東方双神録   作:ぎんがぁ!

13 / 219
まさか話し合いで一話使う事になるとは…
諏訪編は長くなりそうです。

始めは双也視点。後半は???視点。まぁ誰かなんてすぐにわかりますが。

でわ〜どぞ!


第十一話 大和との対談

 

 

 

 

 

「アマテラス様の率いる"大和の国"なんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は絶句した。大和の国の噂はここに来て間もない俺でも耳にしたことがある。大和は、この島国の最高神の一人、アマテラスの他にも多くの神がおり、それらに鍛えられた兵達は人ならざる戦闘力を持っていると。

 

「……ホントか諏訪子?冗談なら今言えば許してやるぞ?」

 

「冗談であってほしいのは私の方だよ!大和の国はもう東の国々は平定してる、しかも戦いに特化した軍神までいるらしいじゃん!もし負けたら私の民達も戦いに駆り出されるかもしれない!そんなの……」

 

諏訪子は少し涙目になっている。俺はこの時思った。ああ、きっと諏訪子は神である前にこの国とその民を愛してるんだな、と。戦いになって傷つくのは自分なのに民の事を考えている。それは愛情がなければ出来ない。

……やる事は…決まったな。

 

「諏訪子、提案がある」

 

「ぐすっ…なにさ…」

 

「俺と修行しよう。せめて大和の連中に一泡吹かせられるくらいに」

 

「修行…?なんで?たとえ今から修行しても大和に勝てるかわからない!むしろそれでも勝率は少ない方なんだよ!?そんなことしたって…」

 

「無意味…か?」

 

諏訪子は黙ってしまった。負けたくない、でも勝てない。それを口に出して認めてしまうのが怖かったんだろう。

分かってる、そんな気持ちを俺も経験した事がある。

だからこそ俺が導いてやらなきゃならない。

 

「諏訪子、絶体絶命の時にどうやって道を切り開くかってのは、そいつの必死さが問題なんだ。生き物ってのは必死になればなるほど、自分が思ってる以上に力を出せるものだ。諏訪子は民を守りたいんだろ?戦争が始まるまでにはまだ時間がある。諏訪子にはまだ猶予が残されてるんだ。それを棒にふるのか?」

 

「…………………」

 

諏訪子は答えない。まだ迷ってるみたいだ。稲穂も、コレばっかりは口出し出来ない、といった顔で心配そうに諏訪子を見つめている。

 

「諏訪子、必死になれるかどうか、自分をどこまで伸ばせるかはお前が決める事なんだ。自分を信じて必死になれば、きっと結果はいい方に転ぶさ」

 

俺は説得を続ける。こんなに民を想ってるヤツに諦めて欲しくなかったのだ。強くなる時間はある。あとは気持ち。

それさえあれば何処までも力は伸びる。

そしてゆっくりと諏訪子が言葉を繋いだ。

 

「………分かった。双也を信じる。私も、必死に足掻いてみるよ!」

 

よし、いい顔つきになった。コレならきっと諏訪子も今の何倍も強くなるだろう。それじゃ…

 

「さっそく明日から始めるか?今日はもう日が落ちちゃったし」

 

「いや、待って。修行の前にやんなきゃなんないことがあるんだ。大和とこの国の間にある平原で、向こうの大将と少し話をつけなくちゃならない」

 

おおそっか、開始時刻とか諸々決めなくちゃならないんだった。ちょっと気が急いだようだ、少し反省。

 

「それで、話し合いには諏訪子が行くのか?それなら稲穂と留守番しててやるけど」

 

「いや、戦争を申し込まれた以上私がここを動くわけには行かないんだよ。稲穂は当然ダメだから…必然的に双也に行ってもらう事になる。…いいかな?」

 

諏訪子は少し申し訳なさそうに言ってきた。そんな顔しなくてもいいのに…

 

「そんな顔しなくても、俺が断る理由がないよ。諏訪子の修行の事も考えて話をつけてきてやるさ」

 

「っ! ありがとう双也!!」

 

諏訪子の表情がパァ!っと明るくなって飛びついてきた。

突然だったのでかろうじて受け止める。おおよしよし。

そこで稲穂が頃合いと見て声を出した。

 

「さ!話もまとまった事ですし、ご飯にしましょう!暗い気持ちになったら美味しい物を食べれば元気になります!」

 

こうして俺が諏訪子に稽古をつけることになった。こうなった以上はビシバシ行くつもりだ。

まぁでもその前に話し合い。大将ってんだからきっとアマテラスとかが出てくるだろう。心の準備しとかないと…

俺はこれから始まる戦いに少しの不安と大きなやる気を胸に満たし、その日は床についた。

 

 

 

 

 

〜数時間前 大和の国 ある神社の庭〜

 

 

 

諏訪の国に矢文を届けさせた日の午後。私は稽古を終えて庭の散歩をしていた。

 

「か〜な〜こ!」

 

「ん?何ですアマテラス様?」

 

すると後ろから声をかけられた。まるで友人の様に私を呼ぶ美しい声の正体は最高神アマテラス。

しかし当のアマテラスはどこか不満そうな顔をしている。

はぁ、またか…

 

「もう…神奈子、会議などの大事な場面ではないのですから神名ではなく名で呼んでくださいと何度も言っているではありませんか。私はいつもそうしているでしょう?貴女も"タケミナカタ"と呼ばれるのは違和感があるのでは?」

 

「はぁ、最高神に友人の様に接せられる私の気にもなってください、日女(ひるめ)様」

 

アマテラスというのは神としての名、すなわち神名であり、本当の名は"伊勢日女(いせのひるめ)"と言う。日女様はまさに太陽の様に明るい性格をしており、妹のツクヨミ様とは違って位など関係ないとでも言うような接し方をする。つまりは誰に対しても友人のような態度を取るのだ。友好的なのはいい事なのだが、私の様に位を気にする神にとってはこの上なく恐れ多い。故に話すだけでも一苦労なのだ。本人は気にも留めていないようだが。

 

「それで、突然どうしたんですか日女様?」

 

「ああはい、諏訪との戦の事は神奈子に全て任せたでしょう?戦の準備がどれ程進んだのか気になりまして」

 

「準備ですか、それならほぼ終わっています。午前中に矢文を送っておきました。二日後に中間の平原で決め事をしよう、と。」

 

「そうですか。因みに平原へは誰が?」

 

「私と数名の兵が向かいます。その時にアメノワカヒコを破った人間の事も分かるかと」

 

戦の事?何故それを気にする?日女様は確かにこの大和を治めているが、今回の戦に関しては私に一任して下さった。気にする必要なんて無いと思うのだが…

 

「日女様、何故それを気にするのです?」

 

「いえ、少し気になる事を聞きまして… 神奈子、平原へ向かう者の中に八咫烏を加えて貰っても良いですか?」

 

八咫烏を?そんなに興味がお有りなのか?

八咫烏は日女様が部下として使役している神の一人。太陽の化身と言われるだけあって日女様と視覚や聴覚などを共有できる。なので本当に気になった時以外は使わせない筈なのだが…

 

「え、ええいいですけど…」

 

「それならお願いしますね!二日後に神奈子の所に行くよう八咫烏に言っておきます。それではまた!」

 

日女様は光に包まれてどこかへ消えていった。

いったい何を聞いたのだろう?

私はその事にそれなりな疑問を浮かべつつ、神社の中へと戻った。

 

 

 

 

 

 

二日後、諏訪の国と話をつける日が来た。平原へ着くのは大体正午。私は連れて行く兵を集めた。

 

「よし、全員準備はいいな!話がこじれた場合戦闘も考えられる。装備は入念にしておきなさい!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

いくら諏訪の国がこの大和より小さいとはいえこれは戦争。降伏してくれればそれでいいのだが、きっとそうはいかない。毎回言っている降伏条件も、飲んでくれた国は片手で数えられる。あとは大抵揉め事になるのだ。まぁ挑発も含めているのだからそれでも一向に構わないのだが。

 

「八咫烏はちゃんといるか?」

 

「はい、ここに居ります。今アマテラス様と視覚と聴覚を共有させています」

 

「よし、準備はいいな。アマテラス様の仕事、頼んだぞ」

 

「はい、もちろんです。それと、アマテラス様が"日女と呼べ"って言っていますが、どうなさいます?」

 

「………"今は大事な場面ですよ"って言っておいてくれ…」

 

はぁぁ、全く緊張感の無い……たまにアマテラス様が本当に最高神なのか疑わしくなる時がある。今のように空気をぶち壊す時がまさにそうなのだが、きっと緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。そう信じるしかない。

 

「では行くぞ」

 

私はそう言って歩き出した。私の他には兵が四名、そして八咫烏がいる。もし戦闘になっても負ける事は無いだろう。

 

暫くして平原に着いた。ここはとても見晴らしがいい。話し合いにはもってこいだ。

ここで少しの間待っていると、向こう側から男が歩いてきた。

 

「初めましてだな、諏訪の国の神…よ?」

 

「…………………」

 

…な、なんだコイツ…私を見るなり黙り込んだぞ…それに持っているのは霊力だから神でもない。その霊力も小さいし、諏訪の大将ではないって事だ。

どういうつもりなんだ諏訪の国は?

私がそう思っているとやっと男が口を動かした。

 

「……俺は神薙双也。諏訪の神の代理で来た。さっそく聞くが…あんた誰だ?てっきりアマテラスが来ると思ってたが、どうやら神力も俺の知る人より小さいし、アマテラスな訳がない」

 

「…ああ、聞かれなくても名乗るよ。私はタケミナカタ、またの名を八坂神奈子という。お前の言う通り、アマテラス様は来ていない。と言うより、戦いには参加しない。この戦は私が任されたからね」

 

この双也という男の"俺の知る人"という言葉には引っかかりがあるが取り敢えずそれは置いておく。

 

「お前達こそ、なぜ代理など立てたんだ?」

 

「残念ながらウチには神が少なくてね、神社を空ける訳にはいかなかったんだ。だから俺が来た」

 

なるほどな、諏訪は大和に比べれば小さい。神が少ないから神社は空けられない、か。理にかなっている。

私がそう思っていると後ろの兵たちの話し声が聞こえた。

 

「神がほとんどいないのか?それなら俺たちの勝利は確実だな!」

 

「ああ、しかも代理にはこんな小さい霊力のヤツを出してきたんだぜ?諏訪の高が知れるな」

 

「ハハハ、こんな事ならわざわざ重い武装をしてまで来ること無かったな。身構えて損した」

 

あくまで小さな声だったがそれは完全に諏訪に対する冒涜だった。軍神として相手を敬う事も忘れてはいない私はそれを注意しようと振り返った。その瞬間

 

「「「ぐわあぁぁあ!!」」」

 

話をしていた兵たちの体に無数に切り傷が入った。辺りには血飛沫が舞っている。

突然の出来事についていけなかった私は我を忘れてボーッとしていたが、男の声によって覚醒する。

 

「お前ら、俺たちを舐めてると痛い目見るぞ?」

 

それは諏訪の代理、神薙双也から発せられた言葉だった。

双也の霊力は最初の何倍にもなっている。私はこの瞬間理解した。この男がやったんだと。自分にも理解出来ない様な芸当をやってのけたのだと。

私は少し笑いが出てきた。

 

「フフッ、なるほど、それだけの力と覚悟があるならば、"信仰を無条件で明け渡す"なんて降伏条件、飲む訳ないよな?」

 

「当たり前だ。そもそも降伏するためにココへ来たんじゃない」

 

双也の放つ霊力がピリピリと肌を刺激する。正直侮っていたな…これ程の者がいるなら、諏訪の国にも誠意を見せるべきだ。

 

「フッ、いいだろう。開戦日時はお前たちが決めろ。それだけの覚悟があるんだ、十二分に準備した状態で…」

 

 

 

 

 

 

 

完膚無きまでに叩き潰してやる

 

 

 

 

 

 

 

私は神力を解放し、双也を睨んで言った。それに臆することなく双也も睨み返すがお互い口は笑っている。

 

「フッ、ならお言葉に甘えるとしよう。日時は一ヶ月後の今日だ! 首洗って待ってろ!」

 

双也はそう言い残して消えていった。フフフ、神薙双也か、諏訪にも面白いヤツがいるものだ。

私はしばらく、諏訪の国を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、そうですか、彼があの子の言っていた"我々を救った現人神"、ですか。コレは一筋縄にはいかなそうですね。ふふふふふっ」




最近4000文字オーバーが多くなってきました…辛いです…


ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。