東方双神録   作:ぎんがぁ!

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炬燵で引っ張ったお話。
ちょっとギャグ路線に入ってみました。

……面白さは保証しませんけど……

ではどうぞ!


第十章 春雪異編 〜取り戻した"罪の力"〜
第百一話 極寒に始まる


白銀の雪がシンシンと降っている。

道行く人は皆傘を差し、積もった雪に足を埋めながら半ば大変そうに歩んでいた。

まぁ、そもそも人通りからして少ない訳だが。

 

「やっぱり冬には炬燵(こたつ)だよなぁ」

 

「そうですねぇ…足が暖かいと身体までポカポカしてきますからねぇ…」

 

「冬には炬燵、炬燵には蜜柑、そしてお茶。何となくホッとするな、確かに」

 

火の灯る掘り炬燵に足を入れ、蜜柑とお茶を食べながら和んでいる俺、霊那、そして慧音。

紅霧異変から半年程たった今日は、掘り炬燵完備の霊那宅へお邪魔していた。

 

ん? なんで掘り炬燵目当てでお邪魔してるのかって?

……察してくれ。魔法の森は今地獄と化しているんだ。

今更すぎる事だが、魔法の森って住むにはかなり適さない…どころか環境劣悪だよな。エアコンの暖房が意味を成さないくらい温度下がってるとかどういう事?

建て替えるのも面倒だし、どうにも出来ない問題なんだけどさ。

 

「そういえば…双也さん、最近霊夢の様子はどうですか? この間の赤い霧の異変…あれは霊夢が解決したって聞きましたけど」

 

思い出したように霊那が話を切り出した。

蜜柑を口に放り込みながら聞いてきたのでそこまで心配している訳でもないのだろう。

でも…様子はどうかって聞かれると……。

少し申し訳ない気持ちになりながらも、答えた。

 

「いやぁ…それがさ…もう随分と会ってないんだよね俺」

 

「? 如何してですか?」

 

「数年前にさ、神社で寛いでたら"出てけっ!"って言われてな? 思春期だからだろうけど、それ以来どうも顔出し辛くて…」

 

自分でも"なんと情けない理由か"と思わないでもない。

数年前に一度出てけと言われた程度で出入りに気後れするなど、変なところでピュアなものだ。

どう考えても既に安定している頃だろうに。

 

「異変の時は会わなかったんですか?」

 

「首謀者の妹を落ち着けたら力尽きちまった」

 

「そうですか…」

 

俺の返事にはやっぱりガッカリしたようで、霊那の声は若干弱々しかった。

…いやホント申し訳ない…。

 

「ま、まぁまぁ、霊夢も立派な博麗の巫女なんだ。気にかける必要も無いだろう」

 

この微妙な空気を感じ取ったのか、若干焦りを浮かべながら慧音がフォローしている。

…その行動すら微妙な空気を生み出していることに彼女は気付いているのだろうか…?

 

「まぁ…そうですね。一人娘の事は信じないと。生活とか戦闘のコツは教えましたし、怠け者ですけど大丈夫ですよね」

 

と、初めのような何気ない表情で霊那は言った。

そ、そうだよな。俺たち年長組が信じてやらないと…な。うん…。

 

……話題変えよう。

 

「そうだ慧音、最近寺子屋はどうだ? 冬だし、病気にかかった子とか出てないか?」

 

こうなったら慧音に話題を振るしかない。

幸い慧音は教師だし、話題が尽きることは無い。

日々子供達の相手で愚痴が溜まっていやしないだろうか。

 

そんな思惑を密かに持っていた訳だが、慧音は予想外に不機嫌そうな顔をした。

 

「様子も何もあったものか! 最近はずっと雪が降ってばかりじゃないか! 危険だから寺子屋はずっと休みだ! 正月休みすら明けていない(・・・・・・・・・・・・)!」

 

 

……………え、まじで?

 

 

「そういえばそうですねぇ、この炬燵に焼べる薪ももう底をつきかけてますし」

 

「それは困ったものだな。この寒さでは薪がなければ凍えてしまうぞ…」

 

「まぁお札を使えば如何にかは出来るんですけど……双也さん?」

 

「ん? どうした双也、ボーッとして…」

 

考えてみれば確かに…長いこと雪を見ている気がする。

それによく見りゃ外だってあり得ないくらい積もってるじゃないか。

なんで気がつかなかったし、俺。

 

「いや…少し考え事…」

 

「「?」」

 

って事は、本当はこの時期は春に当たる訳で……紅霧異変の次……!! 春に…雪。

 

「遂に……来た」

 

「うん?」

 

「何がです?」

 

不思議そうな表情を浮かべる二人を尻目に、俺はなりふり構わず大声をあげた。

 

「遂にこの異変がきたぁぁあああ!!!」

 

「ど、如何したいきなり!?」

 

「異変? やっぱりこの雪の事ですか!?」

 

嬉しい!

相当に嬉しい!

幻想入り直後に出鼻をくじかれてから全く気にしていなかったけど、実際この時がくるとすんげぇ嬉しい!!

ヤベェもっかい叫びてぇ!

 

「な、なんだかよく分からんが取り敢えず落ち着け! 次叫んだら頭突きするぞ!」

 

……喜びを叫ぶのは封じられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、異変に気が付いたからにはすぐにでも出発したい所なのだが……どうしようか。

一人で行くのもなんとなく味気ない感じがするし…。

 

紅霧異変の時は通りがけに魔理沙と出会ったから一緒に行ったが………あ、適任がここに居るじゃないか。

 

「…………………(じー)」

 

「…………………えっと…」

 

その考えに至った時には、俺は既に霊那をじっと見つめていた。

それに気が付いた彼女も神妙な顔をしている。

 

「な、なんですか双也さん…?」

 

「霊那、一緒に冥界(・・)行かないか?」

 

「……え?」

 

案の定霊那は目を丸くして驚いていた。

まぁそりゃ、突然冥界行こうなんて言われればそうなるだろう。無理もない話だ。

 

「えっと…なぜです?」

 

「用事があるから一緒に行ってくれないかって事さ。一人じゃ味気ないだろ?」

 

「一応異変解決なんですよね?」

 

「一応な。でも一番の理由は味気ないから」

 

「そんな理由ですか…」

 

「そんな理由なんです」

 

霊那は少し考える素振りを見せると、少しため息をついて頷いた。

 

「ふぅ、仕方ないですね…良いですよ。着いて行ってあげます。暇していましたしね」

 

「よっしゃ、じゃ準備してこい!」

 

促すと、霊那は部屋の奥へと消えていった。恐らく押入れを漁るのだろう。

博麗の巫女として活動していた頃の道具は全部しまったって言ってたし。

 

彼女が奥へ消えるのを見届け、俺は話に入れなくて置いてけぼりをくらっていた慧音に声をかけた。

 

「慧音、お前には留守番頼むよ。先代博麗の巫女の家に押し入る輩なんてそうそう居ないとは思うが…念の為な」

 

「肩書きが家を守ってるみたいだなぁソレ。じゃあ私は昼寝でもしてようか…」

 

「……まぁ好きにしてくれ」

 

「双也さ〜ん、準備出来ましたよ」

 

「お、意外に早かったな」

 

早々に準備を済ませたらしい霊那に目を向けた。

彼女は人里の人々が着ているような着物から、現役の頃身につけていた服……赤と白の巫女服に着替えていた。

ただし霊夢のとは少し違って、袖こそ切り離されているものの赤い紐で繋ぎとめられていたり、スカートではなく袴だったり。

過度な露出がない分、霊那の清楚さを思わせる服装だった。

 

「武器持ったか? 念の為だけど」

 

「この札の中に。うまく扱えるか心配ですけど…身体が覚えていてくれますよね」

 

「………まぁ…お前の剣技(・・)は鬼をも斬り伏せるからな…」

 

「それは買い被り過ぎですよ。鬼の拳を斬って止めるなんて化け物の所業じゃないですか」

 

(…遠回しに"お前って化け物だよな"って言ってんだけど…)

 

軽くそんな会話を交わしながら、俺たちは外に出た。

予想通り、というか予想以上に外は寒かった。

また炬燵に潜り込みたい衝動が物凄いんだけど。

 

「ううう……じゃ、行くか…」

 

「ええ」

 

「二人とも気をつけてな……って心配する必要も無いか」

 

「言葉にするのが大切なんですよ慧音さん。ありがとうございます。行ってきますね」

 

慧音に見送られ、空に飛び上がった。

 

さぁ、待ってろよ相棒(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜博麗神社 霊夢side〜

 

「はふぅ、やっぱり炬燵よねぇ…あったかいし、五月蠅い音立てないし、おまけにみかんとお茶まで置ける。……もう手放せないわ」

 

「何言ってんだよ霊夢! 完全に異変だって言ってるじゃんか! こんな所サッサと出て解決しに行くぜ!」

 

「聞こえなーい聞こえなーい。騒がしい白黒の声なんて聞こえなーい」

 

「コイツ…ッ」

 

博麗神社の居間はまさに天国。

暖房(炬燵)にマット、蜜柑にお茶。部屋の中も暖かくなってるし、正直言ってこんな生活が出来るなら長い冬の異変なんてむしろ好都合だ。

 

天国からわざわざ出て仕事? そんな馬鹿馬鹿しい話があってたまるか。

私は人生をなるべく損せずに生きていきたいのよ!

 

「このまま冬が続いたら私どこに住めば良いんだよ!」

 

「知らないわよそんな事。そのまま住めばいいじゃない」

 

「今の魔法の森は地獄そのものだっての! そりゃもう地獄最下層と言われるコキュートス並みなんだぞ分かってんのか!?」

 

「五月蝿いわねぇ…」

 

キンキン響く魔理沙の怒鳴り声に耳を塞いだ。

だいぶ切羽詰まってるし本当に困っているのだろうけど……一つ言わせてもらおう。

 

「じゃああんたも早くここから出て異変解決に行きなさいよ」

 

炬燵の魔力(誘惑)が私の魔力より大きかったから出られないんだぜ。悔しいがな!」

 

「ほら見なさい。あんたも同じじゃないの」

 

「霊夢と一緒にするなよ。私はあくまで炬燵に負けただけなんだ」

 

「人はそれを屁理屈って言うのよ、白黒の魔法使い」

 

「そうよ! 大体私に仕事押し付けて自分だけぬくぬく待ってるなんて虫が良すぎ…る………」

 

あれ、今私たち以外の声が……

 

「ほら二人とも、駄々捏ねてないで行くわよ。異変解決」

 

「…なんで咲夜がいるんだ…?」

 

「時間止めて来たんでしょ。スキマ妖怪みたいでホント迷惑よ。しかもちゃっかり炬燵入ってるし…窮屈だから出なさいよ」

 

「外が寒かったんだもの。炬燵に入るくらい良いじゃない。そもそも炬燵って四人で囲むものではなくて?」

 

「むぅ、正論ね…」

 

あくまで落ち着いて対応する咲夜に言いくるめられてしまった。

弾幕勝負じゃ負けないのに、なんか悔しい。

 

ってそんな事はどうでもいいのよ。

 

「で? 咲夜も異変解決しに行くの?」

 

「ええ。お嬢様方が寒さで震えてしまってね。本当は寒いのに"こ、これくらいきゅ吸血鬼であある私達には涼しいくくくらいよっ"って強がっているのを見てたら可哀想になってきちゃって」

 

「鼻血出しながら言われても説得力ないぜ」

 

「うるさいわよ魔理沙。これは忠誠心の表れだからいいの」

 

(鼻血で表せる忠誠心ってなによ…)

 

時々咲夜の人間性が分からなくなる時がある。

巷では"完璧で瀟洒、そして美人なパーフェクトメイド長"とか思わず笑いたくなるような噂が飛び交ってるが、実際関わりを持ってみるとコレだ。レミリア達の話題になるとちょくちょくと鼻血を流す。

しかもそれを忠誠心だとか…本当に分からない。

分かってはいけないということは私の勘が囁いていた。

 

…ある意味人格破綻してるわよね、この女。

 

「さぁ、茶番もこれくらいにして行くわよ」

 

ハンカチで鼻血を拭き取りながら促してきた。

本人は行く気満々のようだが………乗り気でない私達はこの通り。

 

「え〜、私面倒だから行きたくないんだけど」

 

「二人が行ってくれるなら私はここで待ってるぜ」

 

「あんた達ねぇ……」

 

咲夜は青筋を浮かべながら震えているが、そんなの知った事ではない。

面倒くさいったら面倒くさいのよ。そんなに行きたいなら一人でいけばいい。なんで私たちを巻き込むのか。

 

「一人で行ってくれば良いじゃない。完璧で瀟洒なメイド長なんでしょ? こう…チャチャッと解決してきてよ」

 

「そうだぜ咲夜。三人も行く必要ないだろ? ここは新入りである咲夜が勉強も兼ねて行くべきだぜっ」

 

「先輩面したいならせめて着いてきて指導して欲しいものだわ…」

 

寝っ転がって横になっている私の耳に咲夜の盛大な溜め息が聞こえた。

そんな"疲れましたよ"アピールされても行く気はない。

意味無いのに溜め息吐かれるのは空気が悪くなるからやめて欲しいものだ。

あー、そんなこんなしてたら眠くなってきたわね。

布団行くのも寒くて嫌だしこのまま寝ようかしらーー

 

 

 

 

 

 

 

「手伝ってくれたら今度美味しいものご馳走しようと思ってたのに…」

 

 

 

 

 

 

 

ーー…なんですと?

 

「今…なんて言ったのかしら咲夜? ご馳走って聞こえたんだけど」

 

「ええそうよ。でもあなた達行く気なさそうだから辞めることにしたわ。あー勿体無い」

 

はぁぁ〜…っとわざとらしい溜め息を吐いてみせる咲夜。

居間から出て行こうとした彼女を呼び止めたのは魔理沙だった。

 

「あ、あー! たった今炬燵の魔力に打ち勝ったところだぜ! だから異変解決の先輩として着いて行ってやるよっ! 礼は咲夜の料理でいいぜ!」

 

「ちょっとズルいわよ魔理沙! あんたはここでぬくぬく蜜柑でも食べてなさい! 咲夜の料理は私が全部戴くわ!」

 

(……単純な人たちね…)

 

咲夜はメイド長と言うだけあって作る料理は絶品だ。

一人暮らしの私も料理は出来るけど……悔しいが咲夜の足元にも及ばない。

しかも料理目当てで紅魔館に行っても(殴り込んでも)

大体は料理なんて出してくれないのだ。

 

つまり………このチャンスは逃せないっ!

 

「はいはい、手伝ってくれたらちゃんと作ってあげるから喧嘩しないの。それで足引っ張るようならあなた達から料理するわよ?」

 

「ぐぅ…独り占めは無理って事ね…」

 

「ほれ見ろ貪欲脇巫女。欲張ると損するぜ?」

 

「うるっさいわよ魔理沙! あんただって欲望丸出しだったじゃないの!」

 

「私のは欲望じゃなくて本能だ。美味いもん食いたいってのは生物としての本能だろ?」

 

「また正論っぽい屁理屈を……」

 

そうしてドヤ顔をする魔理沙。

殴りそうになったのを抑えるのが中々大変だった。多分拳は普通に震えているだろう。

……仕方ない、妥協案だ。

 

「じゃあもう三人で行きましょ。寒いから早く終わらせたいし。咲夜は終わったら私達二人にご馳走する事。良いわね」

 

「分かったわよ。仕方ないわね」

 

「よろしい」

 

中々炬燵から出てこない魔理沙を、咲夜は引きずりながらも外へ出していった。

そして私は、未だ炬燵から離れたがらない身体をどうにか持ち上げ、いそいそと準備を始めるのだった。

 

さ、料理の為にも頑張りましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? コレで強くなったの?」

 

「ええそうよ」

 

「わーいやったぁ! コレで仕返しができるってものよ!」

 

「良かったわね」

 

 

(さて、コレで"くろまく"っぽいかしらねぇ。ふふふふ)

 

 

 

 

 




後半になる程文章力が低下するこの体質……どうにかなりませんかねぇ……

ではでは。

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