さぁさぁ、どうなる?
ではどうぞっ!
真っ暗な冥界に響き渡る轟音、光。
それは地響きのような、もしくはガラスが割れた時のような、重低音の綯い交ぜになった鮮烈な音を鳴らしーー
冥界を、揺らしていた。
「ぐぎぎぎっ、なんつー力だよあいつらぁっ!」
両手で抑えた八卦炉から超大型のレーザーを放つ魔理沙。その顔を辛そうに歪めながら、彼女は言った。
何時もなら、あらゆるタイミングで魔理沙の言葉にツッコミを入れる霊夢も、今回だけは同感だった。
「ホントよっ! こんだけ本気で撃ってるのにっ…!」
異変解決者として、幻想郷内でもトップクラスの実力を持つ二人。彼女らが放つスペルも、二人にとっての究極奥義と言って差し支えないモノだ。
"本気の彼女ら"に相手する双也達も、光と轟音の向こうで少々苦い顔をしていた。
「…っ…思ったより大分強いな」
「そうね。私達が霊力と妖力を合わせても互角……あの子達の底が知れないわ」
「ふっ…確かに」
僅かに笑う双也の頬に、一筋汗が伝った。
彼が思い出しているのは、霊夢が飛竜撃賊震天雷炮を破ったときの事である。
彼は真摯に、霊夢と、そして魔理沙の才能に恐怖すら感じているのだった。
ーーいつかは俺も、負けるのかな…。
そんな事を思っていた。
でも。
「まだ、俺たちの方が上だ」
大きな霊力が溢れ出した。
それに合わせる為、紫も同等に妖力を解放していく。
彼らが二人で放っているスペル、
霊夢達が、押され始めた。
「うおっ!? まだ…強くなんのかよっ!?」
「ぐ…踏ん張りなさい魔理沙っ!」
魔理沙に強気の叱咤をかける霊夢も、最早限界であった。
双也と一対一で戦った際の消耗が響いてきたのである。あの時でさえ限界に近い戦いを繰り広げたにも関わらず、間髪入れずに更に苛烈な戦闘。
薄々感じていた。感じざるを得なかった。
ーーこのままでは勝てっこない。
魔理沙だって分かっていた。
過去に双也と対峙した時、そして今回紫と対峙した時。彼女はしっかりと彼らを見ていた。
自分が必死になっているにも関わらず、彼らは常に笑っていた事を。
確かに、楽しければ笑って撃ちあえる。撃ち合って、研鑽を重ねる事は、あまり知っている人は居ないけれど魔理沙の大好きな事だ。しかしーー彼らの時は別だ。
楽しいというより、勝ちたい。そこにあったのは、撃ち合える楽しみよりも勝利への闘争心だったのだ。
格上にだって勝ってやる!
そんな強烈な闘争心である。
高い目標を目指して戦う彼女が、無意識の内に頬を歪めていた事には、本人は気が付いていない。それだけ目の前の事しか見えていないーーもしくは、必死だったのである。
そんな中でも、しかし彼らは常に笑っていた。魔理沙の必死さとは違う、"余裕の表情だった"のだ。
今だって、そう。
ーーこのままやっても、勝てない…!
諦めてはいないけれど、しかし現実は非情だった。
だから
ーー諦める訳にはいかない。
絶対勝つ。
それは、勝負の始まる前に二人が決めた事だった。
もともと意思の弱い二人ではない。嘘は多少吐くかもしれないが、頑固な程に誓った事は曲げないのだ。
お互いが諦めていない事は、お互いが既に分かりきっていた。それにーー
「魔理沙っ…
問われた魔理沙はその"アレ"というものを脳内検索した。
少しだけ分からなくなるも、それはすぐに見つかった。確かに、この状況を打開する為の最善策だった。
ーー最善策なら確認を取らずとも良いのでは?
そう思う者ももしかしたらいるかも知れない。だが、霊夢が確認を取った事には理由があった。それは、"アレ"というものを察した魔理沙も理解している。
アレーーそれは、
霊夢が非情な訳ではない。そもそもコレは弾幕勝負であり、気絶する事はあっても死ぬ事はない。どこまでいっても"遊び"だからだ。
反面苦痛はしっかりと襲ってくる訳でありーーそれも分かった上で、霊夢は問うたのだ。
"耐えてくれるか"と。
それは、魔理沙という親友に対する、ある種の信頼そのものだった。
言葉の意味をしっかりと理解した魔理沙は嫌な顔はせず、むしろ笑って言った。
「…コレはお前の為の戦いだぜ。私は勝手に首を突っ込んだだけだ、好きなようにやれよ。私の事はーー気にすんな」
ニカッ
そんな擬音が似合う、いつもの明るい笑顔。
霊夢も魔理沙も、この時覚悟を決めた。
"最強達"に一矢報いる、この共同戦線。
霊夢は、動いた。
「スゥゥ〜……発動ーー」
それは、突然起こった。
双也たちが力を解放し、威力が上がったにもかかわらず中々均衡が崩れていなかった二つのスペル。
それの均衡が突然、破られた。
ーー急に、双也達のスペルが押し始めたのだ。
「っ……? なんだ?」
その変化に、双也はむしろ不気味さを覚えた。
自らの理解の及ばぬ事が起きれば大体の者はそうなるがーーそれだけではない。
何か、予感がした。
足元を掬われるような、そんな不気味な予感。
「……何だか分からないけど…このまま押し切るぞ!」
「そうね。それがいいわーー
その刹那。
きゃあっ!?」
「!? 紫!?」
言葉を言いかけた紫は、何かの攻撃を受けて吹き飛ばされた。
"攻撃された"と分かるのは、その場に大きな力の残滓が残っていたからである。
紫が吹き飛ばされ、スペルの制御が崩れそうになる。
彼は慌てて向き直り、力を加える。
が、その時彼は気が付いた。
ーーマスタースパークに、お札が纏わり付いていない。
霊夢の仕業か!
瞬間的に思った。
あれだけ競っていたスペルの衝突を、彼女が投げ出す訳がない。それなら、何か策を練っていたという事だ。
紫が吹き飛ばされたのも、恐らくはーー。
「ぐっ…なら先にっ!!」
一気に霊力が膨れ上がった。このままの状態では、霊夢に仕掛けられた時に対処が出来ない。
彼は先に、魔理沙を倒す事を考えたのだ。
膨れ上がった霊力はスペルに流れ込み、一気に膨張。
それは魔理沙の奥義、ファイナルマスタースパークをも瞬く間に吞み込みーー魔理沙諸共、消し飛ばした。
ーー瞬間である。
「ッ!!?」
彼の視界には、膨大な霊力を纏って半透明になった霊夢の姿があった。
「まさか…
「終わりよっ!! 双也ぁっ!!」
スペルを放ち切った直後の隙。
ほんの一瞬ーーいや、刹那程しかないその隙を狙って、霊夢はありったけのお札を放った。
「っ!! 『断空』!!」
その数万に及ぶお札を、双也は辛うじて防いだ。しかしーー
「無駄よ!!」
お札と共に振るわれた霊夢の大幣。
大量の霊力を込めて振るわれたそれの前に、障壁は虚しく砕け散る。
お札と、霊夢自身の放つ大弾幕を双也は無限流で捌き続けた。最早神速の域。その札の速度、剣跡、既に目に捉えるのも難しい程になっていた。
時折結界刃を霊夢に向けるも、素通りしてしまって当たらない。
「そりゃっ、夢想天生か!?」
「そうよ!! 私のっ、奥の手っ!!」
霊夢は更に力を込める。
やっと叶った接近でのサシの勝負。
これを逃せば恐らく勝てない。彼女は最早、"本気の本気"であった。
『発動ーー夢想天生!』
彼女が行った事は至極単純である。
それは、
夢想天生には二つの型がある。
一つは、強烈な霊力を込めた億に及ぶお札の嵐。
西行妖、そして双也に使った攻撃的で範囲的な型である。
そしてもう一つがーー攻撃を無効化した上での一点集中攻撃。
能力を併用して透明化に霊力を使う為、お札の数と一枚一枚の威力が下がるものの、一人に対しての威力は桁違いな特化型である。
"魔理沙を犠牲にするに等しい"
その理由は、この型の特徴にある。
一点集中攻撃を目的とするため、接近してから放たなければならない。ゆえに、二人でやっと抑えていた双也達の攻撃を魔理沙一人で受けなくてはならなくなるのだ。
恐らく、一人では抑えられない。
お互いそれを分かっていたからこそ、魔理沙は霊夢に託したのだ。
霊夢と双也の、真っ向勝負に。
「私はっ! あんたを殴る為に戦ってるっ!」
弾幕の音の中に、霊夢の声が響く。
「殴ってやらなきゃ、気が済まないのよっ!!」
捌き続ける双也も、言葉に耳を傾けた。
「なんで、何も言ってくれないのよ!!」
必死な彼女の叫びは、彼の胸を締め付けた。
「正体明かしたら私が反発するとでも思った!? あいにく! 常識外れな事なんて散々見てきて慣れてんのよ!」
彼は微かに、歯軋りをした。
「私はっ、あんたのなんだったの!? 少し近くに居るだけの他人とでも思ってた!?」
霊夢の頬に一筋、光が伝う。
それは、彼女自身の叫びに吹き飛ばされた。
「少なくとも私はっ! 〜〜ッ!!」
大量のお札を纏って接近、お札と膨大な霊力を込めた大幣を振り上げた。
それに何とか反応し、双也も拳を握る。
「〜〜ッ! 『赤焔拳』ッ!!!」
半透明な彼女に当たるか。
そんな事は、考える余裕は無かった。
ーーパチンッと、小気味良い音が響いた気がした。
ズドオォォォオンッ!!!
振り下ろされた大幣はお札を散らせながら
ーー双也へ当たる寸前で、止まっていた。
「……優しい、お兄ちゃん程度には…思ってたわよ…
双也の拳を腹に受けたまま、霊夢はガクリと気を失った。
寸止めされた大幣が、コツンと彼の頭に当たる。
その痛みは、不思議と彼の心に強く響くのだった。
そうーー気絶してしまうかと思う程に。
「……お前の想い、伝わったよ…霊夢」
ーーごめんな。
苛烈を極めた弾幕勝負は、双也と紫の勝利で幕を閉じるのだった。
長い戦いだった…(執筆日数的にも)
あと一、二話でこの章はおしまいです。
やー……長かった……。
ではでは。