東方双神録   作:ぎんがぁ!

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豊姫と幽々子さん、性格似てると思いませんか?

ではどうぞ!


第百三十四話 再会は嬉しく、楽しく

〜数刻前〜

 

「ふぅ…」

 

月に存在するある建物、その一室。

そこには、椅子の背もたれに寄りかかって溜息を吐く一人の少女の姿があった。

目の前の机にはたくさんの書類が積まれており、芯が出たままのペンが置いてある事から、まだ書き途中だと窺える。その机の横には素人が見ても長いと思える様な物干し竿(長刀)が立てかけられている。

 

ーー綿月依姫。

 

薄紫色の長い髪を後ろで纏め、濃い赤色の服を着た、実質的に月を統治している姉妹の、妹の方である。

 

彼女は、積まれている書類の内右側の、左側と比べて半分以上残っている書類の山を見て一言、溜息ながらに呟いた。

 

「…………全く、お姉様ったら仕事を置いて何処に行ったのよ……って、海に決まってるか…」

 

 

"え?依姫私の仕事も引き受けてくれるの!? ありがと〜さっすが私の妹! じゃあお願いするわね! 宜しく〜!"

 

 

ーー彼女の姉、綿月豊姫が、去り際に残した台詞である。

 

勿論依姫は、返事などしていない。どころか、"仕事を引き受ける"とも言っていない。要は、姉に仕事を押し付けられたのだ。

最初の頃は彼女も怒ったのだが、いくら言っても聞かない上に何度でも繰り返す為、最早怒るのも億劫になってしまった。そんな自分に、依姫自身少しだけイラつきを覚えている。

 

「…はぁ…お姉様のあの性格、如何にかならないかしら…」

 

そんな、心からの愚痴を漏らしながら、依姫は仕事を再開するべくペンを取った。

 

ーーその瞬間。

 

 

ドウッ!!

 

 

依姫は、凄まじい大きさの霊力を感じ取った。

 

「ッ! …何…この、霊力…ッ」

 

思わず顔を顰め、依姫は手を胸に当てた。

距離は離れているはずなのに、胸を締め付けるような圧迫感を覚えてしまう。呼吸も少しし辛い程だ。

 

周りを見渡せば、部屋のあらゆる物がガタガタと揺れている。どころか、彼女の立つ地面すら揺れているようである。

 

「月が……揺れている!?」

 

これだけの霊力。これだけの圧力。

月自体が揺れてしまっていても不思議では無い。それ程まで強大な霊力であった。

 

ーーやがて、そんな霊力はパッと消え失せ、地震も収まった。ただ、この月に住む住人達の混乱は計り知れないだろう。

鉄壁を誇る月面結界の内側では、緊急事態などは殆ど起こらない。外から危険なウィルスがもたらされたとか、危険な殺人鬼が紛れ込んだとか、小さな事だろうと大きな事だろうと、緊急事態以前に起きる事がない。起こす要因がここに侵入できないのだ。

そんな状態でこのような事態になれば、町中が騒ぎ出すのは自明の理。今だって、依姫の耳には大量の警報ブザーの音が聞こえていた。

 

と、そんな時、部屋の戸が勢い良く開かれた。

 

「も、申し上げます! 先程の"地震の震源地"、及び"強力な霊力反応の発生地"は、静かの海と判明! 現在付近の兵がポイントへ向かっています!」

 

「! 分かりました。 私も直ちに向かいます。持ち場へ戻りなさい」

 

「はっ!」

 

依姫の命令により、兵は自らの受け持つ場所へと戻っていった。

兵の前では平静を装っていた依姫も、実は内心焦っている。ーー何せ、姉が居ると思われる静かの海での事なのだから。

 

依姫は手早く準備を始めた。

と言っても、彼女の武器は一振りの長刀のみ。立てかけられたそれを掴み、感触を確かめる。

武器、として加えて挙げるとするなら、それは彼女の能力だろう。

 

"依り代となる程度の能力"。

効果は単純明快。その身に神を降ろし、その力を借りる事。

下位の神から最高神レベルまで、様々な神を降ろすことができるこの能力は、言ってしまえば相当に反則級な能力である。極端な話、天変地異ですら起こせる可能性があるのだ。

彼女と相対する時には、百を超える神々との戦争を起こす覚悟が必要。ーーそう、月では噂されている。

 

刀の鯉口を切り、抜刀して軽く振り回す。

刃元がグラつくことも無ければ、曲がっている様子もない。つまり万全の状態である。

ヒュヒュッと振り回した後、静かに刀を収めた依姫は、俯く様にその柄を額に当て、目を瞑りながら、微かに呟く。

 

「………此度の敵は、とても強そうです。私が敵うか、分かりません。…でも、あなたが護ったこの月の民達には、絶対に手を出させないと、誓いました。………どうか、見守ってください、双也さん…」

 

それは一億年以上前から…彼女が地上を旅立った時から、強力な相手との戦闘前に呟く、暗示のようなものだった。

 

短い間、でもどの時代よりも充実した時間を共に過ごした友人への…自らがその強さに憧れた"英雄"への、誓いの言葉。

千年ほど前、死んだと思っていたその友人の生存を確認してからも、ずっと続けてきた誓いである。

 

「……よし」

 

気持ちを引き締め、刀を帯び、最早完全に戦闘モードへと切り替わった依姫。

侵入した強大と思われる敵の下へ向かうべく、その手を扉に触れた。

 

ーーと、ほぼ同時。

 

 

 

 

「あらあら、やっぱり依姫は生真面目ねぇ♪」

 

 

 

 

聞こえるはずのない声が、聞こえてきた。

 

「生真面目過ぎて、私達が居た事にも気が付かないなんてね」

 

それはもうとうの昔に聞き飽きた声。

最も身近な、家族の声。

 

振り向いた先には、姉である豊姫の姿があった。

 

「お、お姉様? 何故ここに…? 海に行ったのでは……って、お姉様! 怪我はありませんか!?」

 

「怪我なんて無いわよ、誰だと思ってるの。ココへは普通に能力で来たわ。面倒臭そうな状況だったからね」

 

「面倒…?」

 

いまいち要領の得ない言葉に、依姫は少しだけ首を傾げる。 たがそれも慣れた事。頭は良いくせに無邪気すぎるこの姉とのそんな問答など、星の数ほど経験しているのだ。

 

"こういう時は追求しないほうが良い"

頭が混乱するのを防ぐ為に、彼女がとっている豊姫対策であった。

 

「そんな事より…ね、依姫」

 

「…はい」

 

そっち(・・・)…見てみなさい♪」

 

「? ………ッ!!?」

 

言われるまま、振り向く依姫。

その表情は、姉への不思議そうなモノから一変。この世の核心を見たかのような、驚きに満ちたモノに変わった。

 

「ひ、久しぶり…依姫」

 

「…そ、双也…さん?」

 

彼女の瞳には、少しだけ引きつったような笑顔で挨拶する、友人(・・)の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど、そう言う事でしたか。……相変わらず、馬鹿みたいな霊力をしていますね」

 

「あ、あはは…騒がせて悪かった」

 

「いえ、そんな大した事では…。むしろ、また双也さんと会えて嬉しいです」

 

同室、三人は腰を下ろして話していた。

侵入者と言うのが全くの無害であると分かったーー依姫の判断で、双也は客人とされているーー為、今現在の月の都は平穏を取り戻している。

警報ブザーが聞こえる事もなければ、騒ぎ立てる人々もいない。普段の月である。

 

「それにしても…師匠達を追いかけるのはやめて欲しい、ですか…」

 

「どうか頼めないか? あいつらは今平穏に暮らしてるんだ。邪魔を入れたくない」

 

双也が話した案件を、依姫は確認するように言直す。それに答え、双也は再度彼女に申し出た。

幻想郷の住民として、平和に暮らす永琳達の生活を壊したくないと考えた双也は、如何にかして彼女たちを守ってやりたかったのだ。

死ぬ事も出来ない身体になってしまって、その上かつての仲間から追われるなんて、彼から見ればとても辛い事だ。

彼が"一肌脱ぐ"と言い出したのも、そんな理由である。

 

「はぁ…」

 

依姫の溜め息。

双也には、肯定なのか否定なのか、決定付ける事は出来なかった。

 

 

ただーー彼女が薄く微笑んでいる事だけは、確認できた。

 

 

「双也さん」

 

「…ん?」

 

「私達姉妹が、どれだけ師匠の事を想ってるか、ご存知ですか?」

 

そう言う依姫の微笑みは、深い優しさを感じさせるものだった。

 

(はな)から、追いかけ回すつもりなんてありませんよ。今回の遠征だって、他の人達が騒ぎ立てるから行かざるをえなかっただけです」

 

「……! ありがとう依姫!」

 

座りながらも、双也は真摯な気持ちで頭を下げた。

本当は彼が言う事ではないのかも知れないが、彼にとっては、それくらい重要な事だ。

昔からの友人が悲惨な目にあった、なんて事があれば、どんな者でもいい気はしないだろう。

最も古くからの友人。その人の生活を護ろうとするのも、彼にとっては当然なのである。

 

「じゃ、真面目なお話はこれくらいにして、お茶でもしましょうか♪」

 

パチン、と、空気を塗り替えるように豊姫は手を打った。

勿論、反対する者は居ない。むしろその提案は双也と依姫にとってもうれしいものである。

約束も、ある事だし。

 

「ねぇ双也、あなたの話を聞かせて? 依姫ばっかりズルイじゃない」

 

「ん、あー別にいいぞ。何から話そうか」

 

「あ、それなら…稽古中のあの出来事とかどうですか?」

 

空気は一転、和やかなものになった。

いや、友人三人が集まる場としては、こちらの方が正しいかもしれない。

懐かしい友人と再開して、暗い話など寂しいじゃないか。

 

「そういえば、ねぇ双也」

 

「ん? なんだ豊姫」

 

会話に少し区切りが見えた折、豊姫は思い出したように双也に声をかけた。

その表情は、今からイタズラをしようとしているかのようなニヤけ顏である。

 

 

 

「依姫のアレ(・・)…聞いた感想は?」

 

 

 

依姫の肩が、ピクリと動いた。

 

「アレ? …あ、あー…アレか…うん…」

 

明らかに様子が変わった彼に、依姫は当然疑問を抱いた。困っていると言うよりは、何か戸惑っているような、そんな様子である。

…というより、自分のアレ(・・)とはなんの事だろう?

耳だけは話に傾けながら、彼女はそれを考えていた。

 

ーーが。

 

 

 

 

 

「うーん…まぁ、俺が信頼されてるってのは…よく分かった、かな?」

 

 

 

 

 

その言葉で、なんの事を指しているのかがハッキリと分かった。

 

ガタン、と、依姫は反射的に立ち上がる。

そしてその真っ赤に染まった顔は、ただ一点ーー双也に向けられていた。

 

「ま、まさか……私の暗示…き、聞いてたんですか…?」

 

「…ああ。初めから聞いてたな」

 

その答えを聞いた瞬間、依姫はボフッと頭から湯気を吹き出した。

まぁ確かに、彼女にとっては恥ずかしい事この上ないだろう。言うなれば、自分が憧れている証拠を本人の前で暴露しているに等しいのだから。

きっと霊夢がこの状況に陥ったならば、コンマ数秒後には既に弾幕が飛び交っている事だろう。

 

「わ、わわ、忘れて下さい双也さんっ!!」

 

「や、別に忘れなくても良いだろ。そりゃちょっとむず痒かったけど…」

 

「私が良くないんですっ! 良いから忘れてーー」

 

「まぁまぁ、良いじゃないの依姫? あなたの憧れは本当の事なんだし」

 

「何言ってるんですか!? そもそもお姉様があんなタイミングで来るのが悪いんじゃないですかっ!!」

 

「あら、私の所為にするの? さっき気絶しちゃったばかりの私にそんな仕打ちーー」

 

「仕事ほったらかしで海に行くのが悪いんじゃないですか!!」

 

ワーギャーと慌てる依姫の姿は、久し振りに彼女と顔を合わせた双也としてはとても面白おかしいモノで。

元気な彼女の姿を確認する事ができ、なんとなくホッとする双也であった。

 

「(あ、そう言えば……月夜と会ってないな…)」

 

ふと思い出したのは、月の神ツクヨミーー又の名を、伊勢月夜。

彼女もまた、双也が世話になった者の一人である。

正真正銘の神ではあるが、ほぼ確実にこの月に居るだろう。

 

「(あーでも、長居するとあいつらが心配するか…)」

 

"しょうがないな"

双也はそう結論付けた。

お互い位の高い神の一人。不死とは行かないまでも、時間なら無限にあると言っても過言ではない。

 

ーーなら、急いで会わなくてもいいか。ここにはまた来れるだろうし。

 

「わ、わー依姫!? こんな事で刀なんて抜かないでっ!?」

 

「お姉様? "こんな事"なんて言えるのなら、何時までもそのネタを引っ張るのは止めてくれませんか?」

 

「や、依姫怖いっ! 目が笑ってないっ!」

 

「あははは、何言ってるんですかーこんなににこやかじゃないですかー」

 

「そ、双也!! 助けてお願いぃ!!」

 

いつの間にか事件に発展しそうになっている二人を見、双也も思わず微笑んだ。

 

「(ふふ、全く賑やかな姉妹だな)」

 

そんな事を思い、再び輪に戻っていく。

 

「豊姫」

 

「な、なによ?」

 

「それは……自業自得って言うんだ」

 

「双也ぁぁああ!!」

 

"一日くらい、月に留まっても良いか…"

楽しそう(?)にはしゃぐ二人を眺めながら、双也はふと、そんな事を考えた。

 

ーー友人との再会は、やっぱり楽しいものじゃないとな。

 

彼の心は、異変の後とは思えない程和やかなものだったという。

 

 

 

 

 

 




むー、締めがやっぱり苦手ですね。
で、でもでも、昔よりは上手くなったんですよ…?

ではでは。

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