東方双神録   作:ぎんがぁ!

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私的には、ヤンデレなフランよりも純真無垢なフランが好きですね。無邪気な感じとか。

ではどうぞ!


第百二十五話 "にぃ" と "お兄さま"

「それで、お兄さま」

 

「ん?」

 

「これからどこへ向かうの?」

 

普段よりも一段と輝く月光を浴びながら歩く二人。これから異変解決に向かおうという双也とフランである。

彼の隣を歩くフランは、ふとこれからの目的地を彼に尋ねた。

異変解決をしに行く(という建前)と言うわけで、取り敢えず紅魔館から出てきたものの、フランには全く見当のつかない事だったのだ。

問われた双也は、特に迷う事もなく答えた。

 

「ん、ちょうどそれを教えてもらおう(・・・・・・・)と思ってたんだ」

 

「…教えてもらう?」

 

フランの疑問には何も応えず、双也は少し立ち止まると、大きく息を吸い込み、叫んだ。

 

 

 

「お〜い! 紫ぃ〜っ!」

 

 

 

少しの間を置き、彼らの目の前にズバッと亀裂が入った。

それが開けば、中からは当然ーー

 

「…久しぶりに呼ばれたと思えば、吸血鬼の妹と一緒なんてね」

 

「ああ。一緒に異変解決さ」

 

「あなたも不思議な事をするわね。異変解決をするなら霊那でも誘えばいいのに」

 

「あいつとはこの間行った」

 

「ふ〜ん…」

 

紫は、彼と一緒にいたフランを一瞥すると、特に表情を変えることもなく、再び双也に話し始めた。

 

「それで? 何の用かしら。まぁ大体予想はつくけど」

 

「なら話が早いな。

霊夢は今どこに向かってる(・・・・・・・・・・・・)?」

 

問われた紫は少しだけ微笑んだ。

 

「ふふ、やっぱりね。少し待ってなさい」

 

そう言い残し、スキマを残したままで紫は姿を消した。

そんな光景に慣れている双也は、何も言わずに待っているつもりだったが、スキマなどの突然の事に驚いて何も話せなかったフランは、タイミングを見計らった様に彼に話しかけた。

 

「ねぇお兄さま、今のは誰? すごく強そうだったけど」

 

「ん? あれは八雲紫っていう妖怪さ。俺の古い友人だ。確かにすんごく強いぞ」

 

「…お兄さまって、いっぱい知り合いが居るんだね」

 

「…言う程かな」

 

自分の顔の広さを思い返し、少しだけ首を傾げる双也。

そんな彼の様子を見、フランは彼に羨望を抱いた。

ずっと閉じ込められ続けた彼女からすれば、友人の多い双也は本当に羨ましく思っていたのだった。

 

と、そんな会話を二人が繰り広げた折、開いたままのスキマから声が響いてきた。

 

「ちょ、突然何よ! 代わりに戦うって! ねぇ紫!! 紫ぃ!!」

 

そうスキマの中から叫ぶのは、双也の妹分、そして現博麗の巫女である霊夢であった。

文句を言うのに疲れたのか、霊夢は少し肩を落として息を()く。

と、そこで二人の視線に気が付いたのか、彼女はパッと振り返った。

 

「あら? 双也にぃ…と、フラン?」

 

「よっ、霊夢」

 

「久しぶりだね霊夢!」

 

二人に軽い挨拶をしながら、彼女は窓の様に開いているスキマに近寄ってきた。

"何してんのよ?"と言いながら、彼女は拳を腰に当てた。

 

「お前に聞きたい事があってな。今何処に向かってるんだ?」

 

「え? んーっと…迷いの竹林だけど…なんで?」

 

「や、俺たちも異変解決に行こうかと思ってな」

 

その言葉を聞いた霊夢は片眉を釣り上げ、"ああそういう事か"というかの様に軽く溜息をついた。

 

「成る程、私の勘(・・・)を頼りにしてる訳」

 

「大正解」

 

双也が霊夢に目的地を聞いたのは、これが理由である。

つまり、霊夢の勘によって導き出された場所に、高確率で犯人が居るーーということだ。

隣でそれを聞いていたフランも"おぉ…"と関している様である。

 

「全く、私を犯人特定機みたいに思ってないかしら、双也にぃ?」

 

「いやいや、そんな風には思ってないさ。お前の勘を信用してるってだけ」

 

そんな文句を言いながらも、霊夢の表情は決して厳しくない。むしろ霊夢としては、頼ってくれて少しだけ嬉しいくらいだった。

それも当然かもしれない。ついこの間まで、彼女は双也から隠し事ばかりされていたーーつまりは頼られていなかったのだから。今こそそれらの事を納得の範囲に入れる事のできた彼女ではあったが、ある種の反動が未だに響いているのだ。

 

「まぁ取り敢えず、迷いの竹林だな? 俺らも今から向かうから」

 

「……このスキマを通っていけばいいんじゃないの?」

 

「紫の事だから、どうせ変な所に飛ばされるに決まってる。そんな危険なスキマの中なんて怖くて入れないね」

 

「…どの口が"怖い"なんて言ってんのよ…まぁいいわ」

 

"じゃあね双也にぃ"

そう言い残し、霊夢は背中を向けて紫の元へ帰っていく。スキマはまだ開いていたので、その背中を見つめながら双也も手を振っていた。

フランも同様に見送る

 

ーーかと思いきや。

 

「…待って霊夢。一つだけ言いたいんだけど」

 

「…?」

 

どこか、初めよりも暗く感じるその声に、霊夢も足を止めて振り返った。双也も同様に不思議に思い、彼女の方へ視線を送る。

 

二人の視線を浴びながらも、フランは臆する事なく言った。

 

 

 

 

 

「その双也にぃ(・・)って言うのやめてっ!!」

 

 

 

 

 

………………………。

 

「「…はぁ?」」

 

思わず、素っ頓狂な声が二人の口から漏れた。

何を言うのかと思案していた双也はもちろんの事、一番驚いていたのは霊夢である。

彼女は止めていた足を再び動かし、フランのいるスキマの方へ戻ってきた。

 

「何でよ、そんなの私の勝手じゃない。あんたに決められることじゃないわ」

 

「勝手じゃ無い! "にぃ"って"お兄さま"って意味でしょ!? 私以外にお兄さまをお兄さまって呼ぶのイヤ!!」

 

本当に子供の様な理屈を並べるフラン。精神年齢が子供だという事を分かっていても、驚かざるをえなかった。

特に霊夢は、驚くべき理屈を並べた上で自らの行動ーー言葉ーーを制限されようとしているのだから、少しばかりイライラもしていた。

しかし、"相手は子供だ"と自分に言い聞かせ、怒りを少しずつ鎮めていく。

 

「………随分と懐かれてるのね、お兄さま(・・・・)?」

 

「はぁ…態とらしく言ってくれるな…」

 

二人とも分かっている。相手は吸血鬼、しかも心は幼い子供である。小さな子が誰かに対して抱く"独占欲"というのは、霊夢も双也も経験済みーー双也に限っては前世でーーであり、仕方のない事であると。だからこそ、普段なら即怒る様な内容でも霊夢は見逃しているのだ。

拳は少しだけ、震えていたが。

 

「兎に角! お兄さまは私のお兄さま! 霊夢のじゃ無い!」

 

「私だって別に自分のとは思ってないわよ。ただ、昔っから近くにいたから、呼び方が染み付いちゃっただけ」

 

「じゃあそれ直して!」

 

「嫌よ。気恥ずかしいじゃない」

 

フランの怒りはますます高まる。対して霊夢も、だんだんとイライラを鎮めることが出来なくなっていた。

二人が醸し出すピリピリとした雰囲気に、さすがの双也も頬を引きつる。

 

「だいたい、"あんたと双也にぃ"より"私と双也にぃ"の方が付き合い長いのよ。呼び方を直すならあんたが直しなさい」

 

「やだ! お兄さまは私のなんだから霊夢が変えるの!」

 

「だから変えないって言ってんじゃない! いい加減にしないとホントに怒るわよ!?」

 

いつまでも折れないフランに、霊夢は遂に怒鳴り上げた。

突然の大声にフランもビクつき、少し肩を竦めて小さくなってしまう。

その様子に、霊夢も内心"勝った…!"とガッツポーズを決める。が、彼女の優越もそう長くは続かなかった。

 

なぜならーー

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…ビンボー脇巫女(・・・・・・・)のくせに…っ!」

 

 

 

 

 

 

 

ーー彼女の逆鱗に、触れたからである。

 

「………あ"?」

 

カチッ

 

双也はそんな音を聞いた気がした。同時に、彼の頬には一筋汗が伝う。

 

「ビンボー脇巫女…? あはは、それって私の事? ねぇフラン?」

 

当然、目は笑っていない。むしろ双也は、悪寒が走る程の恐怖を霊夢から感じていた。

"コレはヤバい…!"

直感的に。

 

「他に誰がいるの! 」

 

そのフランの言葉に、辛うじて笑っていた彼女の表情は、完全に切り替わった。

曰くーー鬼巫女。

目は完全に据わっていた。

 

「……もう我慢の限界だわ。下手(したて)に出てればゴタゴタと屁理屈並べて…」

 

「屁理屈じゃ無いっ!霊夢が頑固なのが悪い!」

 

「へ〜そう、じゃああんたが私に倒されるのは、私を怒らせたあんたが悪いって事ね」

 

「何よそれっ! そんなの知らないっ!」

 

ピッ、と二人はほぼ同時にスペルカードを構えた。

同時に、宣言。

 

「神霊『夢想封印』ッ!」

 

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

 

こんな一触即発の状況ですら、展開されるのは遊びである弾幕ごっこ。それは確かに幻想郷の良いところだと双也も思っていた。

ーーしかし、今回だけ、彼も動いた。

 

「ッ…行くぞフラン! ありがとな霊夢っ!」

 

「ちょ、お兄さま!?」

 

「待ちなさいコラァッ!!」

 

弾幕勝負だって、痛みはある。死ぬことが無いというだけだ。気を抜けば刺されてしまいそうなあの雰囲気の中で始められそうになった弾幕勝負は、さすがの双也も危険と判断したのだった。

今の霊夢(鬼巫女)なら、森を一つ焼き払いかねない。

 

咄嗟に、瞬歩でフランを連れて戦線離脱した双也は、そのままの状態で迷いの竹林まで駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

ブゥン。

そんな音を響かせ、戦う紫の下へスキマが開かれた。

出てきたのは、先程放り込んだ霊夢である。

気が付いた紫は、未だ余裕そうな微笑みを浮かべて、帰ってきた霊夢に話しかけた…が。

 

「お帰りなさい霊夢、どうだっt…ッ!?」

 

霊夢の放つ雰囲気を感じ、言葉を詰まらせた。

 

「紫、後は私にやらせなさい(・・・・・・)

 

「…っ…え、ええ…どうしたの…?」

 

「別に、何も」

 

嘘をつけ!

そんな言葉が出そうになった。紫が驚嘆する程に、霊夢の放つ怒りのオーラは尋常ではなかったのだ。普段は何にも興味を示さず、本気で怒ることなど滅多に無い霊夢が、である。理由を追求することさえ憚られた。

 

「あと全部私がやるから」

 

「…ええ…ま、任せるわ…」

 

潔く、紫は戦闘を明け渡す。助けが必要なほど強い敵でもなかったが、今の霊夢には逆らってはいけないと、紫の本能が告げていた。

 

(一体、何したのよ双也…!)

 

そこからの彼女の戦いぶりは、まさに鬼の如きものだったという。

 

 

 

 

 




独り占めしたいお年頃。

ではでは。

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