さぁ、霊那の実力や如何にっ
(↑ワザとらしい)
ではどうぞ!
桜の花びらが絶えず視界を彩り、その無上の美しさを空間に満たした、冥界のある一角。
桜吹雪の舞う中で、二つの影がぶつかり合っていた。
一つは、その場に足を留めて薙刀を複雑に回転させる、赤と白の巫女服を纏った女性
ーー博麗霊那。
更に一つは、彼女の周りを鳥の様に動き回り、身の丈に合わない長刀、楼観剣と短刀、白楼剣をせわしなく振り回す少女
ーー魂魄妖夢。
互いの刃は流麗な軌道で空を切り、その者を断ち斬らんと舞っていた。
「どうしました妖夢さん、もうバテましたか?」
汗一つ浮かべず、余裕のある言葉を放つ霊那。
「うるさい、ですよ!」
対して、少しだけ額に汗を浮かべて反発する妖夢。
焦りを感じ始めている彼女は、攻撃の手を休めなどしなかった。
その場から一歩も動かず、薙刀を回転させて攻防を展開する霊那に、妖夢は負けじと斬りかかった。
飛びつきから放つ、二刀による連続袈裟斬り。
笑みすら浮かべる霊那は、一太刀目を柄の先で上に弾き、そのままの回転によって刀身で二太刀目を弾いた。
「なんのっ!」
両刀を上へ弾かれた妖夢はそのまま回転し、右手の楼観剣のみを上から振り下ろした。
先読みしていたかのように、霊那はそれを刀身で難なく受け止める。
その瞬間、妖夢は構えていた左手の白楼剣で、ガラ空きな霊那の脇腹へと斬り上げた。
「もらっーー」
「甘いですよ」
しかし妖夢の白楼剣は、彼女の脇腹どころか虚しく空を切る結果となった。
理由は単純、妖夢の身体が柄の殴打によって霊那から離されていたからである。
妖夢は少し離れた位置で着地した。
「く…さすがは博麗の巫女、でしょうか…」
「お褒めに預かり光栄ですね。では、私もそろそろ攻撃をしましょうか」
そう言うと、霊那は薙刀を上段に構えた。相変わらず笑みは崩れない。
妖夢はその行動を、不思議に思った。
いくら薙刀が長物と言っても、妖夢との距離が離れすぎているからである。
いくら何でも、斬撃が届く範囲ではない。
(脅し…? いや、そんなのあの人には必要ない筈…そんな事をしなくても十分に強いし…じゃあ、なぜ?)
答えは出ぬまま、霊那の刃は振り下ろされようとしていた。
瞬間、妖夢は彼女へ駆け出した。
(考えている時間が惜しい! ここは"脅し"に賭けて距離を詰める!)
霊那の薙刀は真っ直ぐ妖夢に向けて振り下ろされていく。
対して妖夢は、このまま距離を詰めれば振り下ろし終わった後に彼女に到達する。つまり、ガラ空きな所を攻撃できるのだ。
妖夢は神経を研ぎ澄ませる。イメージするのは、相手の首をこの手で断つビジョン。ただ、刀を振り払うのみ。
しかし、神経を研ぎ澄ませた結果は、彼女のイメージとは異なるものだった。
(ッ!?)
殺気、である。
とても鋭く、圧殺されそうなほどの重い殺気。
まるで首元に刃を押し付けられ、今にも斬り落とされようとしている時のような、背筋の凍る殺気を、
「はぁっ!」
霊那の掛け声が響いた。
気が付いた時には、妖夢は駆けるのを止め、横に飛びのいていた。その顔には玉のような汗が滲み出ている。
慌てて立ち上がり、先程の場所へと目を移す。
そこで彼女は、絶句した。
「なんですか、コレは…」
そこには、延々と階段の下まで続く、
もし仮に、大き過ぎる隙にかまけて、そのまま首を狙おうとしたなら。
妖夢の頭には、そんな想像がよぎった。
神経を研ぎ澄ませていなければ、直前のあの殺気に気がつく事は出来なかった筈である。
そして気付けたとして、それに反応する心構えは決して出来ていなかったであろう。
今頃はきっと、真っ二つになった自らの身体が、無惨に、惨めに、惨たらしく、そこに転がっている。
「うっ…」
吐き気を催す。同時に、妖夢は考えを巡らせた。
そうだ。あの人がこんな単純な距離の相違に気が付かないはずがない。
一歩たりとも足を動かさず、二刀による連撃を捌き続けていたような人が、この程度のミスを犯す筈がないのだ。
(やっぱり私は、半人前だ…)
妖夢は、霊那への視線は強めたまま内心ではそう考えていた。
しかし、彼女も半人前なりに剣士であり、戦士である。
一時の落ち込みに心を休ませるのは愚の骨頂だと知っていた。
気持ちを切り替え、冷静に頭を働かせる。
答えは直ぐに浮かび上がった。
「能力、ですね」
「ご名答です、妖夢さん」
霊那は構えを取り一瞬だけ、目にも留まらぬ速さで、まるでバトンでも扱うかの様に薙刀を振り回した。
そして次の瞬間
ーードバンッ!! と、彼女の周囲に無数の斬撃痕が現れた。
「私の能力は"あらゆるものを展開する程度の能力"。元の物さえ在れば、それを自由な範囲まで広げる事が出来る能力です。今のは"斬撃範囲を展開"しました」
霊那の表情は、未だにこやかである。余裕を残している事は明白であった。
彼女の言葉に、妖夢は今のこの状況の事をやっと理解した。
「距離など関係ないから…あんなハンデを提示したんですね…?」
「それもありますね。弾幕勝負が出来ないというのも確かな理由ですが」
妖夢はもともと、今のこの状況には内心首を傾げていたのだ。
弾幕勝負が出来ないから近接戦闘を選ぶのは納得いく。しかし、だからと言って"一歩も動かない"というのはいささか疑問が残る。言ってしまえば、こちらから仕掛けない限り向こうには攻撃手段は無かったのだから。
しかし、能力を聞かされた今では、全て納得がいった。
一歩も動かずとも、相手がどこにいようとも、常に攻撃し続ける事ができる。その優位性は計り知れないものだ。
改めて、妖夢は"博麗の巫女"という存在の規格外さを思い知ったのだった。
「では、こちらの能力も露呈したところで、もう少しアグレッシブに行きましょうか。ちゃんと避けてくださいね、妖夢さん。じゃないとーー
「ッ!!」
ーー気付いた時には細切れになっているかもしれませんよ?」
瞬間、先程の殺気を間近に感じ、妖夢は身体を横に仰け反らせた。
銀色の髪が、僅かに舞い散った。
「くっ…!」
妖夢はそのまま側転し、体制を整える。しかし、刀を構えるより先に霊那の攻撃が襲ってくる。
間断なく襲いかかる斬撃と殴打に、妖夢は避けるので精一杯だった。
霊那は、
彼女は薙刀をバトンのようにクルクルと振り回し、その斬撃範囲と殴打範囲を展開している。
つまり、回転と等しい速度で異常なリーチの攻撃が迫ってくるのだ。
普通ならば、避ける事すら非常に困難である。彼女の放った"細切れになるかもしれない"という言葉も、あながち間違いではない。
しかしそれでも避け続ける妖夢は、半人前とはいえさすが剣士だ、というところだろう。
その動体視力は並ではない。
(このままではジリ貧……距離を詰めて攻めないと!)
怒涛の連撃を紙一重で躱しながら、妖夢は少しずつ距離を詰め始めた。
それに気が付いた霊那も、攻撃の手を早める。
しかし、それまでの連撃を躱し続けた妖夢には、少し速度が上がった程度では何の問題もなかった。
すぐに距離を詰め切り、攻撃に入る。
「ふふ、あの連撃を躱し切るなんて、中々やりますね」
「よく言いますね! それだけ余裕を残しながらっ!」
「あら、バレてましたか」
霊那は愉快そうに、妖夢の必死な連続斬りを弾き続ける。
正面からも、横側からも、果ては真後ろから斬りつけても、霊那の薙刀はその全てを捌いていた。
背中に手を回して薙刀を操っていたのである。
妖夢は度々位置を変え、休む事なく攻撃し続けた。
が、三回目の真正面に位置取った時、遂に鍔迫り合いになった。
長物相手をする妖夢からは、最悪の状態である。
「そらっ!」
「っ!!」
霊那は妖夢の予想に外れる事なく、刀身で斬り上げ、刀を弾き返した。
妖夢の身体も、共に宙に舞っていた。
そんな隙を見逃さず、霊那は薙刀を縦に回転させると、勢いを乗せて妖夢目掛けて振り下ろした。
「しまっーー」
ズドンッ!!
妖夢の身体は、階段に強く
そう、叩き付けられた。
叩ッ斬られた、ではなく。
柄だったのだ。
確実に仕留められるあの状況で、霊那はあえて柄で殴った。その理由はもちろん、霊那自身の"数倍にしてやり返す"という決意から来るものだった。
このままでは終わらせない、と。
何処までも余裕を保つその姿を見、斬られなかった事に安堵すると共に妖夢はある種の恐怖を抱いた。
(強過ぎる…!)
自らの磨いた剣が、太刀打ちどころか遊ばれている。ここまで刃が立たない相手は、妖夢自身も初めてだった。
故に、剣士である妖夢の頭を更に冴えさせた。
自分よりも強い相手を、倒す方法を探すために。
(距離を詰めてチマチマ攻撃する事自体間違ってたんだ…実力差の激しい相手にそれは無謀……一瞬で仕留めるしかない…!)
考えをまとめた妖夢。
その目は更に鋭さを増していた。
「これで……決めます」
小さな声ではあったが、それには妖夢の覚悟全てが詰まっていた。
即ち……宣言通り、これで勝負を着けるという決意。
妖夢は楼観剣を腰に構えると、キッと霊那を睨みつけ、その刹那に地を蹴った。
霊那には、一瞬妖夢の姿がブレるように見えた。
「現世斬ッ!!」
魂魄流に伝わる、基本の技。
しかし、その威力は折り紙付きである。
一瞬消えたかと思う程の速度で放たれる居合斬りは、一閃であらゆる物を両断する。
そんな剣が、霊那に肉薄した。
ガアンッ!!!
しかし、霊那も折り紙付きの実力者。
現世斬の軌道をその目に捉え、薙刀で一閃を防いで見せたのだ。
だが、霊那の頭の中には別の疑問が浮かんでいた。
(…? そんなに重くない…?)
薙刀に掛かる圧力を受け、そう思ったのだ。
放つ前に感じた、鋭い殺気にはとても相応しくない。
まるで
そう考えていると、霊那の目の前に居た妖夢は、スーッと小さくなりーー最後には、妖夢の近くに浮かんでいた人魂となった。
文字通りの、偽物に。
そこで霊那は気が付いた。
攻撃の瞬間に見えたのは、早過ぎる事による目の錯覚ではなく、確かに二人になっていたのだと。
そしてーー
ーー上から迫る
「ッ!?」
慌てて上を向く。
そこには、楼観剣と白楼剣を上段に構えた妖夢が、口の端を釣り上げて迫ってきていた。
勝利の確信。
それをその目で見た妖夢は、ある行動を行うのみとなった。
即ちーー全身全霊をかけて、技を打ち下ろすこと。
高く掲げられた両刀は、激しい気を纏っていた。
後は、叫ぶだけ。
「成仏…得脱斬ッ!!!」
桜色の衝撃が、霊那を襲ったーー
頑張る妖夢にスポットライト。
ではでは。