東方双神録   作:ぎんがぁ!

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この作品も、もうすぐ一周年だそうです。早いもんですねぇ…思いつきで始めた小説が、こんなにたくさんの人に読んでいただけるとは……。

みなさん、これからも応援宜しくお願いしますっ!
そして完結まで、もう暫くお付き合い下さいっ!

ではどうぞっ!


第百二十二話 寂しがり屋な犯人

わいわい、がやがや。

日も沈み、月が優しく照らし始めた博麗神社の庭では、普段ならありえない様な賑わいを見せている。

 

今日も今日とて宴会三昧。

集まった人妖の表情に疲れは見えても、この異常な頻度の宴会(・・・・・・・・)に気が付く者はそう多くなかった。

皆一心に宴会を楽しもうと、喧嘩にお喋りとどんちゃん騒ぎ。

 

しかし、そう騒がず静かに酒を飲む姿も二つ。

ーー霊夢と双也。

この連日の宴会を異変だと睨んだーーいや、確信した二人だ。

 

「で、この本がどう役立つっての?」

 

酒をちょぼちょぼと飲んでいく隣の双也に、霊夢は尋ねる。差し出された手には、昼間"宴会までに読んどけ"と渡された対妖怪本"妖録抗持記"が握られていた。

飲んでいた酒をクイッと飲み干し、彼は未だ酔いを見せないその顔で答えた。

 

「どう役立たせるかが、お前の腕の見せ所だ」

 

「はぁ? 何よそれ。結局双也にぃの気まぐれだったわけ?」

 

「そんな事ないさ。ちゃんと考えて、それを渡した」

 

「…………………」

 

なんか紫に似た胡散臭さを感じる……。

要領の得ない彼との問答は、霊夢にそんな思いを抱かせた。

多分正しい事を言ってはいるのだろうけど、難し過ぎて伝わらないのだ。

双也は紫の師匠だって言うし、もしかしたら紫の胡散臭さの起源は彼なのかも。

霊夢はそんな推測に辿り着くのだった。

 

「……まぁいいわ。それで? どうやって解決するのよこの異変。正直私は思いつかないんだけど」

 

「ああ、簡単な事さ」

 

解決法が思い付かず、あまり和やかではない雰囲気を醸す霊夢に、それでもなお双也は、何処までも軽く、何処までも余裕そうに言った。

それはそうだ。

双也に言わせれば、こんな異変…唯の人間でも解決出来る(・・・・・・・・・・・)のだから。

 

「なぁ霊夢。宴会って、なんでやると思う?」

 

唐突な問いに、霊夢は一瞬惚けた顔をした。が、すぐに表情を戻し、疑問を持ちながらも答えた。

 

「何でって…みんながやりたいって思うからじゃないの?」

 

「あー、それもそうなんだけど…質問を変えるな」

 

霊夢の応答に少し同調するも、それは彼が望んだ答えでは無かったようで。

少し言葉を選んだ後、双也は再び彼女に問うた。

 

「宴会って、幻想郷の住民にとってはどんな意味合いがある?」

 

「………意味合い?」

 

幻想郷の宴会。

みんなが集まって、料理を食べて、各々でお喋りしながら、偶に起きる喧嘩を眺めて笑い……兎に角騒ぐ。それが終われば、みんないつの間にか仲良くなっている。それが宴会という物のはず。

でも、それが双也の言う意味合いに当てはまるとは思えない。なんだか安直過ぎるし、異変に関係するとも思えない。

ならーー宴会そのものが何の為にあるか、だろうか。

 

「………仲直り…?」

 

「その通り」

 

望む答えの得られた双也は、傍に置いてあった酒瓶を持ち上げ、飲めと言わんばかりにお酌した。

 

「幻想郷での宴会は、言わば仲直り会。つまり、みんなが仲良くなる為の場(・・・・・・・・・・・・)だ」

 

続いて自分の杯を取り出す。

 

「…なら、犯人の目的ってなんだと思う?」

 

酒瓶を霊夢に差し出し、"お酌しろ"とでも言うかのように杯を傾けた。霊夢も少し戸惑ったものの、今回は彼に頼りきりになってしまっているので、仕方なしにお酌する。

 

「……まさか…みんなと仲良くなりたいから、なんて言わないでしょうね」

 

双也の口元が、吊り上がった。

 

察した霊夢は、溜息を吐いた。

 

「…冗談でしょ。そんなことの為に、私は毎度あんな苦労して宴会の準備やら片付けやらをやってたの?」

 

「まぁ、これが終わった時には、お前を手伝ってくれる奴も居てくれるさ。何たって、お前のお陰でこの宴会を開けてるようなもんだからな」

 

皆の騒ぎを楽しそうに眺める双也は、お酌された酒を美味そうに飲み干すと、もう一つ杯を取り出し、隣にそっと置いた。

 

「……いい迷惑よ」

 

「まぁそう言うなって。異変としてでも宴会を開かせて、仲間に加わろうとするような寂しがり屋なんだ。大目に見てやれよ」

 

そして置いた杯に酒を注ぐと、彼は浮かぶ月を見上げて、呟いた。

 

「…その方が良いだろ?

 

 

 

 

 

 

ーーなぁ、萃香」

 

 

 

 

 

 

空気が少し、揺れる気がした。

 

「そりゃあ、またと無い申し出で有難いねぇ」

 

そんな言葉と共に、二人が感じていた微弱な妖力は少しずつ集まって行きーー丁度双也の隣で、姿を現した。

 

「この"寂しがり屋"に構ってくれるってんなら、宴会の片付けだって何だって手伝ってやるさ」

 

「嫌味ったらしく"寂しがり屋"って言わんでよろしい」

 

徐々に色を持ち始めたその姿は、幼い容姿に暖かみのある長い髪、そして何より側頭部から生えた太い角が特徴的な小鬼ーー伊吹萃香であった。

 

彼女は姿を現すなり、双也が彼女の為に用意した杯(・・・・・・・・・・)を手に取り、飲み干す。

 

「何だよぅ、最初に言ったのは双也じゃないか。久し振りの再会だってのにそんな事言われたら、嫌味の一つも言いたくなるさ」

 

「そんなつもりで言ったんじゃないさ。まぁ事実、お前ら四天王が寂しがり屋だってのは確信してる事だけどな」

 

「むぅ…確かに友達が欲しいとは思うけど…」

 

懐かしい友人と再会し、会話に花を咲かせ始める二人。

既に二人の間で雰囲気が出来始めていたのだが…それに全く着いて行けていない霊夢の姿も、そこにはあった。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! 何二人で話進めてんのよ! 全く展開に着いていけないんだけど! そいつ誰!? 犯人なの!? そして双也にぃはなんでそいつと知り合いなのよっ!?」

 

捲したてる霊夢に対し、なおも双也も萃香も笑みを崩さなかった。

かと言って彼女をからかうわけでもなく、実に素直に、答えるのだった。

 

「私は伊吹萃香。みんなを集めて宴会を開いてたのは私だよ、博麗の巫女」

 

「で、俺は昔こいつと知り合ってんだ。だから妖力にも気が付けたし、こいつの考えも読めた訳だ」

 

あまりに簡潔な二人の説明に、霊夢はむしろ、特に難もなく理解するのだった。同時に熱くなった頭もフッと冷えていく。

というか、我が兄は一体何処まで顔が広いのだろうか。まさか幻想郷全体に顔が通じる何て事は……。

そんな事を考えられる程、彼女には余裕が出来ていた。

 

「で、 萃香だったかしら?」

 

「うん?」

 

「あんたは、幻想郷に害を及ぼす気、あるのかしら?」

 

少しの威圧を込めて、目の前で笑う小鬼へ言い放つ。

彼女にとって最も重要な事柄なのだから、当たり前である。

その身を包む殺気、威圧感に感心と笑いを零す萃香は、"微笑み"から"ニヤけ顏"へと表情を変えながら、言う。

 

「……いんや、この世界をどうこうしようとは、考えてないよ」

 

しばしの間、二人はお互いの目を見つめ、真意を伺っていた。どこか張り詰めたような空気が満ち、双也を含め、三人の肌をちりちりと刺激する。

が、諦めたのか、それとも見極め終わったのか、先に言葉を発したのは霊夢だった。

 

「………ふん、なら良いわよ。問題だけは起こさないでね」

 

「あいあいさっ!」

 

「…まぁ、そうなるよな。鬼は嘘ってのが大嫌いだからな」

 

「よく分かってるねぇ双也! さすが鬼の友達!」

 

殺気を収めた霊夢は再び酒を注ぎーー今度は自分でーー、クイッと飲み干した。集中を解いた彼女の耳には、再び宴会による心地よい喧騒が聞こえてくるのであった。

そして隣には、再会に際して話に花を咲かせる、二人の会話が。

 

「そう言えばさ、鬼といえば…今日のお前は、お前らしく無かったな、萃香」

 

「………ん? どういう意味?」

 

思い出したような彼の言葉に、萃香は首を傾げた。

自分らしくないとは…?

頭にハテナを浮かべる彼女に、笑いながら双也は言う。

 

「仲間に入る方法が回りくどいって事だ。昔と比べてな」

 

「……ああ、確かにそうかも知れないね。うん、そう考えると、確かに回りくどい」

 

双也と萃香が出会った時。

彼女がとった行動は、当時の双也にとっては呆れるような物であった。彼女に限らず、鬼は皆"脈絡がなさ過ぎる"のである。

その時の事を未だ覚えていた双也は、改めて今回の萃香のやり方を評価したのだ。"回りくどい"…当人である萃香も、認めざるを得なかった。

 

「少し前まではそうしてたんだけどね…人間はみんな、突然喧嘩をふっかけると怖がって逃げちゃうからさ…考え方を変えたのさ」

 

「ふーん…鬼の心情も複雑で」

 

「そうさ、妖怪だもの。一番気にするのは人間の感情だよ」

 

そう語る萃香の目からは、確かに寂しさが感じられた。

そんな雰囲気を感じ取った霊夢も、双也が彼女を"寂しがり屋"と表した理由がなんとなく分かる気がした。

 

と、そんな折、彼女の暗い雰囲気を打ち払うが如き双也の声が、放たれた。

 

「と、そんな萃香にプレゼントがあるんだ」

 

「…は? プレゼント?」

 

「そうとも」

 

妙に明るい彼の声にどこか不思議な印象を持つ萃香と霊夢。

二人の様子はよそに、彼は立ち上がりーー霊夢の肩に手を乗せた。

 

「………え?」

 

「?? 巫女が持ってるの?」

 

彼の行動の意味が分からない。最早二人は揃って首を傾げていた。

萃香の問いに対し、双也は静かに首を横に振った。

そしてーー言う。

 

「霊夢が持ってるんじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーこいつがプレゼントだ」

 

 

 

 

 

 

 

と。

 

 

 

 

 




次で終わらせたいですね。

ではでは。

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