東方双神録   作:ぎんがぁ!

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萃夢想は閑話的な感じでパパパッと済ませようと思います。後がつかえてるので。

では新章、どうぞ!


第十一章 永夜異編 〜連なる再会の時〜
第百二十一話 再三始まる"怪"宴会


春雪異変から数日。

平穏を取り戻した幻想郷の面々は、今日も今日とてゆるゆるとしすぎる日々を送っている。

それは、神社に住まう巫女とその兄も然り。

 

「…ねぇ双也にぃ」

 

「ん?」ペラリ

 

「一体何してるのかしら?」

 

「何って……」ペラリ

 

眉根を寄せ、若干不機嫌そうな雰囲気を纏う霊夢。

彼女に問われた双也は、手元から目を離し、周りを見回しながら一言、言葉を返した。

 

「…本探し?」

 

「それくらい見りゃわかるわよっ!」

 

ダンッと床を踏みつけ、霊夢は怒りを露わにした。

しかし、当の双也は驚く様子もなく、まぁまぁと宥めながら再び視線を本、もしくは本棚へ滑らせていく。

 

「…ちょっと霊夢、怒りに任せて本棚を壊したりしないでよ」

 

「パチュリーは黙ってなさい…今私腸が煮え繰り返ってんのよ…」

 

「…………そのとばっちりを喰らうのは私なのだけど…」

 

すぐにでも弾幕が飛び交いそうな剣幕であったが、彼女自身、彼に攻撃しても通用しない事は分かりきっていたので、爆発寸前のイライラは腹の奥からは出てこなかった。

 

まぁ、それもそのはず。

今日はこの時までずぅっと、霊夢は双也にある事を訴えかけているのに、彼は特に聞く耳を持たなかったのだから。

 

「だから、なんで本探しなんて始めてんのよっ!! 私の話聞いてないの!?」

 

「聞いてるさ。今日の宴会の事だろ?」

 

「そうだけど…そうじゃなくて!!」

 

追求をふらりふらりとすり抜けていく双也に、彼女はますます苛立ちを募らせる。

 

「今週に入ってもう宴会三度目(・・・・・・・)よっ!? どう考えてもおかしいじゃない!!」

 

遂に霊夢は一発の弾を放った。

が、双也は事も無げにはたいて弾き、後方の本棚へ着弾。

数十冊程が、本棚から落ちた。

 

「異変だって言うんだろ? 大丈夫だって、害は無いんだし」

 

「あるわよ! 散らかしっぱなしになった皿を片付けるの誰だと思ってんのっ!?」

 

捲したてる彼女を横目に、双也は尚も指を文になぞらせる。変わらない彼の態度に怒るのも疲れたのか、霊夢はため息を吐き、一周回って落ち着いた口調で、言った。

 

「……ねぇ双也にぃ、気付いてるでしょ? 最近の宴会中、常に微弱な妖力が漂ってる事。これは推測じゃなくて確信よ。…間違いなく、異変」

 

言い切る彼女の言い分は、確かにあっていた。

三週間ほど前から、とんでもないスピードで繰り返し開催される宴会には、不思議な事に、本当に微弱だが彼女の知らない妖力が混ざっているのだ。

おまけに、普段なら神社に来すらしないような人里の人間もちらほらと参加していたり、明らかにおかしい点が多い。

勘が鋭い上に頭の切れる霊夢はいち早くその事に気が付き、双也に相談したのだが…その瞬間から、今の通り。

本を探しに紅魔館まで来ているのだった。

 

「宴会が続くってだけじゃ手掛かりが無さ過ぎるのよ。だから双也にぃを頼ってるのに……」

 

長き生は相応の知識を与える。

人間が想像も出来ないような長い時間を生きてきた双也なら、世の中のあらゆる事を知っているだろう。

…霊夢はそう考え、彼に相談したのだった。

しかし当の本人はこの通り、ひたすら本を探して文字をなぞるばかり。

溜息が出るのも、仕様のない事である。

 

「……今までの日常が、変わっちゃっても良いの…?」

 

ポツリと。

内容的には、大きな異変では無いけれど。

確信もないけれど。

全く見当違いな行動をする双也に、霊夢は言った。

 

異変とは、幻想郷を巻き込んだ怪異の事を指す。それが大きかろうが小さかろうが、代々博麗の巫女や実力のある者が解決するべきものである。

例え表面的には何てこともない内容でも、その裏に隠された本当の異変が動いている可能性もある。春雪異変が良い例だ。

博麗の巫女としても、また一個人としても、解決を望んでいた。

 

そんな、どこか重い言葉に、双也は言う。

 

 

「良い訳ないだろ」

 

 

パタン。本を閉じる音が響く。

 

 

「変わらないさ。今日の宴会で、解決するよ」

 

不敵に笑う双也は、閉じた本をシュッと霊夢に投げ渡した。

その表紙を見てみれば、その題名はーー

 

妖録抗持記(ようろくこうじき)?」

 

「ついでだ。それ、宴会までに読んどけ。勉強になるから」

 

そう言い残し、双也は"さぁ〜て、フランとでも遊んでくるかぁ"などと言いながら去っていく。

ーーちゃんと考えての行動だったのだろうか?

彼の背中を不思議そうに見つめる霊夢には、何故か始めのような怒りはもうなくなっていた。

 

取り敢えず言われた通り読もうと思い、パチュリーが座っている机の椅子にストンと腰を下ろした。

 

「……怒りはもう収まったの?」

 

「う〜ん……まぁ……」

 

「…ハッキリしないわね。珍しい」

 

本からは少しも目を離さず、二人はそんな会話をしていた。パチュリーにとっては、どんな物よりもここにある本が全てであり、それが壊されさえしなければ他の事なんて興味が無いのだ。

彼女は、霊夢がここに来てから始終、怒りで本と本棚が壊されないか内心ヒヤヒヤしていたのだった。

まぁそれも、杞憂に終わるーー

 

「何はともあれ、これで本がダメになる事もーー」

 

「お兄さまぁ〜!!」

 

「おいフラン! いきなり突っ込んでくんながふっ!!」ズドオォー…・ン

 

「…………………」

 

ーー事は無いのだった。

 

双也が突っ込んだ事によって上がった煙の後には、無残に壊された本棚と、床にバラバラと散らばった本の数々の姿が。

相変わらず手元の本から目を離さないパチュリーは、しかし今度だけは、目元をピクピクと震わせるのだった。

 

「……思わぬ伏兵がいたものね…はぁ…」

 

日々の苦労ーー主に窃盗ーーを感じさせる溜息に、少しだけ同情しながら、霊夢はパラパラと本を捲っていた。

 

「…何よコレ、唯の対策本じゃない」

 

今更過ぎるわね。

率直な霊夢の感想である。妖怪も数多しと言えど、彼女は今までにたくさんの妖怪を相手にし、その対策法などは頭に入っているのだ。今更対策法を記した本など、何の勉強になると言うのか。

 

ーーやっぱりふざけてるだけなんじゃ…。

 

そんな思いも湧いてくる。しかし、信頼する兄の考えに基づいて渡された本である。意味が無いように思えても、一応は読んでおこう、と彼女も半ば面倒くさそうに決めるのだった。

 

(まぁ、ちょくちょくと戦った事無い妖怪の事も書いてあるし、勉強には……なってるのかな?)

 

曰く"遊び"を繰り広げている双也とフランの騒音に少しイライラしながらも、パラパラと読み進めていくのであった。

 

今週三度目となる不可思議な宴会まで、刻々と時は迫っていた。

 

 

 

 

 




最近長いお話が多かった所為か、もんの凄く短く感じますね。
初めの頃はこれくらいが普通だった気がするんですけどねぇ…。

ではでは。

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