東方双神録   作:ぎんがぁ!

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文章がようやっと小説っぽくなりましたねっ! この調子で頑張りますっ!!

では、どうぞ!


第百九話 解けかけの封印

二人は、動けないでいた。

 

何か動きを封じる術を掛けられた訳ではない。

人質がいて、迂闊に動けないわけでもない。

では何が二人の足を止めているのか

……単純な話である。

 

それはーー"恐怖"

 

目の前の現実から感じ取った、身体中を強烈に圧迫する様な恐怖である。

 

二人から見て、先程の霊夢の技は正直……手に負えない、というレベルであった。

何もその霊力の大きさだけではない。大きさだけならば、今まで必死に彼女に食らいついてきた魔理沙だって、頑張れば到達できない領域ではない。むしろ、魔理沙と霊夢は互いを研鑽し合ってきた仲だ。主に魔理沙が霊夢に挑む事の方が多かったが、そのお陰で、霊夢にとっても修行になっていた事は間違いない。

時には魔理沙が追い抜く事さえあった。努力を惜しまない彼女であれば、怠惰な生活を送る霊夢が追い抜かれるのも頷ける事ではある。…まぁ、すぐにまた追い抜かれてしまったのだが。

 

咲夜に至っては、もっと単純である。

それは一重に、とても強大な妖力を持つ

"(レミリア)"が近くにいたから。

レミリアも、四六時中妖力を解放しているわけではない。むしろ意図的に押さえ込んでいるくらいだ。しかし、常日頃から彼女の側にいる咲夜からすれば底抜けもいいところ。主の強大な妖力は肌で感じていた。言うなれば、"強大な力には慣れていた"。

 

そんな二人が"手に負えない"と思った理由…それは、言ってしまえばその技の全て(・・・・・・)である。

 

大きさこそ二人の常識の範囲内ではあった。しかし、その他の要因…高度に練り上げられた力強さ、繊細な術式、複雑に編み込まれた力…等々。それらは二人の常識の範囲では測れないほどのモノだったのだ。

霊夢の常識外れな才能がなければ到底できない…そんな、超々高レベルな技であった。

 

改めて二人は確認する。分かりきっていた事ではあるが、改めざるを得なかった。

ーー博麗霊夢は、天才である…と。

 

"これなら行ける!"

三人が同じ事を考え、確信していた。三人、というより、誰よりも霊夢自身がそう思っていた。

確かな手応えがあったからである。自らのこの技を持ってすれば、大妖怪ですら敵ではない、一瞬で消し飛ばせるだろう、と。

 

しかし残念ながら、此度の相手は大妖怪ではない。

 

 

正真正銘の"化け物"である。

 

 

"大妖怪"を基準に考えた技で、どうして"化け物"を討ち倒せようか。

答えは単純。否、である。

霊夢の才能が魔理沙と咲夜の"常識外れ"であるなら、その霊夢の"常識外れ"はまさに化け物ーー西行妖である。

そんな次元の違う存在に、技が届くはずはない。

二次元の存在がいくら手を伸ばそうと、三次元に生きる者達に届く事はないのだ。

 

自分達の常識外れが、更にその常識外れに敗れる姿など目にしてしまえば、あとに残るのは恐怖以外に有りはしない。それが敵であれば、尚更。

二人には、するべき事が分からなくなっていた。

 

こんな相手をどうすればいいのか。

恐怖に従って早く逃げればいいのか。

負けると知りながら戦えばいいのか。

それともーー

 

ーーただ必死に、生きる事を選べばいいのか。

 

………そうだ。

死んでしまっては意味がない。逃げてしまっても意味がない。ならば、生きる。

逃げてしまえば、死んでしまえば、幻想郷が終わる。それは、イヤだ。

なら生きるしか道はないのだ。

よく考えろ、私たちは弾幕勝負のプロだぞ。避ける……いや、生きるのは得意分野だ。

攻撃なんて無意味な事はするな。生きる事だけ考えろ。アイツがバテるまで粘ってやる。そして、生還してやる。

 

生きる決意を決めた二人に、最早体の震えは残っていなかった。

恐怖は残っている。消えるはずはない。むしろ、残っていて貰わなければ緊張感が失せてしまう。

 

「すぅぅーー………ふぅぅ……よし」

 

深呼吸をし、心を鎮め、目の前を見据える。

滲み出す妖力は相変わらず強大で恐ろしい。というより、さっきよりも大きくなっている気すらする。

だが、そんな事は今関係ない。どれだけ大きくなろうと、生きれ(避けれ)ば何も問題はないのだ。

 

構えた二人に向け、西行妖は再び弾幕を放ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜霊夢side〜

 

彼女は今、倒れ伏している。

巨大な桜、西行妖の…その根元だ。

 

「ッ…はや、く……行かない、と…」

 

立ち上がろうと腕に力を込める。しかし、彼女の腕は立てるどころか動くことさえなかった。動かない代わりに、ギシギシと重苦しい音を立てている。

足も同様。動かそうとすれば耳障りな音がなり、ピクピクと僅かに揺れるだけ。彼女の全身が、動くことを拒んでいた。

別段不思議な事ではない。彼女の体が動かないのは、一重に"ダメージを受けすぎたから"である。回避能力もさる事ながら、結界による防御術まで会得している霊夢は、今まで弾幕を受けたことなどほぼ無かった。この異変に関しては本当に一度も受けていない。

しかし、彼女が受けた弾幕は西行妖によるモノ。

全開放でない事を鑑みても、彼女が相対してきた妖怪とは一線を画す、どころか"次元が違う"。その弾幕の威力も当然、相当なものである。

そんなモノを、至近距離の無防備な状態で受ければ、一気に身体が限界を迎えるのも当然なのである。

唯一少しだけ動く首を傾け、幽々子(西行妖)と対峙する二人を見やった。

 

(防戦一方じゃない…)

 

二人は弾幕を放つ事もせず、ただその視界に幽々子だけを捉えて迫り来る弾幕を避けていた。

普通に弾幕勝負をするなら、"攻撃しなければ話にならない"と二人を軽く馬鹿にする所だが、それは二人の目を見た事によって消え失せた。

 

ーー諦めてはいない、とても強い目をしていたのだ。

 

攻撃はしない。しかし負けることを良しともしていない。つまり……弾切れ(バテ)を狙っているということか。

霊夢のよくキレる頭脳は、瞬時に二人の行動の意味を理解した。

霊夢自身も、それは確かに最善の策だと思った。自らの大技をあんな容易に消し飛ばす化け物を相手に、通常弾幕など意味が無い。それこそ、向こうから見れば"埃"同然だろう。それならば持久戦に持ち込むしかない。どんな化け物だって力に限界はある筈。それが尽きるまで、とことん避けきるのだ。

 

しかし、それはあくまで"最善"。今できる中で、最も善いというだけである。それが相当な難題なのは何処も変わっていない。

事実、霊夢の見る限り、弾幕を避ける二人の顔にも汗が滲んでいた。つまり、避けるのも相当に大変という事だ。

紙一重で避けてはいるが、それは決して"最小限に避けることを意識して行っているから"ではないのだろう。単純に、"避けることさえもギリギリになってしまう"だけだ。

 

「なんとか…ならないの…っ!? あんなヤツ、相手に…」

 

再び、霊夢は立ち上がろうと力を込めた。

二人が尽きるのが早いか、それとも幽々子が尽きるのが早いか。そう聞かれれば、霊夢はすぐに"二人の方が早い"と答えるだろう。

常識的に考えて、だ。人間二人と化け物など比べれば、人間の方が弱いに決まっている。つまり、このままでいても勝ち目がない。ならば、今出来る最善の策とは、狙われていない霊夢がコレを打破する策を見つける。それ以外にない。

霊夢は、動かない身体を霊力で支えながら、どうにか立ち上がったーー瞬間。

 

 

ゾワリ

 

 

「ひっ…」

 

霊夢は全身に、とてもイヤなモノを感じた。

否、それが何なのか、彼女自身も分かっている。

その"イヤなもの"によって、トラウマになる程の痛みと衝撃を、先程(・・)受けたばかりなのだから。

 

「………何……あれ…」

 

 

彼女の視線の先には、モヤモヤと妖力の漏れ出す、木の根元に刺さった一振りの刀があった。

 

 

ゆっくりと近付く。身体が思うように動かないというのも理由の一つだが、それ以上に大きな要因と言えば、それは"警戒"である。自身を叩きのめした者の妖力が流れ出ているのだ、それで警戒しない者はただの馬鹿である。

 

刀から目を離さず、少しずつ近付いて行く。最早、霊夢の耳には上空で争う三人の音など欠片も聞こえていなかった。言い換えれば、彼女の頭は目の前の事で一杯だった。

眼球が乾くほどに凝視し続けながら、刀の元に辿り着いた彼女は、震える手でゆっくりと刀の柄に触れた。

ーーそして、驚いた様にバッと手を離した。

彼女の顔には、大量の汗が噴き出す。

 

「何よ……これ……!

 

 

 

 

 

 

 

まだ十倍以上(・・・・)残ってるじゃないっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

刀に秘められた妖力。それは、今魔理沙たちが対峙している者が発する妖力の、十倍以上の量であった。

そして、そこから少しずつ妖力が漏れ出し、集まっていく。

この瞬間に、霊夢は思った。

このままではマズイ、と。

妖力が漏れ出して供給され続けるのでは、持久戦など無意味である。魔理沙達の見つけた切り口でさえ、その先に希望は見えない。

 

ーーなんとかしなければ。

 

使命感めいたものが、心に沸き立つ。

霊夢は、再び柄に触れた。

 

(この刀から妖力のみが漏れ出すって事は、この刀自体が封印になっているはず……その術式は……)

 

柄に触れたまま目を瞑り、刀に施された封印を読み解く。

解き終わった頃には、霊夢の頭の中には巨大な箱のイメージが浮かんでいた。

その箱の蓋はボロボロになり、かけたところから中身ーー妖力が漏れ出している。

しかし

 

(蓋は外から引っ張り上げられたみたいに壊れてるけど、封印の機構自体はまだ生きてる……なら、後は霊力を込めて"蓋"を修復すればいい!)

 

霊夢はカッと目を開き、残った霊力を絞りあげた。

そして、それを刀へ流そうとした瞬間ーー

 

 

とんでもない殺気をその身に浴びた。

 

 

「ぁくっ……」

 

彼女の呼吸を止めかねない程の鋭く重い殺気。それを放つのは当然ながら、霊夢の行動に気が付いた幽々子(西行妖)である。

魔理沙たちに対峙していた西行妖は、先程までの無気力そうな表情から打って変わって怒りを露わにし、霊夢を睨みつけていた。

 

(早くっ…しない、と…!)

 

殺気に晒されながらも、蓋を修復しようとする霊夢。

西行妖がそれを許すはずは、無い。

 

「■■■■■■■■ッ!!!!」

 

とても聞き取れないような叫び声をあげ、西行妖は全身から逃げ道など存在しないほどの弾幕を放った。

その威力も、下降するどころか上昇している。

全方位に放たれた弾幕は当然、霊夢だけではなく魔理沙たちにも襲いかかった。

 

(ヤバイッ!!!)

 

身体を霊力で支えている霊夢に、最早避ける術は無い。

あんな弾幕を受ければ、人間の身体など簡単に消し飛んでただの肉塊と化すだろう。五体満足なら御の字…そんなレベル。

 

自身の最後を予感し、ギュッと目を瞑った。

少しでも身体が離れないように、自らの肩を抱き寄せて。

 

 

 

ズドォォォォオオオーー……ン

 

 

 

衝撃が大気を揺らす。その音は地響きとなんら変わりはなかった。爆発、というのも生温い。耳をつん裂く程の音撃を霊夢は聞いた。

 

 

そう、聞いた(・・・)。つまりーー

 

 

(生き…てる…?)

 

覚悟した痛みは襲ってこない。自らの身体に何かが触れる感触もない。ギュッと肩を抱きかかえた所為で、腕に僅かな疲労の感覚が残っている。…確かに、生きている。

霊夢は、目を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間一髪だったな。でも…セーフだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、双也…にぃ……?」

 

そこには、忘れる事のない兄貴分の背中があった。

 

 

 

 

 




救世主はやはりこの人。

ではでは。

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