東方双神録   作:ぎんがぁ!

140 / 219
もう少し続きますよ十一章! 続いて花映塚です!

まぁ、閑話とでも思って下さい。萃夢想と同じ扱いです。

では、どーぞ!!


第百三十六話 咲き乱れる幻想郷

月が変わる、という、幻想郷にとっては久々の大異変があった秋。

 

ーーは既に過ぎ去り、今年は無事に長引く事の無い冬を越え、幻想郷は、鮮やかな春を迎えた。

 

博麗神社に植えられた桜並木は、巫女である霊夢が掃除をするのも億劫になる程の花びらを落とし、最早"煌々"という言葉が当てはまりそうな程に、咲き誇っている。

 

「ぁあもうっ! やってらんないわっ!!」

 

ポイッと、霊夢は乱暴に箒を放り投げ、実に不機嫌な様子で縁側にドスッと座った。そうするなり、彼女は隣に置いてある三色団子をぶんどり、むぐむぐと食べ始める。

同じく縁側に座り、お茶と三色団子ーー本当は双也の物ーーを頬張りながら、掃除する霊夢を眺めていた双也は、団子がぶんどられた事には何も言わず、不機嫌極まる妹分に話しかけた。

 

「毎度お疲れ様。あと一息だぞ」

 

「〜っ何言ってんの!? 一息どころか一部も終わってないわよ! つーかいつまで経っても終わらないわよこんなのっ!!」

 

「まー掃いた端から落ちてくるからな。キリがないのは確かだ。 でもさ、それが巫女の仕事だろ?」

 

「私はさっさと終わらせて家の中でゆっくりしたいの!」

 

もう一つ、団子をぶんどって頬張る霊夢。

双也はやっぱり、なにも言わなかった。

ーーと言うのも、彼は霊夢が今日だけでどれだけ苦労しているのかを知っているからだ。

 

今日だけで既に、霊夢は神社の一面を十回は往復している。つまり、今日だけで十日分の掃除をやり終えた計算になる。

そりゃ、双也にだって情は湧くだろう。いやいや言いながら十回も掃除し終えた妹分を眺めていれば。

 

「むぅぅ〜、でも終わらせないと紫にもなんか言われるし…」

 

「なんだかんだ、紫はお前の事気に掛けてるからな。うるさくはなるだろ」

 

「同情するなら代わりにやってよ」

 

「………まぁ頑張ってたからな。ちと待ってろ」

 

 

…………………。

 

 

「え、ホントにいいの!? 絶対断ると思ってたわ!」

 

1テンポ遅れて、霊夢は歓喜と驚愕を合わせた表情を双也に向けた。

その喜び様に内心"やれやれ"と言い零しながら、彼は立ち上がって花びらが少し山になっているところへ歩み寄った。

そしてそこに指を軽く突き刺し、一言。

 

「"落ちた桜の花びらをこの場所に結合"」

 

瞬間、霊夢が掃き切れなかった花びら達が突然蠢き出し、遂には独りでに宙に舞った。

そして一瞬静止したかと思うと、今度は我先にと花びらの山の元へと飛んでいく。

数秒後の博麗神社の庭は、石畳と砂利が敷き詰められたいつもの風景に戻っていた。

 

「はい終わり。頑張ったご褒美な」

 

「…双也にぃ」

 

「うん?」

 

「今度からウチの神主にならない?」

 

「丁重に断る」

 

"俺はマイペースに生きたいんでね"

微笑む双也に、ちぇっ、と霊夢は軽く悪態をついた。

 

「それはそうと、霊夢」

 

「なに?」

 

「仕事終わりで悪いが、この神社からの景色を見て何か感想は?」

 

神社から一望できる幻想郷の景色を指差し、問う。

博麗神社は幻想郷の最東端に位置し、そこへは長い長い階段を登る必要がある。故に、贅沢にも博麗神社からは、色鮮やかな幻想郷を見渡す事が出来るのだ。

 

朝から掃除の事ばかりが頭を支配し、いつものお気楽思考が抜けきっていた霊夢は、"何を今更"と思いながらも、気分転換がてらその景色を覗き込んだ。

 

「感想って…いつもの平和な幻想郷じゃない」

 

「そうだな、確かに平和だ。でも、もう少し目を凝らしてみろよ」

 

「? 別に何もーーん?」

 

促され、それを不思議に思いながらも凝らした霊夢の目は、確かにおかしなものを映し出した。

 

「な? 平和だけど、変だろ」

 

「ええ……何でこんなに…花が咲いてるの?」

 

春の定番、桜などはいざ知らず。

夏に咲くはずの(すみれ)

秋に花を付ける椿(つばき)に、

冬を彩る胡蝶蘭(こちょうらん)

 

二人が見渡した幻想郷は、それら全てが花開き、季節など関係ないとでも言うように咲き乱れていた。

 

「もう一度言う。仕事終わりで悪いが(・・・・・・・・・)、この景色の感想は?」

 

「……最っ悪よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ホントに行かない気か?」

 

「行かないったら行かないの! もう今日は疲れたから魔理沙辺りに任せるわよ!」

 

「…全く…」

 

はぁ、と双也は駄々をこねる霊夢に溜息を零した。

博麗の巫女がこんなんで良いのか…。

そう思った彼は、すぐに"まぁ霊夢だもんな…"と考え直すのだった。

 

 

 

『………最っ悪よ!』

 

すぐに異変だと確信した霊夢は、皮肉交じりに叫び散らした。双也も、仕事終わりにこんな事を言うのは気が進まなかったのだが…世の中そんなに甘くない。

彼女の機嫌も承知の上で、仕方なしに、促した。

 

更に気分を損ねた霊夢は、ズンズンと荒い足取りをしながら境内に戻っていった。

支度かな…なんて思って、暫く待っていた双也だったが、どれだけ経っても戻って来ない。

訝しく思った双也が境内に戻ってみると、霊夢は眉根を寄せたままお茶を啜っていたのだ。

 

『……何してんの?』

 

『お茶…!』

 

『異変は?』

 

『行かない!』

 

『…なんで?』

 

『…疲れたから!』

 

頑として、霊夢は動こうとしなかった。最早意地になっているみたいに、立ち上がろうとしない。

 

『そもそも何の危険もないじゃないっ! 行く必要性皆無だわっ!』

 

"ああ、これはダメなやつだ"

霊夢の言葉を聞き、双也はふっ、と思った。

彼女の性格なのか、それともその能力ゆえなのか、霊夢は自分の中で決めた事は中々曲げない。

良くも悪くもではあるのだが、双也に劣らず面倒臭がりな彼女は、比較的悪い方向に頑固な事が少なくないのだ。

 

双也が見てきた霊夢の中でも、こうなった場合は特にそうで。

 

自分が説得するのを無意味に思った彼は、最終確認の意味も込めて、聞いたのだ。

"本当に行く気は無いのか"と。

 

答えは案の定、であった。

 

 

 

 

「紫になんか言われても知らないぞ?」

 

「ふん!」

 

「……分かった。行ってきます」

 

少しばかりの残念感を抱きながら、双也は異変解決をすべく飛び立った。

 

未だ不機嫌な霊夢は、その背中を横目で見つつも、眉根を寄せながらもう一度。

 

「…………ふん」

 

しばらく神社には、お茶を啜る音のみが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ…何処から行くか」

 

博麗神社を出発した双也は、上空を飛びながら、今回の異変について考察をしていた。

 

今回は、季節を問わず様々な花が、そこら中で咲き始めるという異変。

ーーと、人里の人間達は思っているのだろうが、実は違う。花が咲くのは、言わば二次被害なのだ。

 

「花を咲かせてる…っていうか、花に取り憑いてるんだな、あの魂達は」

 

この異変の真の内容、それは、どういう訳か魂が溢れかえり、幻想郷中に満ちてしまっている事だ。

それらが行き場を無くした結果花々に取り憑き、季節を問わずに花を咲かせている。

 

それをしっかりと考慮した双也は、これから行く宛てとして、取り敢えず二つの場所を思い浮かべた。

 

「魂と言えば、あそこ」

 

ーー本来幽霊が存在すべき場所。

 

「そして花と言えば……………あそこ、か」

 

ーー太陽のような背の高い花が広がる場所。

 

そちらに関しては正直、彼としてはあまり行きたくはない場所だった。

なら自然と、向かう先は決まってくる。

 

「じゃあ先ずは、あいつの所を尋ねよう!」

 

"嫌なところは後回しだ!"

そんな言葉は、胸の内にしまって。

 

双也は片足を踏みしめ、結界の穴があるであろう方角を見据えて、飛び出した。

 

「またなんか、やんちゃしてるんじゃないだろうな……幽々子」

 

一抹の不安を抱えながら、双也は冥界が白玉楼へと急いだ。

 

 

 

 

 




思ったのですが、紅魔郷は"紅霧異変"、妖々夢は"春雪異変"、永夜抄は"永夜異変"…と来たら、花映塚や風神録って"何異変"なんでしょうね?

知ってる方、居たら教えてくれると嬉しいです。

ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。