東方双神録   作:ぎんがぁ!

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少し長めです。
そして矛盾してないか困った回です。

ではどうぞー!


第九十六話 耐え重ね、壊れた想い

〜数十分前 双也side〜

 

薄暗い階段を延々と降りていく。響くのはカツン、カツンという俺の足音だけ。

空気はひんやり冷たく、夏であるこの時期にとっては中々涼しい。

間違ってもここで過ごそうとは思わないが。

 

ここは最近も使われているようでそこまで埃っぽくなく、さらに道の所々に小さな通気口も通っているようなので、地下だからと言って息苦しくもない。

この先には倉庫でもあるのだろうか。

 

 

………いや、やっぱりその線は無さそうだ。

この階段の先…地下にあるであろう部屋から、大きな妖力を感じる(・・・・・・・・・)からだ。

 

 

(こんな地下に…妖怪? 封印でもされてるのか?)

 

やがて、不気味な階段の先に扉が見えてきた。

入り口の鉄の扉とは違い、木製の普通の扉の様に見える。が、一つ違うのが……ドアノブのところに、妖力を使った南京錠が付いている事。

 

そこまで強力な錠ではないし出来ないこともないが、恐らく内側から開けるのは少々手間がかかるだろう。

俺は躊躇いなくその南京錠を"遮断能力で壊した"。

 

 

………勘違いしないで貰いたいが、別に何も考えずやっているわけじゃあない。

考えてみてくれ。仮にこの南京錠が封印だったとして、なぜそれをここに付ける?

いや、正確に言えば、ここに付けるくらいなら最初の扉にも付けておけよ、という話だ。

本当に封ずる気があるなら錠でも術でも念入りにやるべきである。それが分からない紅魔館勢では無いだろう。

 

更に言わせて貰えば、封印してあるなら埃っぽくない筈がない。

封印というのは、中の物が二度と出てこないように閉じ込める事。埃っぽくないという事は、頻繁に誰かがここに来ているという事を示している。

中を覗けそうな小さな穴はあるが、封印する程忌み嫌う者ならば、わざわざこんな長い階段を降りて来てまで様子を見には来ないだろう。

 

結論、封印じゃないなら気兼ねなく中に入れる。

 

…という訳である。

 

(って誰に向けて説明してるんだ俺は…)

 

思考をリセットする様に頭を少し振るい、ドアノブに手をかけた。ここもやはり、埃は被っていない。

カチャリと言う音と共に引くと、ギィィ……と軋みながら扉が開いた。

 

中はやはり薄暗い。が、微かにベッドやタンスなど、洋式の生活用品が視界に映る。そしてそのベッドに座り込んでいる小さな女の子の姿。

 

「お姉様っ!? ………なんだ…」

 

ベッドに座り込むその娘は、金色の髪をサイドテールで纏め、背中に宝石のような不思議な羽を持っている。

ボロボロのクマのぬいぐるみを抱き締め、こちらを見つめるその目は、少しだけくすんだような赤色をしていた。

 

記憶が蘇る。

かつてはいろいろと知っていたが、時が経った今ではその殆どを失ってしまっている、古い記憶。

 

そうだ、この娘の事を忘れていた。名前だけは思い出せないが、その強烈な個性がまだ頭の中に焼きついていた。

この娘はーーー

 

 

「ねぇ、新しいお人形さん(・・・・・)

 

 

その娘が手を広げる。何かを握り締めようとしている様に。

その動作にとっさに反応した俺はーーー

 

 

「今度はあなたが遊んでくれるの?」

 

 

ーーー目の前を飛び散る、真っ赤な血飛沫を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、取り敢えず破裂せずには済んだ。

 

 

「ッ、い"っつ〜…」

 

身体中に激痛が走る。血が噴き出しはしたが、その傷も既に治癒済み。

痛みに耐えてうつむいていた頭をあげると、少女は目を見開いて驚いた顔をしていた。

 

 

そして、それは直ぐに不気味な笑みに変わった。

 

 

「壊れない…! 壊れないよ! お人形さんっ!!」

 

再び手を開き、何度も何度も何か(・・)を握り潰す。

その度に俺の身体はあらゆる場所が裂け、血が噴き出した。

何度も何度も、身体が裂ける苦痛が襲ってくる。

 

「がっ 、ぐあぁ! あ"あ"あ"ぁあっ!!」

 

「あはははははっ!! スゴイスゴイ!! こんなオモチャは初めてだよっ!!」

 

俺の様子を見て高笑いをあげる少女。

羽がある時点で人間ではない事は分かっていたが、苦しむ様子をみて愉悦に浸るというのは、妖怪だとしてもいささか異常である。

 

彼女の能力。

強力極まりないその正体は、今は朧げな記憶の中にもまだ生きていた。

それは"あらゆる物を破壊する程度の能力"。

 

人に限らず、この世に存在するあらゆる物には、最も緊張している一点、"目"という物のが存在する。

彼女は、その"目"を手元に移動させ、握り潰す事で相手を爆散させる事ができるのだ。

さっきから彼女が握り潰しているのは、疑いようも無く俺の"目"だ。

 

では、なぜ俺は爆散せずに生きているのか。

それは一重に、俺が今必死こいて能力を使っているからだ。

彼女が最初に手を開いた瞬間、既に能力を思い出していた俺は、咄嗟に自らを構成する原子結合をさらに強く繋げた。

しかし、目というのは言わば爆破スイッチの様なもので、いくら結合を強めようと一瞬はどうしても離れてしまう。

離れた肉を、能力で引き合わせて再び繋ぐ。

その結果が、コレだ。

 

「ガア"ァ"アアァア"アッ!!!」

 

「スゴイよお人形さんっ!! こんなに壊しても壊れない!! もっともっと壊させて!!」

 

激痛は絶え間なく襲い掛かり、

 

血が噴き出す感覚に吐き気を覚え、

 

肉が離れる不快感を延々と味わう。

 

離れた肉も再び繋がり、その繰り返し。

 

能力を使わなければ待っているのは死。だから解く事は許されない。

でもこの苦痛もかなり耐え難いものだった。

 

…正直言って、ここに来た事を後悔した。

 

「あハっ♪ じゃあじゃあ、コレはどう!?」

 

不意に少女が"俺を壊す"のを止め、突然弾幕を放ってきた。

激痛で身を硬直させていた俺は、反応する事など到底出来ず……全弾をモロに受けてしまった。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、やり過ぎだろ…くそ…」

 

吹き飛ばされた先では、壁に激突して半ば埋まり込んでしまった。

それでも、さっきまでの破壊の応酬よりは何倍も楽だ。

少しばかりの小休止に涙が出そうである。

……心からの休息なんてしてられないけど。

 

暗かったのでよく分からなかったが、この部屋は割と大きめの作りをしているらしい。

一人で過ごすにはあまりにも広い空間が広がっていた。

でもまぁ、それも納得の行く話ではある。

この部屋の"壊れ様"、あの少女の"異常性"。………つまりそういう事なのだろう。

 

立ち上った煙が消えていくと、目先に立っていた少女は嬉しそうに頬を歪め、くすんだ瞳で言ってきた。

 

「うふふ…まだ壊れてない…! 今までの"オモチャ"はすぐ壊れちゃったけど、このお人形さんはまだまだいっぱいいーっぱい壊せる…♪」

 

……さっきからこの娘が言っている"壊す"という単語。十中八九"殺す"という意味だろう。

くすんだ瞳に、嬉々として、愉悦を感じながら俺を殺そうとする姿勢。

恐らく…いや、ほぼ間違い無くこの娘は何処かがおかしくなっている。

原作にその理由も書いてあった気がするが、そんな細かい設定などもう忘却の彼方。

こんな時は本当に自分を恨めしく思う。

 

そうやって黙り込んで考察していると、俺が壊れない事に感動しているらしい少女の呟き声が、微かに俺の鼓膜を震わせた。

 

「はぁぁ…♪ お姉様…憎たらしいお姉さま、大っきらいなお姉さま♪ もっともっといっぱい、おねえさまをこわしてあげる…♪ もっともっと、イタイイタイってさけばせてあげる♪」

 

だんだんとかたことの様になっていく少女の言葉。

顔は蕩けたような表情をしていて、ある意味蠱惑的ではある。

だが、その口から漏れる言葉は殺意に満ちていて、怨念のような、呪詛のような、とても正気では語れないようなドス黒いナニカを孕ませていた。

 

この娘の頭は、一体何を考えているのだろう?

言葉から察するには、姉への殺意。あまりにも強い、怨念の様な濁った殺意だ。

でもどこか引っかかる所がある。何か、頭の片隅に納得しきっていない部分があるのだ。

 

 

…この娘の"コレ"は、本当に唯の殺意か?

 

 

その引っかかりを探っていると、少女の妖力が大きくなっていくのを感じた。

 

 

「おねえさま…おねえさまァッ!!!」

 

そう叫びながら、少女は俺に突っ込んできた。

妖力を纏ったパンチ、それは俺が避けた後にあった壁を弾けるように壊した。

腕をズボッと引き抜いた少女は、飛び退いて避けた俺の方を見てグリンッと頭を傾けた。

 

「……よけないで…?」

 

「ッ!」

 

「よけちゃだめっ!!」

 

刹那、とんでもない速度で距離を詰められ、再びパンチを繰り出してきた。

咄嗟に拳を掴もうとしたが速度が足りず、結果拳を弾く形になってしまった。

少女の攻撃はまだまだ続く。

 

「よけないでよけないでよけないでよけないでッ!!!」

 

「くっ…早いっ…」

 

呪文の様に言葉を並べ、パンチや蹴り、はたまた手刀などといった怒涛の連撃が迫ってくる。

早すぎるそれらを必死で捌いていると、"呪文"の中に気になる言葉を聞いた。

 

「よけたらおねえさまをこわせないよっ!!」

 

(!…コイツ…もしかして…)

 

繋がっていく言葉達。この娘の頭の中。狂った末。

俺の予想が正しいならば…………

 

コレは、その裏返し(・・・)か。

 

「こわれて、こわれてよ!!こわれてよォッ!!!」

 

続く連撃。考え事をしている間も割と必死で捌いていた攻撃なのだが、俺はあえて攻撃を食らった(・・・・・・・・・・)

話をするチャンスが欲しかったからだ。

当然、俺の身体は軽々と吹き飛ばされた。

 

「まだ…まだだよ…こわしたりないよ…」

 

激突した衝撃で軋む身体をどうにか持ち上げ、フラフラと揺れる少女に声を掛けた。

 

「……なぁ、お前…そんなに壊したいのか?」

 

「そうだよ…おねえさまを…いっぱい…いっぱいこわしたい…」

 

「…大好きな(・・・・)姉ちゃんを、か?」

 

少女の目を真っ直ぐ見てそう言うと、突然俺は床に押さえつけらていた。

首は少女に鷲掴みにされている。が、首にかかる力を遮断したので苦しくはない。

 

「俺を"姉ちゃんに見立てて"壊しまくって、それで満足なのか?」

 

「だまってッ!!」

 

首を掴む力が強くなる。少女の瞳は揺れていた。

この娘は恐らく、(人形)を姉に見立て、それを壊して気持ちを発散しているのだろう。

最初の言葉を聞く限り、俺の様なオモチャは今までもあったはずだ。何人犠牲になったのかは分からないが、きっとすぐに壊れては取り替え、壊れては取り替え……それを繰り返してきたのだろう。

 

…話を戻そう。

結論から言えば、この娘は恐らく大好きな姉を恨んでいる(・・・・・・・・・・・)のだ。

その心の矛盾が、こうしてオモチャを壊す事に繋がっている。

 

「詳しくは知らない。が、大好きな姉を殺したくなるほどの出来事がお前たちにはあった。でも、それでも大好きな姉を本当に殺す事なんて出来ない。だから代わりに、こうしてオモチャを壊し続ける。…………違うか?」

 

この娘は、どんな恨み言を言っていても内心は姉の事を好いている。

それを裏付けるのは、俺がここに入った時の嬉しそうな声音。

そして、この娘が"人形を壊す事に甘んじている事実"

これほどの力を持っていれば、力尽くで扉を壊し、本当に殺しに行けたはず。

それをせず、人形を姉に見立てて壊す事で我慢しているのは、この娘が本当は姉の事を想っている証拠である。

 

「うるさいっ!! そんな話聞きたくないっ!!」

 

少女は首根っこを掴んだまま、また壁の方へ俺を投げつけた。殴られる程の衝撃は無いのでかなり楽だ。痛いものは痛いが。

そして、少女の言葉にも理性が戻ってきた様だ。

言葉で精神攻撃しているようなモノだから"引きずり戻した"の方が適切ではある。まぁそれは今関係ない。

 

 

大好きだけど殺したい。大好きだから殺せない。

 

 

矛盾したこの気持ちが、人形を壊すだけでは発散仕切れず、溜まりに溜まった精神ストレスがこの娘の心を壊してしまったのだろう。

壊れない俺への過剰な仕打ちがそれを鮮明に表している。

どう考えてもやり過ぎだろう。そろそろ泣くぞ?

 

「知ったような事言わないでよお人形さんの癖にっ!」

 

少女はどこからか光るカードを取り出し、怒りの表情を表しながら宣言した。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!!!」

 

少女の手にグニャリと曲がった黒い物が現れる。その先端からは凄まじい炎が溢れ出し、やがて巨大な炎剣を形作った。

 

って、これ結構ヤバくないか?

 

「私はお姉様が嫌い! 憎くて恨めしくて殺したくて! どうしようもないから壊したいのっ!!」

 

「…マズイなぁ、ちょっと刺激しすぎた。どうにかして落ち着かせねぇと

ーーー大霊剣『万象結界刃』」

 

宣言ーーと共に振り下ろされたレーヴァテインを受け止める。炎と霊力が衝突した為強い衝撃波が発生し、部屋を更に傷つけていった。

 

少しの間剣で斬り結んでいたが、少女の斬り上げを受け止めた瞬間、炎の炸裂で吹き飛ばされ、天井を突き破った。

出てきたのはあの大きな図書館。

 

飛んでいる最中にも少女の追撃が襲い掛かってきた。剣幕は先程と変わらず、凄まじい。

 

「いいから落ち着けっ!!」

 

「うるさいうるさいっ!! あなたは黙っててよっ!!」

 

叫びと共に振り降ろされた少女の剣は、空中で特に足場も作っていなかった俺を軽々と吹き飛ばし、本棚と共に床に叩きつけられた。

 

「ぐっ、いてぇっ…くそ、どうしろってんだあんなの…」

 

俺の視線の先には、荒い呼吸で俺を睨みつける少女の姿があった。

 

 

 

 

 




なんかフランの壊れ具合が……

ではでは。

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