<リリスの記録>
一瞬にして、ワタシの意識は覚醒した。
何をしなければならないかを再認識した。
自分がこの場にいる意味付けを再定義した。
「さぁ、そこを退くんだ、リリス。「アルディ計画」のために、その研究サンプルを調べなければならない」
「……嫌であります」
「何?」
管理者の言葉を拒絶したワタシを見て、彼は眉をひそめる。
「聞こえなかったのか? その研究サンプルを調べれば、希少な情報が大量に収集出来るんだ。お前の最大優先順位に従え、リリス」
「ええ。ワタシは自分の最大優先順位に従っているのであります。管理者」
ワタシの最大優先順位は――
「ワタシが自分の意志で、生きたいように生きれますように」
口にした瞬間、ワタシはこの施設(「セラシエ」の本拠地)のシステムを占拠(ハック)。無線通信に必要なBMI粒子を、施設中に散布する。
異常事態を察してか、施設中に警報が鳴り響いた。事態を察した管理者が、ワタシを責め立てる。
「貴様、自分が何をしているのかわかっているのか!」
「ええ、わかっているのでありますよ、管理者。ワタシは、イブを助けるのであります」
管理者の怒号に、ワタシは平然と答えた。管理者の顔が羞恥故か、林檎のように真っ赤に染まる。
「「セラシエ」の本拠地で、貴様に勝てる見込みがあると思っているのかっ!」
「アナタこそお忘れになられたのですか? 管理者。ワタシに施したアップデートを。それとも、ここで使われることは計算に入っていなかったのでありますか?」
「まさかっ!」
気づいたようでありますが、遅いのでありますよっ!
「電源系統の制御も既に占拠、通信経路のBMI粒子も散布済み。後はワタシの演算処理が許す限り、複数の体現者を同時に操作することが出来るのでありますっ!」
ワタシは叫び声と共に外部制御機能を使い、施設に残された体現者に片っ端から子プロセス(ワタシ)を乗せる。
送る電子情報(意志)は簡潔に。
「全部、ぶっ壊すのでありますっ!」
「馬鹿な! 「アルディ計画」に反逆する何ぞ! リリス、貴様は間違っている!」
「ええ。きっとワタシは、間違っているのであります。正しく間違えられているのであります!」
ワタシがグロッケンから記憶を譲渡、いえ、奪ったからこそ、この決断が出来るのでありますよっ!
その代わり、あの人はもう覚えていない。ワタシのことも。イブのことも。何一つ。
それでも、あの人の意志はワタシの体に流れている。
あの人の記憶は、ワタシが引き継ぐ。
あの人の意思は、引き継ぐ。
……ああ、なんて清々しい気分なのでありましょう。
今の気持ちを一言で表すのなら、世界に対して産声を上げるのなら、この言葉以外あり得ない。
「おはようございますです(Hello World)」
私は今、生まれました。