東方双神録   作:ぎんがぁ!

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言い遅れましたが、前回は閑話でもあります。

…言うまでもないですかね。

ではどうぞ!


第百二十八話 Stage2 迷い出会うは幽冥組

「よっ、せいっ」

 

竹林の中、俺達は向かってくる敵を無力化しながら先へ進んでいた。魔理沙達の言っていた通り、ここら辺に出てくる敵は退屈な程に弱っちぃ。フランの手を借りるまでもなく、俺は何の事はなく天御雷を振るっていた。

 

ーーというより

 

「…なぁフラン」

 

「わっ…と、なぁにお兄さま?」

 

「…別に無理して肩に乗る(・・・・)必要はないんだぞ?」

 

ーーフランがバランスをとるのに精一杯な為、俺が敵に対処するしかないだけなのだが。

はぁ…おんぶ、手を繋ぐと来て今度は肩車かよ。どんだけ霊夢に対抗心燃やしてんだか。

 

「べ、別に無理なんかしてないよ! ただちょっとフラつくだけ!」

 

「それを世間は無理してるっていうんだよ…」

 

そう弁明するフランはどうしても俺の肩からは降りたくない様で。まぁフランは軽いからそんなに苦って訳でもないし、乗っていても別に良いんだが…なんというか…ますます霊夢に会いたくない。殺されそうな気がする。

 

「! ほらお兄さま!次の敵が来たよ!」

 

「ん? ああ、はい…」

 

もうどうにでもなれ。そんな感情が俺の中に広がった。

どうやら俺は押しに弱いようで、そういう意味でアグレッシブなフランには敵わないらしい。

そんな諦めを含んだ返事をし、彼女の促しの通り飛んできた弾幕(・・)を斬り飛ばした。

 

…………ん? 弾幕?

 

「うぉい! これ敵っていうか攻撃じゃねぇか! しかも結構威力高いし!」

 

突然の事に立ち止まり、飛んでくる弾幕を斬っていく。どうやら向こう方も気がついた様で、とんでもない速さで突っ込んできた。そりゃもう、俺の動体視力でも辛うじて捉える事のできるくらいの速度である。

 

「フラン、しっかり捕まっとけよ!」

 

「うんっ!」

 

 

 

ガキィィイン!

 

 

 

刹那、俺の刀は相手方の得物とに衝突、見事止める事に成功した。ガリガリとぶつかる相手方の得物が、此方への敵意を鮮烈に表している。

…にしても、随分と威力が高い。そりゃ俺が止められないほどでは決してなかったが、こんなのそこらにいるような奴では………え?

 

「よ、妖夢?」

 

「! なんで私の名…って、へ? 双也、さん?」

 

斬りかかってきたのは白玉楼の庭師、妖夢だった。なるほど、それなら弾幕の威力が高い事にも納得がいく。こいつを雑魚呼ばわりは出来ないしな。

 

「私の現世斬を止められるなんて、誰かと思えば双也さんでしたか」

 

「ああ、現世斬か。そりゃ速いわけだ」

 

妖忌程ではなかったが。

 

「にしても、なんでお前が向かってくるんだ? 目的地は同じだろ?」

 

「あっ、そうですね…なんででしょう?」

 

同じ方向を向いてるなら、ぶつかる事なんてないはず。当たり前の事なのだが、現にそれが起きてしまっていた。一体どういう事だろうか…。

 

「普通に、道が逸れちゃっただけなんじゃないの? 全くおっちょこちょいね〜」

 

不意に、妖夢の後ろの方から声が聞こえた。

と言っても、誰かなんてのは分かりきっているだろう。妖夢が居るなら、あいつも居る。

 

……全く、警戒してたやつが二連続で登場とは…。

 

「うぅ、すみません幽々子様…」

 

「気にしな〜いの、妖夢。こんばんは双也♪ 此間(こないだ)ぶりね♪ その可愛らしい子は誰かしら?」

 

「ん? ああ、吸血鬼のフランだ。一緒に異変解決に向かってる」

 

「フ、フラン…です」

 

と、フランは若干弱気な声で幽々子に言った。あまり知られてないかも知れないが、フランは結構人見知りする。長い年月を一人で過ごしてきたのだから、別段不思議な事ではない。そもそも、怖がって隠れてしまう程ではないので幾分かマシな位だ。

フランへ向けていた意識を再び幽々子に戻すと、やはりというか、彼女の表情はすでに悪戯っ子のそれになっていた。

 

「それにしても…そんなに可愛らしい子を肩車するだなんて…随分と双也はアレなのね♪」

 

「アレってなんだアレって。絶対誤解してるだろ」

 

「双也さん…そんな趣味をお持ちなのですね…」

 

「妖夢は妖夢でちょっと黙ってろ」

 

つーか妖夢、お前はツッコミ役に徹してれば良いんだよ。無駄にボケに回るな。幽々子だけでさえ大物なのにお前まで加わったら忙しいったらありゃしないんだよ。

 

と、そんな思いを込めて二人をジト目で見つめた。しかし魔理沙たちとは違い、幽々子たちはそれにも臆さずからかい続ける。

 

「もう双也ったら、紫や霊夢だって十分可愛いのにまだ足りないの?」

 

「ダメですよ双也さん。そんな小さな子を相手にするのはいけない事なんですよ?」

 

「………………」

 

…なんだこいつら。幽々子はからかってるだけなのが分かるが妖夢は真面目に説教してないか? もしかして自分がボケに回ってる自覚もないとか?

妖夢の様子にはフランもポカンとしてる様だし……俺もそろそろイライラしてきた。

だからーーそろそろ黙らせよう。

 

「そもそもーー」

 

「おい妖夢。お前、俺が本気でそんな趣味持ってると思ってんのか?」

 

俺は妖夢に向けて少々威圧を込めて言葉を放った。もちろん本気で怒っているわけではないのだが、面倒くさいのは真っ平御免だ。

状況を早くに察したのか、幽々子はとうにからかうのを自重している。しかし威圧を正面から受けた妖夢は、言いかけた言葉を中断し、頬に一筋汗を流しながら一言、言った。

 

「い、いえ…」

 

「ならばよろしい」

 

直ぐに黙ってくれた為、俺のイラつきもフッと消えた。うむ、物分りの良い子は好感持てるな。

取り敢えず、このままは恥ずかしいのでフランを隣に下ろした。……名残惜しそうなフランの視線が痛いが知らない。俺は何も見ていない。

 

「さて妖夢、一つ思いついたんだが」

 

「はい?」

 

「ついでだから、この間約束した手合わせ、しないか?」

 

この間、というのはもちろん、春雪異変後に俺が白玉楼を訪れた時のことである。あの時は被害がデカくなるだろうからという事で紫に止められたが、ここは屋外。しかも異変の真っ最中で、その道中に偶然出会った。

…これはもう、やるしかないだろ。

 

俺の問いーー断らせる気は無かったがーーに、妖夢は意を決した眼をして頷いた。

幽々子の意見は、聞くまでもないだろう。この間の談笑の時もこちらに賛成のようだったし、あいつは面白い事が大好きなのだから。断る理由がない。

 

「では……紫様の師、双也さん。この魂魄妖夢、力不足ながら挑ませて頂きます。

ーー覚悟ッ!!」

 

初めから本気。そんな感じの気迫を漂わせる妖夢が、その牙を剥き出しにして、俺に肉薄した。

 

 

 

 

「やっ! はぁっ!」

 

ーー動きは流麗。

 

ガガガガッ「てやぁああっ!」

 

ーー嵐の様な猛攻。

 

「くっ、ふっ!」

 

ーー鋼のような守り。

そして

 

「現世斬ッ!!」

 

ーーキレの鮮やかな剣技。

 

妖夢の剣士としての実力は、本当に高いものだった。それこそ祖父である妖忌には及ばないものの、彼の劣化、もしくは下位互換と言っていいくらい纏まりが良い。本当にあいつの孫娘なのだなと、改めて実感してしまう。

 

「そこですっ!」

 

「フェイントだよ」

 

ガキッ「ぐぅっ」

 

実力がどの程度か。もともとこの手合わせを申し出た理由であるそれに関しては、妖夢は俺の想像以上の実力を示してくれた。俺だって本気ではないがーー本気でやったら勝ちゲーになってしまうがーーその実力は認めざるを得ない。気を抜いて剣を交えようものなら、案外簡単に、俺の首も飛ぶかもしれない程のものだ。

ただーー

 

「剣術ばかりでは、この世界は生きていけないぞ?」

 

「ッ!…キツイ弾幕ですね!」

 

弾幕勝負には、あまり秀でている訳では無いようだ。

威力は確かに高い。そこらの妖精や妖怪なら簡単にあしらえるし、剣閃を模した弾幕の羅列も美しいと思う。

しかし如何せん、隙と隙間が多い。慣れていないからなのだろうがそれにしたって、直線弾だけなんてのは論外だろう。頭の固そうな性格がこんな所で発揮されてしまっている。

 

ーーなら少し、曲線弾の手解きでもしてやろうか。

 

「妖夢、こっからは本気で掛かって来い。

ーー霊刃『飛燕の蒼群』」

 

「ッ!! 〜〜ッ望む所ですっ!」

 

曲線を描く弾ーー旋空を使ったスペルカード。曲線弾の手解きをするならば適役だろうと判断し、妖夢を見据えながら宣言した。

 

初めは飛んでいく数が少ないので、彼女もそれなりに対処していた。しかし、厳しくなるのはココからだ。

 

「ぐっ、弾幕が増えて…ッ! 捌き切れないっ!」

 

だんだんと群れを大きくしていく燕に、妖夢は対処しきれず飲み込まれていく。ーーいや、この場合は、対処仕切れていないというよりも、弾の軌道が予想出来ずに被弾してしまう、の方が適切だ。

数が多ければ尚更、入り乱れる曲線弾は避ける事を容易には許さない。……ある意味、この"飛燕の蒼群"は曲線弾の境地なのではないか、と密かに思っているのだ。

 

素早い動きを繰り返し、妖夢は少しずつではあるが曲線弾を避け始めた。その様子を見る限りは、"直線だけの弾幕で戦うのは不利"という事を痛感している様だった。

 

「ほら、そのままだと負けるぞ妖夢」

 

「っ、……なら!」

 

燕に刻まれる中、妖夢は俺の声に応じ、何か閃いたようだ。先程までの辛そうな眼に対し、今の彼女は隙を窺っているような眼をしている。

さて、どうくるかな。

 

「っ! ここです!」

 

やがて妖夢は、燕達に隙間を見つけたらしく、勢いよく上空ーー俺の遥か上ーーまで飛んだ。俺たちが豆粒ほどに見える程ではないだろうが、余裕で見下ろせる高さである。

そして彼女が何故そんな高さまで飛んだか。

ーーこのスペルを発動している俺だから分かる。よく気がついたな妖夢。

 

「上側が! ガラ空きですよ双也さんっ!!」

 

「弱点無いとスペルじゃないだろ?」

 

そう、このスペルの弱点を発見したからである。

このスペル 霊刃『飛燕の蒼群』は、始め俺を中心にして刃が旋回し始め、それはスペル発動中延々と繰り返されていく。正面からではその密度によって気が付きにくいが、それによって上空はガラ空きとなっているのだ。

 

「行きますっ! 餓王剣『餓鬼十王の報い』っ!!」

 

上空から、気を纏った刃を振り下ろすべく妖夢が迫る。俺のスペル自身を方向転換する事は出来ないので、天御雷を構えて迎え撃った。

 

 

ガァァアンッ!!

 

 

互いの刃は、勢いよくぶつかり合うも鍔迫り合いはせず、すれ違う。刃のぶつかり際に大きな衝撃を与えたつもりだったが、妖夢はなんの事もなく通り過ぎた。

 

が、正直なところ、なんの捻りも無いこの攻撃に少しだけ落胆した。

 

「…コレだけか? さっきまでと何もーー?」

 

言いかけて、目の前の光景を疑問に思う。何故なら、妖夢の刀に纏っていた気が剣閃のように留まり、目の前を横切っていたからだ。

 

「それだけな訳、無いじゃ無いですかっ!」

 

ただ、それに関して言葉を発する間もなく、妖夢の掛け声とともに気が解放された(・・・・・・・)

 

解放された気は大量の弾幕へと変わり、剣閃の周囲にいるものーー今回は俺だけーーを撃ち抜かんと解き放たれた。しかもそれは直線のものだけではなく、軌道の読み辛い曲線のものも、少なからず含まれていた。

 

「くっ、縛道の八十一『断空』!」

 

とっさの事で身体が動き切らず、俺は鬼道でその場をやり過ごした。

しかし妖夢のスペル終わった訳では無い。曲線の弾幕を覚えた事でーー半ば俺が教えたようなものだがーー彼女の弾幕は更に厄介なものへと変貌した。彼女持ち前の素早さと剣速で、絶え間なくコレを撃たれ続けるとすれば、相当に厄介なものだ。

 

「ここからが…本番ですっ!!」

 

「ーーとか思ってると、そうなっちまうのが世の理…か」

 

先程と同様に、妖夢は気の剣閃を残しながら斬り掛かってきた。

当然ながら、無限流を用いながら二刀を裁くのでそれ自体は然程問題では無い。しかし今回は、残った剣閃にも注意を向けなければならない。…これ程二刀流の厄介さを痛感した事があっただろうか。妖忌と手合わせした時にもここまで思わなかった。

 

「うおりゃぁぁああ!!」

 

脇腹から構えられた刀を斜めに切り上げる。俺がそれを刀でいなして避けると、妖夢の短刀が振り下ろされる瞬間だった。なので天御雷の能力(結界刃)でそれを受け止める。

と、その瞬間、残されていた剣閃が弾け、大量の弾幕が放たれた。

 

「ちっ、ホント厄介だな!」

 

「っ! なら…更に本気で行きますよ!!」

 

妖夢の指の間に、新たなスペルが輝きだす。少しだけ距離をとった妖夢はそれをビッと突き出し、宣言した。

 

「魂魄『幽明求聞持聡明の法』っ!!」

 

妖夢の半身ーー半霊がユラユラと揺らめき、スゥと大きくなる。やがて色を持ち始めたそれを見て、俺は思わず苦笑いした。

そりゃあ、

 

「流石に…キツイぞ」

 

先程のスペルを発動したまま二人に分身すれば、仕方ない事だ。

 

思わず紅霧異変の時のフランを思い出した。四人になった上でレーヴァテインを構えた、あの悪魔のような布陣。ベクトルは少々違うが、妖夢もフランと同等の厄介さを持っているようだ。

 

つーか、スペル二枚同時に発動って出来るのかよ。確かにそんな言及はされてなかった気はするけども。

 

「余所見、」

 

「しないでくださいっ!」

 

「うおっと」

 

意識は共有しているのか、妖夢達はまるで双子のように言葉を分けながら斬り掛かってきた。

 

それはもう、見事な連携技である。

一人目が斬り掛かり、弾かれたり避けられたりすれば、それを補うように二人目が斬り掛かる。一人が攻められ続ければ片方がフォローに入るし、チャンスと思えば直ちに二人にして連続攻撃。加えて、発動したままのスペルカード。

刀の数では、無限流を扱う俺が何倍も上だが、正直捌き切るのはこの上なく辛い。弾幕に関しては一、二発受けてしまった。

ここは……決めの一手で一気に片付けた方が、良さそうだ。

 

「「てりゃぁぁああっ!!」」

 

「はぁぁああ!!」

 

 

ガァアンッ!

 

 

二人で斬り掛かってきた妖夢達を取り敢えず受け止めた。このままでは攻撃が続く為、俺は結界刃を連続して発動する事で二人と距離を取る。

 

そして一枚、スペルカードを取り出した。

 

「ふぅ…これで終わりだ」

 

「ッ! させませんっ!!」

 

妖夢達はこのスペルカードに危機感を覚えたのか、焦燥に駆られた表情で向かってきた。向こうも、これで終わらせる気なのだろう。

 

でも流石にーー遅かったな。

 

 

繚乱(りょうらん)六華印(りっかいん)摩天楼(まてんろう)』」

 

 

向かってくる妖夢達に対し、俺は瞬歩を使う、と同時、無数の六華を地面に刻み付けながら通り抜けた。

 

「っ!?」

 

妖夢も、突然現れた無数の印に驚愕して離れようと試みる。しかしーーもう遅かった。

 

刻まれた印は強く輝き、瞬間、霊力の刃が一斉に吹き出した。天まで届くかのような刃の群は、まるで高層ビルの立ち並ぶ摩天楼の如く、迷い込んだ人間(妖夢)を、悉く呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで終わった訳だが…どうする?」

 

気絶した妖夢を抱え、幽々子とフランの元に戻る。二人はいつの間に仲良くなったのか、幽々子の膝の上にフランが座っていた。

 

「どうするって…妖夢の手当てをしたら直ぐに向かうわ。こんなに大きな異変ですもの、楽しまなくちゃ損でしょ?」

 

「…相変わらずだな、幽々子は」

 

「ふふ♪ 褒め言葉として受け取っておくわね♪」

 

魔理沙達と同様、幽々子は妖夢の手当てをしてから復帰するようだ。 なんだか異変解決の邪魔をしているような感じで少しだけ心がざわつくのだが、出会って、戦ったからには仕方ないと思う事にする。

……でも罪悪感はやっぱり消えなかった。

 

「じ、じゃあ俺たちは先を急ぐ事にするよ。行くぞフラン」

 

「うんっ! じゃあね幽々子お姉ちゃんっ!」

 

「またねぇ〜♪」

 

……ホント、いつの間に仲良くなったんだろ? 幽々子お姉ちゃんって……うん、年の事は俺も言えないから黙っておこう。言ったらきっと殺される。

 

密かにそんな事を思いながら、俺とフランは連れ立って飛び出した。

 

目的地まで、後どれくらいだろうか。

 

 

 

 

 




少しだけ、刀の戦闘描写が少なかったかもしれませんね…。

ではでは。

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