死にゲーみたいな仕様で異世界転生したスライムはどうすりゃいいですか?   作:ブナハブ

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きみのいろ

(……平和だ)

 

 同胞達の群れに仲間入りして早数日、俺は今までの極限サバイバルが嘘のような、のんびりとした時間を過ごしていた。現在、陽当たりの良い場所で日向ぼっこ中である。

 

(同胞達に出会えたのといい、これまでで一番の当たり(・・・)だな)

 

 初めは戦々恐々としていたが、この森は気候も穏やかだし、特別強い魔物も居ない。なによりゴブリンが居ない!

 

(此処に生息している魔物は、犬顔の小人とかツノの生えた兎とか……よほど飢えてない限り、スライムを襲わない連中ばかりだ)

 

 楽園と呼べるほどじゃないが、暮らしやすさで言えばダントツだった。

 

(ゴブリンに勝利できた時といい、今回は運が良い)

 

 お陰で現在、何かをする余裕があった。……この機会を無駄にしてはいけない。

 

『なにしてるのー?』

『今なにをするのか考えてるところ』

 

 彼女(ピンク色の同胞)の問いに俺は淡々と答える。

 そう、俺は決して暇を持て余して日向ぼっこをしている訳じゃない。この貴重な時間を有意義な物にするべく、思考を回している最中なのだ。

 

(体でも鍛えるか? いやでもスライムって、どこをどう鍛えたら強くなれるんだ?)

 

 一粒の核にジェル状の肉体、神様の手抜きとしか思えないこのドシンプルボディに発展性はあるのか?

 

『なあ、同胞達はどうやったら強くなれるんだ?』

『つよくー? ……わかんなーい』

『そっかー』

 

 期待はしていなかったが、案の定の答えが返ってきた。彼女達にはそもそも、強くなりたいという欲求すら無いのだろう。

 

(鍛える以外で強くなるには……魔物との実戦?)

 

 この世界がRPGなら魔物を倒してレベルアップとか出来そうだけど、今のところステータスみたいなのは出せないし、望み薄か。

 

(というか戦闘なんて絶対に御免だ)

 

 最弱種族の名は伊達じゃない。スライム一匹で勝てる魔物なんてどこを見ても居ないし、魔物じゃない、普通の狼にすら勝てるかも怪しい。

 強いて言えば、同じスライム相手なら倒せそうだが……

 

(いや、無理だな)

『……?』

 

 無垢な視線(目なんて無いけど)をぶつけてくる彼女を見れば、そんな考えも消え失せるという物だ。

 

(そうなるとやっぱり、今出来る事でやれる事を探すしかないか)

 

 以前編み出した〈フェイス・ハグ〉のように、スライムだから出来る事を。

 

『………………なんも思いつかん』

 

 ただ、そうアイデアがポンポン出てくる訳もない。というかスライムの体で出来る事自体が少なすぎる。スライムなんだからもっとグニャグニャに動けても良いだろう。

 

『せめて手があればなぁ、武器を持ったり道具を作れたりするんだけど』

『ねーねー』

『うん?』

 

 ままならない現実に頭を悩ませていると、彼女が体を押し付けて話しかけてくる。

 

『これのいろ、なーに?』

 

 そう言って彼女は、花に止まっていた蝶に意識を向ける。

 同胞の中で唯一意思疎通が出来る彼女は、どうやら()に興味津々らしく、こうして事あるごとに色んな物の色を尋ねてくる。

 

『この蝶の羽か? これは水色だな』

『ミズいろ?』

 

 俺がそう答えると、彼女は不思議そうにして問いかけた。

 

『でもこのいろ、しってるミズいろとちがう』

『え? ……あー』

 

 一瞬どういう意味か分からなかったが、そういえばと、前に俺の体の色は水色だと答えていた事を思い出す。

 

『確かに俺のは、水色というより空色が近いかな?』(些細な違いだが、そういうのに結構敏感なのか?)

『ソラ……ソラ……』

 

 俺が彼女の指摘に内心驚いていると、彼女はブツブツと何かを呟く。

 

『……ソラ!』

『うおっ、びっくりした』

『ねえソラ。このいろ、このいろは?』

『このいろ? あーっと、もしかして自分の体の色か?』

 

……うん?

 

『もしかして今、俺の事をソラって言ったか?』

『うん、ソラいろだから』

『なんだそりゃ』

 

 唐突に、なんの脈絡もなく名付けが行われた。

 

(どういう風の吹き回しだ?)

 

 同胞達と共に過ごして数日、スライム界に名付けの文化は無いものだと思っていたのだが……

 

『ねーねーソラ。このいろ、このいろは?』

『あ、ああ、それの色はピン……』

 

 ピンク色と言おうとして、はたと止まる。この流れ、もしかして彼女は体の色で名前を決めようとしているのではないか? もしそうなら、

 

『───今日から私の名前はピンク!』

 

……みたいな事になりかねない。スライムの感性的には気にしないだろうけど、元人間の感性的に体色がピンクだから名前はピンクと名付けるのは安直すぎて逆に申し訳ない。

 

(俺も一歩間違えてたら、水色のミズになってたんだろうか?)

 

 あの時空色と答えて良かったと思いながら、俺は彼女の体の色をどう答えるべきかと暫く頭を悩ませた。

 

『……桃色だな』

『モモイロ?』

『ああ、桃だ。桃色』

『モモ……!』

 

 パァー!と、喜色に満ちた声と思念が送られてくる。俺に顔があったら、思わず笑みを溢していただろう。

 

『ねーソラ!』

『どうしたモモ』

『みんなのいろ、ききたい!』

 

 みんな、というのは他の同胞達の事だろう。

 

(……)

 

 本当は自衛の為の特訓をしようと思ってたんだが、

 

『ああ、勿論いいぞ』(コミュニティ内での付き合いも大事だしな)

 

 気まぐれだろうが、名前を貰ったんだ。そのお礼に同胞達の名付けの手伝いはするべきだろう。

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