東方双神録   作:ぎんがぁ!

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魔理沙って、ここぞというときには頭使いそうなイメージですね。

ではどうぞっ!!




第百十七話 挑むは解決者、迎えるは最強

苛烈を極めた冥界の弾幕勝負。

霊夢達解決者組と双也達師弟組は、張り詰める空気の中でお互いを見つめていた。

 

「勝負よ双也っ!」

 

口火を切ったのは霊夢達であった。

霊夢は札の性能を活かし、魔理沙は火力を活かし、それぞれが弾幕を放った。

迎える双也達は、その光景を見て言葉を交わす。

 

「ふふ、今更だけれど…師弟で組んで弾幕勝負と言うのも良いものね」

 

「…何言ってる。自分で仕組んだ癖に」

 

「そうだったかしら?」

 

何時もの胡散臭い雰囲気に少しの嬉しさを纏いながら、紫は笑う。とても楽しそうに。

そんな彼女の様子を見て双也は軽く溜め息を溢すが、彼の口もまた、嬉しそうに歪んでいた。

 

ーーと、そこへ弾幕が飛来する。

 

「縛道の八十一『断空』」

 

現れた障壁は飛来する無数の弾幕を悉く拒み、進行を決して許さなかった。手を下ろし、彼は紫に声をかけた。

 

「…まぁいいけど…出遅れんなよ紫」

 

「あら、私を誰だと思っているのかしら」

 

ピッと横に薙いだ紫の手。その指には強く光を放つ物。

 

「"妖怪の賢者"八雲紫よ? 少しは弟子を信用しなさいな」

 

 

ーー幻巣『飛行虫ネスト』

 

 

刹那、至る所に小さなスキマが開かれた。その中からは、妖怪に似つかわしくない光を放つ小さな弾幕が。

現れては消え、現れては消えを繰り返すスキマから放たれるそれは、まるで虫の軍隊の様に進軍し、霊夢たちを襲う。

 

「俺も負けてらん無いな」

 

「そこで見てても良いわよ?」

 

「いんや、俺も行くさ。…ちゃんとやらないと、霊夢の想いに応えられない」

 

双也は刀の柄に手を掛け、引き抜いた。同時に霊力もある程度解放する。

準備万端かと思いきや、彼は紫の方に顔を向けないで言った。

 

「それと……今お前、"信用しろ"って言ったけどさ…」

 

「…?」

 

「俺はとうの昔から、お前の事信用してるから」

 

言い残し、飛び出した。

表情を見ることは叶わなかったが、その言葉に驚愕した紫も、ふっと笑みを溢す。

 

「……ふふっ……なら、頑張りましょうか…!」

 

そう言った彼女は、とても晴れやかな表情だった。

 

 

 

 

「ちぃっ! 小さいくせに量が多くて厄介だぜ!」

 

「愚痴ってもしょうがないでしょ! あの紫のスペルなんだし、当たるのは最低限にしなさいよ!?」

 

「中々理不尽な事…言うぜ!」

 

飛び回り、弾幕を放ちながらスペルを避ける魔理沙は、新たに魔法陣を展開した。今までの弾幕ではなくまた別のーーレーザーである。

 

「面倒な弾幕は破るに限るぜ!」

 

彼女の周囲に展開した四つの陣からは、通常弾幕にしては太めなレーザーが勢いよく照射された。

物量で圧し潰すタイプの紫のスペルは、そんなレーザーには歯が立たずに打ち消されていく。

 

「ははははっ! 意外と大したことーー」

 

「っ!! 魔理沙! 上っ!」

 

「あ?」

 

レーザーの照射によって余裕が出来た魔理沙は、霊夢の叫び声に反応して顔を上げた。

冥界の暗い空をバックに彼女の視界に映ったのはーー

 

 

 

「俺を忘れてやしねーか? 魔理沙」

 

 

 

横に刀を構えた、双也の姿だった。

 

「旋空!」

 

振り抜かれた双也の刀ーー天御雷からは、蒼い霊力を迸らせながら八つの旋空が放たれた。

流麗に弧を描きながら、苦い顔をする魔理沙に迫る。

 

その刹那、魔理沙の視界は横からの影に遮られた。

 

「夢想封印っ!」

 

その影ーー霊夢は、魔理沙と双也の間に入るなり即座に宣言した。

物量的で勝る七色の光珠は、迫る刃を砕きながら双也に肉薄する。

 

「ふむ……大霊剣『万象結界刃』」

 

しかし、旋空を砕いた光珠もすっぱりと両断され、彼には届かなかった。その光景を見た霊夢も軽く舌打ちをする。

 

「あれ…私のマスタースパークを斬った時のーーおっと!?」

 

反射的に、魔理沙は首を後ろへズラした。彼女の視界を横切ったのはーー飛行虫ネスト。

 

「ちっ、そう言えばブレイクしてなかったぜ…」

 

「目の前に気を取られ過ぎないことよ」

 

スキマで距離を詰めた紫は、双也の援護に入らんと発動中のスペル"飛行虫ネスト"を放った。

双也も瞬歩で飛び回り、旋空、風刃、アステロイドなど、彼自身の弾幕で攻撃する。

 

強力極まりない弾幕の二重嵐に晒された霊夢達は、始終辛そうな表情をしながらも避け、時には攻撃しーーしかし被弾させるには至らずを繰り返していた。

 

そんな折、ネストを飛ばす紫が、スキマ経由で双也に言った。

 

「双也、次のスペルを用意して頂戴。私のスペルも時間切れで止まるわ」

 

「オーケィ」

 

言われてすぐ、彼はスペルを取り出した。

それを遠目で見た魔理沙は、何かが来ることを予想し、霊夢に忠告する。

 

「おい霊夢! なんかスペルが来るぜ!」

 

「……反撃する隙が無いわね。どっちかを先にブレイクするしか……」

 

「ブレイクか…」

 

と考えたその刹那、殺到していた飛行虫ネストがパッタリと来なくなった。

ーースペルブレイク(タイムアウト)だ。

それを皮切りに、双也が取り出したスペルカードも強い輝きを放つ。

 

「アステロイド『全弾臨界放火(オーバーフルバースト)』」

 

スペルカードから作り出された二つの正方形の箱。それは次々と分割されていき、彼が両手を突き出すのと同時に放たれた。

 

様々なアステロイドの入り乱れる弾幕は、二人をさして狙うわけでもなく、ただ一息に呑み込んだ。

 

「ちょっと何よコレ! 規則性も何もあったものじゃ無いわね!」

 

「厄介なスペルのオンパレードだぜちくしょうめ!」

 

「そこに私の弾幕も加わるのよ」

 

「「!?」」

 

上からかかった声に向けば、スペルがブレイクして手ぶらになった紫の姿が。

容赦の無い二人の攻撃。霊夢たちは思った。

ーーなんつー組み合わせだよ、こいつら。

ーーこんなの、歯が立たないじゃない。

と。

片方がスペルを発動させれば、もう片方が前衛に回る。タイムアウトすれば交代して続行。

最早ある種のループである。まるで"避ける事だけ集中してろ"とでも言っているかのような。

この戦闘そのものが"耐久スペル"のようである。

 

しかし、これは確かに戦闘。何処かでループを壊さなければ、ただでさえ低い勝率は完全に零になってしまう。

 

一番頭を働かせていたのは、負けず嫌いな魔理沙であった。

 

(紫の弾幕も厄介だが…一番厄介なのは規則性の無い双也のスペルだな……あの箱か?)

 

彼女の視線が射抜いたのは、双也の掌で形成されては分割されて放たれる、正方形の箱。それは幸いにも、魔法陣などとは違う通り抜けぬもの(・・・・・・・)

 

ーー閃いたぜ。

 

彼女の口の端が吊り上がった。

 

「霊夢!」

 

「ッ…何よ!」

 

彼女はすぐに、避けながら弾幕を放つ霊夢に声をかけた。

霊夢が放った弾幕は、紫のスキマの中に消えていく。それを見て霊夢は舌打ちした。

こちらも相当に苦戦している。だがーー

 

「紫の相手する事だけに集中しろ!」

 

「……はぁ!?」

 

「頼むぜ!」

 

そう言い、魔理沙は普段ボムとして使う瓶複数個を下に思いっきり投げた。

幾つかはアステロイドに当たり爆発するも、大多数は通り抜け、スペルの届かない下の方へ落ちていく。

 

双也も訝しげに思うも、スペルの途中で手は離せない。

それを察した紫が代わりに弾幕を放ったーーが。

 

「なんか知らないけどさせないわよ!」

 

「っ…」

 

霊夢のホーミングアミュレットにより、紫の放った弾は正確に撃ち落とされた。次々に放つも、対抗して霊夢が放つ弾幕の前に消えていきーー瓶はついに、着弾した。

瞬間。

 

 

ドパァンッ!!

 

 

「なに!?」

 

現れた何本ものレーザーの内の一本が、双也のアステロイドの発射点ーー正方形の箱を貫いていた。

 

「避けらんなかっただろ? 速さには自信のあるレーザー……アースライトレイだぜっ!」

 

光符『アースライトレイ』。

ボムとして使用する瓶を地面に叩きつけ、そこから瞬間的にレーザーを放つスペルである。

照射方向や発動条件などに問題があるものの、照射速度に関しては彼女のどのスペルよりも速い。そもそも照射方向に関しては、今まで沢山の瓶を投げてきた魔理沙ならある程度調節することができるのだ。

遅ければ簡単に防げてしまう双也に対し、彼女は威力よりも速度を取ったのだ。

その効果は、確かに現れた。

 

「追撃ィ!」

 

突然の事に思考が追いついていない双也へ、魔理沙は追撃として先のような瓶を投げた。

 

ーー魔廃『ディープエコロジカルボム』

 

 

 

今度は、爆発物だ。

 

 

 

「えっ…?」

 

目の前に投げ込まれたそれを見、さすがの双也も(ほう)けた声をあげる。

しかしそれは、その瓶による大きな爆発音に掻き消えた。

 

「双也っ!?」

 

「らしくもなく隙だらけよ紫!」

 

「!!」

 

双也が爆発を食らった事に驚愕を隠せない紫。そんな大きな隙はまさに、霊夢が心待ちにしていたものだった。

刹那亜空穴。再びそれを用い、紫の目の前に躍り出た霊夢は、渾身の力を込めてスペルを宣言した。

 

「霊符『夢想妙珠』っ!!」

 

殺到した光の珠は、隙だらけの紫に直撃。至近距離で放たれたスペルとあっては、大妖怪たる紫にもそれなりにダメージがある。

霊夢が魔理沙の元へ飛ぶ際横目で見たのは、煙を纏って吹き飛ぶ紫の姿だった。

 

「魔理沙!」

 

「おう霊夢。上手くいったな」

 

声をかけるなり、ボロボロで疲れながらに魔理沙は快活な笑みを浮かべて笑った。

しかし、内心二人も分かっている。

ーーこれで終わりでは無い。

と。

 

「魔理沙…いけるわね?」

 

「勿論だぜ。とっておきをお見舞いしてやる!」

 

八卦炉、そして札を構えた二人が見据えるのは、煙の中から出てくる双也と紫であった。

二人とも、ところどころそれなりの傷が出来ている。

 

「いってぇ〜…威力強過ぎ…加減ってもんを知らないのか?」

 

「ふふ、まさかあなたからそんな弱音が聴けるなんてね」

 

「余裕そうだな紫」

 

「まぁそれなりには。でも………今度はそうでもなさそうよ」

 

始めとは違った真剣な眼差し。その視線に双也も釣られてそちらを見ると、如何にも大技を繰り出すと言った雰囲気を醸し出す二人の姿があった。

 

「確かに、こりゃ気を引き締めたほうがいいな」

 

「勿論…迎え撃つわよね?」

 

その問いに、彼はふっと頬を歪めた。

 

「紫、繋げるから重ねろ(・・・・・・・・)

 

「…ええ」

 

二人はお互い、どちらからともなく掌を合わせ、もう片手を前へ突き出した。

双也によって繋がれた霊力と妖力が集められ、重ねられ、その周囲の空間を捩じ曲げる程の圧力を生み出して形となっていく。

 

長い時を共に生きた二人には、こんな簡単な一言だけで通じるのであった。双也もまた、紫の考え方などはある程度理解しているのである。

そういう意味で、彼は紫を信頼していた。

 

「さぁ、行くぜ紫」

 

「ふふっ…ええ♪」

 

合図を取ると同時に、繋がれた霊力と妖力が膨れ上がっていく。

その"発動を意味する膨れ上がり方"に、霊夢達も気を引き締めた。

 

「最終決戦よ。手ェ抜いたら今度から神社に上がらせてあげないから」

 

「冗談キツイぜ霊夢。………私が手なんか抜くわけ無いだろ?」

 

「…それもそうね」

 

勝とうが負けようがこれが恐らく最後。ボロボロでも、疲れていても、二人は笑みを浮かべていた。お互いの笑顔は、お互いに力を与えてくれる。

 

後はーー放つのみ。

 

 

「行くぜ私のとっておき!

魔砲『ファイナルマスタースパーク』ッ!!!」

 

「…負けないっ!! 『夢想天生』!!」

 

 

ーー億に届くお札を纏った、最強のマスタースパーク。

 

 

「何時でも良いわよ、双也」

 

「ああ、行くぜ。

…光滅『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』!!」

 

 

ーー霊力と妖力の共鳴する、超強大な蒼い閃光。

 

 

 

 

放たれた二つは、冥界の空に轟く轟音を響かせ、

 

 

 

 

互いを呑み込まんと、剛突した。

 

 

 

 

 




あとほんの少しだけ続きます。

ではでは。

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