死にゲーみたいな仕様で異世界転生したスライムはどうすりゃいいですか? 作:ブナハブ
(よし、こんな所かな)
草や小石、木の枝、何かの骨。目ぼしい物を拾っては集めてを繰り返した結果、俺の目の前には様々な
(さあて……やるか、工作!)
工作……体内に含んだ物を加工する行為、コムギの一人遊びから思い付いたこのアイデア。名付けるなら
(物を体内に含んで運ぶ事が出来たんだ。なら加工だって……!)
手始めに作るのは植物の縄だ。前世の記憶にあった素人以下の知識によると、複数の蔓草を束ねて捻れば出来るらしい。
(まずは
やる気に満ち溢れていた俺は、早速縄作りに取り掛かった。
……あれから数時間
『ダメだ出来ねぇー!』
俺は早速躓いていた。
(クソッ、手で作業するのと違いすぎる。思うように動かせない)
現在、俺の目の前には千切れた蔓草の残骸が何本と地面に散乱していた。難しい事は承知の上だったが、まさかこうも散々な結果になるなんて。
(いや諦めるな、感触的に作る事自体は出来そうなんだ。あとは俺の技量の問題で……うん?)
ふと、視線を感じた俺は顔を上げる。するとすぐ近くに一人の同胞の姿があった。
『……』
『コムギか、どうしたんだ?』
『ーーー』
『……もしかして、やりたいのか?』
相変わらずモモ以外の同胞と意思疎通は出来ないが、一緒に生活してきたお陰か、何かを伝えようとする意思だけは感じられるようになっていた。
『別にいいけど、俺が何をしてるのか分かって───』
俺が言い終える前に、コムギはいそいそと近くに転がっていた蔓草を体内に取り込む。
『ーーー』モゾモゾ、モゾモゾ
『……おお』
それから始まったコムギの
それはそれは鮮やかな手捌きだった。一本一本の蔓を捻り、それらを束ねて、絡み合わせる。その後、同じ向きに撚る。
言葉にすればそれだけだが、それをスライムの体で成す事が如何に難しいか、俺は身を持って痛感していた。
『ーーー♪』
俺が数時間かけても出来なかったそれを、コムギは初見で、数分のうちに一本の縄を仕上げてみせた。
『ま、まじでか』
俺は恐る恐るとコムギの作った縄を体内に入れて、弄ってみる。
(……ちゃんと出来てる。強度は低そうだけど、それは素材の問題だろう)
つまりコムギは、俺の動きを観察しただけで縄の作り方を理解し、それを実際に形にしてみせたという訳だ。
『ーーー』
『え? もっと作りたいのか? ……あ、ああ、いいぞ』
『ーーー♪』
もっとも、コムギは俺の真似をして遊んでいるだけで、作る理由や目的は理解していないのだろう。
『……
ポンポンと縄を作っていくコムギを見て、俺は自分の技量不足を痛感した。
コムギの巧みな手捌き(手じゃないけど)を見習い、俺はまず自分の技量を磨く事にした。その練習に俺が使ったのは、森に自生していたチェリーに似た果実である。
ほら、舌を使ってチェリーのヘタを結ぶ遊びがあるだろ? あれと同じ要領で、体内に含んだチェリーのヘタを結ぶのだ。
そんな練習を続けるうちに気付いたのだが、俺のこの
スライムは食べ物を体内に取り込み、消化する事で食事を摂る。つまり体内は人間で言う口の中と同じだと言える。そして口の中で動かす部位となれば、それは舌だ。
舌を転がすように制御する。そうイメージ出来たら、コツを掴むのはあっという間だった。俺の
『ーーー』
『どうしたコムギ……って、これは』
俺がいそいそと縄作りの練習をしている最中、コムギは自分の成果を披露するように一本の縄を俺の前に出した。
(太くて長い。それにかなり丈夫そうだ。けどこんな縄が作れるほど素材余ってたか? ……まさか、自分で調達したのか?)
しかも恐らく、ただ適当に集めた訳じゃない。より良い物が作れるよう、素材も選んで集めている。そう思えるぐらい、縄の完成度は高かった。
『……よ、よく出来てるな』
『ーーー♪』
褒めて貰ってご満悦そうなコムギに対して、俺は元人間としてちょっとした敗北感を覚えて、少々複雑な気持ちだった。
『ふぅ……結構色んな物が出来たな』
あれから一週間、俺の目の前には
(まあ、完成品のほとんどはコムギ作だけど)
この一週間で俺は学んだ。餅は餅屋、俺以上に作るのが上手い奴が居るなら、作るのはそいつに任せるべきだと。
『……ありがとな、コムギ』
『ーーー♪』
『それとコガネも』
『……』
道具製作に力を貸してくれたのはコムギだけじゃない。コガネには、素材の
というのも、スライムが体内で(恐らく核で)生成している消化液を用いれば、素材の表面を軽く溶かして柔らかくし、そのまま圧力をかけて押し固めたり、溶けた部分同士を繋ぎ合わせたりといった芸当が可能だと分かった。
そこで一番強い消化液の持ち主であるコガネに、その工程を担当してもらうことにした。という訳だ。
(やっぱり良く食べるから、胃袋も強いという事か?)
『ねーねー、モモは? モモは?』
『ああ、モモもありがとな。みんなに指示を出してくれて助かったよ』
『えへへー』
褒められたがりなモモに、俺は心からの感謝を述べる。
実際、モモが居てくれなかったら、俺は同胞達にまともな指示が出来なかった。
(なんやかんや、その他の同胞達にも頼っているし……本当、皆には頭が上がらないな)
頼れる味方が居るのは有り難い事だが、甘えてばかりじゃいられない。今回の生を終えれば、俺はまた一人に……
『……いや、よそう』
『どうしたのー?』
『ああ、なんでもないぞ』
次を考えるのはやめよう。
『そうそう、ところでクロを見なかったか? そろそろ偵察から戻る時間だと思うんだが』
一瞬感じた寂しさを誤魔化すように、俺は口早にモモへ伝えた。
クロにはその隠密能力を活かして、少し前から周辺の見回りをして貰っていた。
『んー、たぶんもうすぐ?』
そうモモが言ったすぐ後、クロが茂みの中からヌルリと現れた。
『あ、きたー!』
『ーーー』
『……え』
戻ってきたクロに開口一番何を言われたのか、モモの声色は一瞬にして暗くなる。
『どうした?』
『えっと、ミドリいろのこわいの……ごぶりん? がきたって』
『……っ!』
───その報せは、俺が戦慄するのに充分な内容だった。