東方双神録   作:ぎんがぁ!

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Stage5? ハテナンノコトデショウ?

ではどうぞ!


第百三十二話 真相…?

「で、どういう事なのよコレは?」

 

と、目の前に座る霊夢が複雑そうな視線を向けてくる。

いや、正確には、俺の隣へ(・・・・)向けているのだろうが。

まぁ確かに、こんな状況では俺だって苦笑いしか出来ない。

何せ……

 

 

 

「どういう事って…想い人に寄り添ってるだけだけど?」

 

 

 

ーー心底上機嫌そうに、輝夜が俺にくっ付いているのだから。

 

先に辿り着いていた紫、霊夢、初めからここにいた永琳、そしてこの輝夜と軽く挨拶を交わし、座った直後からこの調子である。

仮にも姫様がこんな事して良いのだろうか。思い返せば、千年前に出会った時も抱き着かれた記憶がある。天真爛漫にも程があるだろう。女の子としては慎みくらい持つべきだ。

あと輝夜、腕まで絡めて何が"寄り添ってる"だ。それは"寄り添ってる"じゃなくて"抱き着いてる"って言うんだよ。

 

「想い人って…あんたも女の子でしょ? 男の人に突然抱き着くとか正気の沙汰じゃ無いわ」

 

「あら、妬いてるの? 良いわよ、少しくらい双也とイチャついても。 最終的には私がこの人を取るんだから」

 

「なっ!? 妬いてなんか無いわよ! そもそも双也にぃは、兄として見る事はあっても恋愛対象になんかした事無いし!」

 

「そんな事言って、羨ましいだけなんじゃないの? ほら、今だって双也の事を"にぃ"なんて言って、随分と親しいみたいだし」

 

「羨ましい訳あるかっ! 大体私だって抱きついた事くらいあるわよ! ……小さい時だけど…」

 

会話を聞くうち、だんだんと喧嘩になりつつある事を察した。まぁ完全に輝夜の言い分が悪いのだが、やけに上機嫌っぽい彼女にはどう言っても聞かない気がする。

…ただのイメージの話なんだけど。

 

ーー取り敢えず止めよう。また霊夢が怒り出したら、それこそ"悪夢再び"だ。

 

「二人共喧嘩すんなって。白黒付けたいなら弾幕ごっこにしろよ。口喧嘩とか、見ていて気分沈むから止めてくれ」

 

「そうよ! 弾幕ごっこすれば良いんだわ! 私とした事が、失念してたわ!」

 

「上等じゃない。どんな勝負だって、双也の為なら負けないわ!」

 

……火に油だった気がしてきた。

 

失敗したかな…なんて思っている内に、二人は早々と庭に出て行ってしまった。こうなってはどうにも出来ないので、後は二人が無事に帰って来るのを願うばかりだ。

……まぁ、遊びだから無事だとは思うけど。

 

「なんだか、あなたが二人を焚きつけたみたいね。姫様が怪我したらあなたの所為よ?」

 

「うっ…そんな事言うなよ永琳…確かにそうだけど、わざとやった訳じゃ…」

 

「ふふ、冗談よ。あの状況だったら私だってああ言ったわ」

 

うふふ、と、口元に手を当てて柔らかく微笑む永琳。

お互い長い永い時を過ごした為、再会の感動とかはそこまで大きくなかったが、とても久しぶりに見る彼女の笑顔は、やっぱり綺麗だった。

 

「さて、永琳? このまま和んでいても仕方ないし、どういう事か説明してもらうわよ」

 

パチン。

 

紫の扇子を閉じる音は、いやに室内に響き渡り、俺たちの気を再び"異変中"のものへと引き戻した。再会の嬉しい気分が一瞬で冷めてしまった。

まぁそうは言うが、俺もこの異変の真相については知りたいところだったし、紫に反論はしない。

 

「ええ、本当は姫様も居て欲しかったのだけれど…仕方ないわね。……これを見て」

 

永琳の懐から取り出されたのは、一通の封筒。

封は既に切られて、ピラピラと簡単に捲れる様になっていた。

早速取り出し、紫と共に覗き込む。

そしてーー驚いた。

 

 

 

 

 

「月の使者が……ここに来るっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……成る程…だから月をあんな状態にしたのか」

 

「ええ。満月でなければ、使者が来ることもないしね」

 

「うぅ…すみません師匠…御迷惑ばかりお掛けして…」

 

永琳から真相を聞き、そして全て得心がいった。

大雑把に言うと…事の始まりはこの封筒。これが、先程戦ったウサ耳の女の子ーー鈴仙(れいせん)、と言うらしい。本名は長過ぎて覚える気にならなかったーー充に送られてきた事である。

どういう理屈か、月の連中は鈴仙の居場所を突き止め、同時に彼女を匿っていた永琳達をも見つけたらしい。

そしてこの封筒ーー"満月の夜迎えに行く。抵抗しても無駄だ"という内容を見、月の使者が来れないように月に仕掛けを施した、という事だ。

…内容を掻い摘みすぎた気もするが、大体こんな感じである。

 

"月に術をかけるくらいの力量持ってるなら迎え撃てば良いのに"なんて密かに思ったのは、秘密である。

 

……ふむ。

 

「なぁ鈴仙」

 

「…なんですか?」

 

頭の中で内容を整理仕切った俺は、永琳の横で小さくなっている鈴仙に話しかけた。先ほど戦ったばかりだからか、彼女が俺に向ける視線は少しだけ鋭い。

 

「今の月の技術ってのは、今回みたいに"どこにいるかも分からない一個人のみを検索して発見する"なんて事…ホントに出来るのか?」

 

淡い期待で念の為、聞いてみた。

もしそうでないなら、今回のこれは無視しても対して被害は無いという事になる。本当は居場所が判明してないって事なのだから、警戒する必要もない。

まぁ、封筒が届いてしまっている時点で、その確率は零に近い訳だが。

だから本当に念の為、万が一。

 

「そんなの簡単に出来ますよ」

 

呆気なく砕かれた。

 

分かってはいた事だけど、少し悔しい。

 

簡潔にそう述べた鈴仙は、そのまま黙ってジッとしていた。俺と話すことなんか何もないってか。まあ一応の敵同士としては正しいけども。

 

と、それはさて置き。

 

「ふーむ…どうなんだろうな(・・・・・・・・)…なぁ紫」

 

「…そうね…」

 

「? どうなんだろう…って?」

 

思い当たる事があり、紫に問いかけてみると、話の筋が見えなかったのか、永琳が尋ねてきた。

…ちょうど良い、永琳にも相談してみよう。

 

「いやな? この幻想郷ってのは、紫が張った強力な大結界で覆われてるんだよ。それこそ、俺の能力でもこじ開けることが出来ないくらいのな」

 

「えっ!? そんなものがあるの!?」

 

「ええ。ただ…私という妖怪が張ったものだから、もしかしたら月の兵器で壊される可能性も無くはないのよ。 もし月の連中が強力な兵器を持ってきた場合、結界が耐えられないかも知れない」

 

「まぁ逆に言えば、結界が破られない限り迎えは来ないって事なんだがな」

 

簡潔に、紫と俺で言葉を分けながら説明すると、永琳は拳を顎に当てて考えるそぶりをした。

良い案が浮かんでくれることを願う。

 

永琳の頭脳は、紫に及ばないながらもとんでもなく良い。

"あらゆる薬を作り出す程度の能力"など持っているのだから、頭が良くない訳がないのだ。

仮にその能力が、魔法の様にポンッと薬を作り出すものなら違うのだろうが、彼女の場合、地道に調合などして作り出す。つまり、それ相応に大量の知識を持っているという事だ。きっと薬以外の事も、あの頭には入っているのだろう。

………蓬莱の薬を作り出す原理については、未だに俺も分かっていないが。アレはポンッて作り出したのかな…?

 

そんな事考えていると、考え込んでいた永琳がふっと顔を上げた。そしてゆっくり、口を開く。

 

「……その結界というのは、あなただけで創り出したの? これ程巨大なものを、一人で?」

 

「いえ、当時の博麗の巫女…霊夢の初代に当たる人には、少しばかり手伝ってもらったわ」

 

「つまり、霊力も混ざってはいるという事?」

 

「ええ。その霊力と、私の妖力が成り立って結界が張られているわ」

 

「成る程…それなら…」

 

一つ頷き、少し表情を緩めた顔で、言った。

 

「恐らく、大丈夫だと思うわ。妖力だけなら確かにマズイかも知れないけれど、霊力が混ざっているなら恐らく大丈夫。二つで成り立っている、というのも良い感じのファクターね。どちらかが少し欠けても補える」

 

「つまり…特に問題はないって事だな?」

 

「そうね。…月を入れ替えたのも、意味がなかったわけね」

 

"じゃあ、もう要らないわ"

永琳はそう言って、パチンと指を鳴らした。外に変化は見られないが、月の発する魔力は極端に減り、元の月に戻ったらしい。

うるさいほどの魔力がなりを潜め、同時に、繰り広げられる弾幕勝負から発せられる爆音も少しばかり落ち着いた……気がする。

 

………ん? というか、外に変化……無くていいのか?

 

だってもうーー明るくなっても良い時間だろ?

 

「な、なぁ永琳、もう五時過ぎだよな? まだ夜が終わってないみたいなんだけど…」

 

「? 私は月を入れ替えただけよ? それ以外のことは何もしてないし、況してや夜が明けないなんて…」

 

「は? じゃあ夜を止めた真犯人がいるって事か? 誰が……!」

 

ふと、魔理沙の言葉を思い出した。

 

 

ーー今日は長い夜みたいだな

 

 

もしかして魔理沙は、今回の異変が"満月が変化した異変"じゃなくて"夜が明けない異変"だと思ってるのか?

 

だとすると、おかしい。

何がおかしいって…

 

ーーそれにしても双也、気が付いているかしら?

 

……紫が"月が変化しているのを知っている事"がだ。

 

同じ異変なのに、別々の理由で解決に来るって、どういう事だよ。明らかにどちらかが何かを知っている。

 

そしてこの場合、知っている可能性が最も高いのは……。

 

「…………………」

 

「……おい紫、説明しろ」

 

状況を察したのか、はたまた俺に怒られるのが怖いのかーーそんな事はないとは思うがーー紫は黙ったまま澄まし顔を決めている。でも頬を流れる汗が隠せてない。"やっちまった"って思ってるのが隠せてない。

別に怒ってるわけじゃないんだけどな。

 

永琳も、この事については真相を知りたい様で、ジッと紫を見つめている。どうせだから永琳と共に目力で攻めてみようか。

 

「……私がやりました…」

 

程なくして、白状した。

説明は長くなるので省略するが、大まかに言うと"異変解明には調査も必要だったから"らしい。まぁ確かに月の異変とあれば夜の内に調査しなければいけない訳で、夜を止めるってのは合理的ではあるのだが……もうちっと、周りのこと考えろよ。

 

「…分かったか?」

 

「はい…」

 

ーーという感じの事を、正座する紫の前で語って(叱って)やった。

いや、確かに怒っちゃいないが、弟子を叱るのも大切な事だと思うんだ。

 

「じゃあもう戻すぞ」

 

取り敢えず、この異変終わらせてしまおう。

んー、どうやったら戻せるかな。夜が続くって事は、夜と昼が別々に切り離されてる……………みたいな考え方で良いのかな? なら夜と昼を繋ぎ直せば万事解決だなっ!

 

………何言ってるんだ俺。どんな頭してんだ俺。

 

幻想郷の不可思議現象に毒され過ぎだろ。普通こんな無理矢理な理論、成立どころか思い付きもしねーぞ。

 

「はぁ…もう、いいや」

 

「どうしたのよ双也? 何を考えてたのよ?」

 

「いや、なんでもない」

 

うん…ホントに…。

 

「??」

 

会話が一人で完結してしまってるので、永琳はあまり話についていけていない様だ。付いてこれても、それはそれで怖いのだが。

因みに、紫は未だしょんぼりしている様だ。そんなにきつく叱ったつもりもなかったんだけどな。

 

さて、じゃあさっきの無理矢理理論で異変終わらせようか。幻想郷ならきっと上手くいってくれる。

 

「んー…夜と昼を再結合。

……『陰陽繋ぎ』」

 

これも大規模な行使だった為、それ相応に霊力を持って行かれた。だが、その甲斐あってちゃんと戻す事ができた様だ。庭の方から差し込む光は、冷たい黄色ではなく暖かな白だ。

 

「……相変わらずとんでもない力してるわね」

 

「月を入れ替えてた本人が言うなよ」

 

少し、永琳に呆れられた気がする。

というより、こんな事ができるならわざわざ異変解決をしに来なくても良かった気がしてきた。

 

……まぁ、これこそ後の祭りだ。今回は純粋に楽しんだって事で良しとしよう。

 

ーーあ、そういえば、まだ気になる事があるんだった。

 

「なぁ永琳。月の連中は、鈴仙のついでにお前達を捕まえる気でもあったんだよな?」

 

「? ええ、その筈だけど…」

 

「今回はこんな形で解決できたけど……あいつら、それで諦めてくれるのか?」

 

そう、月の連中の、これからの動向である。

ああ見えて意外と執念深い連中だ。一度失敗したからって、諦めるタマとも思えない。もしかすれば、いつかこの結界すら壊して入ってくるかもしれない。

そうなって困るのは、もちろん俺たちだ。

 

「……恐らく、諦めたりはしないでしょうね。新しい兵器の開発にでも取り組む筈よ」

 

「やっぱりか」

 

予想通り。なって欲しくはなかったけれど。

………はぁ、仕方ない。一肌脱ぐか。

 

「しょうがない。俺が話つけてこよう」

 

「…話をつけてくる?」

 

刀の鯉口を切りながら、ようやく弾幕ごっこが終わったらしい庭の方へ体を向ける。

 

 

 

ちょっくら月(・・・・・・)行ってくるわ(・・・・・・)

 

 

 

「……えぇっ!?」

 

まぁ、突然言い出したらそりゃ驚くよな。

特に紫。先程までしょんぼりしていた彼女も、俺の言葉に反応して声を上げた。

 

「ちょっと双也!? 本気!? 月の危険さはあなたが一番よく知っているでしょう!?」

 

「大丈夫だって。戦いに行くわけじゃないんだ。それに…向こうには知り合いもいるしな」

 

「でも…!」

 

「大丈夫だ。師匠の事くらい、信じてくれよ」

 

止めようとする紫を一蹴し、霊夢達と入れ違いに外に出た。う〜ん、朝日が眩しい。

すれ違い際は、どうしたんだろ?みたいな不思議そうな表情をした二人だったが、永琳や紫から話の内容を聞いたらしく、血相を変えてーー輝夜はそれ程でもなかったがーー飛び出してきた。

面倒な事を言われる前に行っちまおう。

フランにはーーまぁ、悪い事したな。今度謝りに行くことにする。

それまで少しだけ、ほんの少しだけお別れだな。

 

「じゃ、行ってきます」

 

能力行使の為、霊力を二割程解放。

爆発的に溢れた霊力が、強い衝撃波になって広がる。幸い、この屋敷は変わらない様になっている(・・・・・・・・・・・・)ので、家屋被害は全くのゼロである。

刀を振るって出来た黒い空間へと、体を沈ませた。

 

 

 

向かうは月の裏側ーー月の都である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、あんのバカ兄貴は何時でも先に行っちゃうんだから!」

 

双也が黒い空間を通った後、残された霊夢はぷりぷりと怒っていた。

行動力というのはあって困る事などないのだが、双也の場合、面倒くさい面倒くさいと言いながら抜群の行動力を発揮する。

思った事はすぐに行動してしまう、とでも言おうか。とにかく、霊夢は、行動力があり過ぎて周りを置いていってしまう兄に怒っていた。

 

「はぁ、負けたのだから、この際双也と兄妹に近い関係なのは認めるけど……なんか懐き方が異様じゃないかしら、あの巫女? ねぇそこの紫色」

 

「紫、よ。……霊夢のアレは、まぁ仕方ないと言うか…一度二人は仲違いして、それからまた兄弟として仲直りしたのよ。だから恐らく、そこらに居るの実の兄妹よりも絆が深いのね」

 

"絆の話なら、私も負けないけど"

紫はそう締めくくり、輝夜にザッと説明した。

成る程、と。

輝夜は、未だに頬を膨らませて兄への文句を垂れているのだろう巫女を見やった。

その眼には、先程の様な独占欲とは違う

ーー羨望が映っていた。

 

「…正直、羨ましいわね。私は双也の事を少ししか知らない。永琳が話してくれた彼の伝説くらいしか、彼の事は、知らないの」

 

「なら、これから知っていけば良いのではなくて? 時間は無限にあるのでしょう、蓬莱人?」

 

「……そうね。いつか、あの子から彼を奪ってみせるわ。…本人はその気は無い様だけど」

 

「ふふ…兄妹、ですからね」

 

完全に顔を出した太陽は、その場の皆を照らし、未来をも照らすかのような輝きを放っていた。

 

 

 

 

 




はい、という訳で、少しばかり月に旅行です。
本当なら儚月抄で行くはずの月なのですが、物語の関係上、永夜異変の延長という感じで行く事になりました。

お話し的には儚月抄を抜かしても良かったんですが、双也と依姫を会わせてあげたいっ! って読者様がいらっしゃったので、こんな形になりました。
まぁ"あの人"ともまだ会ってないですし、結果オーライですね。

……あ、あと永琳との再開、さっくりと終わらせました。幻想郷ができる前に一度会っているので、再会してもそれほど感極まるって事はないかなぁと思い、こうなりました。……ブーイング、来るの怖ぇなぁ…

ではでは。

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