ではどうぞ!
「んっ…ぅ……うん…?」
目を開けば、そこは見慣れた天井だった。
見慣れた障子、見慣れた襖、見慣れた布団。朝起きれば必ず目にする、ありふれた家具たち。
ここは、神社にある私の寝室だった。
「あれ……なんで……」
寝ぼけたようにハッキリとしない頭を働かせ、考える。
なんで私は寝てるわけ…?
障子から差す光を見るにまだ夕方頃。しかも日が沈み切っていない夕暮れ時だろう。障子を通り抜ける橙色の光は、優しげな暖かみを感じる。どう考えても、寝入ってしまう時間ではない。
…取り敢えず、起きようか。 こんな時間から寝ていては、またグータラ巫女だのサボり紅白だの言われてしまう。
「っ…いった……」
……痛い。 身体中がギシギシと痛い。
寝ていたからだろうか、力を入れるまで気が付かなかった。少し拳を握ってみれば、触れたのは掌でなく包帯の感触。そして服の中をまさぐってみれば、身体中にも包帯が巻かれていた。……怪我?
……………あ、思い出した。
「冥界で、勝負して……」
そうだ、弾幕勝負をしてたんだ。苛烈を極めた、冥界でのあの弾幕勝負。思い返せば恐らく、アレは私のこれからの人生でも三本指に入るくらいの壮絶な戦いだったろう。
究極奥義である夢想天生でも決定打には足りなかった事が、それに信憑性を持たせている。
本来アレを使ったらそれで終わりの筈なのに…。
「…そっか……私、負けたんだ……」
悔しさを超えた脱力感というのか、私はポスッと頭を枕に戻した。普段、自分でも自覚するくらいに負けず嫌いだったはずなのに、妙に落ち着いている。
本気の本気でぶつかって届かなかったからーー全力を出し切ったから、なのだろうか。
「……強かった…なぁ…」
思い返せば、ずっと彼の術中にハマっていた気がする。
始終彼のスペルに振り回され、こちらは反撃も満足に出来ず……ホントに、歯が立たないとはこの事か。
こんなに強い人が身近に居たなんて…世の中、知らない事ばかりだ。
「…はぁ…やっぱりもう少し寝ようかな…」
自分の状態を確認し、そんな事を考えた。実際、とてもじゃないが身体中痛くて動きたくないし、激しい戦闘の後なのだから休んでもバチは当たらないだろう。
再び目を瞑り、夢の中に身を落とそうとしたその瞬間、視界が暗くなって敏感になった鼓膜が、外からの音を捉えた。
しかも一つではなくーー何人も、たくさんの人の騒ぎ声が。
「つっ…いったい…何…?」
痛みを少し我慢して、喧騒の聞こえる境内へ向かう。
するとそこにはーー
「きゃーっ!この魚料理美味しいっ!!」
「ワインのおかわり頼めるかしら?」
「ふふ、賑やかで楽しいわねぇ♪」
「ちょっと遊んできましょうかねー。もちろん弾幕勝負で!」
ーーアイツらが居た。
「ちょ、あんた達私の神社で何してんの!?」
思わず、痛みを忘れて怒鳴ってしまった。しかもそれに気が付いてこちらを向いたのはほんの数人。殆どの奴らは料理や話し相手から目を移していなかった。
「おー霊夢! やっと起きたか! 今は異変解決の宴会中だぜ!」
その事に顔を引きつらせていると、此方を向いた者の一人ーー魔理沙が声をかけてきた。彼女の身体にも至る所に包帯が巻かれており、時折痛そうに顔を顰めているが、周りには上手く隠しているようだった。
「ちょっと魔理沙! 料理取り過ぎ!」バンッ!
「いっ!? いってぇぇえぇえっ!?」
…………痩せ我慢かも知れないけれど。
まぁ取り敢えず、立っていても疲れるだけなので私も座る事にしよう。どうせ言っても誰も聞きゃしないし。ホント、非常識な奴ら。
ちょうど魔理沙の隣が空いていたので、痛む身体を引きずって行き、座った。
見渡せば、夕方だと言うのにかなりの人数が集まってワイワイと騒いでいた。
「咲夜、ワインが終わってしまったわ」
「はいはい、お代わりですね」
「…レミィ、ワインばかりは健康に悪いわよ」
「引き籠ってばかりのあなたに言われたくないわね、パチェ」
「…………まぁいいけど」
紅魔館の面々。恐らく、咲夜が異変解決に関わったからという理由でお零れをもらいに来たのだろう。大変だったのは彼女の方なのに、こき使われる姿を見るのは少し可哀想な気分になった。
「ねぇ妖夢! このお料理全部食べてもいいのよね!?」
「…う、う〜ん…他の人の分も残してくださいよ?」
「味見の一口だけ残しておくわ」
「やっぱりダメですっ!!」
白玉楼の二人。まぁ当然だろう。異変解決後の宴会は言わば仲直り会のような物なのだし、むしろ彼女たちが主役だ。
あとはーー騒ぎを嗅ぎつけてきたらしい、道中で出会った者たち、だろうか。まぁ宴会に限っては、賑やかであるに越した事はない。大人数のほうが楽しいに決まっているのだから、まぁいいか、と思った。
……そういえば。
「ねぇ、魔理沙」
「あん?」
「この宴会…
根本的な疑問であった。
寝ていたのだから私ではないし、参加している面々を見てもそんな雰囲気の者など居ない。むしろ、あいつらは勝手に参加して勝手に食い散らかして、疲れたら勝手に帰るという傍若無人極まりない奴らばかり。多少常識のありそうな人も居なくはないが、まぁ期待しない方が良いだろう。
宴会の主催者。私の問いは、やけにアッサリと解消された。
「あー開いた奴? それなら、あそこでせっせと料理作ってるぜ」
彼女が指差したのは、神社の中にある台所。
目を向けたそこにはーー
「え〜っと、ここ切って取り出し…ジュワッと」
シュパッ「次の料理出来ましたか?」
「ああ咲夜、コレ持ってってくれ」
「そ、双也…? なんで?」
思わず口に出てしまう。彼の料理する姿こそ見慣れていない上、エプロンまで着けて…意外極まりない光景に驚くしかなかった。
そしてちゃっかりと咲夜も手伝いをしている。本当にご苦労様、である。もはや職業病じゃなかろうか。
……そういえば、咲夜に料理作ってもらう約束してたわね。…あとでもう少し頑張ってもらおう。
それはさて置き。
ーーどうしようか。
双也を姿を見て、そう思った。
分からないなら聞こうと、彼を追いかけ、戦い、そして負けてしまった訳だけれど…私は、彼に一矢報いる事が出来たのだろうか。
出来なかったとしたら、彼は私の問いには答えてくれるのだろうか。
…また、仲を戻すことが出来るのだろうか。
様々な不安が渦巻いていく中、私の視線はいつの間にか下に落ちていた。それを見て察したのか、はたまたいつものノリなのか、隣で料理を頬張る魔理沙は、これまたいつも通りに、こう言った。
「取り敢えず、お前もなんか食え! 双也と話すのは、気分を戻してからの方が良いに決まってるぜ!」
パパッと、素早く料理を皿に盛り、差し出してきた。
「あいつも鬼じゃあないんだ。勝とうが負けようが、聞けば答えてくれるって!」
"…多分"と、若干自信無さげに彼女は言う。しかしやっぱり、魔理沙の笑顔は明るかった。
…全く、腐れ縁の親友というのも厄介なものだ。
魔理沙からそんな風に励まされたら、なんでも出来てしまう気がしてくるのだから。
「ふぅ…それもそうね。話をするのはあいつが落ち着いてからにしましょうか」
「ふ〜ん? まぁ良いけどさ、それだとすんごい夜遅くになりそうだな」
「? なんでよ?」
魚の天ぷらを加えたまま、魔理沙は差し出してきた皿に盛ってある魚料理を指差した。
「あいつの魚料理、大人気みたいだからな」
「ふ〜ん?」
皿を取り、煮付けを一口頬張った。
ーー瞬間。
「ふわぁぁあぁあぁ〜…♪♪」
……私とも思えない声が出た。
なに!? なんなのこの柔らかい食べ物!? 口に入れた瞬間ふわっと崩れるように舌に広がるくらい柔らかいのに形が全く崩れてない! しかも煮付け特有の塩辛さはあんまり無くて、優しい甘さが広がる中にジワジワと刺激してくる! 魚の柔らかさと相まって、一瞬で口の中に広がる旨味…満足感が半端じゃないわ…!!
「こ、こここコレをそ、双也がっ…!?」
「そぉ〜だぜ〜? 全くスゲェなコレは。こんな料理初めて食べたぜ」
「わ、私も初めてよ…」
なんだろう、何故だか悔しさが込み上げてくる。一人暮らしだから人並み以上には料理出来るつもりでいたからだろうか。 いや、それにしたって味の次元が違う。
私はいつの間にか、悔しさに歯軋りをしていた。
ーーしかしやはり、その間も箸が休む事はなかった。
「ま、美味しいならなんでも良いか…」
そんな事を思いながら、双也の仕事が終わるのをみんなと話しながら待つ。
そんな、午後五時ごろの夕方の事であった。
久々のほのぼの回でしたねぇ。
ではでは。