死にゲーみたいな仕様で異世界転生したスライムはどうすりゃいいですか?   作:ブナハブ

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なかま!

 死んでも生まれ直す事が出来る。転生して早々異世界の厳しさを叩き込まれた俺は、この力を有り難く思った。……というのも過去の話。

 

「ゴゲェエエエ!!!」

「アギャアアス!!!」

(うわあああ!?)

 

 あれから何度目かの死を経た先の事、バカでかい木々が並び立つ巨大森林の中で、俺は魔物達の争いに巻き込まれた。

 

「ゴゲゴッゴオオオ!」

 

 額に刃の如く鋭いトサカを生やした巨大ニワトリと、

 

「「「アギャギャアア!」」」

 

 そいつの周囲の飛び回る複数のワイバーン。縄張り争いでもしているのか、二種の魔物は激しい戦いを繰り広げていた。

 

(チクショウ! やるなら他所でやりやがれ!)

 

 巨大ニワトリがトサカを振り回せば、それが飛ぶ斬撃となって辺り一帯を切り刻む。

 ワイバーンが大口を開けば、そこから灼熱の炎が吐き出される。

 どれもこれも、俺には全て即死級の一撃だった。

 

(早く、早く此処から離れないと……!)

 

 今回は此処で終わりだろうな。と、俺は心のどこかでそう思う。けど、だからと言って自ら死にに行く事はしない。

 生きる事を放棄したくないとか、生き延びて奴らに目にもの見せてやるとか、そんな殊勝な理由は無い。ただ死にたくないから、痛い思いをしたくないから、逃げるのだ。

 

(クソッ! もっと早く動けよ!)

 

……この体は、どうしようもなく弱い。他人の争いから逃げる事すらままならないほどに。

 

───ドゴォ!

 

(あがっ!?)

 

 戦いの余波だろう。礫が俺の背中に激突する。

 

───ベキッ

 

(ま、不味っ)

 

 その礫は俺の体の中心にある宝石……核に亀裂を走らせ、そして破壊した。

 

(あっ───)

 

 

 

 

 

 次に目が覚めたのは、木々に囲まれた湖のほとりだった。

 

(……これで十回目の死、か)

 

 今回は比較的マシだったろう。一瞬で核を破壊されたお陰か、痛みや恐怖を感じる暇もなく死ねれたんだから。

 これまでの死因と言えば、今回みたいな巻き添えに遭ったのが一回、誤って崖から落ちたのが一回、落石に潰されたのが一回、ゴブリンが五回、その他の魔物が一回だ。

 この中で最多のキル数を誇っているゴブリン共、なにが酷いって、俺に一番辛い死に方を提供しているのが奴らなのだ。奴ら、明らかに痛ぶる目的で襲ってきやがる。

 

(クソッ、俺ほどじゃないが弱小種族の癖に……いや、だから(スライム)を狙ってくるのか)

 

 他の魔物は、俺を見ても基本無視する。多分、スライム一匹を殺した所でなんの旨味も無いからだろう。ほら、俺の体って食える箇所なんて無いし。

 けどゴブリンは違う。アイツらは鼻から俺を獲物として狙っていない。ただ憂さ晴らしの為だけに、自分達より弱いスライムを襲うのだ。

 

(……分かった所で、どうにもならないか)

 

 ゴブリンはどこにでも居る。強い魔物が居ない限り、奴らは我が物顔で至る所に縄張りを作る。そしてゴブリンが近寄らない強い魔物の居る地は、俺にとっても危険な場所だ。

 

最弱の魔物(スライム)に居場所なんて無い。か)

 

 こんな事なら、死んで生まれ直す力なんて無い方がマシだ。今では心底そう思う。

 

(……いや、落ち込むのは後にしよう)

 

 もしゴブリンに見つかったら、また新たなトラウマを植え付けられかねない。例えいつかは死ぬとしても、ゴブリンにだけは極力殺されたくない。

 

(えーっと、今回の場所は)

『なにしてるのー?』

(ッ!?)

 

 直後、すぐ側から声が聞こえた俺は、転がるように動いてその場からすぐさま離れる。

 

『……?』

(……なんだ、同胞(スライム)か)

 

 一体何事だと声の聞こえた方向を見れば、そこにはプルプルと揺れるピンク色のゼリー……スライムの姿があった。

 

(喋れるタイプは初めてだな)

 

 これまでもスライムと出会った事はある。だけど他のスライムは、俺が話しかけてもうんともすんとも言わない者ばかりだった。

 

(なんにせよ、敵じゃなくて良かった)

『ねーねー、なにしてるのー?』

『いや、何でもない』

 

 声帯も無いのにどうやって意思疎通を図ってるんだと思われるかも知れないが、詳しい仕組みは俺も知らない。ただ、念じるように呼び掛けたら言葉を伝えられるのだ。

 

『……なあ、此処ってゴブリンは居るか?』(折角の機会だし、情報を貰っておこう)

 

 そう尋ねながら、そういえば異世界に来て初めて誰かと話したなと思い至る。けど今は安全を確保するのが先だと、その思いを胸にしまう。

 

『ごぶりん?』

『緑色の皮膚をした魔物だ』

『みどりいろ?』

『……俺達を襲ってくる化け物だ』

『あ〜、うんうん、しってるー、こわいよねー』

『そうだな』

 

 まるで幼い子どもと話してるようだ。実際、自我が未成熟なんだろう。これまで見てきたスライムに知性らしき物は感じられず、寧ろ幼い喋り方でも会話が出来るこの子の方が稀有な存在、という事か。

 

『いないとおもうー、まえにいたところにはいたけど、にげたからー』

『そうか』

 

 どれだけ信憑性があるか分からないが、少なくともこの地域にゴブリンは存在するらしい。なら油断は出来ない。

 

『ねーねー、いっしょにこよー』

『いや、悪いが付き合ってる暇は無い。今日の寝床を確保する必要があるからな』

『そっかー』

 

 誘い断られた彼女(なんとなく女の子っぽい為)は、非常にあっさりとした態度で引き下がる。

 

『じゃーねー』

『あ、ああ』

 

 あまりに淡々とした態度に少々驚くが、スライムとはこういう物なんだろうとなんとか受け入れて、すぐに今後の行動について考える。

 

(ひとまずは寝床の確保だ。安全が確保された場所で休まないと、この世界の夜を凌ぐなんて無理だ。使われてない木のうろなんかがあればベストだが、まあ望み薄だろうな)

『わー! たすけてー!』

『……』

 

 間延びした、いささか緊張感に欠けた悲鳴が聞こえてくる。

 

『……見捨てると判断するには、早すぎるか』

 

 出会ったばかりとは言え、異世界で初めて言葉を交わした相手だ。一度ぐらい手を貸しても良いだろう。

 

 

 

 そう思って声が聞こえた方向に向かってみれば、

 

「ギヒヒ!」

『わー! わー!』

 

 先ほどのピンク色のスライムが、一匹のゴブリンに迫られている最中だった。

 

(命の危機じゃねえか!)

 

 この辺りにゴブリンは居ないんじゃなかったのかだとか、もうちょい必死な声で助けを求められないのかだとか、色々と言いたい事はあったがひとまずは、だ。

 

(どうする?)

 

 決まってる。逃げるんだ。奴が目の前の玩具にお熱な今、今なら俺のすっとろい足でも逃げられる。

 

(そうだ、それ以外に選択肢なんてない。その筈だろう?)

 

───なのに、なんで動かない?

 

(……おいおい、恐怖で固まってるのか? 何度も殺されてるとは言え、もう慣れた筈だろうが)

 

 そう、これは恐怖からだ。決してあの子を見捨てるのが忍びないからだとか、そんな理由じゃない。

 だってそうだろう? これまでだって、同胞(スライム)を囮にしてゴブリンやその他の魔物から逃げた事はある。今回だってそれと同じだ。同じでなくっちゃあいけない。

 

(……クソ!)

 

 自分に対して、訳の分からない怒りが込み上げてくる。もういっそのこと、この場で自害を……

 

(そういえば)

 

 ふと、冷静になって今の状況を分析してみる。敵はゴブリン一匹、そのゴブリンは目の前の彼女(スライム)に意識を向けている状態。

 

(……今なら、不意を突けれるかも知れない)

 

 (ゴブリン)を殺せるかも知れない。そう思った時、俺は静かに笑みを(顔なんて無いけど)浮かべた。

 

(ははは、そうだよ、まさに絶好の機会だ。今までの鬱憤を晴らせるチャンスじゃないか)

 

 今まで動けなかったのが嘘のように、体は自然と前へ前へ進み出す。

 

 不定形の体を凝縮し、ガッチリ固めて、

 

 目線をゴブリンの頭部に持っていき、足元に力を強く込めて、

 

 瞬時に、解放する。

 

『───死に晒せやァ!!!』

「ギィ? ギ、ギボガッ!?」

 

 俺の渾身の体当たりは、後ろを振り返ったゴブリンの顔面にクリーンヒットした。

 

『シャッオラァ! それ見た事かクソカスがぁ!』

『あれ、さっきのー?』

『ああ、さっきぶりだな同胞よ。ちょっとコイツに今までの鬱憤を晴らすから、同胞は此処から離れときな』

 

 俺はゴブリンと彼女の間に立つと、彼女にそう呼び掛けた。

 

「ギギギィ……!」

『まあ、流石に一撃では倒れんよな』

 

 多少は効いてるらしいが、死に至るほどじゃない。少なくともスライム二匹を殺せる程度の体力は残っているだろう。

 

『けど、そんなのは織り込み済みだ』

 

 手はある。まだ体当たりのショックから立ち直れていない今がチャンスだ。

 

『刮目せよ! これが俺の編み出したスライム流戦闘スキル!』

 

 俺はゴブリンに飛び掛かる。

 空中にいる最中、体を普段以上に柔らかくし、その面積を目一杯広げる。

 

『〈フェイス・ハグ〉!』

「グボッ!?」

 

 そしてその状態を維持したまま、ゴブリンの顔面にへばりついた。

 

「グ、グボボ」

『はっはっはっ! どうだ、これがスライムだからこそ成せる技だ!』

 

 容易に剥がせると思うな、そのまま窒息死してしまえ!

 

「グ、ギィー!」

『うお!?』

 

 中々引き剥がせない事への苛立ちを表現するかのように、ゴブリンは顔をブンブンと振り回す。

 

『くっ、そんな事をしても無駄だ。絶対に離れてやるも……!』

 

 いや違う! コイツ、このまま俺を地面や壁にぶつけて潰すつもりだ!

 

『そ、それは不味い!』

 

 体を多少削られても(めちゃくちゃ痛いが)支障はない。しかし核を破壊されたら、その瞬間に俺は終わる。

 

「ギギギィー!」

『くっ……!』

 

 ゴブリンが自身の頭を振りかぶる直後、俺はその勢いを利用してへばり付きを解除する。

 

『落下死して、堪る、かぁ!』

 

 空中に放られた俺は、核を上の方に持っていき、落下の衝撃をなんとか体で受け切ってみせる。

 

『グギッ! ……た、助かった。けど』

 

 敵と距離が離れてしまった。もう一度フェイス・ハグを、いやもう通用しないだろう。なんとか体当たりだけで、

 

『すごーい!』

『へ?』

 

 そう考えていた時、彼女がそんな事を言った。

 

『なにを……あっ』

 

 そこで気が付く。ゴブリンの顔に、大木の太い枝が深々と突き刺さっている事に。

 

「……」

 

 ゴブリンは、死んでいた。

 

『そっ、か。死んだのか』

『すごいすごーい! あのこわいの、たおしたー!』

『い、いや、たまたま運が良かったというか』

 

 運が良かった。そうとしか言えない。アレが無かったら、今頃俺はジリ貧になって返り討ちに遭っていた事だろう。

 

『でも、たおしたよ? あと、たすけてくれた! ありがとー!』

『……それもたまたまだ』

 

 憎きゴブリンに仕返し出来る絶好のチャンスだったから飛び出した。それだけの話だ。

 

『ねーねー、やっぱり、いっしょにこよー!』

『え? いや、でもなぁ』

『ねーねー! ねーねー!』

『う、うーん』

 

 下心の欠片も無い(抱く情緒が育っていないのだろう)、純真無垢な訴えに思わず頷きそうなるが、なんとか抑える。

 

『……いや、やっぱり』

『あ、みんなー!』

『みんな?』

 

 断ろうとした直前、彼女は気になる発言をしてきた。

 

『うん、みんなだよー』

 

 彼女は俺へ紹介するように"みんな"の元へ移動する。

 現れた同胞(スライム)は、色とりどりの計四匹。小柄な赤いスライム、大柄な金色のスライム、そして普通サイズの黒いスライムと茶色のスライムだ。

 

『えっと、どうも?』

『『『『……』』』』

 

 反応なし。どうやら彼女のように喋らない個体らしい。

 

『……』

『うん、そうだよー、いっしょにくるのー』

『え、分かるの?』

『うん? うん、そうだよー』

 

 しかしそう感じたのは俺だけのようで、彼女は同胞達が何を言っているのか分かってるらしい。

 

『……? わかんない?』

『わ、分からない、です。はい』

 

 もしかして、普通のスライムは皆そうなのか? 分かるものなのか?

 

『というかまだ、一緒に行こうとは言って……いや』

 

 言い掛けて、俺はふと気付く。

 

(別に悪い話じゃないのでは?)

 

 なにも好きでソロプレイをしている訳じゃない。ずっと一人だったから失念していたが、仲間は多い方が良いに決まってる。いやむしろ最弱種のスライムにこそ、仲間は必要不可欠だった。

 

『……うん、そうだな、俺も一緒に行くよ』

『わーい!』

 

 このままスライム生を謳歌するつもりは無い。けど何をするにも、この世界で安住の地を見つけない事には始まらない。だから俺は暫くの間だけ、同胞達と行動を共にする事に決めたのだ。

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