東方双神録   作:ぎんがぁ!

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記念すべき百話目ですっ!

百話に相応しく綺麗に締められたと思っています。
まぁ相応に難産でしたが……

では! 貫禄の百話…どうぞ!!


第百話 言いたかった"一言"

「……宴会といっても小規模なのね」

 

「そりゃそうさ、今回の主役はお前たち姉妹なんだ。紅魔館勢だけで十分だろ」

 

「それなら双也が居るのはおかしくないかしら?」

 

「違いない。でも発案者なんだから、同席させてくれよ」

 

異変を起こしてから一ヶ月と少し。

私達は今紅魔館の庭で料理を並べて宴会の準備をしていた。と言っても、ほとんどは咲夜がやってくれているのだが。

パチェはずっと本を読んでいるし、美鈴はフランと遊んでいる。私はといえばこの男…双也と雑談していた。唯一まともなのは、咲夜の手伝いをしようとしていたこあだけだ。

あくまで"しようとしていた"だけだ。実際は咲夜の仕事が早すぎて着いていけてないらしい。

 

そもそも何故宴会をする事になったのか。

それは数日前、双也がここに来た時に言ったことが原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

『みんなで宴会しよう!』

 

『……は?』

 

なんの脈絡もなく放たれた言葉に、私はただただ驚くしかなかった。

いや、驚くのとは少し違う気もする。まぁ要するに、双也の言葉がよく分からなかったのだ。

彼から見たら私はさぞ微妙な表情をしていることだろう。

 

『…なぜそうなったのかお聞かせ願えるかしら?』

 

『もちろん』

 

彼は両肘を机につき、手を組んで話し始めた。

 

『…まぁ簡単に言えば、お前たち姉妹の仲を取りもちたくなったんだ』

 

『………何故? 貴方は一応部外者の立場のはずよ。そんな気を起こす理由がない。必要もない』

 

私は彼の言葉に内心驚きつつも、あくまで突き離す姿勢を崩さなかった。

 

"私たちの仲を取りもちたい"

その申し出が嬉しくなかったわけではない。ただ……これは私たち姉妹の問題である。

他人が付け入る必要はないし、私がどうにかしなければいけない事柄だったのだ。

 

部外者である双也がそう言った意味が分からなかった。

私も受け入れる気は無かった。

 

………初めは。

 

『確かに必要は無いかもな』

 

『そうでしょう? 貴方がそんな事をする必要はーー』

 

『でも、理由ならある』

 

その時の双也の目は常に真剣そのものだった。

 

『…それは?』

 

『お前たちが仲直りするように促したのは俺だから』

 

彼は、さらりとそんな事を言ったのだった。

言葉は更に続く。

 

『考えても見てくれよ。俺は部外者とはいえ、結果的にフランの過去に踏み入って、お前と話す機会を作った』

 

『…そうね』

 

正確にはフラン()なのだけど。

 

『その上、こうしてお前達姉妹の過去を聞いてしまっているんだ。気持ちを分けたとは言わない。でも、過去はもう共有してるんだよ』

 

『…つまり?』

 

『そこまで踏み入っておいて、未だ完全に修復していない姉妹を放っておくのは人として酷いと思わないか?』

 

『…………なんだ、ただの余計な良心か…』

 

この男の話を要約するならばこうだ。

"姉妹の事情に踏み入ってしまったのだから、ここで助けないのは人としておかしい"

 

なんと…なんと余計なお世話だろうか。

私達姉妹の問題は、人としてのメンツのついでに助けられる程価値の低いものではない。

ずっと悩み続けてきた、大切な大切な問題なのだ。

 

それをこの男はどうだ。

勝手に私たちの過去に首を突っ込んだ挙句、メンツなんてくだらないモノの為に手助けしようとしている。

そんな手を借りるくらいなら悪魔の手でも取っているところだ。

 

真剣な表情なものだからどんな大義名分があるかと思えば……。

私はだんだん、この男に怒りを湧き上がらせていた。

 

『余計な良心ってなんだよ』

 

『そのままの意味よ。特に意味も無い良心なんて受ける気は無いわ。そんなもので片付くほど、私達姉妹は無価値では無い』

 

そう吐き捨て、席を立ち上がろうとした時、未だ真剣な表情を崩さない双也が声を低くして言った。

 

『そうだな。確かに姉妹ってのは無価値なんかじゃない。……だからこそ、助けたいって言ってるんだ』

 

『ッ! お前はまだーー!』

 

振り向き、怒鳴りつけようとした私は、彼の真っ直ぐな目を見て言葉を詰まらせてしまった。

ただの良心で動こうとしている人の目には見えなかったのだ。

 

『よく聞けよレミリア。…お前は妖怪だ。長い時を過ごす事が出来る強い妖怪』

 

『…そうね』

 

『そして姉妹ってのは、同じ時を過ごすことの出来る数少ない存在なんだ。……その大切な存在とすれ違ったままなのは、"勿体無い"なんて話じゃない。…とても悲惨なんだよ』

 

「…ッ!」

 

そう言った双也の目は、恐ろしいほどに力が篭っていて。

反論する気はその力で一気に削がれてしまったのだった。

いや、彼の目の鋭さを考えるならば、"刈り取られた"の方が適切かもしれない。

それ程、誰にも有無を言わせない力が篭っていた。

 

だからこそ、尋ねたくなる(・・・・・・)のは自然な事だろう。

 

『お前は……今までどれだけソレ(・・)を…』

 

『…さてね。数えるのはもう随分前にやめたよ』

 

そうして顔をフイッと背けるのだった。まるで表情が見られるのを拒むように。

 

それを見た私は、身の内に込み上げていた怒りが少しずつ収まっていくのを感じた。

その理由は頭でもしっかりと分かっていて、彼の申し出を拒絶する意思はもうすっかり薄れてしまっていた。

 

『…分かったわ。貴方の提案、呑むとしましょう』

 

『ホントか?』

 

『ええ。先人の言葉は大切だって言うしね』

 

『…ふっ、そっか』

 

 

 

 

 

 

そして現在。

 

紅魔館だけでの小さな宴会は既に始まっていた。

みんなそれぞれ料理を取り、酒を飲み、各々が楽しそうに騒いでいる。

 

「ちょっと美鈴さん! 私の分も残してくださいよ!」

 

へ? はってほあはんは(え? だってこあさんが)ほふのはほほい(取るのがおそい)ほははふいんははいへふはー(のが悪いんじゃないですかー)

 

「モゴモゴ喋らないで下さいよー!」

 

こあが必死に訴えているが、当の美鈴は知らない顔をしている。

ちょっと可哀想ではあるが、楽しそうなので無問題。

 

「へっへー、ぱちゅりーよ〜。もっとのめのめぇ〜!」

 

「…もう十分飲んでるわよ」

 

「あ〜ん? わらしのさけがのめねぇのかぁあ?」

 

「…面倒くさいわね…」

 

こちらはパチェが絡み酒に会っていた。

っていうか、なんで白黒の魔法使いがここに居る。お前は紅魔館の人間ではないだろ。

 

「うるっへ〜れみりゃぁ! えんかいあるところにわらしあり! どこらろうがえんかいがありゃあわらしはいくんらよっ!」

 

「……今戦ったらうっかり殺しそうね」

 

「魔理沙って酔うとあんなベロンベロンになるのか…確かに隙が多過ぎてうっかり殺しそう…」

 

私の意見には双也も同調してくれた。今なら容易に追い返すことも可能ではあるが、わざわざ楽しんでいる者をこの場から追い出すほど私は鬼畜外道ではない。

宴会に限っては"入る者拒まず、去る者追わず"だ。

 

「ワインは如何(いかが)ですか双也様?」

 

「ん、おおありがと。いただくよ。…えっと…」

 

十六夜咲夜(いざよいさくや)です。異変の時には、倒れたあなたの看病をさせて頂きました」

 

ベロンベロンに酔った魔理沙&絡まれているパチェを眺めていると、隣で咲夜と双也の会話が聞こえた。

そちらを向くと、咲夜を見て双也が驚いた顔をしていた。

 

「あっ! 藍が迎えに来るまで看病しててくれたのか! じゃあ改めてありがとう。助かった」

 

「いえいえ、屋敷内で死なれても困りますから」

 

「は、ははは…」

 

あくまで笑みを浮かべている咲夜に、双也は乾いた笑いを送っていた。

まぁ分からなくもないわね。自分の目の前で、助けた理由が"館で死なれなら困る"なんて。

それでは館以外ならどこで死んでも構わないという意味じゃないか。

そんな言葉を笑みを浮かべながら言われたら私でも軽く凹む。

 

ワインを注ぎ終えると、咲夜はパッと何処かへ消えてしまった。

恐らく台所か何処かだろう。もう少し手を休めても構わないのに…。咲夜は少し仕事に熱心過ぎる気がする。

 

…まぁそれで私が困る事なんて無いから良いのだけど。

 

そんな事を考えていると、ユラユラとワインを揺らしている双也に声をかけられた。

 

「なぁレミリア、そろそろ緊張も解けてきたろ?」

 

「……そうね」

 

「なら、ちゃんと伝えたい事は伝えろよ。その為の宴会なんだ」

 

彼はそう言うと、ちょこんと美鈴の隣に座って静かにしていた"あの娘"に声をかけた。

 

「おーいフラン! ちょっとレミリアが話あるってよ!」

 

声にピクッと肩を揺らし、フランはゆっくりこちらに歩み寄ってきた。

…その瞳は少しだけ揺れていた。

 

「俺が出来るのはここまでだ。あとはお前の仕事。……上手くやれよ」

 

そう言い残し、彼は別の集まりに混ざっていった。

入れ違えるように、フランが隣に座り込む。

 

「な、何? お姉様…」

 

「フラン…」

 

近くのグラスを取り、ワインを注ぐ。そしてそれを、フランに手渡した。

 

「え?」

 

「一緒に飲みましょ?」

 

そう言って笑いかけた。

 

さて、まずは緊張を解くところからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね! 美鈴ったら咲夜に怒られて泣いてたんだよ!」

 

「うふふっ それは可哀想だったわね」

 

そうしてしばらくフランと談笑していた。

初めこそオドオドしながら話してはいたけれど、私が笑って返してやるとどんどん笑顔が増えていって……。

 

"ああ、この娘はこんな表情も出来るんだ"と、

 

"それを私が奪ってしまったのか"と、

 

顔にこそ出さなかったけれど、心の内では酷く後悔していた。

でも、流石私の妹というのか、フランはそれも見抜いていた。

 

「あの、お姉様…? 私のお話…面白くなかった…?」

 

そう上目遣いで問いかけてくるフラン。

少し驚いたけど、頭を優しく撫でてやりながら答えた。

 

「そんなことないわよ。とっても面白かったわ。…久しぶりにあなたとこんなお話が出来て…嬉しいわ」

 

「…私もだよ、お姉様」

 

だんだんと気持ちも落ち着いてきた。

そろそろ…本題に入ろう。

ただこうして話すだけでは解決しない問題が、私達にはある。

 

495年間、

ずっとずっと言いたくて、

ずっとずっと言えなかった言葉。

 

双也が作ってくれたこの機会、逃したら終わりだ。

 

「ね、フラン」

 

「なぁに?」

 

「私の事……恨んでる…?」

 

自分でも驚くほど、弱々しい声が出た。

本当は目を見ながら話さなきゃいけないのに、それも私は出来ていない。

フランの顔を、直視出来ない。

 

うつむく私の手を、フランは優しく握った。

 

「………恨んでるよ」

 

「………そうよね…恨んでる…わよね」

 

分かりきっていた事だ。

昔はいつも一緒で、楽しく暮らしていたのに、たった一日の出来事であんな突き離され方をすれば、恨むのも当たり前というもの。

…でも、それを改めて聞くと…やっぱり…。

 

「でも、勘違いしないでね」

 

「…え?」

 

顔を上げれば、フランは微笑んで私を見つめていた。

 

「確かに、私はお姉様を恨んでるよ、今でも。外に出るのは許されたけど私のお部屋はあそこのままだし、妖精のメイドたちは私を怖がって仲良くしてくれないし」

 

「…………………」

 

「でもね、双也と戦って、お話しして…"なんでお姉様を恨んでるのか"って、考えるようになったの」

 

「なんで私を…恨んでるのか…?」

 

「うん」

 

フランの目線は、魔理沙達と騒いでいる双也へ向かっている。

どこか、昔を思い出しているような表情だった。

 

「色々思ったんだけど、結局答えは簡単だったの」

 

「…?」

 

「私がお姉様を恨んでる理由は、お姉様が大好きだったから」

 

「え?」

 

どういう意味?

恨んでるのに…大好き? 私の…事が?

 

「嫌いな人に裏切られても恨むことなんてないでしょ?"私だって嫌いだもん! べーっ!"で終わりだよ。でも、お姉様は違うの。大好きだったからこそ、裏切られたら傷付くの。大好きだったからこそ…"恨み"が生まれるの」

 

私の手を握るフランの手に、力が篭った。

でも、それは痛みよりもフランの手の暖かさを伝えてくれた。

 

「双也と戦ってて気が付いたんだ。私がお姉様を恨み続けてられたのは、お姉様が大好きだったからなんだって。それを認めようとしなかっただけだったの。"私は嫌われてるんだから、私も嫌っちゃおう"って」

 

フランが"大好き"と言葉にする度、心の中に暖かさが広がっていく。

この娘を突き離した代償に冷たくなった心を、この娘の言葉が包み込んでいた。

 

「私はお姉様が大好きだよ。だから(・・・)今も恨んでる。でもこの"恨み"も、もう捨てようかなって思うんだ。……お姉様から、一言聞けたらね」

 

私からの…一言。

そんなの決まってる。

ずっとずっと言いたかったのだから。

誰よりもこの娘に、

どんな言葉より心を込めて、

 

そう、一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい(・・・・・・)。私も大好きよ、フラン」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん! お姉様、だぁ〜い好きっ!!」

 

「きゃっ! フラン!」

 

フランが勢い良く抱き着いてきた。突然過ぎて受け止めることは出来ず、倒れてしまった。

でも、今はそれでもいい。むしろこうしていたい。

 

私達がすれ違っていた空白の五百年。

その時間を少しでも取り戻せるよう、少しでも長くフランと触れ合っていたかった。

 

「上手く伝わったみたいだな、レミリア」

 

倒れた私を上から見下ろす双也。

思い返せば、フランとこんな風に和解する事が出来たのも、この男によるところが大きい。

双也が居なければこの娘は心を壊したままだったろう。

双也が居なければ私は上手く言い出せなかったろう。

 

……本当に、感謝している。

 

「ありがとう、双也」

 

「…どういたしまして」

 

ふふ、照れてるのかしら? そっぽを向いて。

 

「あ! お兄様(・・・)も大好きだよ!」

 

「おお、ありがとフラン………お兄様?」

 

思わず私も目を丸くしてしまった。

双也がお兄様? とてもじゃないが一瞬では理解できない。

 

「えっと…なんで双也がお兄様なの?」

 

「ん〜? だって、私達を救ってくれたでしょ? いつまでも名前呼びするのイヤだったの!」

 

「だからって…俺がお兄様? 俺レミリアと結婚する気なんてさらさら無いんだけど…」

 

「……ちょっと双也? 私もその気は無いけれどそれって"私に魅力が無い"みたいに聞こえるのだけど…?」

 

「そうは言ってないけどさぁ、俺ロリコンじゃないし、レミリアみたいな幼女を好きになることなんかーー」

 

「へぇ〜? いい度胸ね双也。幼女とか言ってるとグングニル飛ばすわよ?」

 

「お、じゃあ弾幕勝負するか? 俺は一枚、レミリアは三枚な」

 

「上等じゃない。その余裕ごと吹き飛ばしてあげるわ」

 

笑い声、煽る声、そして弾幕を放つ音。

愉快な幻想郷での一夜は、こうして更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 




紅霧異変、これにて完☆結!

ついでに言っておきますが、レミリアとフランのは姉妹愛ですからね? 断じてガー○ズ○ブではないので悪しからず。

因みに異変時のフランとレミリアの会話では、フランの外出許可、レミリアの真意"だけ"が話し合われました。
カットしちゃいましたけど、そういう感覚ならばこの話も理解しやすくなるかと。

ではでは。

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