東方双神録   作:ぎんがぁ!

134 / 219
皆さん明けましておめでとう御座いますっ!
今年も双神録と私をよろしくお願いしますっ!

ではどうぞ!


第百三十話 Stage4 鬼神と化する結界組

「…なぁ紫」

 

「……何かしら」

 

 

ガァン! ドォン! ……暗い竹林に、激しい衝突音が響く。

 

 

「どうしてこうなったんだろ…?」

 

「……知らないわよ」

 

 

その眩い光を見つめながら、静かに会話する影が二つ。

 

 

「あの後、霊夢ったら凄まじい剣幕で…出る敵全て一撃よ? 何があったらああなるのよ」

 

「……ん〜…呼び方争い?」

 

「…何よそれ」

 

 

とても疲れた表情と雰囲気を醸す二人には、激しい光を散らしながら衝突するフランと霊夢の姿が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

〜数分前〜

 

やっぱり寒いとの理由から、再び背に引っ付いたフランと彼女を背負っている双也は、かなり奥まで進んだ暗い竹林の中を尚も駆けていた。

 

本当は双也も眠くなる時間帯であったが、それは今更な話である。冷たく頬を撫でる風に加え、立て続けに戦闘など行えば、眠気も吹き飛ぶというもの。

ゆえに彼の頭は冴えに冴えていた。ーーのだが、実の所、頭が冴えている本当の理由は別にあった。

それはーー

 

 

『(やべぇ、この調子で行くと絶対霊夢達と鉢合う…)』

 

 

ーー所謂恐怖という奴だ。

 

今、彼に恐怖の対象は? と聞いたならば、確実に"霊夢"と返ってくるだろう。

普段ならばそんな事は無い。むしろ、大切な妹分との異変解決ならば彼だって嫌な気はしない。

しかし、当の妹分は今ーー怒っている。

響いてくる霊力の荒さから、双也はそれを悟っていた。

というか、初めに霊夢と分かれた所から、いつか来るかもしれないこの瞬間に戦々恐々としていたのだ。

 

目が醒めるのも当然である。

眠ったらば、待っているのは恐らく死。

 

ーーというのは少し大袈裟だが、ろくな事になりはしないだろう。

 

彼も如何にかしたいとは、思っていた。その答えも分かっていた。ただーーその鍵たるフランが、どうにも動いてくれない状況なのだ。

 

答え、と言うのは即ち、もう少しでもフランと離れて動く事、である。

霊夢は今、フランに怒っている。出会ったとしても、フランだけならば"二人の喧嘩"という事で片が付く。

しかしここに双也が、おんぶした状態で(・・・・・・・・)入ったら、如何だろう?

 

きっと霊夢は"なんでそんな仲良くしてんのよ…あんたも敵だぁッ!!"…という感じで、理不尽に攻撃してくるに違いない。要は、彼はとばっちりに恐怖しているのである。

 

そしてフランも、霊夢に対して対抗心を燃やしている。その幼い独占欲の現れから、如何にかしてお兄さま(双也)を独り占めしたいのである。

その霊夢の前で、お兄さまにおんぶしてもらっている所など見せれば、ダメージになる事は間違いないーーと、考えているのだ。

きっと、恐らく、先の事など考えていないのだろう。それに巻き込まれるかもしれない、双也の事も。

 

そして、いつ来るか分からないその瞬間に内心ビクビクしていたその折。

 

ーー彼は、前の視界に二人の影を見た。

 

『(…遂にか)』

 

そう思った刹那。

視界に捉えていたはずの"赤色の背中"は、唐突に姿を消し、彼の目の前に出現した(・・・・・・・・・・)

 

 

 

『鉄槌『妖怪下し』ッ!!!』

 

『禁忌『レーヴァテイン』ッ!!』

 

 

 

突然過ぎて反応の遅れた双也の頭の直ぐ上。

そこでは、ありったけの霊力を込められた大幣と、炎の大剣であるレーヴァテインが、文字通り火花を散らしていた。

 

ーーもう一度言うが、双也の頭の直ぐ上、である。

 

『うぉい霊夢!! いきなり仕掛けてくんなっ!!』

 

『あら双也にぃ、さっき振りね。元気してた?』

 

『……ッ!!?』

 

 

ーー不釣り合いだ。

一瞬にして、彼は思った。

 

言葉は実に優しい。

言ってしまえば普段よりも、である。

 

だがそれは逆に、底知れない不気味ささえ孕ませた、背筋の凍るような文字の列(・・・・)であった。

怒りを超えた笑顔、とでも形容しようか。今の霊夢は、"鬼"という言葉すら生温い。

 

"鬼神"ーーどうやら、フランは押してはいけないスイッチを押してしまったようだ。

 

『おい、霊ーー』

 

『双也にぃ♪ ちょっと邪魔だから場所開けてね♪』

 

グルン。

腹の強烈な痛みと同時に双也の視界は一気に反転し、続いて背中に何かが衝突した。

いや、何か、など言わなくても彼は直ぐに理解していた。

 

地面。全力ではなかったとはいえ、あの双也が、高い高い空中から一瞬にして蹴り落されたのだ。

霊夢の底が知れない。仕様のない理由であれ、怒りによって覚醒ーーしたような状態ーーの彼女は、そのポテンシャルをフルに発揮した本物の強者であった。

 

『うっ……なんだよ、あいつなんか取り憑いてんのか?』

 

『いえ…そんなはずは無い…と思うけど…』

 

『おお、紫。お前もさっき振り』

 

双也の零した一言に反応したのは、この異変における霊夢のパートナー、八雲紫であった。

彼女も、少々困った表情で上を見上げ、恐らく全力であろうフランを圧倒する霊夢を見守っていた。

…そして双也は、彼女の意識が完全にフランへと向かっていた事で、結果とばっちりを受けずに済んだらしい事に、少しだけ安堵していた。

 

 

ーーそして、現在。

 

 

「ホントに、一体何がどうなったらあんなに怒るのよ」

 

「…………逆鱗に触れたからじゃね?」

 

「……なんて言ったの?」

 

「フランが……ビンボー脇巫女…って…」

 

「……はぁ」

 

"言ってしまったな"と、紫は顔を伏せた。

 

誰にだって、沸点というものはある。

紫だって普段は温厚だが、幻想郷の危機とあらば誰よりも怒り狂う。

双也も、誰もが知っている通り、命を蔑ろにする行為にはとても怒る。

個人差はあるが、霊夢にだって沸点がある。

ただ、彼女が本気で怒る事は殆どと言って無い。軽く怒る事はあるが、本気とまでいく事はほぼ無いのだ。そういう意味では、"沸点が二重にある"と言っていい。

 

今回の事も、なんの前置きもせずに"ビンボー脇巫女"と罵ったならば、確かに怒りはしただろうが、本気とまでは行かなかったはずだ。

だがーー今回は、その前に口論して、イラつきが募りに募った状態だった。

その上に追い打ちとして罵しられれば、いくら霊夢と言えど怒るのは当然の事。フランは、霊夢が"ビンボー"と"脇云々(うんぬん)"という言葉に敏感なのを知らなかったのだ。

 

「はぁ、仕方ないわね。それよりも双也、気が付いているかしら?」

 

どうしようもない、と霊夢の事は区切りをつけ、紫は双也に問いかけた。

 

「ああ、月の異変って言うと…あいつら(・・・・)関係…かな」

 

答えた彼は、未だ闇空に大きく鎮座する月を見上げた。相変わらず、馬鹿みたいな魔力が溢れており、長く見つめ続けるのは彼でも避けたい程である。

 

「月の事情を知ってるやつじゃなければ、こんな月を顕現させる訳がない。となると…あいつらですら、

月をこんなにしなければならなくなる様な(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)事態に陥った(・・・・・・)、と考えるのが普通だな」

 

彼らもまた、"月の事情"とやらを知る、よく知る人物達である。脳裏をかすめるその予想に、二人の表情は自然と引き締まっていった。

 

「……どう思う?」

 

「さぁな。ただ…覚悟はした方がいいかも知れない」

 

どうなるのかは、分からないけれど。

 

「……まぁ、あんな状態の霊夢がいたら、どうとでもなる気はしなくもないけどな」

 

「…ふふっ♪ 全く、その通りね」

 

空気を紛らせるかのような彼の言葉に、紫も固くなった気を少しだけ緩める事が出来た。

そう、今身構えても仕方ない。心だけは気を抜かず、取り敢えずは首謀者の元へ。理由なんかは、その時聞けばいい。

異変の最中、人知れず心を決める二人であった。

 

「…ん、終わったっぽいな」

 

「まぁ、結果は予想通りね」

 

双也は立ち上がり、瞬歩で移動して、地面に叩き落されたフランを抱き留めた。

ーー彼女はやはり、身体中をボロボロに傷付けて気絶していた。

 

「ふぅっ! コレでこの子を黙らせられるってもんね!」

 

「気は済んだか、霊夢」

 

「ええ、そりゃもう。なんかいつも以上に力が出てた気がするけど、まぁ私に掛かればこんなもんよね」

 

「あ、ああ…そうだな…」

 

怒りによる覚醒ーーっぽいものーーに気が付いていないらしい彼女へ、双也は乾いた笑いを溢した。

全く、この巫女は何処までの力を秘めているのだろうか。真面目に修行とかしてたら、全解放状態の双也にも劣らないかも知れない。流石は博麗の巫女、彼の妹分である。

ーーまぁ、結局は"もしも"の話になってしまうのだが。

 

「さて、気分もすっきりした事だし、もう行きましょうか。私の勘に寄ると、目的地はもう直ぐそこよ」

 

「そうか。じゃ、気を引き締めて行こうか」

 

フランの怪我を治癒して背負いながら、双也は言った。

紫も近くへと寄ってきて、霊夢の隣に並ぶ。

 

彼らが進んだその先は、竹林の終わりを思わせるかのように大きく開いており、その中心にはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー大昔のお屋敷のような、日本家屋が鎮座していた。

 

 

 

 

 




鬼神霊夢の一方的展開……怖くて戦闘は書けそうにありませんね…(ガクガクブルブル)

ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。