中を暫く彷徨い続けて、ほどよい隙間を見つけた俺はその中に身を潜めると、そこで冷静に思考を働かせる。
(まず分かっている事について考えよう)
とは言っても、まだほとんどの事が分かっていないのだが。まあそこも含めて整理していこう。
まず一つ、恐らくここは異世界だ。例のゴブリンや、洞窟の道中で見かけた化け物連中は、俺の知る限りじゃ現実には存在し得ない筈だ。それが存在するんだから、ひとまず此処を異世界と捉えても良いだろう。
二つ目、俺はスライムに転生した。その辺にあった水溜りで姿を確認したが、俺の見た目は中央に宝石みたいな物があり、その周りをジェル状の肉体で覆っているというシンプルな造形をしていた。自分の知識の中にある物で当てはめるなら、スライムで相違ないだろう。
三つ目、俺に前世の記憶は無い。いやあるにはあるんだが、自分の名前とか友達とか家族とか、そういう個人情報に繋がるような物は何一つ残っていない。
四つ目、これは現実だ。認めたくない、悪夢のようなこの状況は、紛れもなく現実だった。
(……どうすっかなー)
分かっているのはこれだけ。余りにも情報が少なすぎる。情報を集めようにも、集める手段すら分からない。ゲームのように目的を指してくれるナビゲーターも居ない。何もない。
(本当に、どうしたら)
「ーーー」
(……え?)
何気なく辺りを見回すと、俺が入った隙間の先で、黒い蛇が静かに俺を睨んでいた。
(……ここ、コイツの巣だったのか)
「シャアー!」
俺は何も出来ないまま、邪魔だと言わんばかりの黒蛇に体を噛み潰された。
───再び俺は目を覚ます。今度は木々に囲まれた湿地帯だった。
(……ああ、もう一つ分かっていた事があったな)
分かっている事五つ目、どうやら俺は死ぬ度にまた、世界の何処かへ
(ははは……本当に、どうしたものかな)
もう終わった筈の蛇に食い殺される瞬間、その時の恐怖に未だ震えながら、今度は湿地帯の中を彷徨うのだった。