東方双神録   作:ぎんがぁ!

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この作品でのれみりゃは話し相手のことを"貴方"とか"お前"とかって使い分けています。
一応言っておきました。一応。

ではどうぞ!


第九十九話 二人の真実

青い空、浮かぶ雲。

広い庭に、涼しげな噴水。

少し目を横にやれば、そんな素晴らしい光景を目に入れることができる。

 

紫の家で目覚め、一ヶ月ぶりの帰宅を遂げた翌日である。

俺は異変の後の事を話したいと思い、紅魔館に足を運んでいた。

あ、因みに、紫のプレゼントっつーのはまさかのエアコンだった。

嬉し過ぎて"紫大好き愛してる!!"って叫びそうになった。

いや叫んでないけど。叫んで勘違いされたら困る。

口は災いの元って言うし。

 

…で、紅魔館。

風がよく通るその屋敷のテラスの椅子に、俺はゆったりと腰掛けていた。

目の前には、幼いながらも強い雰囲気を醸す吸血鬼(・・・)の姿が。

 

「それにしても、この幻想郷は面白い所ね。こちらに来て正解だったわ」

 

「? 何が?」

 

「規則よ規則。スペルカードルールだったかしら? 殺し合いをまさか弾幕勝負なんてゲームにしてるなんて、想像もしてなかったわ」

 

そう言い、肩肘をつきながらも薄く微笑む少女ーーレミリア・スカーレット。この紅魔館の当主であり、強い力を持った吸血鬼である。

彼女は、端的に言えば今回の異変の首謀者だ。

先程彼女と話していた事なのだが、なにやら"幻想郷を吸血鬼に住みやすい世界にする"とかいう野望の為、異変を起こしたらしい。

我が儘おぜうさまかっ! っと喉元まで出かかったが、なんとなく怒られる気がしたので頑張ってせき止めた。

 

微笑んだ表情のまま注いである紅茶を啜る彼女に、今度は俺から話しかけた。

 

「でも、面白かっただろ? 俺の妹分の巫女が考え出した、"人も神も妖怪も対等になる為のルール"だ」

 

妹分ってのはもちろん、霊夢の事である。

もう小さい頃から見てるし、それでもいいよね?

 

「ふーん、あの巫女がねぇ……人間が考えたにしてはいいアイデアだと思うわ。それに、確かに面白かったしね」

 

「そりゃ兄貴分としても鼻が高いな。アイツに言ってやれば喜ぶんじゃないか?」

 

「わざわざ、自分を倒した相手の機嫌をとるような事はしないわよ。例えお遊びの戦いで負けたとしてもね」

 

「幻想郷でそんなこと言ってると弱者と一緒にされるぞ。せっかく強い力を持ってるのに」

 

「それは遺憾ね。高尚な私達吸血鬼が、そこらに転がってるような妖怪と一緒にされては困るわ」

 

冗談混じりに交わす会話が意外と楽しい。

案外吸血鬼というのも、俺が思っていたほど凶暴な種族ではないようだ。

……まぁ、見た目は可愛らしいからな、レミリアもあの少女(・・)も。

 

 

……そうだ、あの娘の事も聞いておかないと。

 

 

「なぁレミリア、地下に居る女の子とは、上手くいってるか?」

 

そう聞くと、彼女は微笑んでいた顔をすぐに引き締め、少し眉根を寄せた。

 

「……なぜお前があの娘の事を知っている?」

 

言葉には圧力がかかっていた。

下手な返答をすれば即座に首が飛んでしまいそうな、そんな圧力。

あの娘()を思う気持ちが、伝わってくるようだ。

 

「や、異変の時お前の所に来ただろ。アレを促したのは俺だからな」

 

「…………なるほど、あの娘が言っていたのは貴方のことだったのね。悪かったわ、無駄に圧力をかけてしまって」

 

「いや、気にすんな」

 

…………………。

 

しばし沈黙が訪れた。

レミリアは言葉を考えているのか、先ほどから目線が俺から逸れている。

急かすべき事でもないので、俺は静かに彼女を待っていた。

 

暫くして、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「あの娘との仲は……一応良好よ」

 

「一応?」

 

「……ええ」

 

小さくそう答えたレミリアは、少しだけ目を細めて話し始めた。

 

「あの娘…フランの気持ちを動かしてくれた貴方なら知っていると思うけど…私はね、フランの事を決して嫌ってなんかないわ。むしろ何より大切に思ってる」

 

「……そうだな」

 

「でも……閉じ込めた。あの広くて暗い部屋に」

 

"大切だけど閉じ込めた"

そう語る彼女の表情は酷く辛そうで、フランのことを想う気持ちに嘘が無い事を鮮明に表していた。

 

恐らく、今から語られる内容こそが、矛盾だらけで歪んでしまったこの姉妹を繋げる要因なのだろう。

俺は静かに、レミリアの言葉に耳を傾けた。

 

「……昔話をしましょうか。ある森の洋館に住んでいた、二人の吸血鬼の物語を」

 

彼女はゆっくり目を瞑り、語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔々、とある森の奥に大きな洋館が建っていました。

 

近くの村にはたくさんの人間が住んでいて、人々はいつも、その洋館の事を"悪魔の館"と呼んでいました。

 

日が差しにくく、一年中薄暗くてジメジメしており、"日が落ちたら入ってはいけない"という掟が付き纏う森。

その奥に悠然と建っている洋館がそう呼ばれるのは、とても自然な事でした。

 

しかし、人々が"悪魔の館"と呼び始めた本当の理由は、実は別にありました。

 

暗くて不気味な森の奥、その洋館に住んでいるのは、二人の吸血鬼だったのです。

 

見た目麗しい二人の吸血鬼姉妹。

人々に恐れられながらも、二人は洋館の中で仲良く暮らしていました。

 

 

『ねぇお姉様! 一緒に遊びましょ!』

 

『ええ、良いわよ。何をする?』

 

 

洋館の中は、二人で遊ぶには広過ぎるほどでした。

わざわざ外に出なくとも、少しくらいならはしゃいでも平気な程に。

だから二人は、外に出て無闇に人に危害を加えたりはしませんでした。

 

大好きな姉と、大好きな妹と、毎日を楽しく過ごしていたのです。

 

しかし、いくら吸血鬼と言えど、何も食べなければ死んでしまいます。

無闇に人を襲わない二人も、食事の時だけは仕方なく、山菜を求めて森に迷い込んだ人間を襲っていました。

それも最小限に、一人を二人で分け合って。

 

しかし、たとえ最小限だとしても、人を襲って食らう吸血鬼姉妹を、村の人々が恐れるのは至極当然の事でした。

 

次第に人々は、吸血鬼姉妹を退治しよう、と考えるようになりました。

皆剣や槍を手に取って、戦いを挑むようになったのです。

 

しかし、人間と吸血鬼では力に大きな差があります。

挑んだ人間達は次々と敗れ、遂に人々は、"恐怖"よりも"恨み"を感じるようになりました。

 

 

『お姉様、なんであの人達は怒ってるの?』

 

『……そうね、人間だから……でしょうね』

 

『……?』

 

 

まだ幼い妹は、賢い姉に尋ねました。

人間達が怒っている理由を、理解できなかったのです。

しかし姉は、人間達が怒っている理由も、自分達だけの責任ではない事もよく理解していました。

 

そんな人々と吸血鬼姉妹の関係は、数年間続きました。

 

ある日、村に一人の人間がやって来ました。

銀のナイフ、銀の拳銃、十字架などを身に付けた人間でした。

それは村の人々が依頼した、吸血鬼ハンターだったのです。

 

ハンターは、すぐさま姉妹を追い詰めました。

十字架は効かなかったけれど、銀の武器は吸血鬼にとてもよく効くのでした。

 

 

『お姉様! イヤだよ! 一緒に行こうよ!』

 

『フラン、あなたは…早く逃げて…!』

 

 

賢い姉は、幼い妹を庇って戦いました。

妹だけでも逃がそうとしていたのです。

しかし妹は、大好きな姉を置いては行けませんでした。

 

 

『(こ、このままじゃ…お姉様が…っ!)』

 

『フラン!! 早く!!』

 

 

大好きな姉が死んでしまう。そう考えた妹は、無意識に能力を開花させました。

 

"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"

 

ハンターと着いてきた人々は、全て一瞬で爆発し、血の雨を降らせました。

妹は、大好きな姉を守る事に成功したのです。

 

それからというもの、村の人々は姉妹に挑む事はありませんでした。

絶対的な恐怖心が芽生えたのです。

人々は、姉妹の退治を諦めたのでした。

 

生き延びた姉妹はと言うと、館に戻っても、以前のようには暮らせませんでした。

 

 

『…フラン、これからはここで過ごしなさい。ここから出ることは許しません』

 

『え……』

 

 

賢い姉は、幼い妹を暗い地下室に閉じ込めました。

誰よりも妹を大切に想っている姉は、"妹の能力は人々に恨みを募らせ続け、いつか妹自身に危険をもたらす"と考え、人との接触を断ったのです。

妹は叫びました。

 

 

『いや…いやだよ…お姉様! ここから出してよ!』

 

 

鍵のついたドアの向こうからは、返事はありませんでした。

当然、妹はこう考えました。

 

 

『そん…な…お姉様に……嫌われ、ちゃっ、た…?』

 

 

大好きな姉に嫌われた、裏切られた、と。

地下室の監禁は、長く永く続きました。

そして次第に妹は、暗い地下室で恨みを募らせていくのでした。

度々送られてくる人間を、姉に見立てて"壊す"事にしたのです。

 

 

『お、お願いだっ! 助けーー』

 

『ダーメ。お姉様が来ないから、あなたで我慢するの。簡単に壊れないでね?』

 

『やめーー』

 

ドパンッ

 

 

大好きな妹の事を想って閉じ込めた姉。

大好きな姉に裏切られて次第に心を壊していった妹。

 

平和に暮らしていた吸血鬼姉妹は、こうしてバラバラにすれ違ってしまったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

レミリアの口から語られる真実を、ただただ静かに聞いていた。

姉妹の矛盾を紐解き、そして理解するのはそう難しい事では無かった。

 

「……フランは…お前の気持ち、ちゃんと理解したんだよな?」

 

俺の問いに、レミリアは瞑っていた目を開き、自嘲気味に言った。

 

「……伝えるには伝えたわ。貴方が作ってくれた機会にね。…でも、フランが私を恨んでいたという事は事実。しかも、この話をした時あの娘…受け止め切れていないようだった…。その事を考えると、どうしても気後れしてしまうの。あの娘に面と向かう事が、怖くてたまらない……」

 

「……だから"一応"を付けたのか…」

 

彼女の身体は、小刻みに揺れていた。

大好きな者に恨まれるというのは、それだけ辛くて苦しい事なのだろう。

お互いをこんなにも想いあっているのに、まだすれ違ったままなのは悲しすぎる。

二人が元に戻るのを、手助けしてあげたい気持ちでいっぱいだった。

 

「なぁ、レミリア」

 

「…何かしら?」

 

だから、俺は躊躇なく手助けする事に決めた。

ついでに親睦を深める意味も込めて。

 

 

 

 

 

「みんなで宴会しよう!」

 

 

 

 

 




この双神録のスカーレット姉妹は、実にありがちな"すれ違い"のお話にしました。

なんとなくオリジナルの部分もなくはなくなくない感じに仕上がった……かな?

ではでは。

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