東方双神録   作:ぎんがぁ!

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最近は少し短めが多いですかね。

ではどうぞ!


第百三十一話 屋敷の奥に待つのは

「……広いな」

 

「……広いわね」

 

長かった竹林を抜け、辿り着いたお屋敷。犯人が出てくるのを待つのも馬鹿らしいので、俺たちは早速その玄関をくぐった。

 

中は外の様相と寸分違わず、まさしく日本家屋。

洋装よりも和装の方を好む俺としては、是非この家に住まわせて貰いたい、と結構本気で思う。

ーーただ、今は異変解決に訪れているので、空気に合わないそんなセリフは心の内にしまっておいた。

 

さて、このお屋敷。入ってみたは良いが、予想通りに中がとても広そうだ。空間を広げている紅魔館レベルとは言わないが、何の能力も無しにこの広さは少し異常とも思える。

 

「うーん…纏まって動く利点も多くはないし、手分けするか」

 

「それがいいわね。この面子で勝てない相手が出るとも思えないし」

 

「じゃ、決まりだ」

 

そう取り決め、俺は霊夢達と道を違えて進み出した。

因みに、ずっとフランを背負って行動するのも少しばかり辛いので、目を覚ますまでは紫のスキマに保護してもらう事にした。……まぁ、本気で怒った霊夢の攻撃を受けて、こんな短時間で目を覚ますとも思えないが。実質フランはここで離脱、という事になるだろうか。

 

奥へ進んでいくと分かるが、どうもこのお屋敷は老朽化が進んでいないらしい。

外装もだが、このお屋敷の様式はとても古めかしい物だ。それこそ、江戸時代とかそこら辺の物である。

今の時代、いくら幻想郷と言えどこんな建築をする者はほぼ居ない。昔に比べれば、今の方が耐震やら設備やらが充実しているのだから当たり前だ。未だにこの様式で家を建てていたら、きっと儲かりもしないだろう。

 

なのに、である。

先の理由から、相当に昔に建てられたはずのこのお屋敷なのだが、見渡す限りはどこも傷んでなどいない。どころか、まるで新築の様に綺麗だ。まるで時間でも止まっているのかと思う程である。

 

……? 時間を…止める?

 

「(時間……変化する事が無い…って事か?)」

 

時間が止まる。そうなると、どんな物も動く事はできず、また干渉も出来なくなる。このお屋敷はそんな風に見る事が出来るが…現に、俺たちが干渉してしまっている。つまり、時間を止めるのとは少し違う(・・・・・・・・・・・・・)という事。

時間を止めるのは、言い換えれば"どんな物も変わる事が無い"、という事。

 

ーー変わる事が無い。即ち、変化の拒絶。

 

 

……成る程、やっぱりあいつらの仕業か。

 

 

「会うのが楽しみだなぁ…」

 

一頻りの考察の末、ある結論に至った俺は、進んでいればいつか現れるであろうその瞬間を、楽しみに思うようになった。同時に、なんでこんな異変を起こしたのかも聞いてみたい所だ。アレだけ強い力を持っているあいつらが、なぜここまでの事をしたのか。

…興味が尽きない。

 

ーーと、そんな時である。

 

「(…ん? 人?……いや、人があんな"耳"つけてる訳無いか…)」

 

前方に、ウサギの耳をつけた者を見つけた。

スカートを履いている事から、ほぼ間違いなく女性だろう。初めは人間かと思ったが、その考えは直ぐに切り捨てた。人間があんな耳をしている訳は無いし、何より

ーー少しばかり妖力を感じる。しかも、ただの妖力というよりは……………清らかな妖力?

自分でも何を言ってるのか分からないが、取り敢えずそこらに居るような妖怪の妖力でない事は確かだった。

 

ーー話しかけてみるか。戦闘になりそうだけど。

 

突っ立ってても埒はあかない。進めないよりは、何か出来事のあった方が断然良い。

 

「あのーちょっといいkーー」

 

「ッ!? 侵入者ッ!!? ここから出て行きなさいっ!」

 

 

いきなり弾幕撃ってきた。

会話すら出来なかった。

 

 

「気が早ぇだろっ」

 

思わずそんな事を口にし、放たれた弾幕をスルリと避けた。

チラと見たが、弾幕の形は銃弾のようで、少女の構え方も、よく見れば銃火器を扱うかのような姿勢である。

……なら、こっちも少し付き合おう。

弾幕ごっこは"遊び"だからな。

 

「特式一番『連装衝弾』」

 

片手を前に突き出して発動すると、手の周りに十個程の白い球が形成される。そしてそれは、間髪入れずに鬼道の"衝"を機関銃のように放ち始めた。

この通り、数ある鬼道の中でも連射性能に優れた特式鬼道である。まぁ、威力はそれなりなのだが。

 

「くっ…」

 

少女は少し苦い顔をし、放つ手を早めていく。それによって連装衝弾でも撃ち漏らしが目立ってきた。

撃ち漏らした弾が頰を掠め、少しだけ血が出た。

この鬼道はやはり威力が低すぎる。

 

ーーと、普通は思うのだが。この鬼道の真価はそこじゃない。

 

フッ、と掌に力を込める。そうして集まってくるのは、言わずもがな俺の霊力。

そう、この鬼道は

 

 

「縛道の六十一『六杖光牢』」

 

 

ーー同時に別の鬼道を使う事ができる。

 

 

昔使用した、鬼道同士の結合とはまた別である。

連装衝弾は自動発射なので、他にもう一つ鬼道を使う事ができるのだ。

"衝"で相手の攻撃をある程度削りながら、決めの一手を放つ事ができる。一番だと侮るなかれ。意外と、強力な特式鬼道なのだ。

 

攻撃の最中に縛道を食らった少女は、特に抵抗も出来ずに六本の杭に撃ち抜かれている。痛みは無い筈だが、逃れようと身を捩っていた。

 

「くぅ…っ! 何よこの杭はぁっ!」

 

「力技じゃ解けねぇぞ、それ」

 

「ッ!?」

 

瞬歩で少女の目の前に降り立ち、頭に手を乗せて目線を合わせた。紅い瞳が特徴的な、顔立ちの整った可愛らしい少女だ。

 

「少し、眠っててくれ」

 

「…! …っ、あぅ…」

 

そのまま能力を行使。繋がった目線から(・・・・・・・・)、脳へ直接能力を打ち込んだ。

そうして強く意識を遮断してやると、少女は少しだけ唸るも、カクリと頭を落とした。

……うむ、これからはこれ"白伏(はくふく)"って呼ぼうかな。効果がピッタリ合ってるし。

 

取り敢えず縛道を解き、倒れないよう抱き留めた。

ただ、気絶させた上に廊下へ捨て置くのも何となく申し訳ない気がしてならない。俺は進まなければいけないし……。

 

「…連れてくか。どうせ暫く起きないし」

 

仕方なく、ウサ耳の少女をおんぶして、長い廊下を再び進み始めた。

 

全く、また誰かをおんぶする羽目になるとは。

これじゃあフランを紫に預けてきた意味が無くなってしまうじゃないか。

 

「しょうがないかぁ…」

 

そんな事を独り言ち、ギシギシと音の鳴る様子も無い廊下を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん? あの部屋、紫達の力を感じるな…」

 

長い長い廊下を歩き続け、ある角を曲がった所で、隙間から光の覗く部屋から紫達の力を感じた。

戦闘の時のような激しいものではなく、普段のような落ち着いた物である。

紫達が居るのに、俺が行かない理由も無い。

早速扉の前まで行き、スゥっと襖を開けた。

すると

 

 

 

 

ーー目の前が、一瞬で影に覆われた。

 

 

 

 

「双也ぁ〜!!」

 

「へっ…?」

 

その影は、止まる事もなく俺に勢いよく抱き付いてきた。何となくいい匂いがするので、女の子だろう。まぁ、男に抱き着かれたりなんてしたら流石に引くが。

…いや、こんな解説してる場合じゃねぇっ! 既に一人おんぶしてるんだよっ! 危ねぇ危ねぇっ!

 

勢いを殺す為、抱き着かれたままなんとかユルユルと回転した。が、既に背中に一人いる状態。バランスが取れずに倒れそうになった。

って、このまま倒れたらウサ耳の子が下敷きじゃねーか!

 

「ちょっ…紫…! スキマ…っ!!」

 

「はいはい」

 

腹筋を使い、背側に反る身体をどうにか持ち上げながら、紫に助けを求めた。彼女がウサ耳の子をスキマへ送ってくれた為、フッと背中が軽くなった。

 

ーーただまぁ、そうなると耐えるのもそろそろ限界な訳で。

 

 

ドタァァンッ!

 

 

思い切り、背中から倒れた。

もちろん抱き着かれたままである。何だこれ、俺が押し倒されたみたいじゃないか。霊夢が"何やってんのあんたぁっ!?"って叫んでた気がする。必死でろくに聞こえなかったが。

取り敢えず……背中痛い。

 

「久しぶりね双也っ! ずっと会いたかったわっ!」

 

「……ああ、久しぶり、輝夜」

 

上から俺を見下ろしたその影は、予想通り(・・・・)、千年以上前に道を違えた月の姫。

 

満面の笑みを輝かせる、蓬莱山輝夜だった。

 

 

 

 

 




はい、輝夜は相変わらずです。双也にここまで明確な好意を寄せるキャラも少ないですねw

ではでは。

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