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ではどうぞっ!
わいわい、がやがや。
日も沈み、月が優しく照らし始めた博麗神社の庭では、普段ならありえない様な賑わいを見せている。
今日も今日とて宴会三昧。
集まった人妖の表情に疲れは見えても、この
皆一心に宴会を楽しもうと、喧嘩にお喋りとどんちゃん騒ぎ。
しかし、そう騒がず静かに酒を飲む姿も二つ。
ーー霊夢と双也。
この連日の宴会を異変だと睨んだーーいや、確信した二人だ。
「で、この本がどう役立つっての?」
酒をちょぼちょぼと飲んでいく隣の双也に、霊夢は尋ねる。差し出された手には、昼間"宴会までに読んどけ"と渡された対妖怪本"妖録抗持記"が握られていた。
飲んでいた酒をクイッと飲み干し、彼は未だ酔いを見せないその顔で答えた。
「どう役立たせるかが、お前の腕の見せ所だ」
「はぁ? 何よそれ。結局双也にぃの気まぐれだったわけ?」
「そんな事ないさ。ちゃんと考えて、それを渡した」
「…………………」
なんか紫に似た胡散臭さを感じる……。
要領の得ない彼との問答は、霊夢にそんな思いを抱かせた。
多分正しい事を言ってはいるのだろうけど、難し過ぎて伝わらないのだ。
双也は紫の師匠だって言うし、もしかしたら紫の胡散臭さの起源は彼なのかも。
霊夢はそんな推測に辿り着くのだった。
「……まぁいいわ。それで? どうやって解決するのよこの異変。正直私は思いつかないんだけど」
「ああ、簡単な事さ」
解決法が思い付かず、あまり和やかではない雰囲気を醸す霊夢に、それでもなお双也は、何処までも軽く、何処までも余裕そうに言った。
それはそうだ。
双也に言わせれば、こんな異変…
「なぁ霊夢。宴会って、なんでやると思う?」
唐突な問いに、霊夢は一瞬惚けた顔をした。が、すぐに表情を戻し、疑問を持ちながらも答えた。
「何でって…みんながやりたいって思うからじゃないの?」
「あー、それもそうなんだけど…質問を変えるな」
霊夢の応答に少し同調するも、それは彼が望んだ答えでは無かったようで。
少し言葉を選んだ後、双也は再び彼女に問うた。
「宴会って、幻想郷の住民にとってはどんな意味合いがある?」
「………意味合い?」
幻想郷の宴会。
みんなが集まって、料理を食べて、各々でお喋りしながら、偶に起きる喧嘩を眺めて笑い……兎に角騒ぐ。それが終われば、みんないつの間にか仲良くなっている。それが宴会という物のはず。
でも、それが双也の言う意味合いに当てはまるとは思えない。なんだか安直過ぎるし、異変に関係するとも思えない。
ならーー宴会そのものが何の為にあるか、だろうか。
「………仲直り…?」
「その通り」
望む答えの得られた双也は、傍に置いてあった酒瓶を持ち上げ、飲めと言わんばかりにお酌した。
「幻想郷での宴会は、言わば仲直り会。つまり、
続いて自分の杯を取り出す。
「…なら、犯人の目的ってなんだと思う?」
酒瓶を霊夢に差し出し、"お酌しろ"とでも言うかのように杯を傾けた。霊夢も少し戸惑ったものの、今回は彼に頼りきりになってしまっているので、仕方なしにお酌する。
「……まさか…みんなと仲良くなりたいから、なんて言わないでしょうね」
双也の口元が、吊り上がった。
察した霊夢は、溜息を吐いた。
「…冗談でしょ。そんなことの為に、私は毎度あんな苦労して宴会の準備やら片付けやらをやってたの?」
「まぁ、これが終わった時には、お前を手伝ってくれる奴も居てくれるさ。何たって、お前のお陰でこの宴会を開けてるようなもんだからな」
皆の騒ぎを楽しそうに眺める双也は、お酌された酒を美味そうに飲み干すと、もう一つ杯を取り出し、隣にそっと置いた。
「……いい迷惑よ」
「まぁそう言うなって。異変としてでも宴会を開かせて、仲間に加わろうとするような寂しがり屋なんだ。大目に見てやれよ」
そして置いた杯に酒を注ぐと、彼は浮かぶ月を見上げて、呟いた。
「…その方が良いだろ?
ーーなぁ、萃香」
空気が少し、揺れる気がした。
「そりゃあ、またと無い申し出で有難いねぇ」
そんな言葉と共に、二人が感じていた微弱な妖力は少しずつ集まって行きーー丁度双也の隣で、姿を現した。
「この"寂しがり屋"に構ってくれるってんなら、宴会の片付けだって何だって手伝ってやるさ」
「嫌味ったらしく"寂しがり屋"って言わんでよろしい」
徐々に色を持ち始めたその姿は、幼い容姿に暖かみのある長い髪、そして何より側頭部から生えた太い角が特徴的な小鬼ーー伊吹萃香であった。
彼女は姿を現すなり、双也が
「何だよぅ、最初に言ったのは双也じゃないか。久し振りの再会だってのにそんな事言われたら、嫌味の一つも言いたくなるさ」
「そんなつもりで言ったんじゃないさ。まぁ事実、お前ら四天王が寂しがり屋だってのは確信してる事だけどな」
「むぅ…確かに友達が欲しいとは思うけど…」
懐かしい友人と再会し、会話に花を咲かせ始める二人。
既に二人の間で雰囲気が出来始めていたのだが…それに全く着いて行けていない霊夢の姿も、そこにはあった。
「ちょ、ちょっとちょっと! 何二人で話進めてんのよ! 全く展開に着いていけないんだけど! そいつ誰!? 犯人なの!? そして双也にぃはなんでそいつと知り合いなのよっ!?」
捲したてる霊夢に対し、なおも双也も萃香も笑みを崩さなかった。
かと言って彼女をからかうわけでもなく、実に素直に、答えるのだった。
「私は伊吹萃香。みんなを集めて宴会を開いてたのは私だよ、博麗の巫女」
「で、俺は昔こいつと知り合ってんだ。だから妖力にも気が付けたし、こいつの考えも読めた訳だ」
あまりに簡潔な二人の説明に、霊夢はむしろ、特に難もなく理解するのだった。同時に熱くなった頭もフッと冷えていく。
というか、我が兄は一体何処まで顔が広いのだろうか。まさか幻想郷全体に顔が通じる何て事は……。
そんな事を考えられる程、彼女には余裕が出来ていた。
「で、 萃香だったかしら?」
「うん?」
「あんたは、幻想郷に害を及ぼす気、あるのかしら?」
少しの威圧を込めて、目の前で笑う小鬼へ言い放つ。
彼女にとって最も重要な事柄なのだから、当たり前である。
その身を包む殺気、威圧感に感心と笑いを零す萃香は、"微笑み"から"ニヤけ顏"へと表情を変えながら、言う。
「……いんや、この世界をどうこうしようとは、考えてないよ」
しばしの間、二人はお互いの目を見つめ、真意を伺っていた。どこか張り詰めたような空気が満ち、双也を含め、三人の肌をちりちりと刺激する。
が、諦めたのか、それとも見極め終わったのか、先に言葉を発したのは霊夢だった。
「………ふん、なら良いわよ。問題だけは起こさないでね」
「あいあいさっ!」
「…まぁ、そうなるよな。鬼は嘘ってのが大嫌いだからな」
「よく分かってるねぇ双也! さすが鬼の友達!」
殺気を収めた霊夢は再び酒を注ぎーー今度は自分でーー、クイッと飲み干した。集中を解いた彼女の耳には、再び宴会による心地よい喧騒が聞こえてくるのであった。
そして隣には、再会に際して話に花を咲かせる、二人の会話が。
「そう言えばさ、鬼といえば…今日のお前は、お前らしく無かったな、萃香」
「………ん? どういう意味?」
思い出したような彼の言葉に、萃香は首を傾げた。
自分らしくないとは…?
頭にハテナを浮かべる彼女に、笑いながら双也は言う。
「仲間に入る方法が回りくどいって事だ。昔と比べてな」
「……ああ、確かにそうかも知れないね。うん、そう考えると、確かに回りくどい」
双也と萃香が出会った時。
彼女がとった行動は、当時の双也にとっては呆れるような物であった。彼女に限らず、鬼は皆"脈絡がなさ過ぎる"のである。
その時の事を未だ覚えていた双也は、改めて今回の萃香のやり方を評価したのだ。"回りくどい"…当人である萃香も、認めざるを得なかった。
「少し前まではそうしてたんだけどね…人間はみんな、突然喧嘩をふっかけると怖がって逃げちゃうからさ…考え方を変えたのさ」
「ふーん…鬼の心情も複雑で」
「そうさ、妖怪だもの。一番気にするのは人間の感情だよ」
そう語る萃香の目からは、確かに寂しさが感じられた。
そんな雰囲気を感じ取った霊夢も、双也が彼女を"寂しがり屋"と表した理由がなんとなく分かる気がした。
と、そんな折、彼女の暗い雰囲気を打ち払うが如き双也の声が、放たれた。
「と、そんな萃香にプレゼントがあるんだ」
「…は? プレゼント?」
「そうとも」
妙に明るい彼の声にどこか不思議な印象を持つ萃香と霊夢。
二人の様子はよそに、彼は立ち上がりーー霊夢の肩に手を乗せた。
「………え?」
「?? 巫女が持ってるの?」
彼の行動の意味が分からない。最早二人は揃って首を傾げていた。
萃香の問いに対し、双也は静かに首を横に振った。
そしてーー言う。
「霊夢が持ってるんじゃない
ーーこいつがプレゼントだ」
と。
次で終わらせたいですね。
ではでは。