東方双神録   作:ぎんがぁ!

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つい最近…っていうか、このお話を書き始めるまでずっと穣子が姉だと思ってました。

ではどうぞ!


第百四十話 二人一つの秋

妖怪の山。

 

読んで字の如く、沢山の妖怪が住んでいる、幻想郷では代表的な山。桜は無い為春はあまりオススメしないが、秋の紅葉に染まった妖怪の山は実に見事なものだ。

遠くから眺めるだけでも、紅葉狩りが出来てしまうだろう。

 

さて、そんな妖怪の山であるが、そうは言ってもそこに住む妖怪の"種類"には限りがある。ズバリそれは、天狗。

規律の厳しい縦社会を独自に築いている妖怪である。

 

昔訪れた時には鬼も居たーーというより鬼が統治していたが、彼らは地底に潜ってしまったらしいので現代には居ない。山に流れる川には、人間を盟友と称して尻子玉を抜く(殺す)という恐ろしい河童も居るらしいが、会ったことはない。

 

そういう訳で、規律に厳しい天狗は侵入者にも厳しい訳で。

 

「三回目とか……マジ洒落にならん」

 

進めど進めど、天狗達の攻撃が止まなかった。

一度目は用事で来て、二度目は鬼に会いに来て、そして三度目が今回。

 

……良い加減俺の顔ぐらい覚えてくれ。いや千年以上前だけども。

 

「死ねぇっ!!」

 

白い尻尾のある天狗ーー白狼天狗の一匹が弾幕を放ってくる。当たってやる気も無いので、相殺弾(ブレイクシュート)で適当に相殺しておき、近接砲弾(ブロードカノン)をお見舞いしてやった。

 

「ぐぅ…はっ…」

 

「弾幕勝負でそのセリフは戴けないな」

 

弾幕勝負なのに、やけに乱暴な言葉遣いが多い天狗達に向けて言った。まぁ昔からの規律と言うのがあるのだろうが、殺さない為のスペルカードルールなのに"死ね"とはこれ如何に? (らん)に会ったら言っておかないとな。

 

そんな事を頭の片隅で考えながら、山をゆっくり進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぃよしっ! これならどう転んでも負けないわね!」

 

博麗神社の庭では、妙に意気込んだ様子の霊夢が今まさに飛び立とうとしていた。

 

「大幣よし、お札よし、スペルカードよし、あと……霊力も満タン!」

 

その身に持つ武器を点呼し、既に完了した準備に更なる確信を得る。理由は勿論ーー宣戦布告してきた"敵対勢力"をぶっ潰す為である。

この世界には弾幕勝負というものが存在するのだから、それを利用しない手は無い。霊夢に言わせれば、"殺さないためのルール"と言うのは、言い換えれば"どれだけやっても死なないルール"、なのである。

理不尽な要求をしてくる奴には、鉄拳制裁を加えて然るべきだ。その為に、わざわざ霊力を満タンにする為に一日待ったのだから。

 

「…? 山から…戦闘音が…?」

 

微かに、本当に微かにだが、聞こえる音に霊夢は首を傾げた。今回は自分でなんとかするつもりだから、誰にも言っていない筈なのだが…?

彼女が疑問に思うのも当然である。

 

ーーまぁ、魔理沙か咲夜あたりよね。きっと。

 

取り敢えず、そんな考え事は頭から追い出し、霊夢は勢い良く神社を飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん? こんな所に山小屋…?」

 

襲ってくる天狗達を軽くあしらいながら進む双也の目に、少しばかりボロと化した山小屋が映った。

 

この山には、山小屋などは必要ない。と言うのも、ここに住む天狗にはもっと上の方に住居が密集しているし、河童に関しても、そもそも陸地でなく川に住んでいるからだ。

 

ともすれば、山小屋がある事を彼が不思議がるのも当然だ。

なんとなく興味を惹かれた双也は、少しばかり道を外れ、その山小屋を見てみることにした。

するとーー

 

 

 

ギィ…「何があるんだーー」

 

「うわぁっ!? な、何か入って来たよお姉ちゃんっ!」

 

「な、ななっ、なにっ!? 誰っ!?」

 

 

 

中には、鮮やかな赤色が目立つ二人の少女が居た。

 

二人共双也が突然入って来たことに驚いたらしく、突然大声を上げられた双也もまた、少しばかり驚いた。

 

「ああ悪いっ! 誰もいないと思ったからノックもしないで…」

 

「へっ? に、人間?」

 

「なんだぁ人間かぁ…何の用?」

 

双也が人間ーー半分だけだがーーと分かるや否や、二人の少女はホッと胸をなでおろし、穏やかな表情で彼に話しかけた。

"感情豊かな二人だな"なんて思う反面、何の用もなく訪れて何の意味もなく驚かせた事に少しだけ罪悪感を感じる双也であった。

 

「あ! と、取り敢えず中に入って! 天狗に見つかったらマズイよ!」

 

「さぁ早く!」

 

「あ、ああ…」

 

そう言って手を引っ張られた双也は、言われるまま中の椅子に座らされた。外観からは想像できないくらい、普通の家である。決して豪勢ではないのだが、赤と黄を基調とする室内は、二人の外見によく合っている。

 

「それじゃあ改めて。何の用かな?」

 

「あーいや、山小屋を見つけたから気になって入っただけなんだ。驚かせて悪い」

 

「あら、そうなの? じゃあ入ったついでに少し休んで行くと良いよ」

 

少し申し訳ない気持ちになりながら言った双也であったが、二人は意外にもあまり気にしていないようである。どころか、少し休ませてくれると言う少女に少しの驚きすらあった。

 

「えぇっと、良いのか? 何にも知らない他人だぞ?」

 

「良いの良いの、幻想郷の人間は優しいって知ってるから。……穣子(みのりこ)ー、お芋でも持ってきてあげてー!」

 

「はーい!」

 

穣子、と呼ばれた、帽子を被った少女がお茶と焼き芋を持ってくる。なんとも甘そうな香りが立ち上り、双也の鼻を掠めていった。

 

「二人は姉妹なのか?」

 

「ええ。私は秋静葉(あきしずは)、あの子は妹の秋穣子。これでも一応神様だよ」

 

「え、神なのか? 全然気が付かなかった…」

 

それを聞き、双也は改めて静葉の気配を探ってみる。すると確かに、微量ではあるが神力が宿っていた。

外見もそうだが、この人間に対してのフレンドリーさには神ならざる雰囲気がある。彼が気が付かなかったのも、そんな要因があるのかもしれない。

 

「えっと、俺は神薙双也って言うんだ。これでも一応、俺も神様だぞ」

 

「ええっ!? 神様なの!? やだ、自慢げに言った私が恥ずかしい…」

 

「いや、俺は半分だけの現人神だからさ。そんなに恥ずかしがる事ない」

 

「うぅ…」

 

すかさずフォローした双也であったが、静葉の頬の赤みは中々消えなかった。なんとなく気不味い空気が流れる中、二人の元に、自分と姉の分の焼き芋を持ってきた穣子が戻ってきた。

 

「現人神…? あれぇ、どっかで聞いた事があるような…」

 

「え? 穣子、聞いたことあるの?」

 

「いやぁ、思い出せないけど……まぁいいか」

 

僅かに首をかしげながら、穣子は静葉の隣に腰掛けた。

改めて見てみると、本当に良く似た姉妹である。

 

赤と黄を基調とする服に、黄色の髪。静葉の髪には紅葉の髪飾りがあり、穣子の帽子には木の実のアクセサリーが付いている。

それだけでも、双也が"二人が秋に関する神"だと断定するのに十分であった。

 

「二人はどんな神なんだ? 秋に関係するのは外見から分かるんだけど」

 

「ッ! 聞きたいっ!?」

 

「あ、うん」

 

と、突然静葉は机に乗り出し、言った。

驚いた双也は少しだけのけ反ってしまい、返事も生返事に。

彼の視界に映った穣子が、少しだけムッとしたのは、見ないことにした。

 

「私は紅葉を司る神だよ! この秋の紅葉は、毎年私が手作業で塗っているのっ!」

 

「手作業っ!? この量をっ!?」

 

「ふふん♪ すごいでしょ?」

 

得意げに胸を張る静葉。

確かに、胸を張っても良いくらいの仕事だなぁと双也も思った。

毎年数億枚は下らない量の葉がこの山では赤色に染まる。それが実は、一人の少女のよって塗られたものだなんて、誰が思うだろう。

素直な感心を寄せる双也を前に、ドヤ顔を決める静葉。その隣から、今度は穣子が乗り出した。

 

「これ! 食べてみてっ!」

 

「むぐっ………なんだこれ、すっごく美味い」

 

入った瞬間、芋の優しい甘さが口一杯に広がる。芋自体から蜜が滲み出ているようで、安納芋にも匹敵しそうな風味が漂っていた。

こんな上質な芋は中々作れない。双也はすぐに、穣子がどんな神様かを思いついた。

 

「なるほど、穣子は豊穣の神か」

 

「正解っ!! 私が育てたり、私の周りにある畑はいつも豊作になるの! (秋限定だけど)

 

小声で何か言ったような気がしたが、双也にはほとんど聞こえなかった。まぁ小声になるくらいなら聞かれたくないのだろう、と簡単な結論を出し、穣子にも少なくない関心を寄せる双也。

 

そしてふと、思い出した事があった。

 

「あのさ穣子、人間の里の収穫祭で何かした? なんか例年よりも沢山採れたらしいんだけどさ」

 

今日の朝、霊那が持ってきた大量の"秋の味覚"。確か、なぜかいっぱい採れたから持ってきたのではなかったか?

豊穣を司る神ならば、何かしたのだろうか? と思い、素朴な疑問ではあったが、双也は尋ねてみる。

すると、穣子は少しだけ溜め息混じりに答えるのだった。

 

「あー…今年はね、収穫祭前(・・・・)に人里に行ったの」

 

「…なんで?」

 

「だって、みんな私の力を勘違いしてるんだもの。収穫前に呼んでくれないと豊穣の神力は撒けないのに、当日に呼ぶんだもん。……でも、みんな有難がってくれるから、ちゃんと豊穣にしてあげないとなんだか悪い気がして」

 

穣子は、少しだけ照れ臭そうに言った。

人間の事をこれだけ想い、加護を与えてやれる…それはある意味、凄い事なのではないか。そう双也は思った。

 

「……偉いな、穣子は」

 

「えへへ…」

 

率直で素直な感想だったが、穣子は照れ臭そうーーと言うより照れ照れしながら笑った。

その様子をなんとも微笑ましく思い、双也は表情も微笑ませていた。

 

しかし、彼女の姉は、そうでもなかったようで。

 

「むぅぅ…秋と言えば紅葉でしょっ!? 穣子の加護より私の加護の方が凄い!」

 

「…え?」

 

「ッ! まだ言ってるのお姉ちゃん! 秋と言えば食べ物、食欲の秋! 私の加護の方が秋らしいに決まってるよ!」

 

「ちょっ、二人共…」

 

「「秋と言ったら紅葉(食べ物)ッ!!!」」

 

言い合う二人は、終いにはお互いの頰を抓り合い始めた。

この主張に関してはどちらも引くつもりはないようで、双也が"絶対痕残るだろアレ…"と思う程力強く、抓りあっている。

 

"ここはどうにか俺が収めないと"

双也は慌てて口を開いた。

 

「な、なぁ二人共、どっちが秋らしいかとかじゃなくてさ、二人合わせてこそ秋らしいんじゃないのか?」

 

「「……え?」」

 

抓りあったまま、二人は彼の方を向いた。

 

「どっちかが間違ってる訳じゃないと思うんだよ。秋と言えば紅葉が思い付くし、一般的に食欲の秋って言葉もある。どっちが欠けても、それは物足りない秋になるんじゃないかなぁ」

 

「「………………」」

 

二人はポカンと口を開けている。

しばらくその状態で固まっている二人を、双也は目線だけ動かしながら交互に見やっていた。

 

そして少し間を置くと、二人は口を開けたまま目線を合わせーー

 

 

「「ゴメンね穣子ぉ〜っ!(ゴメンなさいお姉ちゃぁ〜んっ!)」」

 

 

ひしっ、と抱き合うのだった。

 

「穣子の食べ物があってこその秋だよぉ〜!」

 

「お姉ちゃんの紅葉だって無くちゃ秋じゃないよぉ〜!」

 

「………………」

 

微笑ましいながらも勃発した喧嘩から一転。

その様子を見て双也はただ一言、とても強く思った。

 

「(……仲の良い姉妹だな…)」

 

と。

 

"せっかく仲直りしたなら、部外者はそろそろ退散しますか"

双也は貰った美味しい焼き芋をガガッと食べ切ると、立ち上がった。

 

「さて、二人も仲が戻った事だし、そろそろお暇するよ」

 

「え、もう行くの? もう少し休んでっても良いのに〜」

 

「この上に用事があるんだよ。最近出来たっていう新しい神社にな」

 

「ふ〜ん…」

 

少しだけ残念そうに、静葉は軽く頷いた。

やっぱり神っぽくない雰囲気してるな、なんて、その様子を見て改めて双也は思った

 

丁度その時。

 

「あ! 思い出した! 現人神って、上の神社の巫女がそんな種族だって聞いたよ!」

 

穣子の突然の言葉に、双也は耳を疑った。

 

「上の神社って…新しい神社? そこの巫女が現人神?」

 

「確かそうだって聞いたよ。なんか奇跡を起こせるとか何とか…」

 

「奇跡…か…」

 

反復し、頭を回転させる。

奇跡を起こす、となると能力だろうか? "奇跡を起こす程度の能力"? ………彼にはやはり、聞いた事がなかった。

 

「……ありがとう穣子、助かったよ」

 

「え? あぁ、うん。それは何より」

 

「んじゃ、頑張ってね双也! 疲れたら寄ってって良いからね♪」

 

「ああ、またな」

 

また一つ積み重なった、今回の異変に関する謎。

不安にも似た感情を内側に押さえ込みながら、双也は再び、登り始めた。

 

 

 

 

 




秋姉妹って、人気はそんなに高くないけど可愛いと思うんですよね。仕草とか想像すると。

ではでは。

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