もう少しお話進めばそんな事なくなるんですがね…
ではどうぞ!
スキマを抜けた先は、白玉楼の階段をかなり下まで下った場所。四人が大暴れしたとしても、誰かの被害にはなりにくい場所である。
ほぼ同時にスキマを抜けた四人は、"スキマを抜けた事"をきっかけとし、戦闘を開始した。
「先手必勝っ!!」
飛び出すなり勢いよく叫ぶ魔理沙。その言葉の通り、カードを一枚取り出し、誰よりも早く宣言する。
「儀符『オーレリーズサン』ッ!」
彼女の周囲に四つの玉が出現し、それぞれレーザーと弾幕を放った。その先に居るのはーー
「ん、いきなり俺か」
天御雷を引き抜く双也であった。弾幕が迫っているにも関わらず、彼の表情は涼しいままである。
だが、それを不思議に思う者はいない。何故なら、
「じゃ、取り敢えず一枚使ってみるか」
彼の指の間にも、光り輝くスペルカードが挟まれていたからだ。そこから、強いては彼から感じる強大な霊力を感じ、挑みかかった魔理沙の口の端も自然と吊り上がった。
「霊刃『飛燕の蒼群』」
蒼い霊力の残滓を残しながら刀を一振りすると、彼の周りに小さなの蒼い刃が無数に飛び回り始めた。
少しずつ直径を伸ばすそれは、魔理沙のオーレリーズサンが放つ小さな弾幕を尽く切り落としながら飛び、およそ二倍程の半径になったところで一斉に魔理沙の方へ飛び立つ。
レーザーはその"蒼い飛燕の群れ"に遮られ、ブレイクこそしないものの双也に届くことはなかった。
「うぉあ!? なんだこの密度っ!?」
その嵐に晒された魔理沙は驚きの声を上げるも、その小さな隙間を縫ったりレーザーで少しずつ搔き消したりしてうまく避けていく。異変解決者の肩書きは伊達ではないのだ。
「ちっ、攻撃する暇がねぇっ!」
彼女のそんな愚痴を漏らす声に反応してか、弾幕を放つ双也の頭上から声が響いた。
「何やってんのよ魔理沙っ!!」
それは当然、魔理沙の攻撃に紛れて距離を詰めていた霊夢だ。
彼女は、現れるのと同時に彼の頭上から弾幕を放ち、急降下してくる。
頭上からの弾幕に晒され、双也は一旦スペルの弾幕を止め、回避に専念した。
だがまぁ、スペルでもない弾幕に当たる彼ではない。スルスルと避けきりーー
ガンッ!!
振り下ろされた霊夢の大幣を刀で受け止めた。
「双也っ!私はあんたに話があんのよ!」
「…なんだよ霊夢、戦闘中に話す余裕があるのか?」
挑発的な彼の物言いに若干眉を反応させながらも、霊夢は続ける。
「余裕どうこうじゃ無いわよ! 私はあんたを問い詰めるために来たんだから!」
「問い詰めてどうする気だ?」
「ぶん殴るっ!」
お互いの得物を弾き合い、身を翻すのと同時に霊夢は弾幕を放った。しかし、同じ様に放たれた双也の弾幕とぶつかり合い、相殺する。
と、そのタイミングで。
「隙ありだぜっ!」
横から現れた魔理沙が、彼に向かって弾幕を放った。
それには彼も気が付いており、発動中のスペルで対抗しようとするが……ちょうど目の前にスキマが開き、彼女の攻撃を防いだ。
「私を忘れないで貰えるかしら?」
少し遅れて、スキマの主ーー紫が姿を現し、双也の隣に降り立った。微笑んでいながらも鋭いその眼は、確かに魔理沙を捉えている。
「紫、少し魔理沙の相手頼む。…なんか霊夢は俺をぶん殴りたいらしい」
「ふふ、分かったわ。任せなさい」
少しだけ微笑みを深くし、紫もまた、スペルカードを取り出し、宣言する。
「空餌『中毒性のあるエサ』」
宣言と同時に放たれた"線"は四方八方に張り巡らされ、突撃する魔理沙の進行を妨げた。しかし当然ながら、それだけには留まらない。
「さぁ白黒の魔法使い、せいぜい逃げ惑いなさいな」
パチンッ
紫の小気味良い指打ちを皮切りに、張られた線を辿るように太いレーザーが放たれる。
「うっげ…こりゃ厄介だな」
魔理沙は放たれるレーザーより、その軌道となる線を見て顔を引きつらせた。
なにせ、その線を通る隙間は人一人がやっと通れるくらいの幅しかないからである。いくら身軽な少女である魔理沙といえども、速度を出して避けるのは難易度の高い技。加え、レーザーが通ればその隙間は更に狭くなる。
ーーそんな弾幕(?)の四面楚歌。
魔理沙が
「へっ、妖怪の賢者かぁ…やってやろうじゃんかっ!!」
魔理沙は、隠れた努力家だという他にかなりの負けず嫌いという一面も持っている。特に、自らの好く弾幕勝負なら尚のことである。
彼女は双也と勝負する時にも笑って見せた。今回もまた、相手が強敵という事に変わりはない。
彼女の心は闘争の炎を灯していた。
「ホントは双也にリベンジするつもりだったが…この際どっちでもいいぜ! 妖怪の賢者サマに人間の底力、見せてやるぜ!」
「ふふ、元気の良いこと。なら、見せてもらおうかしら。あなたの力を」
紫の表情は何処までも崩れない。
異変解決者たる魔理沙の力…強いては、常に博麗の巫女である霊夢の隣に立つ少女の力を紫もまた、期待しているのだった。
微笑みは、深くなるばかりだ。
「私に勝たない限り、双也に勝とうだなんて口に出すのもおこがましい。その底力とやらで、私を超えてみせなさい」
「……上等だぜっ!!!」
"星"と"クナイ"が、火花を散らした。
一方、双也達は。
「ほー、なかなかやるなぁ霊夢」
「くっ!」
双也が放つ蒼い
もちろんこれはスペルカードであり、斬撃といえども殺傷能力などそれ程無い弾幕なので、気絶しない自信があるなら受けても構わないのだが…それでも霊夢は、避け続けた。
何故か。理由は単純。
「博麗の巫女を…舐めないで貰えるかしらっ!」
ーー負けるわけにはいかないからである。
結界の修復のため? それもあるが二の次だ。
彼女の目的は、今やただ一つ。今まで何も言わなかった
仕様のない理由だ。
確かに、必死になるほどの事でもないかもしれない。
けれどそれは"他人から見て"だ。今の霊夢にとって何よりも大切なのは、彼の口から真実を聞き、打ち明けなかったことに対して怒り、そしてーー理解する事である。
普通の家族間にだって、お互い知らない事はある。全てを打ち開けている家族などあれば、きっと霊夢だって気持ち悪がっている事だろう。
血の繋がりのない霊夢と双也なら尚のこと。ならば、聞いて受け入れれば良いことなのだ。
彼だって、霊夢の大切な家族同然なのだから。
その為には、どうしても勝たなければいけない。いや、例え勝てなくとも、一矢報いるくらいはしなければこの感情が収まる事はない。
霊夢もまた、その心に激しい炎を灯しているのだ。
「うぅ…! 弾幕が邪魔で当たらないじゃないっ!」
「このスペルのテーマは"攻防一体"だからな。普通の弾幕が通り抜けられると思わない方がいいぞ」
「っ…! ならっ!」
激しい燕の弾幕の間を縫いながら、霊夢は懐から何かを取り出した。それはもちろん、スペルカード。
一瞬出来た弾幕の隙を突き、宣言する。
「宝具『陰陽鬼神玉』!!」
カードから放たれた霊力は、突き出された霊夢の掌に集まりながら急速に大きく、陰陽玉を形作っていく。
その間にも当然双也のスペルは衝突する訳だが、一つ一つの弾の圧縮度に差があるため、ぶつかった位では陰陽玉は砕けない。
霊夢はこの"硬さ"に目を付けたのだ。
「そのスペル、ブレイクさせてもらうわ!!」
彼女の身長の倍はあるかという大きさの陰陽玉。
完成した直後には、双也に向けて放たれていた。先述の圧縮度の差により、いくら燕が衝突しようと陰陽玉は進行をやめない。
彼の周りを飛ぶ燕に陰陽玉が衝突した時、"これスペルじゃ止められそうにないな"と、流石の双也も思った。それほど迫力のある弾である。実際、双也の"飛燕の蒼群"はそこでブレイクされた。
しかし、大人しくやられるヤツではない。
そんな事は、霊夢でさえも分かっている。
「ふぅ〜……ハァァッ!!」
静かに上段へと掲げられた刃は、彼の掛け声と共に陰陽玉に衝突した。耳を劈く程の激しい音が響き渡った。
「…アレを刀で止めるって…どんな化け物だよ…」
「そんな事をやってのけるのが双也という存在よ」
遠くでそれを見ていた魔理沙と紫も、ポツリとそんな事を呟いていたのは当人達しか知らない事である
暫し拮抗していた陰陽玉と天御雷だったが、だんだんと刀身が双也の頭に迫ってきた。
当然といえば当然だ。例えるなら、電車の閉まりかけたドアを手でこじ開けようとしているような物なのだから。魔理沙の指摘もあながち間違いではない。
陰陽玉を刀で止める。少しの間でもそれが出来たのは双也が規格外だからに他ならないのだ。
しかし、それもそろそろ限界。刀が折れることは決して無いが、手で止めるには無理がある。
そこで彼がとった行動はーー
「………止められねぇ……なら、
ーーやはり、諦めなどではなかった。
「え…?ーーッ!?!?」
刹那、膨大な霊力が双也から放たれた。
一度は西行妖の膨大な妖力を体験している霊夢でさえも、思わず手で顔を覆う程の強力な力である。
驚愕する霊夢を尻目に、彼は動いた。
「魂守りの張り盾 〜
放たれた霊力は次第に陰陽玉の周囲に集まり、無数の剣閃を生み出した。それはけたたましい音を響かせるだけではなく、着実に陰陽玉を削っていく。
魂守りの張り盾。
それは、大昔に双也が作り出した技。止められないなら断ち切って勢いを無くそう、という発想から生まれた技である。
本来は、薄く広げた霊力に当たったものから順次結界刃で切り落としていくものである。しかしーー今回は少しばかり使い方が違う。
本来は広げる霊力で陰陽玉を包み込み、その半径を徐々に狭めているのだ。
触れれば斬れる霊力で対象を包み込む。"纏刃"という単語がよく似合う型だ。
陰陽玉を断ち切らんとする剣閃に絶え間は無い。一つ一つの威力だって決して低くない。
ーー陰陽玉の限界はすぐに訪れた。
ガシャァァアアアンッ!!
ガラスの割れるような音と共に、霊夢の陰陽鬼神玉はブレイクされた。
欠片が宙を舞うその光景の先には、霊夢を真っ直ぐ見つめる双也の姿が。
「話なら、コレが終わってからゆっくりしよう。…話しながらでも俺と戦えるってんなら、別だけどな」
「………………くっ…」
不敵に笑う彼の表情が、霊夢にはとても楽しそうに見えるのだった。
二対二を上手く書こうと思ったらいつの間にか一対一×2になってました…。
でもまぁ、いつも通りの臨場感は出ている…と思いたいです。はい。
ではでは。